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双剣士③ドラゴン

 明日も12時に投稿です。

「……ぜぇっ、ぜえ」

「いやぁ~、ごめんごめん。つい、感極まって…」

 気絶する直前になってようやく解放されたが、体中が痛いわ。

 ナリナリはナリナリでミルフィーを止めるのに苦労してたみたいだし…。本当に勘弁してくれ。

「だはははっ、面白いなお前ら!」

「ほんっとう!最高ね!」

 ピアとライラはオレ達の失態を本当に楽しそうに笑ってやがるし…。一体どうなっているんだか。

「……それにしても、第2部隊と第4部隊の隊長が揃ってるなんて珍しいな。まあ、今回の依頼はお前達としても放ってはおけないってことなんだろうがな」

「…いえ。僕達だけではありません。もう御一方いらっしゃっています」

「……もう1人?シーラは来ないにしても隊長が3人か。こりゃ色々きな臭いことになってるみたいだな」

 何のことかわからないが、思案するピアにレンデルは辺りを見渡し告げる。

「……ここでは衆目があります。ギルド会館で話しましょう」



◇◆◇◆◇◆◇



「――まず、エボル達は知らないということだから依頼内容から話そう」

 卓を囲むように座ったレンデルはゆっくりと口を開いた。

 ちなみに、ポー・ルゥーはハーモニカのジョブ登録をするために一緒について行っている。あまり子供に聞かせたくない内容らしい。

「今回、この町に多くの冒険者が集まっている理由はあるモンスターが向かって来ているという情報が入っているからだ」

「…あるモンスター?モンスターが町の近くに来ることなんてそう珍しいことでもあるまい。それなのに、お前らみたいな高位の冒険者パーティーまで集まるほどの依頼ってことは相当なもんだろうな」


「……うん。今回の依頼はドラゴンの討伐だよ」


 ドラゴン…!?

 告げられた言葉にはさすがに言葉を失う。

「…ドラゴンって、あの伝説級のモンスターのか!」

「そうだよ~。ドラゴン……モンスターの中でも最上位に位置付けられるその獰猛さと強さはこの世界全てを破壊する可能性を秘めたモンスターだ」

「…最低でもBランク相当。そんなモンスターが現れれば町1つなんて簡単に滅んでしまう」

「……しかも、悪いことに今回は単体ではなく群れで来ているって話だ」

 ……ごくり。

 ガルガンが補足してくれた内容が頭に染み込むと無意識に喉が渇いて唾を呑み込んでいた。

 これだけでも十二分に過ぎるほどに悪い報せだったが、それだけでは当然終わらなかった。


「だが、それだけじゃない。……そうだろう?」

 重苦しい雰囲気が漂いそうになったが、沈黙が訪れるよりも早くピアが話に斬り込んだ。

「…ドラゴンは確かに強力なモンスターだが、倒せないほどじゃない」

 よほど上位種にランクアップしていなければ群れであろうと恐れる必要はない。ピアはそう語る。

 実際のところ、ドラゴンというのは群れの場合はリーダーを含めた数匹以外は最低ランクのモンスターで構成されている。つまりは、突出した強さを持つ個体はおらず、少なくとも大陸でも優れた『白銀の騎士団』から3部隊が隊長を筆頭に現れるほどの事態ではないと言っているのだ。

「お前達は弱者救済を掲げているからハズレ依頼などもよく引き受ける。その程度でも貴重な戦力を割くのはわかるが、それでもおかしい。…もし何もないのなら、1部隊だけで十分だろう?」

「…………」

「…………」

「…………」

 レンデルとライラ、それにピアが無言で見つめ合う。

 言うべきか言わざるべきかを見定めるために。

「――その質問に答えるにはその者達では精神が未熟すぎる」

 そこに現れた第3者。階段を上ってくる彼の背後にはポー・ルゥーとその背中に隠れるようにハーモニカの姿が。

 ……そして、何故かフレイは男に抱きかかえられていた。

「…最後の1人はあんただったか」

 こりゃ大物だ…。

 ピアの呟きで男をじっと見つめる。

 大柄で魂まで武人という雰囲気を纏っている不思議な人物だった。

 レンデルよりもゴツイ鎧を身に纏い、洗練された動きを見せる。また、その鎧も使い込まれているのかところどころに疵が見える……が、整備は怠っていないようで不備は見受けられない。

(……ただ者じゃないな)

 端的にそう感じさせるに十分すぎる相手だった。

「初対面の者達もいるので自己紹介させてもらおう。――『白銀の騎士団』第1部隊隊長コミングだ」

「……オレはエボル。こっちの女性はミルフレンニで後ろの小柄な男はナリナリだ」

「そうか。話の腰を折ってすまないが、私も話に混ぜさせてもらう」

 言いたいことを言うと、コミングは返事も待たずにさっさと席に着いてしまった。

「……まず、言っておくのはこれから話す内容は決して他言無用だということだ。もし漏れれば人々はパニックに陥ってしまうのは明白だからな。我々も大手パーティーということで特別に情報を貰っている。他に知っているのは『敗戦布教』の連中ぐらいだろう」

