格闘家①Re:見習い
遅れました。今回は説明回みたいになってます。次話からは一気に物語っぽく話を動かしますので急な展開にご注意を(笑)
「「エボル!」」
……あれっ?何で、まだ2人の声が聞こえるんだ?
というか、死んだと思ったんだけど……何故に真っ暗なの?
そんなことを考えていると、いきなり身体が宙に浮いた。
(えっ?えっ??どういうこと!?)
「…………」
「…………」
「…………」
バサッと何かが落ち、光が差し込む。
ようやく見えた視界の先で、唖然としているジェノ父さんとマリア母さんの顔が。というか、2人とも大きくなってない?
いや、むしろ……オレが小さくなった!?
「……エボル、お前」
「エボル、あなた……」
視線を追うと、徐々に理解が追い付いてくる。いや、理解しがたい現実が見えてくる。
もしかして、オレ……。
「「「赤ん坊になってる!?」」」
◇◆◇◆◇◆◇
「……信じられん。まさか、エボルが進化種だったとは」
進化種?
ジェノ父さんの口から出た言葉に意味が分からず首を傾げる。
ちなみに、オレは昔のようにマリア母さんの腕の中でミルクを飲んでいる。とはいえ、さすがにもうマリア母さんも出ないのでこれは牛乳なわけだが…。
ううむ、どことなく旨味が足りないような。物足りなさを感じてしまうのは何故だろう?初めてマリア母さんから貰った時には罪悪感を感じていたはずなのに。
「…ジェノ、進化種って何なの?」
おっとそうだった!今はミルクの味について考える場面じゃなかった。
意識をジェノ父さんに戻し、話を聞いていく。
ジェノ父さんは鑑定魔法を使ったことで疲れた目元をほぐしながら、説明してくれた。
……あれ?鑑定魔法で見えるってことはステータスに表示されてるってことじゃね?だったら、自分で見た方が早いかな。
「進化種――それは古の時代、その中でも最も古き時代に生息していたとされる種族の1つ」
ジェノ父さんの話に耳を傾けつつ、オレはステータスを呼び出した。
・エボル Lv.1/15
種族:人間(進化種)・男 ジョブ:格闘家New ランク:卵New
HP35/35 MP0/0 体力10/10
攻撃力5 魔法攻撃力0 防御力4 魔法防御力0 知力51 速度5 人格50
種族特性:レベル上限・進化の可能性 ジョブ適正:格闘家(ひよっこ) ジョブ補正:攻撃力上昇率アップ
スキル:【大泣き】
ううむ。以前よりもわかり難い内容になってないか、コレ?
しょうがない。また、天の声に身を任せるか。
さて、まずはジェノ父さんすらも驚かせたオレの種族についてだな。おそらく、以前答えが返ってこなかったのは???だったからだろうし。だったら、今ならわかるだろう。
≪進化種とは、あらゆる可能性を秘めた至高なる種族の1つであります。その種族は、ある一定以上の成長を得ると古き姿を捨て、新たな姿と力を求める種族です。始まりと終わりを司る種族とされており、進化の可能性がある限り寿命を迎えることはありません≫
新たな力、ねえ…。それで、わざわざ赤ん坊に戻るっていうのか?だとしたら、面倒だな。赤ん坊に戻る度に死にかけるっつー話だよ。
そもそも、進化の可能性っていうのは何だ?一応、種族特性にはなってるけどよくわからん。
≪進化の可能性とは、自分がどのような存在になるのかその可能性を示します。種族が人間である場合、可能性とはジョブに由来します。つまりは、ジョブ適正がそのまま進化の可能性、その先にある到達点を意味しております≫
……ああ、だからか。
だから、瀬戸際に条件を満たしてジョブが変更されて赤ん坊に戻ったと。というか、そういう大事なことは先に伝えとけよ!
まあ、いいや。じゃあ、その条件に付いて教えてくれ。
≪条件に付いてですが、それはジョブにより異なりますのでジョブ適正に表示されていない物についてはお答えできません。
格闘家(卵)についてですが、これは素手でモンスターを倒すことが条件になっております。また、その先の格闘家(ひよっこ)は格闘家(卵)で順当に経験を積めばほぼ変化するジョブを意味しております≫
モンスターを倒すか。まあ、オレはずっと3人で暮らしてて魔物はおろか他人と接触する機会もなかったからな…。こんな簡単な条件も満たせていなかったのは結構なショックだぜ。しかも、そのせいで死にかけるとか、意味が分からん。
レベル上限っていうのは普通にそのまんまだろうな。だって、前までなかったレベルにまるでHPなどのような限界値が表示されてるし。
ただ、ランクの方については卵とかひよっことか言い方が微妙なような気がするけど…。
「――つまり、進化種とはあらゆる生命の一部となることで永遠に近い時間を生きていたとされる種族であり、その生態は今でも謎が多い。姿かたちも人と同じだと言う学者もいれば、あらゆる生物に変化して環境に適応していった種族だと言う者もいる」
へぇ~。そうなんだ。
……で、本当のところはどうなの?
