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格闘家②旅立ち

「せいっ!」

「甘々ですね~」

 オレが放った拳はマリア母さんに掠ることもなく躱されていく。しかも、まるでおまけのように放った拳に軽く棒が置かれていく。

 そう、弾くわけでもなく何気なく置かれていくのだ。


 二度目の赤ん坊になってから3年の月日が経過した。

 今のオレのステータスはこんな感じ。


・エボル Lv.15/40

種族:人間(進化種)・男 ジョブ:格闘家 ランク:一人前

HP322/322 MP20/20 体力250/250

攻撃力278 魔法攻撃力0 防御力192 魔法防御力3 知力102 速度131 人格50

種族特性:レベル上限・進化の可能性 ジョブ適正:格闘家(中堅)・魔法使い(卵) ジョブ補正:攻撃力上昇率アップ

スキル:【嘘泣き】使用不可・【正拳突き】・【念話】・【鑑定】


 前回の反省を生かし、鍛えることに重点を置いて生活をしてきた結果…まあまあ強くなったと思うんだけどなぁ……。

 だけど、マリア母さんにはこの3年間一撃当てるどころか、掠りもしないのが現実だった。

 鍛えることを宣言すると、マリア母さんは武術の担当に。ジェノ父さんは学問の担当になっている。初めこそ物干し竿を構えたマリア母さんに不安を覚えていたけど、今ではそんなことは一切考える余裕がない。それほどにマリア母さんは強かった。

(……そりゃ、ジェノ父さんの護衛だって言ってたけど。それにしたって強すぎない?)

 ランクだって結構上がったのにな…。


 格闘家のランクは結構上がった。初めの卵から順当にひよっこに、そして半人前を経て今の一人前になっている。ちなみに、このランクだが大昔のランク付けが基準となっているらしく、現在はこれとは別に世界で統一されたランクが存在するということを天の声から聞かされた。

 嬉しいことに、ランクがアップするとレベル上限が上がるので赤ん坊に戻ることはなかった。

 そして、最も嬉しいのはとうとう……いや、そんなに時間は経っていないが。だが、嬉しいことには変わりない。オレはとうとう魔法を覚えた。

 あれは赤ん坊に戻ってからしばらくした頃。

 ジェノ父さんがある提案をしてくれた。



◇◆◇◆◇◆◇



『――エボル、ちょっと試したいことがあるんだけどいいかい?』

 突然話を振られた時には何だろう?と思ったが。

『もしも、今回のように赤ん坊に戻ることがあると不便だから、ある魔法を教えておこうと思ってね』

 これを言われた時、オレはさすがにテンションを上げざるを得なかった。

 魔法!ジェノ父さんが使っているのを見たことがあるが、原理が不明でよくわからないが超常の力。そして、MPを使う力。

 そう。MPを使う消費するということは…、MPのないオレでは使えないのでは?

 そんな可能性に聡明なジェノ父さんが気付いてないとは思えない。

『とは言え、今のエボルには魔力がない。それで魔法が使えるのか、不安かい?』

 オレの心情を察したように問いかけるジェノ父さん。

 こくりと確かに頷いたのを確認して、これからやることを教えてくれた。


『そもそも、魔法とは全員に仕える可能性がある力でもある。ただ、使える人間の多くが生まれながらにMPを持っているからエボルが使えない可能性の方が高いと拾った時には判断したんだ』

 つまり、教えても使えなかった場合オレがショックを受けるのではないかと思って教えなかった。

『――だけど、エボルは進化種。普通の人間よりも遥かに高い可能性を秘めている存在だ。ならば、そんな存在が魔法を使えないというのは辻褄が合わないと考える』

 だから試す。

 ジェノ父さんはそう告げた。

『これから行うのは魔法の適性を調べるのに使われる最も一般的な方法だ。危険はなく、また副作用などもない。都会や貴族などは子供にすぐさまこの方法を行う。それぐらい一般的な方法だよ』

 その方法は、念話と呼ばれる方法だった。


 念話とは、そのまま念じることで会話をするかのように意思を伝える手段。

『これを使えば、遠く離れている相手とも会話することができる。しかも、念じるだけでいいから凄く楽だ。MPがある人間は普通の会話よりもこちらを使っている者が多いぐらいかもしれないね』

 さすがに最後の方は冗談だろうが、つまりはその魔法を使ってオレと会話をしてみるってことなのかな?

『ちなみに、この魔法は使用者だけが魔法を使えればいいというのが利点でね?対象は複数設定が可能。例えば、エボルとマリアに同時に念話を飛ばせば僕を経由して2人ともが会話に参加できる』

 念話魔法のことはわかったけど、それでどうやって魔法が使えるのかを判断するんだろう?

