魔闘士②魔の植物
お待たせしました。
「魔剣精製だと…!?」
依頼書に書かれていたのは何度読み返しても紛れもなく魔剣精製の文字。
だが、こんな一般に公募して魔剣が作れるものなのか?そもそも、魔剣とは一体…。
「…そちらの依頼を見つけ、エボル様の今のジョブから考えると最適だと私は判断しました」
「確かに。…確かにそうだ」
今のオレは魔剣士。魔法を纏う剣を扱うジョブ。そう考えればこれ以上に最適な依頼はないだろう。だが、この依頼内容はどういうことなんだ?
「依頼主は……ジャスティ・シルヴァアス。依頼内容は魔剣の完成」
「……シルヴァアスと言えば、貴族家の1つです。――別名、魔剣貴族シルヴァアス」
「…魔剣貴族?」
「はい。なんでも代々魔剣を王家へ献上してきた貴族だという噂です。貴族家については詳しいことを探るのは不可能ですね。権力者ほど自分の身の回りは固めているようですから。…ちなみに、この町はそのシルヴァアス家の直轄領らしいですよ?」
「この町はまあまあデカい。そこを直轄しているとなると、大貴族だな」
魅力的な依頼だ。そんな大物貴族と接点ができる上に、魔剣という未知の力に触れることができる機会なんてこれを逃したら一体いつ来ることか…。
(まあ、敵対する可能性は高そうだが)
強さを求めている以上未知の強さを持った相手が強力な武器を持っている可能性は決して否定できないからな。
そして、オレも進化種という未知の存在である以上どこまで高みへと至れるか…。確かめるためにはどうしても強さが必要になってくる。
「……よし!この仕事で決まりだ」
早速依頼の日付を確認しなければ!そう思って依頼書に目を通すが、日付などは書かれていなかった。
「……?」
「エボル様、実はそちらは依頼書の写しです」
依頼書の写しとは、受理するかどうか不明な時に持ち帰る為の移し書き。つまりは、模写である。
「なんでそんな面倒な真似を?」
別に受けてきてもよかったんだが。
「ランクのところをよくご覧になってください」
「……ランク?それがどうしたって――はぁ!?」
ランクに合わない依頼を持ってくるとは思えないが、そう思って確認してオレは再び驚愕に目を見開く。
『ランク:不問。魔剣を扱えると自負する者のみ参加することを許可する』
そこにはハッキリとそう書かれていた。
「ランク不問って!」
こんな依頼は今まで受けたことがない。
「続きもあります。続きには極秘性が高い依頼のために依頼を受ける者以外は参加できないとなっております。つまり、パーティーであろうともそのメンバーが依頼に関われないような場合はメンバーの立会ができない……そういうことです」
う~ん。一気に面倒臭い依頼になったな。
元より依頼内容から難易度は高そうだとは思ってたんだが……。
「…エボル様、私はこの依頼に参加してもおそらく何もできません」
ミルフィーの言いたいことはよくわかる。
「つまり、途中まで参加できたとしてもお前は追い出される可能性が高いってことか」
「そうなります。しかし、そうなって来ると…」
「……少なくとも、今のままの姿では行けないな」
最低でもレベル15以上……見た目だけでも大人にならないと。
「お前が付いて来れないとなると結構面倒だよな…」
正体がバレる可能性が高まるのは避けたいところだ。
だが、絶対にバレると決まったわけでもない。シュゾ―の時のように気付かないことも……いや、ないか。あの時はシュゾ―だから気付かなかっただけだ。それに相手は大貴族。ちょっとの違和感にも気付いてこちらに疑いを向けてくることは確実。
だけど、この依頼を逃すのはもったいなさ過ぎる!
「そこでこちらの依頼をご覧ください」
ミルフィーはもう1枚の依頼書をすっと押し出してくる。
「そこには幻術を使えるモンスターの討伐依頼があります。ちょうどBランク。今の私達ならば挑戦できる依頼です。…しかも、報酬はまるでこうなることを予測していたかのように幻術系のアイテムです」
「おぉっ!」
でかした!アイテム次第だが、これならこの依頼を受けることも出来るかもしれん!
「アイテムが想像しているようなアイテムでなかったとしても、この依頼をクリアしてしまえばエボル様のレベルが上がることは間違いありません!」
「よし!そうと決まれば善は急げだ!」
風魔法を発動してローブを動かす。さながら風船で作った人形のようなそれが後ろについて来る。そして、オレはというとミルフィーに引っ付いている。
最近気付いたというか、ミルフィーがオレからできるだけ離れたくないという我儘で考え出したのだが、ミルフィーは胸がデカい分前の方がゆったりとした服――ローブなどを羽織っていれば小さい俺ならばくっ付いていてもバレない。
オレはオレで小さいと歩幅が狭いせいで進むのが遅いのだが、カバーすることが出来る。一石二鳥の作戦というわけだ。
ただ、なんでミルフィーの欲望を満たすためにこんなことをしなくちゃならないだろうと思うが、ミルフィーがこうして普段から慣れておければ赤ん坊に返ったとしても襲いかからなくなるかもしれないということなので仕方がないんだ。
「でゅふふふっ、エボル様が私に抱き着いてるぅ~」
奇妙な笑い方をしているミルフィーが何か言ったようだが、聞こえない。というか聞いちゃいけないような気がするので聞きだすような真似はしない。
こんな時はオレは主人としての風格を見せつけてやればいいんだ!
