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魔闘士④闘技習得

 今回で魔闘士編は終了です。

『~~~~!!』

 キィキィと鳴き叫びながら襲いかかってくるガードビートル。その数は十数匹にも及ぶ。

「ワンパターンな奴らだ…」

 だが、その攻撃はすべて単調の一言に尽きる。こいつらは数で圧迫する以外の能力を攻撃手段を持ち合わせていない。それは自身の防御力にかなりの自信を持っているからに他ならない。

 一斉に襲いかかってくるのは脅威だが、結局のところ盾や鎧といった重装備で押し潰そうとしているだけの集団。つまりは、ぶつかるのは前の方にいる数匹だけ。

 初めこそ戸惑った軍勢だが、それならばダメージ覚悟で受け止めればいい!

 オレは迫りくる勢いからすれば遅すぎるほどに落ち着いて魔力を練り上げていく。

「――【闘技】発動」

 頭の中で発動をイメージすると、徐々にMPと体力が減っていくのを感じる。

 温かい水に包まれるような感覚と共に、身体の内側を力が駆け巡りそれが外へと伝わっていく。

(さあ、来い!)

 身構えるのにタイミングを合わせるかのようにガードビートルとぶつかる。


(グッ…!?)

 重い…。

 例えるならば鋼鉄の塊が何重にも積み重なっているようなそんな重さがガードビートルを受け止めている腕から伝わってくる。心なしか、腕がミシミシと音を立てているような。

「……ッ!」

 腕に走った僅かな痛み。

 見れば薄らと赤い線が浮かび上がっている。

 そして、それは一度気付くと徐々に範囲を広げていく。腕を中心に胴体や足、顔にまで。ダメージ自体はほとんどないが、オレは失敗を悟った。

(……また駄目だったか)

 その赤い線はガードビートルが肢を振り回した結果付いた傷だった。

 ガードビートルの足には昆虫型のモンスターらしく小さなトゲがいくつも生えている。その鋭さは普通の動物だったら皮膚に食い込んで深く刺さるほどだろう。

 本当の【闘技】を発動させていれば内面からの強化により攻撃力のさほど高くないガードビートルの攻撃はダメージを受けるほどではない。それを受けているということは、オレの【闘技】が未だ不完全であるという証明だった。


「……やれやれ」

 ままならない。そう思ってしまうが、傷を負った以上これ以上余計な手間をかけている暇もない。防御のために発動している【闘技】を攻撃へと変換する。

『ギィィィィイイッ!?』

 軽く触れただけでボンッと身体が弾け飛んでいく。

 それを見た周りのガードビートル達の反応は2つに割れる。

 一斉に逃げ出すものと、攻撃の手を強めるものに。

 逃げ出すのは後方の方で押し役に徹している連中。群れのリーダーだったり、ある程度の年数を生きている個体だ。

 そして、攻撃の手を強めるのはオレと接しているがゆえに逃げられない、あるいは命令によって逃げることを許されていない個体――そして、精鋭だ。

 群れの中で地位が低い個体を前面に押し出すのはわかる。それによって地位が低い個体も早々にエサにありつけるという恩恵を受けているので戦法が間違っているとは言えない。それに、精鋭も同時に配置することで弱い個体が殺されるのを最小限に抑えようともしている。

 ――そう、決してガードビートルは情のない種族ではない。むしろ、生き残るために団結している種族だ。

 そして、攻撃力を削ぎ落とし、速度と防御力を武器に肉体で持って圧迫する戦法は理に適っている。これではほとんどの個体は逃げおおせるだろうから。

 ただし、それはオレ1人の場合だがな。


『――ギッ!?』


 少し離れた場所で悲鳴のような鳴き声が上がる。

 おそらくは真っ先に逃げ出した個体の声だろう。

「あっちにいたのは……ミルフィーか」

 これはオレも頑張らないとな。



◇◆◇◆◇◆◇



「はぁ~い、いらっしゃい」

『ギッ!?』

 エボル様と遭遇して逃げ出した個体を出迎えてあげる。それにしても、驚いて声を上げるなんて失礼しちゃいますね。

「――それじゃあ、始めましょうか?」

 逃げられると面倒だから早く始めちゃいましょう。

 私は杖を構え逃げる算段を考える虫に突きつける。

 杖には私の身体から伸びるように白い光の筋が走っていた。

 それが私の【闘技】。

「エボル様よりも魔法の素養があるなんて……、少し悪いですね」

 誰か第3者がいれば美しいとでも言われそうな姿でも、主人であるエボル様よりも先に習得してしまったという愚行を考えると全く誇ることができない。

「…それもこれもすべてあの男の教え方が悪いのです」

 悪態を吐きながらも、淡々と虫を潰していく。その際に生じる感触や飛び散った体液に顔を顰め、杖があってよかったと思うと同時にこの杖を下さったエボル様に感謝を捧げます。


