魔剣士①Re:魔闘士
「どりゃあああああああっ!!」
雄叫びを上げながら剣を振るう。
手から伝わるのは手応えではなく、空を切るような脱力感と喪失感。見れば剣の刀身が砕けてまるで炭化した枝のようにボロボロと崩れていく様だった。
「…………」
「…………」
「……すいません。また駄目にしてしまいました」
無言でこちらを見つめる2つの視線を感じながら、頭を下げる。
◇◆◇◆◇◆◇
「さて、次はどのジョブになるかね」
シュゾ―と別れてからオレとミルフィーは次の町へと移っていた。
当然出る時はミルフィーに一切の手続きをさせて。
そして、次の町で宿に入り早々に頭を抱えることになる。
そう、どのジョブになるか…ということだ。
「前回は上位ジョブの魔闘士。今回の候補は……剣士、魔剣士そしてアーチャー」
「その中で上位ジョブは魔剣士だけですね。剣士やアーチャーは基礎のはずですから」
そうなると魅力的なのは魔剣士なんだが……。だが、オレに魔法の適性があまりないのは明白。その中で魔剣士を選ぶ意味があるのか?
「魔剣士と剣士の違いって何なんだろうな?」
「……魔法を使うか使わないかでしょうか?」
頬に指を当てうーんと考えるミルフィー。その答えはまあ、オレも考えた。
結局そう考えるとオレは魔法を使うことが多いんだから魔剣士を選ぶ方がいいんだろうな。
「…ミルフィー、アーチャーのジョブについて何か知ってるか?」
「私のいた村では狩りで弓を使う人がついていたジョブだったと思いますけど」
「まあ、アーチャーだからなぁ……」
弓…弓ねぇ。
もしも遠距離に特化したジョブだとしたらそれに相応しい道具を揃えなきゃならん。
そのためには金がいるわけだが…。
(ハッキリ言ってあまり金は裕福な方ではない)
依頼は町々でしっかりと受けているから決して貧乏というわけではない。だからといって金持ちというわけでもない。
その理由は宿代だ。
どんな宿でもオレの素性を知られないために2人部屋を取っている。そう、どんなに混んでいても2人部屋だ。さらに部屋に入られないように多めの金を払い、さらにその間の食事も宿の食事ではなく自分達で用意しなければならないからできるだけ金は大目に持っておきたいというのが本音だ。
つまりは、あまり無駄な出費を嵩みたくない。
そもそも、赤ん坊の段階では弓なんて引けないんだからアーチャーだとレベル上げが難しい。
「……結局は、選択肢は1つしかないよなぁ」
まあ、せっかく1度上位ジョブについたんだから今度も上位ジョブについてみるも悪くないだろう。
「ミルフィー」
「はい!」
考えている間、じっと話を聞いていたミルフィーはオレの呼びかけに即座に反応した。
「オレはこれから魔剣士に進化する。また世話を頼むことになるが…」
「はい!お任せください!!」
いい返事だ。ただ、その返事の良さが逆に不安を掻き立てるんだが…。
「…いいか?くれぐれもこの前のようなことはするなよ?いいな?」
前回のようなことになったらまた時間が無駄になってしまう。
「……へっ!?あ、あははは~、大丈夫ですよ~」
「……じー」
「……は、はは」
引き攣るんじゃないよ!
「…頼むぞ」
まあ、これ以上の問題は考えるだけ無駄というもんだな。
「キャアアア~!!やっぱり可愛すぎますぅ~!」
結局忠告も虚しくオレはミルフィーに抱き着かれ、またもや意識を手放す羽目になるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「あ、あのぅ…エボル様?」
目を覚ましたオレはむすっとしながらミルフィーを見つめている。今度はそれほど腹が減っていない状態だったからミルクを飲んではいない。
つまりは前回のようにオレの腹が満たされることによる急激な眠気での解放は今のところ見込めない。それもあってか、ミルフィーはあたふたと機嫌を取ろうとしているのだった。
(…まあ、前回よりは力は弱まってたみたいだし)
甘いなぁとは思いつつも進歩が見られたので今回はこのくらいで許してやるか。
その前に、ステータスでも確認しておくかね。
・エボル Lv.1/15
種族:人間(進化種)・男 ジョブ:魔剣士 ランク:卵(C)
HP47/47 MP40/40 体力38/38
攻撃力30 魔法攻撃力50 防御力15 魔法防御力32 知力48 速度29 人格50
種族特性:レベル上限・進化の可能性・進化の恩恵 ジョブ適正:魔剣士(ひよっこ)New・アーチャー(卵)・武道家(卵)New ジョブ補正:MP消費アップ・攻撃力アップ・魔法攻撃力アップ
スキル:【念話】・【鑑定】・【世界の流れ】【一点集中】・【炎魔法】・【白系統】・【闘技】・【魔力付与】
ジョブ補正が3つも出たのは初めてだな…ってそんなことより!
