双剣士⑤襲来するドラゴン
短め。戦いのプロローグ的な。
「……あぁ~、こりゃ面倒なことに」
「言ってる場合じゃないナリよ!」
愚痴る事すら許されないなんて…。
今、オレ達はドラゴンに囲まれている。しかも、ただのドラゴンじゃないアンデットのドラゴンだ。
「これだけのアンデットが一声に行動するなんてありえないナリ。…間違いなく裏で誰かが手を引いているナリよ!」
それはわかるんだが…。
ちらりと周囲を見渡すが、辺りは木々があるだけ。それも多くのドラゴンに囲まれている関係で隙間から見える程度だ。さらにその森の向こうからは阿鼻叫喚が聞こえてくる。
それは、依頼のために集められた冒険者達のもの。予想を上回る強敵の出現に情けなく逃げ回る声だった。
「……どうしたもんかね」
状況を理解してもため息しか出ないのが現状だった。
◇◆◇◆◇◆◇
そもそもどうしてこんな状況になったのか。
それは1時間ほど時を遡る。
『……おいでなすったようだな』
最初に気付いたのはピアだった。
準備万端整え、住人の避難が完了して残されたのは冒険者だけの町。
依頼中に『敗戦布教』と鉢合わせるのを避けるために、オレ達はピア親子と共に『白銀の騎士団』の陣地に構えていた。
そして空を埋め尽くすように奴らが現れた。
『結構多いな』
『…ああ。予想よりも手間取りそうだ』
飛んでくるドラゴンは数十頭。そして、戦闘を飛ぶ3頭は群れの中でも大きく、見ただけで力を感じさせる。
(……通用するかはわからんが、やってみるか)
相手の力量を見極めるために【鑑定】を使ってみたのだが、ここで使うべきではなかったのかもしれないと今になっては思う。
結果が変わらなかったような気もするが、どうしてもそう思わずにいられなかった。
『なっ……!?』
出てきた結果に驚き、声が出てしまった。
周りにいるのは歴戦の冒険者達。彼らがオレの行動に気付かぬわけがなく、数人が同様に【鑑定】の魔法やスキルを使用してその事実に直面する。
『アンデットだと!?』
それは誰が言った言葉だったのか。もしかしたら、オレの言葉だったのかもしれない。
さほど大きな声ではなかったと記憶しているが、それが漏れた瞬間。辺りは騒然となった。水面に小石を投げて波紋が広がるように、事実が恐怖という形で伝播していったのだ。
『『『うわああああああああっ!!』』』
最初に行動を起こしたのは、戦闘のためのメンバーではなく町の被害を抑えるためだけに来ていた低ランクの冒険者達だった。
悲鳴を上げて逃げ惑う彼ら。だが、逃げ出す彼らを見て生前の記憶を刺激されたのかアンデットドラゴンは一斉に攻撃を開始した。
『落ち着けっ!!』
コミングを中心に高ランクの冒険者や騎士団のメンバーが冷静になるように呼びかけるが、そんなものがこの混乱の中で通じるはずがなかった。
それもそのはず。ドラゴンというモンスターはただでさえBランクの強敵。それでも数で押し切り、さらには高ランクの冒険者が倒せば何とかなるそういうレベルだった。そしてそれは町を守るための冒険者にとってはなんとかなる限界点でもあった。
だが、相手がアンデットドラゴンとなると話は変わる。
アンデットドラゴンはAランク。Aランクの集団など、悪夢に等しい暴力だ。それだけでなく、最悪の性質を持っている。
――アンデットゆえに体力が無限大であるということ。
つまりは、数で押し切ろうにも止むことのない攻勢がそれを遮り、痛みを感じることのない体は攻撃を与える冒険者の心を砕く。
逃げ出していく者から襲われていくのは当然のこと。この世は弱者から淘汰されていくのだから。
◇◆◇◆◇◆◇
そんなこんなの混乱の中、オレ達は町を取り囲むドラゴンを退けるべく動き出したわけだ。
町には高ランクのパーティーが残り、強敵を抑えその他は退路を作る。
そうして今の包囲された状態に至った。
「……なあ、ナリナリよ」
「何ナリ?」
あまり聞きたくなさそうだが、オレは無視して続ける。
「…これ、何とかなるのか?」
「知らないナリよっ!というかなんとかするために頑張るしかないナリ!!ここまで来たら逃げられないナリよ」
そうなんだよな~。退路を作らないと逃げられないし、面倒だ。
「……まあ、なるようになるかね」
「エボル様、私がおりますのでご安心を」
「ははっ、心強いよ。――さて、始めようか」
こんな時でもいつも通りなミルフィーに癒されながら、オレは臨戦態勢を取る。
もしかしたら、これを狙ってのことだったのかもしれないが…。それとも、本心で大丈夫だと思われてるのかな?だとしたらその信頼には応えなればならないな。
「フレイ!お前はきっちりハーモニカを守れ!」
『ぴぴぃっ!!』
任せろとばかりに声を張り上げるフレイ。
そのフレイは、いつもよりも身体を膨張させ、その中にハーモニカを包み込んでいた。
ハーモニカはピアから託された。彼女の方が危険な戦場に身を置くことになるからだ。
『――アタシの傍にいる方が危ないのさ』
彼女はそう言っていたが、あれはどういう意味だったんだろう?
オレ達が退路を作る側に回った理由もハーモニカだ。町の住民ではないので避難させることもなく――正確にはピアが自分の眼の届かない場所に彼女が行くことを拒んだのだが――冒険者と共に行動する幼き少女を守り、できれば彼女を連れて安全な場所に避難する。
そのためにもここを切り抜ける!
「ミルフィー!ナリナリ!オレ達はいつも通りやるぞ!」
「どっちみちそれ以外の方法はないナリよっ!」
「私はエボル様がいる場所ならば地獄であろうともついていきます!」
さすがだ。こんな状況でも生き残るためにどうするべきかちゃんとわかってる。
生き残るためには戦わなければならない場面が出てくるんだ。
「よしっ!やるぞぉおおおおおおお!!」
軽いネタバレをしますと、今回の戦いでエボルサイドはほとんど活躍しません。例の彼女も出てきますが、対峙するのは……。