 それにしても、あの男には驚かされます。

(こんなところにエボル様と私を放り込んだのもそうですが…)

「……まさか、エボル様の容姿が変わっていっているのに微塵も疑問を抱かないとは」

 驚くを通り越して呆れるほどの鈍感さ。

 いえ、修行の間には些細な変化にも気付くことから鈍感とは言えないのでしょう。ただし、自分の興味のないことに関しては一切関心を向けないだけで。


 洞窟に来てから既に2か月が経過しており、エボル様も順調にレベルが上がっているので今では1つ前の町にいた頃より少し若いぐらいにまで成長を遂げられました。

 まるで長年使えた主人の成長記録を見せられているようで、少しだけ涙腺が緩んだほどです。ですが、私と同じくそれを見ているはずのあの男はなんと何も言いません。

 気遣っているとかではなく、それがどうしたと言わんばかりの態度でした。

 エボル様も初めの方こそその態度に警戒を見せていましたが、今では気にするだけ無駄だと考えたようで修行に関する話題以外では普通に接するほどです。

 

 …あの人の頭の中は一体どうなっているのでしょうか?

 時間があれば割って中身を確かめてみたいような。でもそれで、私にも移ったら嫌だな…と心配もしてしまうのでした。



◇◆◇◆◇◆◇



「う~ん、素晴らしい!」

 彼らの素晴らしさを今すぐに叫びだしたいほどだ。

 彼らならば、僕と違って自分の道を見誤ることなどないだろう。


 ――僕は以前は冒険者として自分の実力を高めることばかりに注目していた。


 それは決して間違いではないと今でも思う。

 冒険者――それもソロで行動する人間にとって自分の実力を高めることは必ず必要になって来るのだから。だが、僕はそれだけに注目しすぎた。


 ある日、モンスターの討伐依頼を受けた時だった。

 その時、受けたのは1つ上のAランクモンスターの討伐だった。

 Aランクモンスターはそれまでのモンスターと比べると格段に実力が変化する。

 それは、Aランクからは魔法を使うモンスターが出現し始めるからだ。

 だが、所詮は魔法と高を括っていたのも事実だ。当時の僕は魔闘士ではなく、武道家だった。近接戦闘、それも自身の肉体を使うジョブとして上位に入るジョブ。対人戦の経験も積んでおり、魔法使いと1対1で戦ったことはもちろん、複数人に囲まれての戦闘も経験してきた。

 その経験で魔法使いには懐に入れば負けることはありえないという結論を得たのだ。


 そして、負けた。


 負けたなどと言っているが、接戦ですらなく完敗。その上に敗走して命からがら逃げ延びたという方が正しい。

 相手は想定通りの魔法を使ってきた。あとは、懐に入り込んでその防御を崩すだけだった。だが、そこから想定外だった。

 そもそも人間とモンスターの違いはその身体能力の高さ。僕はモンスターの防御力を忘れ、懐に入ったところに魔法を放たれなす術もなかった。

 逃げ帰り、依頼の不達成を告げるだけなのに足は重く、ギルドに行くのが億劫だった。

 山に引きこもり、何日も何日も過ごした。

 ようやくギルドに帰って聞いたのは僕を負かしたモンスターが暴れまわっているという噂。

 それを聞き、すぐさま踵を返した。

 失敗したのなら連絡を入れるべきだった。冒険者としてのプライドだけでなく、その後に起こることを念頭に入れなければならなかった。

 そんなことすら忘れていた僕に強さを求める資格などない!


 急いで着いた先に広がっていたのはモンスターの死骸だった。

 倒したのは僕がバカにしていた魔法使い――その上位ジョブである祈祷師。

 身体中に傷を負い、片腕と杖は折れて垂れ下がっていた。

 その人物からは魔力を感じない。戦いで消耗しきったのだとすぐにわかった。そして、そんな状態でも狩って見せたのだと。

 それこそが僕が真に目指すべき強さだと確信した。

 それから僕はその人に弟子入りを頼んだが、当然断られた。それならばと学ぶことを決意したのが魔法。だが、僕は魔法は使えたがそこまでの適性はなかった。

 覚えられたのは炎魔法だけ。これでは魔法使い系のジョブで大成することはできない。そして、気付いた。かの魔法使いは杖に魔力を通して戦っていた。

 そんな風に自分の身体に魔力を巡らせれば……そうすれば僕はきっと強くなれる。


 そう信じて修業を始め、とうとう【闘技】を習得するに至った。

 だが、そこで成長は止まった。

 1人では限界が来たのだ。

 だが、冒険者でありながらほとんど依頼をこなさずひたすらに修業を重ねる僕を周囲は誰も受け入れてはくれない。以前までの僕と違い、僕の周囲には人はいなかった。

 それにただ教えるだけでは駄目だ。スキルを伝授することは使用者がその効果などを理解した上で可能性のある人物に教えなければならない。

 この町には魔闘士は僕しかいない。

 もう、ここまでなのか。

 そう思った時に、2人は現れた。

 あまりの嬉しさに強引に連れ出し、依頼を受けさせた。だが、彼らは受け入れてくれた!

