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魔闘士③招かれざる熱

「……あんた、誰?」

「僕の名は、シュゾ―。君の師匠だ!!」

「「…………はっ??」」

 いきなり現れて、何を言い出すんだこの男。

「ふぅ~、やれやれ……」

 荷物をまとめて、ミルフィーと視線を合わせる。

『逃げるぞ!』

『かしこまりました』

 【念話】で意思の疎通を図ったら、即座にダッシュ!

 正確にはミルフィーがオレを抱え、さらに自身に【付与魔法】をかけることで速度を強化する。


「何だったんだあいつはっ!」

「…いえ、さっぱりわかりません。エボル様の師匠と名乗っておりましたが…」

 その視線の意味はわかるがオレの知り合いじゃない!

「普通にあんなヤバい奴が知り合いにいて堪るかっ!そんなことよりも――」

 早く逃げよう。そう言おうとしたオレの耳に聞きたくない――届いてはいけない声が届いた。

「どこに行くんだぁい?僕の話はまだ終わってはいないよ~?」

「「!?」」

 着実に迫ってきている!

 そう察した時、背筋に悪寒が走った。

 ミルフィーは身体能力は低いとはいえ、レベルは40近くだし、さらに魔法で強化までしている。それなのに、離すどころかどんどん近付いてくる。つまりは、あの男の能力やレベルはこちらを圧倒的に上回っているのだということが容易に想像できてしまった。

(クソッ!せめてローブを被っていればまだ言い訳が出来たかもしれないのに…!)

 この身体では【魔拳】を使うのに面倒だという理由だけで脱いでいたのが裏目に出た。町外れだから大丈夫、そう思っていたのに…。

 ミルフィーも見られている以上、ここでレベルを上げるのは危険だ。早々に別の町に移動しなくてはならない。それなのに、後ろから迫ってくる気配がそれを許してはくれないと直感が告げている。いや、そもそもの話で、先程までは気配だけだったのに、今では草を踏み鳴らす足音まで聞こえてきている。


「捕まえた」


 そして、呆気なくオレ達の逃走劇は終焉を迎えた。



◇◆◇◆◇◆◇



「いやぁ~、いきなり走り出すからちょっとビックリしたよ!だけど、どんな時にも訓練を欠かさないのはいいことだよ?ただね、自分で走らないと訓練にはならないぞ」

 何を言ってるんだ?

 何が訓練だ。こっちは怪しい奴が現れたから全力で逃げただけだ!

「…まあいい。だけど、君は幸運だよ!僕はずっと待っていたんだからね」

 何を、とは聞かない。そもそも、こいつに話が通じる可能性はどれほど残されているのか…。

「僕はね、これでも以前は冒険者として期待されていた時代もあったんだよ?今でも当時の影響でBランクの冒険者に登録されているからね」

 たまに強制依頼が来て鬱陶しいだの文句を言い始めたが、何を言いたいのか読み取ることができない。話が長そうなので逃げようとすれば即座に視線を移され、固定されてしまって逃げられない。

 この状況を表すとすれば、まさに詰んだと表現するのが適切だろう。


「――と、前置きが長くなってしまったね。あまりの嬉しさに我を忘れていたよ」

 今までのは前置きかい!

「つまりは、何が言いたいかと言うとだね、僕の創設した流派『魔術闘技シュゾ―流』を君に伝授したいってことなのさ!」

 うっわぁ~、一気に胡散臭い方向に話が転がったぞ…。

 もう怪しい勧誘どころか押し売りも甚だしい。

「断ります」

 当然答えはこれに決まってる。そもそも、そんな怪しい流派に誰が入るというんだ。

「やる前から諦めるな!もっと熱くなれよ!」

 いや、お前の場合は暑苦しいだけだから。

「これから、君達は前人未到の流派の扉を開こうとしているんだよ!それを諦めてどうするんだ!」

 知らんよ。

 ……んっ?君、

「あ、あのぅ~、もしかして私もその流派に入門なんでしょうか?」

 今まで黙って聞きに徹していたミルフィーも話が自分にまで及ぶと黙って聞いているわけにはいかなかった。おずおずと手を上げ、確認をする。その瞳にはどこか否定してほしいという期待が見て取れる。