◇◆◇◆◇◆◇
「やあやあ、私はナリナリというナリよ」
依頼の詳しい情報を得るために会った依頼人は変なしゃべり方をする怪しい男だった。
(何だこいつ?何か病気でも持ってんじゃねえのか?)
男は病持ちを疑いたくなるほどに白い肌をしており、頭皮はツルツル。しかも、眼には赤い球体を埋め込んだかのような赤さだった。
「……これは、どうも。オレ達が今回の依頼を受けさせていただいた冒険者です。オレはエボル、こちらはミルフレンニです」
「エボルさんとミルフレンニさんナリね。こちらこそ、依頼を受けてもらって感謝するナリよ」
話を聞くと、この男は商人らしく村などで作ったアイテムなどを売って旅をしているそうだ。だが、用意していたよりも売れてしまい、ここで商売する分が足りなくなってしまった。そこでオレ達に材料となるモンスターを討伐してきて欲しいということだったのだ。
「依頼内容はわかりました。モンスターの特徴を教えてくれ」
さっさと依頼を済ませてしまおう。
「モンスターの名前はネムルワー。植物系のモンスターナリよ。大きさは大体2m前後、特徴と言えば口から吹き出す粉に幻覚作用があることぐらいナリか」
…ふむ。まあ、そんだけデカい植物が動いてたらすぐにわかるか。
「採取してほしいのは頭部…口奥にある花粉袋ナリ」
頭部ごと持ってきてもらっても構わないが、ある程度の量が欲しいので出来れば花粉袋だけを持ち帰って欲しいということだった。
「これが、その花粉袋から花粉を取り除いた物ナリ」
見せられたのは小さな袋状のモノで、中身がないせいか潰れて皺くちゃになっていた。
「依頼としては、最低でも10個集めいて欲しいナリ。それじゃあ、お願いするナリよ。期限は今日を含めて3日ナリ」
◇◆◇◆◇◆◇
「……うぜえ」
顔目がけて飛んでくる触手を躱し、呟きを漏らす。
ナリナリから依頼を受けて今日で2日目。
ネムルワーと遭遇したのはいいが…。
「こいつらうねうね、うねうね、うねうねと…!」
鬱陶しいんじゃ!!
【闘技】とミルフィーの付与魔法のおかげで相手の攻撃を躱すことはできる。だが、常にうねうねと動いているせいでこちらの攻撃を当てることができない。
「あ~、焼き払いたい!!」
「……エボル様、さすがにそれは」
「わかってるよ!」
森の中では【炎魔法】を使うわけにはいかん。使えるのは風魔法だけ。結構状況的には面倒な状況だ。
まだまだレベルが低く活発に動くことができないというのも苛立ちに拍車をかけている。
「…ミルフィーの光魔法が通じないのは誤算だったな」
「そうですね。……まあ、よく考えれば至極当然ではありますが」
遭遇してすぐに【炎魔法】を使うことを諦めたオレ達は風魔法の他に水魔法や光魔法を試してみていた。だが、結果として水魔法は相手の体力を回復させるという逆効果を生み、そして光魔法は…。
「目がないから目くらましが効かないとか…!反則だろうが!」
結果、想像以上に苦戦を強いられることになったのだった。
「…ちくしょー、これがBランクか。ガードビートルの時も思ったけど、こいつらの身体能力は反則だよなぁ!」
「確かに、Bランクになると急激に防御力が上がりますから…」
以前戦ったガードビートルも魔法が通じない強敵だったが、今回のネムルワーも防御力が高い。
おそらくランクが上がるごとに攻撃に対する耐性が強くなっているのだろう。
「いい加減にくたばれ!」
全力で剣に風魔法を纏わせ、斬りつける。
刃が触手を斬り落とし、頭部――花と口がある部分を胴体から切り離す軌道を描く。
だが、そこで剣は動きを止める。
触手1本、1本は大したことのない強度なのだが、胴体はそれが数十本は束なった状態。ハッキリ言って強度は桁違いだ。今までも攻撃をするたびにこの束に弾かれてきている。
そして、切り落とした触手が再生を始め、オレに巻き付く。
「チッ!ここまで来てまた戻されて堪るか!」
全力全快!
後のことなんてもう考えるか!
ここでMPが尽きたとしてもせめて目の前のこいつだけは倒してやる!
「うおおおおおおっ!!」
「――!!いけません!エボル様ぁあああ!!」
オレが刀身に魔力を込め始めたまさにその時、オレの身体が浮き上がる。それに遅れる形でミルフィーの声が耳に届き――オレはネムルワーの開いた口を最後に見たのだった。
閑話まで読んでくださっている方は今回出てきたナリナリにおやっ?と思ったかもしれません。その詳細は本編で明らかになりますのでお楽しみに。




