双剣士⑨一応の勝利
双剣士編は最後です。明日は番外編を掲載します。
――3体のドラゴンが退治されるよりも少し前。
「レンデルッ!こっちに来てるあいつはヤバい!!」
ガンガルの言葉で空を見上げればこちらに猛スピードで突っ込んできている存在がいた。
「……大きいな」
他の町を襲っているアンデットドラゴンとは大きさが比較にならない。それに、アンデットドラゴンは全部に皮膚があるのにこちらに来ているあいつだけは全身の骨が剥き出しだった。
「ポー・ルゥー!」
「わかってる!」
すぐさまポー・ルゥーに鑑定をさせる。おそらく、僕達でなければ戦えない相手だろうということは予想がつくが…。
「……嘘、でしょ」
「ポー・ルゥーどうした!」
カタカタと震え、眼が泳ぐ彼女の様子は異常だった。その態度から考えたくはないが、あのドラゴンの実力が窺える。
「レンデル、ガンガル!あいつは私達じゃなきゃ駄目っ!他の皆じゃ殺されちゃう!!」
「そんなにかよっ!」
近くに来たアンデットドラゴンを追い払いながらも意識を外さないガンガル。彼もそれを表に出さないが焦っているのが伝わってくる。
「あいつのレベルは高すぎてわからない。つまりは軽く100は超えているってことよ!レンデルと同等かそれ以上の相手なんて私達以外、誰が相手にするっていうのよっ!」
「……レベル100超えだってっ!?」
信じれない。
そんなことがあるのか?アンデットで100を凌ぐなんてそうそう居るはずがない。
この時点で裏で糸を引く存在が脳裏に過る。
誰かまではわからないが、あいつを従えるほどの存在がこの近くにいるのだと…!
(術者は姉さんぐらいじゃないと勝てない…!)
もしもこの場に使い手が来たら…。そうなったら、なす術もなくやられてしまうだろう。辺りを見渡しても皆余裕はない。ドラゴンを相手取りながら、逃げるなんてことはできない。僕達だけならば行けるだろうけど、そんなことは許されないっ!
だったら、せめてあいつだけでも先に片づける!
「行くぞっガンガル!ポー・ルゥー!」
「おうよっ!」
「もっちろん!!」
恐ろしいはずなのに、恐れを感じさせない仲間の声に勇気を貰いながら、僕も僕の戦場へ赴いていった。
◇◆◇◆◇◆◇
「緑魔法――チェイン・ロック」
ポー・ルゥーが動きを止め、そこにガンガルが特攻を仕掛ける。
重い一撃を得意とするガンガルは自身のダメージなど考慮せず、ひたすらに機動力を奪い続ける。だが、相手が飛行できるということもあり、決定打を与えられそうになったところでひらりと上空へ逃げられてしまう。
ほんの少しでも動きを止めることができれば、僕がなんとかできると思うんだが…。
いや、そんなことを考えていても埒が明かない。
相手の実力が高い分、油断をすればこちらが命を落としかねない。
魔法を使うポー・ルゥーを厄介だと思ったのか、そちらに意識を向けたのを感じたので急いで移動する。彼女に当たる直前で間に入り込み大きく開かれた顎を受け止める。
「……ッゥウウ!!」
何て一撃だ。
思わず声が漏れる僕の横を魔法が通り抜けていく。
僕を噛み砕こうを食いしばっているために動くことのできないドラゴンは為す術もなく魔法の直撃を受ける。しかし、それでも顎の力は一向に弱まらない。
これが生へ執着していないがゆえに引き出せる力なのか…!
その力は脅威だ。だが、僕は1人じゃない!!
「ウオオオオッ!!」
雄叫びを上げるガルガンの一撃は今度こそダメージを与え、ポー・ルゥーは先程よりも強力な砂の鎖を発動させる。骨の隙間に入り込んだ砂は関節を固め、ボーンドラゴンの動きを封じていく。
(今だっ!)
