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双剣士②再会

「よう。無事かい?」

 ガーリックの拳を受け止めたその人はまるで久しぶりに会った友人に調子を尋ねるような軽い口調で問いかけてきた。

「…えっ、あっ、…はぃ」

 オレはそんな風に答えることしかできなかった。

 その女性は身の丈の3倍ほどある得物を使っていた。鉄の棒かと思えば、両端には平たい刃が付けられている。ガーリックの攻撃を受け止めながら、それほどの武器を扱う……それだけでこの人の力量が窺い知ることができた。

 ただ、それだけに疑問だ。何故この人はオレを助けてくれたのだろうか?

 本来ならば、冒険者同士の諍いなんてやり過ごすのが定石だ。

(いや、助けたわけではないかもしれないな)

 オレは自分に都合の良い考えを即座に打ち捨てた。

 もしかしたら、ガーリックに因縁のある人物だったのかもしれない。あるいは、単純に邪魔だっただけとも取れる。

 オレ達の戦闘の周囲には誰も近寄ってはいないが、ここはそもそも街道のど真ん中。しかも、入り口に位置する場所だ。町に入りたくても騒ぎで入れないから争いを止めただけとも取れる行動だった。

 最悪敵対する可能性も視野に入れて行動する必要がある……そう考えていつでも逃げられるように態勢を整える。

(……まあ、この人からは今のところ敵対の意思は感じないから杞憂に終わりそうだけどな)

 なんとなくだが、信じてもいいのでは?そう思える背中をしている女性だった。


「これはこれは。まさか、アナタが参入してくるとは…」

 あまりにも予想外の出来事だったのか、ガーリックが忌々しげに女性を睨み付ける。

 それに対して、女性の様子はやはり軽い。

「アタシもまさかこんなところでこんがりガーリックと会うとは思ってもみなかったぜ?理由は聞かなくてもわかる。この時期にここにいるってことは例の依頼だろう?」

 …『例の依頼』?

 ガーリックと知り合いだったというのにも驚いたが、奴の目的に心当たりがあるなんて。この人は一体何者なんだ?

「……ワタ~シの名前の前に不愉快な言葉を付けないでいただきたい。『子連れのピア』殿」

「お前だって渾名で呼んでんじゃねえか。…まあいいや。アタシは無駄に喧嘩を吹っ掛ける趣味はねえんだ。お前らと違ってな」

「…それは心外ですね。ワタ――」

「――御託はいい。それよりもあのお嬢ちゃんはどこにいるんだ?」

 その言葉を発した瞬間。ガーリックの放つ雰囲気が一変した。

 追い詰められたような表情だったモノが何かの覚悟を決めたように…。

「…次、あのお方をそのように呼んだ場合は…」

「わぁ~ったよ。で、どうなんだ?まあ、聞かなくてもわかるけどな。お前らのパーティーが個別で戦闘をするのはあいつが傍にいない時だけだ。傍にいれば自分の勇姿を見てもらおうと張り切ってるはずだからな」

 鼻で笑い飛ばして告げる内容にオレは息を呑む。

「まるで飼い犬の必死のアピールみたいで好きだけどな。笑いが足りない時なんかは貴重だぜお前ら」

「…………」

 そこまで言われたのに、ガーリックは黙ったままだ。2人は武器と拳を突き合せたまま、じっと視線を逸らさない。先に逸らせば負ける……まるでそう考えているようだ。

 そして、先に逸らしたのはガーリックだった。

「……わかりました。ワタ~シもあのお方がいないところでこれ以上無駄な戦闘は避けないと思っていたところデェ~ス」

 スッと拳を引き、魔法を解除する。

 それまで纏っていた光の鎧が初めから存在しなかったかのように掻き消え、真逆の黒い肌と黒い神父服を身に纏ったガーリックが姿を現した。


「ただし、忠告しておきますがもしもその者達が町に入ろうというのならばアナタもそれ相応の罰を受けることになりますよ」


 最後にそんな忠告を残し、何事もなかったように町へと戻っていったのだった。



◇◆◇◆◇◆◇



「――で、アタシはそこで運命の旦那ひとと出会ったってわけよ!」

 ガーリックが立ち去ってから数刻後。オレ達は無事に町へ入ることができた。それもこれもオレ達を助けてくれたこの女性――ピアとその娘ハーモニカのおかげだった。


 ピアが助けてくれたのはオレに剣をくれたマーサさんの知り合いだったかららしい。絡まれている時に壊れたあの剣がマーサさんに譲った物だと知った時は冷や汗をかいたが、話してみればとてもいい人だった。

 そして、フレイを連れていることで厄介ごとになると告げるとそれに対する解決策も授けてくれたのだ。


「……ピア。本当によかったのか?」

 かつて傭兵をしていた頃のマーサさんと馴れ初め話を遮り、オレは再度確認を取る。いや、マーサさんとの馴れ初めは早々に終わり、今は旦那さんとののろけ話に突入していたが…。

