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双剣士④迫りくる屍兵

 今回の話はつなぎみたいなものです。読まなくても大丈夫なようになってますので、面倒な人は飛ばしてください。

「ああ、そうだ。ポー・ルゥー忘れないうちに渡しておくよ」

 依頼の説明も終わったところで知り合い同士つもる話もあるだろうと席を外したコミング。さらにライラの部下も席を外したので本当に以前なにかしらの縁があった人間だけがその場に残された。

 そこでオレは例のモノを返すことにした。

 控えるミルフィーに手を差し出すと、乗せられる1冊の本。それを確認し、ポー・ルゥーの方へ押す。

「なんだかんだと長い借り出しになっちまったが、ようやく返せた」

 それは以前彼女から借りた『白の魔導書』だった。

「おー!律儀だねぇ!と言っても、これは結構前に読んでたものだからそこまで期待はしてなかったんだけど…。まあ、保険だったしいいかな」

「……保険?」

「そっ!これを貸しておけばあなたのとの縁が切れないんじゃないかなぁ~っていうほ・け・ん」

 頬に指を添えた笑みで答えるポー・ルゥー。

 彼女が自然に近寄って来た時、その炎は爆発した。

「エボル様から離れなさいっ!!」

 嫉妬の炎を纏ったミルフィーの蹴りがポー・ルゥーの顔目がけて飛んでいく。

「うわっと」

 それを軽々と避けるポー・ルゥーに威嚇する猫のようにフシャーと喚くミルフィー……お前は牛だろうが。

「う~ん、結構凶暴な子を連れてるんだねぇ…」

 さすがに問答無用で襲いかかられれば彼女だって黙ってはいない。レンデル達が静観してくれているのがまだ救いなぐらいだ。

「…………」

「……ふー、ふーっ…!」

 緊迫した睨み合いが続いていたが、ふっと空気を緩めたポー・ルゥーはある提案をした。


「よっし!皆で街に繰り出そうか!」


「「「………はっ??」」」

 彼女の真意が見えず、ポカンと口を開けたオレ達に彼女は悪戯成功と言いながら満面の笑みを浮かべたのだった。



◇◆◇◆◇◆◇



「ふんふんふ~ん♪」

 前を鼻歌交じりに歩くポー・ルゥーに比べ、オレ達の足取りは重い。

 なんだかんだと彼女に乗せられる形で街へ赴くことになったが、彼女とミルフィーの険悪さが解消されたわけではなく、オレが抑えていなければ今にも噛み付きそうなのだ。

 だからこそ、ピリピリもする。

 レンデル達は苦笑しているが、オレ達としてはこのままの関係を続けていいものか。レンデル達が警戒していないのは、ポー・ルゥーをよく知っていることとミルフィーでは彼女の敵になり得ないと考えているからだろう。

 まあ、オレも剣を買おうと思っていたから街には繰り出す予定だったんだ。……そう思わないとやってられない。



◇◆◇◆◇◆◇



「エボル君、双剣士になってたんだ!」

 ビックリ~と笑い飛ばすポー・ルゥー。

 彼女の人柄もあり、この頃にはミルフィーの怒気も静まりオレ達の会話に耳を傾けていた。

「この前会った時は、格闘家だったからそっち系にいくと思ってたよ」

「……そうだね。しかも双剣士は結構珍しい方のジョブだ。エボル、君は一体どこに向かっているんだい?」

「………どこへ?」

 オレはオレの道を言っているだけだ。別段どこを目指しているわけでもない。

 改まって聞かれると困るな。

「ジョブを選ぶときの目標さ。例えば、僕なんかは聖騎士を目指してずっと行動していた。ガルガンは今は重騎士だが、将来的にはガーディアンを目指している」

「ガーディアンってのは防御特化型の騎士の最高峰さ。この防御力に傷つけられる者はほとんど皆無と言ってもいい。…まあ、騎士団の連中はほとんどが騎士系のジョブを目指しているかな」

「……ポー・ルゥーは?」

 その言い方だと彼女は騎士団の中ではおかしいんじゃないか?

 オレが尋ねると、レンデルは少し苦笑した。

「彼女はちょっと特殊でね」

「私は賢者を目指してるんだよ~」

 どこから話を聞いていたのか。ポー・ルゥーはオレとレンデルの肩に腕を回すと愉快そうにそう告げてきた。

「賢者?」

「賢者っていうのは魔法職最高のジョブだよ!」

「…すべての魔法を習得した者が到達する領域。騎士の最強格が聖騎士だとすれば、魔法職の最強は疑いようもなく賢者だ」

「本当だったら私も騎士を目指したかもしれないけど、私には私の考えがあったからねぇ~」


 ――私が『白銀の騎士団』の存在を知ったのは、騎士団が設立されてすぐのことだった。

 当時貧しい村で魔法の才能を認められた私は村で負けることなどなかった。

 そこに現れたのがまだ幼いレンデルを連れた団長だった。彼女はまだ若かったが、既に聖騎士として名を馳せていた。

 そこで私は魅せられた。彼女の聖魔法の美しさに。

 村を襲ったモンスターを屠った魔法。恐ろしいはずの魔法は私の人生を変えるには十分だった。

 私は自分の魔法を見せた。力を見せつけたかった。そして認めてもらいたかった。

 ……結果として私の力は認められた。ただし、攻撃魔法ではなく、魔法の精度と守りの魔法に関してだけだった。それが悔しかった。

 そして彼女は私を出来たばかりの騎士団に誘った。

 まだ幼いレンデルの友として。私は彼女の誘いに乗った。騎士団と言うだけあってレンデルでさえ騎士に付いていた。だが、私は騎士にはならなかった。

 彼女に魔法を認められないまま終われない。

 幼いながらに芽生えた対抗意識が私を強くした。

 まっ、そんなことは絶対言わないけどね…。


「そんなことよりもこれからどうするの?」

 …これから?