このチャンスを逃すわけにはいかない。
僕は全力を出す行動を決める。
今現在、僕が出せる最高の技。それをぶつければ、今の弱った状態のこいつでは受け止めきれないはずだ。これ以上痛めつけて何か秘策を出されないように早急に始末をつける。
そのために、発動するのは聖魔法――ハートブレード。
聖魔法は白魔法を超越した力。その力は闇をより強く引き裂く魔法。本来ならば死者であるアンデットには、強烈にダメージを与える天敵の魔法。
その中でも、ハートブレードは防御力を上げるガーディアンとは真逆に防御力を捨てることで攻撃力に特化する魔法だ。
発動中は一時的に限界を超えた極大な力を手にできる代わりにダメージを負えば即死してしまうという文字通り捨て身の技だ。
剣に光が集中し、眼がくらむような光を放っている。
刀身の数倍にも膨れ上がった刃は的確に敵を葬るべく振り下ろされていく。
「まったく、勘弁してほしいわ…」
刃が前面の骨を削り始め、声が聞こえてくる。
何だ?そう思ったが、攻撃は止まらない。
振り抜いた先には崩れ落ちるボーンドラゴンの残骸が…。
「…か、勝った……」
ハッ、2人は!?
あの攻撃に巻き込まれるような2人ではないけれど、そう思って周囲を見渡した僕は信じられないものを目にした。
「ガルガンッ!ポー・ルゥー!?」
視界の先には地面に倒れ伏した2人の姿が…。
まさか…!あの2人が……!?
信じられない気持ちを抑えながら、駆け寄っていく。
(ホッ。…よ、よかった。息はあるみたいだ。)
だけど、妙だ。あの攻撃の余波でこうなるとは思えない。そもそも、余波でも人の命を奪うには十分な威力がある技だ。
僕はこの時、ようやく違和感に気付いた。
先程まで周囲から聞こえていた戦闘の音が一切聞こえなくなっていたのだ。
そして、見渡せば2人と同じように冒険者たちが横たわっている。アンデットドラゴンは群れを率いていた存在の消失で動きを止めたようだが、冒険者がその直前に全員やられるだろうか…?
「…まったく、余計なことをしてくれたものね」
疑問に思っている時に再び先程の声が聞こえてきた。
そこにはフードで全身を隠している人物がいた。…声から女性だということはわかるが、一体誰だ?先程まで戦場にいなかったのは確実だ。
「……あなたは?」
「名乗る必要があるかしら?」
「…ありませんね。先程までいなかったのに、突如として姿を現したこと。それに、あなたの声はついさっき聞いたばかりです」
ここまで条件が揃っていれば誰だって気付く。
「あなたが、この騒動を引き起こした犯人ですね?」
「ええ、そうよ」
彼女は意外にもあっさりと白状した。
「何が目的だったのですか?」
「……う~ん、どうしようかしら教えてもいいけれど」
「別に言う気がないのでしたら、構いませんよ。質問に答えて捕まるか、それとも捕まってから質問に答えるか…つまりは順番が前後するだけだから」
「あら?随分な自信ね。…お姉ちゃんがいなくても少しは自信が出たのかしら?」
「……僕のことを知っているようですね。では、質問に答えていただけると考えてもよろしいですか?」
「…そうねぇ~、あなたのお姉さんも知らない中ではないし答えてあげましょうか。……あなたには迷惑をかけたみたいですしね」
迷惑?確かに襲われたという点ではそうだろうが、言い方が妙だな。
「実は、人を探してましてね。それがあなたと同じくらいの年齢だからここへ来たというわけですわ」
外れてしまいましたけど、そういう彼女は本当に残念そうだ。だが、その顔に悲壮感は見て取れない。この状況で逃げられると思っているのか?
確かにまあまあ強そうだが、僕には勝てないと思うんだが…。
その証拠に、他の人間を何らかの手段で行動不能にしたのに僕は何もされていない。
「さて、それではお暇させていただきます」
「……逃げ切れると思ってるんですか?」
油断せずに一挙手一投足を見逃さぬように視線を鋭くする。
「あら怖い。…でもよろしいのですか?このままだとお仲間は」
「っ!?彼らに何をした!!」
「さあ?でも、見逃してくれるのならばすぐに解除しますわよ?」
「……取引のつもりか?」
「どう取るかはあなた次第ですわ」
「――なら、これが答えだ」
背後に回り込み、切り捨てる。
どんな手段を使ったのか不明だが、使用者が消えれば効果も消えるはずだ。
だが、剣は空を切る。
「ふふっ、焦る殿方は女性に嫌われますわよ」
遠ざかるような声。それを追いかけるように駆けだしていった。
◇◆◇◆◇◆◇
「よっしゃあああああっ!!」
「さすがです!エボル様」
3体目を倒したところで、動きを止めたドラゴン達。
町中の戦闘が終わったことを感じ、勝利を喜ぶオレ達。
町へ戻ってみると、やはり戦闘は終わっており当然こちらの勝利だった。
「ママっ!」
「……モニカ!!」
ピアを見つけて駆け寄っていくハーモニカ。だが、ピアはどこか動きが悪いような気がする。
それほど戦闘が激しかったということなのだろうか?