「んっ?あぁ、気にすることはないよ。元々はそれもあって町を目指してたんだからね!そうだろう?モニカ」

「そうだよっ!それに私もぷるちゃんと仲良くなれて嬉しいもん!」

 満面の笑みを浮かべ答えるハーモニカの腕では皆と歩けて嬉しいらしいフレイがぷるぷると感情を表現していた。

 彼女が提案した解決策とは…ハーモニカを調教師のジョブにつけるというものだった。

 ハーモニカは今年で10歳になったばかり。そろそろジョブに付けようと思っていたところで大きな依頼があってこの町に来ていたらしい。

 ハーモニカは事情を聞くとすぐさまフレイに近付き仲良くし始めた。元々モンスターを恐れない変わった子らしく彼女とフレイはすぐに打ち解けた。それはそれでどうなんだ?と思いつつも、オレ達は彼女たち親子の厚意に甘えることにしたのだ。

 まあ、なし崩し的に彼女達と行動を共にすることにはなるが、それもしょうがない。

 行動中にフレイを上手く譲渡ししまおう。



◇◆◇◆◇◆◇



「…あん?何かあそこも騒がしいな」

 もうすぐギルドに到着というところでギルド会館前で騒いでいる集団を発見した。


「邪魔をするなっ!これ以上あいつらの横行を許しておけるか!!」

「だ~から、やるなら辞めてからにしろって言ってんでしょうがっ!私らにまで迷惑かけてんじゃねえよ七光り野郎!!」


「…ったく騒がしいな。あんなところで騒いでたら入り難いじゃねえか……」

 やれやれと頭を掻くピア。だが、オレはそれどころじゃなかった。

 どう見ても前方で騒いでいる人物に見覚えがあったのだ。


「まあまあ、2人とも落ち着いて。ここじゃあ迷惑になりますから…」

「そうだぜ。騎士団としての面子を気にするなら――」

 やっぱりそうだ!

「……『白銀の騎士団』!?」

 なんてこった!

 つくづく変な縁がある…そんな風に感じて慌てて姿を隠そうとする。

「あぁ、確かにありゃあレンデルか。ってか、お前らも知り合いだったのか?」

 ピアも当然彼らのことを知っているようだ。

 そう。あそこにいるのは、第2部隊隊長のレンデル。それに構成員のガルガンとポー・ルゥー。そしてレンデルと言い争っているのは第4部隊隊長のライラだ。他のは知らん。ライラ側を止めようとしてるんだから第4部隊の人間かもな。

「…お前らというか、オレだけというか」

「お~い!久しぶりだなぁ~」

 えぇ~!?

 人の話聞けよっ!てか勝手にどんどん進まないでっ!

「エボルさんすいません!ママは結構せっかちなんで…」

「い、いやっ、別に問題は…」

 あれっ?そう言えば、今は問題ないよな?ナリナリの幻術もあるし、それに最後に会ってからもう2年以上経っているんだ。姿が合致しなくても、ある程度は誤魔化せるか。

「…まあ、知り合いでもあるし挨拶ぐらいしておくか」

 あっちが覚えているかはともかく、こちらとしてもいつかは会わないといけないと思っていた相手だしな。

「ミルフィー。お前に預けてたを出しておいてくれ」

「かしこまりました」

「…ナリナリも頼んだぞ」

「任せるナリよ」

 何をと言わずともオレの言いたいことを察したナリナリは力強く頷く。それを見て、ハーモニカが「……?」と首を傾げるが、それに対しては優しく頭を撫でることで誤魔化しておく。

「じゃあ、行くか!」

 1人さっさと集団に突っ込んで行ったピアを追いかけるようにオレ達も『白銀の騎士団』へと近付いて行った。



◇◆◇◆◇◆◇



「ピアさんっ!?」

「うわっ、ホントだ!」

「何だよ~喧嘩か?お前ら相変わらず、シーラがいないと仲悪いなぁ~」

「……それは」

「だって、こいつが…」

「まあ私にとってはどうでもいいけどな。それよりもお前らの知り合いを連れて来たぜ~」

「「……知り合い?」」

 首を傾げる隊長2人。部下達も同様に首を傾げていたが、話に割って入るようなことはしない。それほどピアが彼らにとって信頼のおける相手だということだろう。

「おう!知り合いだって言ってた……あれ?言ってたっけ?なぁ、おいどうだったっけー?」


「……はぁ。そんな中途半端な情報しか入れてないのに突っ込んで行かないでくださいよ」


「「「エボルッ!?」」」

「あっれー?エボル君だぁ~。それにあの時の牛ちゃんじゃん。おっひさ~」

 レンデル、ポー・ルゥー、ガルガンの驚きの声に僅かに遅れてライラがオレ達に気付く。ミルフィーは「う、牛ちゃん…!?」とわなわなと震えてしまっている。まあ、それはどうでもいいんだけど。

「よう。覚えててくれたみたいで助かったぜ」

 忘れられてたらどうしようと内心ビクビクしていた方としてはありがたい対応だ。これもある意味ではピアに助けられたってことになるのかね。……ちょっと複雑だ。

「エボル、君無事だったのか!」

 感極まったようにレンデルがオレを抱きしめる。

「うわっ、ちょっ…!?」

 さすがにいきなりの抱擁にはぎょっとして引き剥がそうとするが、一向に引き剥がせない。

(これがレベルの差か!?)

「あんな別れ方をしてから再会できなくて心配したんだぞっ!」

「…だから、私が見つけたって言ったっつーに」

 後ろでぶつくさとライラが何か言っているようだが、小声なのでわからない。というか、レンデルの締める力が強すぎてそれどころじゃ……!

 ヤバい…、意識……が。

 ということで再会したのはレンデル達でしたー!いやぁ、彼はこれから先ちょっといろいろ大変なので温かく見守っていて上げてくださいね?

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