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閑話1-2

「おいっ、それには触るな!」

『ぴぎぃっ!?』

 大声を出したせいでびくりと身体を震わせるプルン。フレイと名付けられたこのプルンは今、オレの魔剣不知燃モエノシラズに触ろうとしていた。

「…まったく、お前はモンスターなんだ。触ったらただじゃすまんぞ」

 さっと置いてあった不知燃を拾い上げ、触れないような位置へと移動させる。

「いやいや。その言い方では誤解が生じるナリよ?」

 やれやれと言った調子で小刻みに震えているフレイを拾い上げるのは魔剣精製依頼の後で強引に旅に合流してきた商人ナリナリだった。

 初めて会った時と違い、今は尻尾のような物が見え隠れしている。

 ナリナリはなんでも大地の民という種族の出身らしく、元がモンスターから進化した種族だと言われている。実際にそうなのかどうかは不明だが、モンスターに似た容姿や能力を秘めていることから学者達の間ではそう語り継がれているらしい。そんな一族の汚名を晴らすために多くの同胞が人間に溶け込むべく行動しており、ナリナリもその1人だ。

 そして、魔剣精製の際にシルヴァアス家に滞在していたらしくオレを見つけて興味が出たから付いてくると言って聞かなかった。

 当然、正体を誤魔化さなければならないために断ろうと思ったが、先に正体を明かされたことでオレも覚悟を決めたのだ。

 大地の民はその見た目から人間の世界では迫害を受けるために正体を隠すというのに…。よほど自信があるのかそれとも、バカなのか。

 後者のような気がして気が滅入るのを避けられず、ため息を吐く機会が増えた気がする。

「フレイ、エボルの持っているあの剣は魔剣ナリ。とっても危険な剣ナリよ?」

『…ぴぃ?』

 3人の中で、フレイと仲が良いのはナリナリだ。ただし、懐いているのはオレで世話をするのはもっぱらミルフィーの役目だったりする。

 ちなみに、ミルフィーは食事の準備をしている。

 ナリナリはまるで兄が妹に諭すように優しげな口調で説明していた。


「いいナリか?あの魔剣…不知燃は魔力に反応するという性質を持っているナリ」

 もしも、周囲に人がいればその漏れた情報をもとに対策を取られかねない情報を知力の低いモンスターにわかるように説明するというのはいかなものかと思ってしまうが…。

「まあ、見た方がわかりよいナリね」

 案の定きょとんして理解が追い付いていないと思われるフレイに対し、ナリナリは笑みを浮かべて立ち上がった。

 当然、抱えられていたフレイの視線も上がることになる。つまりは、ようやく座っているオレと視線が合うぐらいの高さになったのだ。

「いくナリよ――ストーン・ソード!」

 フレイをオレに向け、そのまま魔法を放ってきた。

 盛り上がった地面がまるで剣のように鋭く尖ってオレに襲いかかってくる。

 もちろんナリナリだって殺す気ではないのだし、魔法の中でも威力が低めなので慌てることなく対処できる。むしろ、この程度ならば対処するまでもなく簡単に躱せるほどだろう。