「――エボル。お前達も無事だったか」
ところどころで座り込み治療を受ける冒険者を掻き分け、姿を現したのは『白銀の騎士団』第1部隊隊長コミングだった。
「コミング。無事だったようだな」
「…あぁ、だが町に結構な被害を出してしまった」
確かに町の被害は軽微ではない。
全壊した建物も多く、火の手が上がっているところもある。
「……まあ、それでもドラゴンに住民が襲われることはなかったんだ。それで良しとしようや」
「そうだな。……そうだ!レンデルを見なかったか?」
「……レンデル?いや、見てないが。そもそも、オレ達は町からの避難経路を確保するために町の外にいたしなぁ…」
「…実は、レンデルの消息が不明なんだ。戦闘は終わっているし、ガルガン達部下は全員無事。それなのに、レンデルの姿だけが見つからない」
深刻な表情で告げられた内容に疑問を抱く。確かに、レンデルだったら、仲間を置いてその場から姿を消すとは思えない。
「――それに、今回の事件では黒幕がいたはずなんだが、そいつも見つかっていない」
「…まさか」
「ああ。もしかしたら、レンデルはその黒幕を追いかけていったのではないか…。私はそう感じている」
「わかった。オレも探して――」
「「レンデル!」」
その時、ふらふらになりながら、やって来るレンデルの姿が森から現れた。
「レンデル!お前、どうしたんだ?……レンデル?」
「……あっ、はい。すいません」
「レンデル、お前――」
「――すみません。私のせいなんです!」
追求しようとしたところ、レンデルを庇うように飛び出した人影が。
「私も参加していたんですが、戦闘中に負傷してしまっていたところを彼が助けてくれたんです」
「…そ、そうだったのか。すまなかったなレンデル。お前を疑ってしまって…」
「……いえ、僕も勝手な行動をしてしまい申し訳ありませんでした」
少し疲れたので休みます。そう言って下がるレンデルの表情は優れない。
何かあったのだろうか?
そして、オレ達はその後レンデルと会うことなく町を後にすることになった。
ただし、来た時とは違い、仲間として堂々と付いてくるフレイ。それに、ピアとハーモニカも一緒なので少し騒がしくなりながらオレ達の旅は豊かになっていくのだった。
「……行ったみたいですわね」
「ああ。チャンスは必ず来るはずだ。契約は忘れるなよ」
「もちろんですわ。私が奴を殺す機会をくれる。その対価は正当にお支払いいたします」
そんなオレ達の様子をレンデルが見ているなど、ましてやそんな会話を交しているなど気付きもしなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ~む、終わってしまいました」
ワタ~シは騒動が一段落し、民衆が戻って来始めた町の様子を見ている。
そして、今回の事件における失敗に意識が向いてしまいます。
『――で?一体どういうことだ?』
「……今回の依頼を一緒に暮らすはずだったバタセウユが合流しませんでした。ボス、これは我々への裏切りデェ~ス」
『確証がない以上、詳しいことはわからんな。一旦、戻って来い』
「了解デェ~ス」
まったく。あいつは一体何をしているのデェ~スか!
ボスに対する裏切りだというのならば、許しては置けません。
それに、あの冒険者達もこのままでは済ませません。
◇◆◇◆◇◆◇
ドラゴンが襲来するよりも数日前。
「た、たず……げ」
「つまんねぇな」
命乞いをする男の首を淡々と切り落としたのは少年だった。
切り落とされたのは『敗戦布教』に所属する冒険者バタセウユ。
「これが、兄貴が毛嫌いしている敵対組織の人間だってのか?」
「……いえ、敵対組織でなく競合パーティーです。誰が聞いているとも知れないので、あまり不穏な発言は…」
少年の発言を窘める女性。
だが、少年は興味なさそうに持っていた首を放り投げた。もはや、それに何の意味もないと。
「まあ、兄貴も近くにいるみたいだし会ってみりゃわかんだろ」
そう言って、ぴょんとドラゴンへと飛び乗った。
「さあて、次はどこへ行くかな」
慌てて後を追うようにドラゴンへ乗り移る女性もそれ以上は何も言及しない。
そして、そのまま少年達は姿を消したのだった。
レンデル Age25 Lv.105
種族:人間・男 ジョブ:聖騎士 ランク:SS
スキル:【女神寄せ】・【聖言】・【ホーリー・レイ】・【聖魔法】