『MPはMPに引き寄せられる。つまり、MPを消費する魔法を受けることで眠っている魔法の才能が開花するんだ。もしも、エボルに魔法の才能があるんだったら、MPが増えるはずだよ』


『それじゃあ、いくよ?』

 ジェノ父さんはこめかみ辺りに指を当て、何やら集中し始める。

≪どうだい?聞こえるかい?≫

 直後、頭の中に響く声。

 まるでステータスを告げる天の声のようにジェノ父さんの声が頭の中に響き渡る。

≪…うん、聞こえるよ。ジェノ父さん≫


『はははっ、凄いな!』

 オレが念話に応えると、ジェノ父さんは満面の笑みを浮かべて喜び始めた。念話の実験のはずなのに、わざわざ声に出して。

 それには理解が追い付かず、繋がったままの念話で語りかける。

≪ジェ、ジェノ父さん…?≫

 その声にハッとなったジェノ父さんは笑みを抑え、それでも抑えきれず口元が緩んだまま念話で返してきた。

≪いやぁ~、ごめんごめん。つい興奮してしまったよ≫

 一体何にそんなに興奮したんだろう?

 ジェノ父さんがここまで落ち着きない様子をオレは見たことがない。理由がわからず、マリア母さんを振り返ると呆れていた。

≪実は、エボルには言ってなかったが…≫

 何をだろう?

≪実はこの魔法、赤ちゃんに使っても意味がない魔法なんだ≫


 …………はっ??

 ジェノ父さんから、告げられた言葉。その言葉の意味がわからず、オレは放心してしまった。

 赤ん坊に使っても意味がないって…。だって、オレは現に使えているわけだし。

≪意味が分からないかい?単純だよ≫


≪――そもそも、普通の赤ちゃんの思考レベルはエボルのように発達はしていない≫

 あっ!そうか。

 そうだったわ。普通の赤ん坊がどういう思考回路を持っているのか、そんなことは知りもしない。が、それでも碌に知識もない状態で何を考えているのかもわからない赤ん坊が自分の考えを明確に伝える?

 そんなこと……できるわけがない!

≪だが、エボルは立派に使って見せた。それに…≫

 ジェノ父さんの言いたいことはもうわかる。

 オレ自身が新たな力の鼓動を感じているから。


・エボル Lv.1/15

種族:人間(進化種)・男 ジョブ:格闘家 ランク:卵

HP35/35 MP3/3up 体力10/10

攻撃力5 魔法攻撃力0 防御力4 魔法防御力1up 知力51 速度5 人格50

種族特性:レベル上限・進化の可能性 ジョブ適正:格闘家(ひよっこ)・魔法使い(卵)New ジョブ補正:攻撃力上昇率アップ

スキル:【大泣き】・【念話】New



◇◆◇◆◇◆◇



 魔法を覚えたことでオレは伝えたいことを明確に伝えることが出来た。

 そのために、赤ん坊の頃から2人と話し合いを重ねた。その結果、マリア母さんに稽古をつけてもらっているわけだが…。

 オレは、もう決めている。

 ここから旅立つことを。

 進化の可能性は、ここにいてはそれほど伸びない。

 ならば、ここから先のまだ見ぬ世界へと旅立ち、そこで研鑽を積むこと。それがオレの望みとなった。いつ死ぬのかもわからないオレが、そして世界にとって進化種とはどのような存在かも知らぬオレだが、一歩踏み出さねば世界を見ることもできやしない。


 この提案をした時、マリア母さんは反対した。

 当然だろう。自分の子供が旅立つ、それも自分達の眼の届かない場所へ行くのを喜ぶような性格をしてはいない。

 だが、ジェノ父さんが説得してくれた。


『マリア。僕達はエボルよりも先に死んでしまう。この広い世界で僕達だけしか知らないというのは悲しすぎるとは思わないか?

 だったら、行かせてやろう。僕達の息子じゃないか』


 そう、進化種という種族である以上オレは常人よりも遥かに長生きする。

 2人がいなくなってから世界に飛び出すことの危険性も考えなければならないのだ。

 だからこそ、鍛えに鍛えた。


 ――そして、その日は来た。

「じゃあ、ジェノ父さん、マリア母さん。行ってくるよ」

「ああ、気を付けて行ってきなさい息子よ」

 笑顔でオレを送り出してくれるジェノ父さん。

「あぁっ…!」

 マリア母さんは感極まったようにギュッと力強く抱きしめ、そして解放する。その眼に涙が溜まっているのが見える。

「エボル、いつでも帰ってきていいのよ?」

「…そうだね。ここがエボルの家だという事実は変わらない。いつでも戻っておいで」


「うん。行ってきます!」


 生まれて初めてこの地を離れ、オレは世界への一歩を踏み出した。

 何度も何度も繰り返す――そんな冒険の日々へ。

 これから先の苦難も、希望もすべてを背負いながらそれでもここという場所は忘れない。

 次回からエボルの大冒険が……と言いたいところですが、次回はエボルを見送った両親の話です。

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