「…コミングさん、あまりあいつらの話しないでくれます?思い出しただけでムカッとしちゃいますから」

「わかっている。誰が好き好んであんな下劣な奴らの話を振るか…と、話が逸れたな。他言無用の件、了承してもらえるかな?」

 コミングはピア、それからオレ達を見つめる。

「わかりきったことを聞くんじゃねえよ。誰がそんなつまらない真似するか」

 鼻を鳴らして告げたピアにオレ達も続いて頷きを見せる。それを確認すると、コミングはふっと張り詰めていた気配を緩めた。


「――では語ろう。今回のドラゴン……群れのリーダーかどうかは定かではないが、少なくともナイトドラゴンとおそらくドラゴンゴーストだと思われる個体の2種が確認されている」


「なんだって!?」

 騎士団以外では唯一その存在を知るピアが驚愕の声を上げる。

「……えっ?何?そんなに大変なことなの?」

 そんなドラゴン聞いたこともないよ。ギルドで貸し出される資料もランクの高すぎるモンスターは載ってなかったし。

「……ナイトドラゴンは小型でまさに騎士のような戦い方を見せるモンスターだ。ランクはS。そして、それ以上に厄介なのがドラゴンゴースト」

「ドラゴンゴーストは死にきれないドラゴンの魂の成れの果て。アンデットとも異なる異質な存在。元々死んでいるような存在だから通常攻撃では倒せない。こちらはランクSSだ」

 どちらもオーバーSランク。

 しかも、片方は普通じゃ倒せないって…。

「じゃ、じゃあっ、一体どうやって倒すんだっ?」

「そのために僕達がここにいる。ドラゴンゴーストの弱点は強力な聖魔法。聖魔法は使える人間が限られる上に、生半可な魔法ではダメージを与えることができない」

「――だが、聖騎士のジョブにつくものは皆が聖魔法を扱える。そして、我々『白銀の騎士団』の隊長は全員が聖騎士!」

「まあ、私達が厄介な相手を片付けるってわけよ」

 自身に満ち溢れた言葉を語るコミングに比べ、ライラの態度は軽く見えるがそれは彼女の自身の表れだった。

「んじゃ、アタシはナイトドラゴンをやろうかね」

「…えっ!?大丈夫なんですか?」

 ピアの実力をまだ知らないオレは疑問を投げかけた。

「当然!ランクSなら何回も退治したことがある。アタシはこれでもSSランク冒険者だからな!」

 SS!?そんなに強かったのか…!

「…ただ、アタシにはドラゴンゴーストは荷が重い」

「……何故です?討伐対象もSSならあまり気にすることでも…」

 いくらランクは功績で上がると言ってもSSにまで上り詰めたのならば実力も備わっていると思うんだが。

「理由は簡単だ。アタシは魔法が使えねえからな」

「……魔法が使えない?それは、聖魔法がということですか?」

「いんや。アタシは魔法全般が使えないのさ」

 なん、だと…!?

「えっ、魔法全般って……簡単な魔法もですか?」

「おうよ。どれが簡単かはわからないが、魔法全般使えねえぞ。だからアタシにはMPもないしな!」

 あっけらかんとどこか堂々と告げる言葉はオレに衝撃を与えた。

 だが、よく考えればそれが普通なのだ。

 あまり冒険者と関わってこなかったが、関わった冒険者は全員が当たり前のように魔法を使っているから使えない人間がいるという可能性を忘れていた。

 そもそも魔法は適性がないと使えない物だった。

 それにしても、それでよくそんな高ランクに上り詰めた者だ。

「相変わらずだな。普通は高ランクで魔法が使えないと腐っていく冒険者が多いんだが…」

「ハハハッ、そんなもん気にしたってしょうがねえだろ?使えねえ物は嘆いたって使えるようになるわけじゃあるまいし」

「……ふむ。そういうところがシーラも気に入っているのだろうな。どうだ?今度こそ騎士団に入らないか?」

「だから遠慮しておくって。これはシーラにも何回も言っていることだが、アタシはそもそもどこかに所属してっていうのに向いていない人間なのさ。……それはあんたもよく知ってるだろ?」

「……まあ、な」

 誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべる様子に、オレは何かあるのかと勘繰ったが、気にしてもしょうがないと思うことにした。これだけ世話になっているのに疑うというのも筋が通らない話だしな。

「だが、もしも気が変わったらいつでも一報くれ。シーラも喜ぶだろう」

「そうですよ!団長だってきっと待ってます!」

「おう!サンキューな。まあ、しばらくはこの子と一緒にふらふらしてるさ」

 優しくハーモニカの頭を撫でるピアはその時ばかりは豪快な戦士ではなく、母親の顔をしていたのだった。

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