 だが、それではこの行動の意味がない。

 若干呆れながらも不知燃を抜き放ち、先端を切り落とした。

 ぽとりと落ちていく先端。本来ならば、そのまま地面に落ちるところだが今回は違う。不知燃に斬られたところを中心として爆発が広がる。


『ぴぃぃぃ!?』

「ははっ、どうナリ?あれが不知燃の効果ナリよ」

 魔剣不知燃は内包する魔力を焼き尽くすように攻撃を続ける魔剣だ。

 魔法ならば魔力がある限りその範囲を焼き尽くすし、人間でも魔法を発動させていると焼き尽くされる。ましてやモンスターならばなおさらだ。

 モンスターは例外なく常に魔力を漏れさせている。

 これは生命力の代替として魔力を使っているからだ。つまりは、そんな魔力の塊であるモンスターがこの不知燃に触れてしまえば……。

「…木端微塵だな」

 それこそ、粘液系のフレイなどは跡形もなく消し飛ぶだろう。

「わかったら不用意にあの剣に触れてはいけないナリよ?」

『――――!!』

 首がないのでよくわからないが、おそらくはわかったのだろう身体全体を上下に振るわせる様はまるでこくこくと激しく頷いているようだった。



◇◆◇◆◇◆◇



「うおっ!?」

 びっくりした~。

「……こいつ、本当に何でも食うな」

「そうナリね」

「いくらモンスターと言ってもこれは…」

 三者三様に驚きを見せるその先ではフレイが炎を食べていた。

「……というか、あれどうやって食べてるんだ?」

 本当に食べていると言っていいのかわからないが、徐々に徐々に炎が範囲を狭めているし表現としては間違っていないと思う。まあ、確信はないけど…。

「…う~む、謎ナリ。モンスターの中でも広く知られるプルン。その生態は未だに謎のベールに包まれているナリね~」

「謎というか、なんというか…。ただ、食べてはいるみたいですよ?ほら、粘液だから消していると思えば煙が上がったりすることもありませんし、よく見れば体内に薄ら炎のような物が」

「てか、どこで消化してんだ?いや、それ以前に炎って消化できる物なのか?」

「気になるなら調教師になればいいナリよ?なれば、固有のスキルとして魔言が使えるようになるはずナリ。…どうせ、調教師の適性は出ているんナリ?」

 まあ、出てはいる。

 ただ、そのためだけに今のジョブを捨てるっていうのは…。調教師と違って上位ジョブの方だし。

 それに調教師ってどう考えても直接戦闘系のジョブじゃないしなぁ…。

「……魔言って言っても完璧に意思の疎通ができるわけじゃないんだろ?」

「確か、大体の内容がわかる程度だったと思うナリけど…」

「だったら、いいわ」

 その程度の情報だと本当に必要かはわからないし。そもそも、こいつ自身がどうやっているのかを把握してない可能性が高そうだしな。

『ぴぃ?』

 何?とでも言わんばかりにこちらに意識を向けるフレイになんでもないと手を振って返す。そこで、ふと思い出したことが。

「…そもそも、お前があのジョブになった方が早いんじゃないか?」

 あのジョブ。ナリナリの種族の全員が持っている適性。

「それは駄目なり。あれを使わないのは一族の誇りナリ。それを旅に出ているとはいえ、使うわけにはいかないナリよ」

「…あっそ」

 変なとこ強情だよな。

「まあまあ、落ち着いてください。それよりもそろそろ町が見えてくるはずですが、この子どうしますか?」

 険悪な雰囲気になりかけたところですかさず声をかけるミルフィー。こいつもこういう雰囲気に慣れてきたな。ナリナリが同行するようになってからすぐはいつ襲いかかるかわからないほどだったが…。


「……今のところは誰かが調教師のフリをしていれば問題ないと思うナリよ?フレイはまだただのプルンなんナリから」

 ランクアップでもすれば調教師のいない今の状況は拙いだろうが、今のフレイはランクGの最弱モンスター。最悪暴走したとしてもすぐに抑えられる。それこそ、武器を持った子供でも対応しようと思えばできるほどだ。

「とりあえずついてくるんだから好きなようにさせておけば――」

 言いかけた言葉が出てこない。

「ん?どうかしたナリ?」

「……いや、あれ」

 ナリナリの質問に答えることなく、ある方向を指差した。

「どれナリ……あっ!」

「どこで……ああっ!!」

 2人が視線を向けた先では、先程よりも3回りほど大きく、そして赤く変色した粘液の塊が蠢いていた。


『ぴぃっ!!』


 オレ達の驚愕を余所に遊んでくれるとでも思ったのか楽しげな声を上げる物体。その態度には面影がある。

「ランクアップしたナリーー!!」

 こうしてフレイは少し目を離した隙にレッド・プルンへとランクアップを果たしたのだった。

これでひとまず話を続ける段階にきました。閑話は本編の隙間を補足する内容なので、本編で話が一気に飛んでもご容赦ください。

次回からは本編を再開しますが、言っていたように書き上がってから更新しますのでしばらくお待ちください。

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