 女性の方――ミルフィーはさすがに素手で触るのを嫌がったので杖を買わせてほしいというエボルの申し出を承諾した。ただし、その時杖は僕の道を正してくれた魔法使いと似たタイプを選ばせてもらったけど。まあ、そこは師匠特権ということにしておこう。

 2人は才能があった。

 ミルフィーは魔族なだけあって魔力の操作が人間である僕達よりも繊細で、美しかった。エボルは僕よりも魔力操作が下手ではあったけど、呑み込みや成長のスピードが早かった。

 そして、どういうわけか彼は見た目も成長していった。

 初めて会った時は歩くのもおぼつかない子供だったのに、今では僕とそう変わらないほどに成長を遂げている。

(うぅ~ん…、一体どうしたことか?)

 そう思ったが、すぐに答えは出た。

(そうか!きっとエボルのやり方こそが正しいやり方なんだ!正しいやり方だと戦いやすい身体を形成するってことか!)

 そうと決まれば、エボルのやり方を見て僕も勉強しなければ!


 エボルのやり方を見て自分との違いを探す。そして、彼らから質問などがあれば僕が補う。

 エボルは未だに防御系の【闘技】が苦手なようだが、それもあと少しで身に付けるだろう。それに、もうすぐガードビートルの駆除も終わる。

 成体を潰し、卵を砕ければ依頼は完了。

 寂しくはなるが、ここまでの成長を遂げた2人ならば世界に出て大きく羽ばたく姿を見るのは師匠としての役目。温かく見守ろう。



◇◆◇◆◇◆◇



『ギギィ』

「…ふんぬっ!」

 勢いよく振り下ろされた肢。まるで鎌のように鋭い輝きは放つそれすらもオレにダメージを与えることはもはやできない。

 オレの身体には今魔力の通り道を示すように魔力線が浮かび上がっていた。

 これでオレもようやくミルフィーと同じ場所に立つことが出来たというわけだ。

 【闘技】を身に付けたおかげでMP消費量が減り、また身体を鍛えることも出来た。ある意味ではシュゾ―に感謝だな。その上、今のオレでは受けられない高ランクの依頼にも挑戦できたんだ。十分すぎる。


「……2人とも、よく頑張った!君達に教えられることは僕にはもうない!」

 相変わらず暑苦しいな。こればっかりは、どれだけいても慣れなかったよ。

「2人のおかげで僕自身も成長することが出来た。感謝だ!本当にありがとう!」

 オレ、ミルフィーの順に手をガッシリ握ってハグをし始める。

「いいか?困った時こそ燃えるんだ!困った時に燃えれば何でも乗り越えられる!それじゃあ、僕は先に帰るよ!!

 またあ~お~!!」


「……最後まで鬱陶しい方でしたね」

「まったくだな」

 去っていく後姿を眺めながら、オレ達はそんな会話をしていた。

「エボル様、これからはどうなさいますか?」

「あのバカのせいで町ではオレの姿を見られてる」

 幸いにも名前はバレていないはずだが、ミルフィーと一緒にいたことであの子供はオレとミルフィーの子供と考える――邪推する者がいてもおかしくはない。

 まあ、ミルフィーが乳魔族だと気付いた者ならばそんな心配もないかもしれないが…。

 その場合、別の心配事として乳魔族の若くて美人なミルフィー(性格・性癖に難あり)と誘拐しやすそうな子供のオレを見たバカが襲ってこないとも限らない。

 やはり、早々に町を出るべきだろう。

「とりあえずは、別の町に移って進化する」

「進化ですか!?」

 予想以上にミルフィーが食い付いてきた。

「しっ、進化ということは…!またエボル様の可愛らしいお姿を拝見することが出来るということですね!」

「…ま、まあそうなるかな」

「つまりは、あの可愛らしいエボル様に私はまたミルクをあげられちゃうわけですよ!」

 興奮したのはわかったから、せめて涎を拭け!

 はぁはぁと息を荒くするミルフィーに別の意味で不安を募らせながら、別の町へと旅立っていく。


 その道中、別の乳魔族を探すか?だけど、乳魔族全員がミルフィーみたいだったらどうしよう…。そんな不安が過ったのは言うまでもない。

・シュゾ― Age42 Lv.71

種族:人間・男 ジョブ:魔闘士 ランク:B

スキル:【熱血】・【闘技】


 魔闘士編は軽く流す感じにしてみました。見習いと同じようなペースでちょっと技の習得回です。

 以前も述べましたが、ランクは依頼の達成度によって上がるのでシュゾ―はレベルの割にランクは低めになっております。

 次話は一応閑話的な話を入れてから本編に戻ります。

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