「……何で、ジョブ適正から剣士が消えてるんだ?」
上を見上げながらの呟く。
≪ジョブ適正から剣士が消えた理由は、ジョブ系統の上位ジョブを先に習得したことが原因です。本来ならば剣士のジョブに付いてから習得する適性であり、それを無視したことによる進化でしたので適正から除外されました≫
そういうこともあるのか。
納得はいかないが、しょうがないと諦めるしかないな。
じゃあ、見慣れないジョブが出てきてるんだが…、武道家の条件って何だったんだ?
特にこれと言って何かをした覚えのないオレにとって、知らぬ間に出ていたジョブ適正は不安材料でしかない。
≪武道家の適性条件は、自己流ではなく他者からの流派の伝授です。つまり、ちゃんとした師の下で修行を終えた者のジョブになります≫
ああ、そういうこと。
シュゾ―との修業はあながち無駄でもなかったというわけか。そう考えるとこれもまた【世界の流れ】の影響を受けた結果なのでは?そう邪推してしまいたくなる。
ついでに【魔力付与】についても教えてくれ。
≪スキル【魔力付与】とは、意識・無意識に関わらず触った物に微量な魔力を付与する可能性のスキルです。当然触れている時間が長ければ確率は上がり、短ければ確率は低いです。
ただし、マジックアイテムのような元から魔力が宿っている物には付与される確率は高まります≫
微量な魔力…?それのどこに利点があるんだ?むしろ、自分の魔力を消耗し続けるだけに思えるんだが…?
≪利点としては、自身の魔力が宿っていることで魔法の発現が早まったり、威力が上がったりします≫
メリットがあるならば別にいいや。
じゃあ、今回はこれぐらいだから。ご苦労さん。
◇◆◇◆◇◆◇
「ぬぅぅぅ…!!」
額から流れ落ちる汗をものともせず、オレは唸り声を上げながら手元の剣に魔法を込め続ける。
現在、宿屋に1人残り修業を続けているがこれがなかなか難しい。確かにスキルの影響を受けて何の変哲もなかった剣にびみょ~に魔力が宿っているようだが、あくまで微量。これを頼りにするわけにはいかない。そして何よりもしんどいのがジョブ補正のMP消費アップの影響だ。これまで通りの魔法を使っても消費量が多いせいか連続使用時間が短い。
これでも、【闘技】を習得していたおかげで魔力操作が上達してるから抑えられている方だろう。そうでなければ日に3回ほどしか魔法を使えなくなるところだった。
そう。オレが何故宿屋に1人きりなのかというのは、これが原因だ。
以前のように風魔法で形作ろうにもMPの消費が激しいために思うようにいかなかった。だから、こうして魔法の練習をしているのだ。
決してミルフィーがオレに愛想を尽かして出て行ったとかではない!
さて、そんなミルフィーはと言うと今依頼を見るためにギルド会館へと向かっている。
ちなみに、部屋には付与魔法で魔法防御力上昇が掛けられ、さらには属性耐性(炎)を掛けてある。これはオレが炎魔法を練習したいと駄々をこねたからだ。
宿屋で炎魔法を練習するなよ!
そんな声が聞こえるが仕方がないんだ。宿屋以外でも練習できる場所は少ないのだから。
「…んっ?帰って来たか」
何度目になるのかわからないほど汗を拭ったところで、階下から部屋に近付いてくる足音を捉えた。
「エボル様、ただいま戻りました」
「…ああ、おかえり。大変だったか?」
予想通りの足音の主――ミルフィーに労いの言葉をかけておく。
「いえ、決してそんなことは…!」
「まあ、とりあえず扉を閉めてくれ」
誰かに見られたら大変だからな。
言われて慌てて扉を閉めたミルフィーは2枚の紙を取り出した。
「……これが今回選んできた依頼か」
オレがまだ小さいこともあって面倒だったが、難易度の低い依頼…討伐系などの依頼を外した物を見繕ってもらったんだが、それにしても2枚ってのはどういうことだ?
「ええっと…」
2枚のうち、1枚の依頼を見てオレは眼を見開くことになる。
「おい…、これって」
そこに書かれていたのは、魔剣精製という文字だった。
剣は精製でいいのかどうか迷いましたが、いまいち別の言葉も思いつかなかったのでとりあえずこれで通します。もしもよりよい言葉を知っているという方がいれば感想などで教えていただけるとありがたいです。