≪進化種はあらゆる生物に進化することが可能です。虫や植物、細菌などあらゆる形態を取って星の誕生の歴史を生き抜いてきました≫
マジだったのか。
それはそれで、なんか嫌だな…。
まあ、いいや。ところで、オレのレベルと年齢が同じなのは何で?それも進化種だから?
≪そうなります。進化種は成長、つまりはレベルアップに合わせて体を強制的に成長させることで急成長をする種族です。その性質ゆえに寿命を持たない種族であり、進化種にとって年齢とは意味をなさない概念として不要なものと処理されています≫
「――ただし、それはあくまで伝聞されている事柄であり、詳細の大部分が謎に包まれている。正直、この目で見るまで存在を疑っていたほどだ」
それが普通の反応だよな。
(……でも)
疑問が生じたので、ジェノ父さんに聞いてみよう。
「あーぶ、ぶぶばい?」
しまった!
口から当然のように出てくる赤ちゃん語に、頭を抱えたくなる。いくら信頼してるとはいえ、だからこそ見られたくない姿だ。
だが、そんなオレの心中を知らない人物が検討違いな行動をする。
「あらあら?お腹空いたのね~。でも、困ったわ…。もう私は出ないし」
誰であろうマリア母さんだった。
マリア母さんは歳を取っても崩れることなく豊満な胸を服の上から押し潰して困ったような表情を浮かべる。
それに対し、何を言ってるんだと呆れた顔をするジェノ父さん。
「いやいや、マリアさすがにそれはないよ。……いや、それも問題ではあるんだけどね?」
問題であることに気付いたのか、それともマリア母さんに甘いだけかジェノ父さんはないと言っておきながら、考え込まないでほしい。
「…こほん。じゃあ、エボルの質問に答えようか」
2人のボケが始まって、オレの猛抗議がようやく通じた。
その後、オレは本などから伝えたい言葉を選んではその文字を見せることで何とか伝えたい内容を伝えることに成功した。
「エボルが聞きたいのは、拾った時に鑑定をしなかったのか?だったね。その質問に答えるなら、答えは当然『した』とも。…だけど、その時には変なことな一切なかった」
ジェノ父さんはペンでさらさらと当時のオレのステータスを書き出して、オレに見せてくれた。
・名前:なし Age:1 Lv.1
種族:人間・男 ジョブ:見習い ランク:なし
HP1/20 MP0/0 体力0/6
攻撃力3 魔法攻撃力0 防御力1 魔法防御力0 知力5 速度2 人格50
種族特性:なし ジョブ適正:なし ジョブ補正:なし
スキル:【大泣き】
こんな風に見えていたそうだ。
どうも種族などの部分は見えないように工夫してあるらしい。
「…まあ、そんなだから拾っても大丈夫だと判断したんだが。今見てみると種族の欄に進化種という文字が出ていて驚いたというわけさ」
肩を竦めながら語るジェノ父さん。それは得体のしれないモノを育てていたという怖さではなく、単純に驚いたと告げる態度だった。
「でも!エボルが私たちの子供であることにはなんら変わりはないでしょ!?」
しかし、ジェノ父さんの態度を理解しきれなかったマリア母さんは慌てたような態度でオレを抱きかかえ、ジェノ父さんに言い寄る。
腕の中で懐かしい温もりを感じるオレにジェノ父さんは優しく微笑みを浮かべ、「もちろんだよ」とオレとマリア母さんと一緒に抱きしめた。
しばらく腕の中で温もりを感じていたが、突如としてオレの腹が鳴り、そして涙腺が緩んでくる。そんな様子を見て、2人は声を揃えて笑い合っていた。
「――じゃあ、今度はエボルのご飯をどうするか話し合おうか」
そうして、オレの2度目の赤ん坊生活は始まったのだった。
ところどころ修正を施したりしてます。
とりあえず魔物から呼称をモンスターに変更したことが大きな変化ですかね。