「この町に来たってことは、あなたも依頼に参加するの?」

「…依頼って。あれはSランク以上の依頼じゃないのか?」

 この段階の依頼と言えば先程の話に合ったドラゴンの討伐だろう。

「あれ?言ってなかったっけ?」

 それに対して、彼女は意外そうな表情をしてレンデル達の顔を見渡した。

「……あぁ、そう言えばそうだった。忘れてたよ」

「あの依頼はランク制限なしなんだぜ?」

 答えたのはピアだ。

「ランク制限なし?それはおかしくないか?」

 脅威だからこそその依頼にはそれに相応しいだけの実力が求められるはずだ。

「…いや、逆だよ。今回の対象は脅威過ぎる。だからこそ、多くの冒険者を雇って襲撃の被害を少しでも抑える必要があるんだ」

「つまりは実力がある者はすべてこの依頼に参加することが可能だ。まあ、ある程度の実力だとドラゴンとぶつけるわけにはいかんがな」

「オレはいいのか?」

 正直そこまでの実力があるとは思えないが。

「でもBランクなんだろう?あの依頼から2年。妥当なランクになっていることは喜ばしいことだ。それに、君の人柄は知っているさ。君ならば町を守るという依頼にもその力を発揮すると僕達は確信しているよ」

 そんなものかね。

「お前がそこまで言うなら、オレもその依頼に参加させてもらおう。……ミルフィーそれにナリナリもいいか?」

「もちろんでございます」

「別にかまわないナリよ」

 それじゃあ、武器を調達しないとな。



◇◆◇◆◇◆◇



「良いモノねぇな!」

 駄目だ。街中探し回ってもいい得物が見つからない。

 別段それほどこだわってはいないんだけどなぁ…。

「……この町は基本的に冒険者よりも商人たちでにぎわう町だからね。武器よりも装飾品を扱う店の方が圧倒的に多いのさ」

「だからと言って、これじゃあ……」

 手元にあるのは無駄に宝石がうじゃうじゃついているような剣ばかり。

「だったら、剣以外を使えばいいじゃないか」

「……剣以外?」

 何を言っているんだ?

「…ピア、オレは双剣士だ。それが剣以外を使うなんて……」

「別におかしなことじゃないぜ?双剣士っていうのは技を同時に2つ発動できるっていうジョブだ。武器を使う時に2つ同時に使えるって言うのは利点だからな。だけど、それは剣だけじゃない」

 試しに使ってみろと渡された手斧。

 不安が残りながらもオレは依頼に臨むしかないのか…。



◇◆◇◆◇◆◇



「それでは師匠。行ってまいります」

「…うむ。気を付けて行ってまいりゃれ」

 これで襲う町は10に及ぼうかというところ。そろそろ標的に気付かれる恐れもあるのう。

 じゃが、そんなことでこの娘は止まるまい。わっしゃとしては良い見物になるならなんでもよいがの。

「師匠には稽古をつけていただくだけでなく、こんな立派な兵力まで貸していただき…何とお礼を申せばよいか」

 ジャマンダは今、わっしゃの使役するアンデットドラゴンの背に跨っておる。まあ、死んでおるから機動力以外の要素のない無能じゃが、それでもこやつにしてみれば一騎当千の兵を貸し出された気分じゃろうて。……体力が無限というのもいいことじゃろうしの。

「……よいよい気にするな」

 ここは師匠らしく鷹揚な態度で応えておくか。

「今回の襲撃でおんしの目標が達成できるとよいのぅ。…わっしゃはこれまで通り手は出さん。好きにしやれ」

「……お心遣い感謝いたします。今度こそ憎き冒険者エボルと乳魔族の娘に死を与えて見せます」

 そうしてアンデットドラゴンを引き連れてウーボリーの町へ向かう弟子を見送ったわっしゃは、その後ろ姿を見つめながら準備を始める。


「……あやつが、あそこまで気に掛けるとは。父を殺された恨みとは言え、少々興味が湧いたわい」


 実際に殺したのが誰か、そんなことは興味はないと言わんばかりにこの2年余りは我武者羅に己を高めていた弟子の原動力となった冒険者を見るべく移動を開始する。

「…言ったように手は出さん」

 そう。例え、おんしが殺されそうになったとしても、の。

 これから起こりうる惨劇。それがあそこに届けば、出てくるかもしれない。

 わっしゃの標的。偽善者の中の偽善者。

「報告では、騎士団と教徒もおるそうじゃし……協力者が死ねば少しは焦るかのぅ」

 その様子を思い浮かべるだけで楽しみで頬が緩むわい。

 待っておれ。必ず殺して見せる…。

「ひょっひょっひょ…!」


 悲鳴が上がるまでゆるりと進む歩みの中、込み上げた笑いが森に木霊するのであった。

 久々にあの師弟が姿を見せました。どうなることか乞うご期待!

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