 だが、現実は非情なのだ。

「当たり前じゃないか!僕の流派は魔術闘技だよ!つまりは、魔族の一員である君ならばもっと昇華した技を習得することだって夢じゃないさ!」

「…………」

「…………」

 うん、気持ちはわかる。

 絶望に顔色が変わったミルフィーを見つつ、現実逃避気味にそんなことを考えるのだった。



◇◆◇◆◇◆◇



「さあ、ここが今日から修行場所だ!」

 今、オレ達は薄暗い洞窟の前に連れて来られていた。

 時間帯は昼間だというのに、その洞窟の中には一切の光が届かず、不気味さを醸し出す。だが、光が届かないこと以上に不気味なのは…。

「…おい、ちょっと待て!この音!このカサカサって音!」

「ま、まさか…!?本当にあいつらの巣に連れて来たんですか!?」

 オレとミルフィーは直面している状況に最悪の未来を見ていた。

 洞窟から聞こえるカサカサという音はあるモンスターが発する音。そして、そのモンスターを討伐することこそが、こいつの言うところの修業だった。



◇◆◇◆◇◆◇



 オレ達は洞窟に来る前にシュゾ―に連れられてギルド会館を訪れていた。

「……おい、あれ」

「あぁ、シュゾ―じゃねえか。あのイカれた熱血野郎何をしに来たんだ?」

「後ろにいるガキと女は何だ?」

「新しい被害者じゃね?」

「……気の毒に」

 ギルドに入った途端、周囲から呟かれる言葉。シュゾ―という奴が悪い意味での有名人であることを示していた。

 そして、オレとミルフィーにはシュゾ―に向けられる興味などではなく、憐みの視線が向けられる。まさしく、生贄とでも言わんばかりに…。


「おっ!あったあった」

 依頼ボードの前に立ったシュゾ―は目当ての依頼を見つけると、オレ達が依頼内容を確認するよりも早く受付に行って流れるように依頼を受理してきた。

「さあ、依頼に行くよ!依頼はガードビートルの駆除だ!」

 シュゾ―が告げた瞬間、ギルドをざわめきが襲う。

「ガードビートルだと!?」

「正気かよ!?」

「…しかも、あんなガキ2人を連れてだと…?そこまで腐ってたのか」

 ギルドにいるのはそれなりに修羅場を経験してきた冒険者達。そんな者達が一斉に耳を疑う。それほどのモンスターの駆除をオレ達3人だけで行う……その事実が脳に浸透するとオレの身体は恐怖で小刻みに震えだしていた。

 だが、ミルフィーはオレの比ではないぐらいに脅えていた。

「……ミルフィー?」

 どうした?そう聞くことすらも躊躇われるほどの怯え方に尋常ならざるものを感じ、口を閉ざしてしまう。

「……が、ガードビートルは昆虫型のモンスターで……」

 それだけ言うのがやっとなミルフィー。

 その続きはシュゾ―が引き継ぐことになった。

「ガードビートルは昆虫型のモンスターで、ランクはBに分類されるモンスターで別名は魔法殺し」

 魔法殺し、物騒な名前の由来を聞けば納得してしまうほどに恐ろしい性質を秘めているモンスターだった。

「個体差があって、種族的にはBランクなんだけど、難易度的にはAクラスにも匹敵する魔物でね。奴らには魔法が効き難いんだ」

 ガードビートルは魔法耐性を持っており、1~3種類の魔法の耐性を持っているらしい。

 個体差があるというのは、魔法耐性の種類であったり、効果。魔法の威力減衰あるいは完全無効化を持つ個体もあるらしく、魔法を使う相手には絶対的な強者として恐れられている。

 そして、何よりもその見た目が女性からは忌避されている。

 体長は約2m、群れで行動して黒光りする昆虫。ガードという名はまるで鎧のように甲殻を持っているからそう呼ばれている。

 暗い所から出るのは繁殖期の空腹時のみという性質もあって誰も依頼を受けたがらないというのがギルド側の見識だった。



◇◆◇◆◇◆◇



「さて、ガードビートルの特徴は頭に入っているかな?」

 特徴…その言葉で魔法が効き難いということを頭に思い浮かべる。

「魔法耐性があるガードビートルだが、それは魔法にのみ有効というの特徴だ!」

 だが、シュゾ―が告げるのはある意味では同じ内容だが、前向きというか逆説的な解説だった。

「だけど、ここで問題になるのは魔法が効かないために君の技である【魔拳】もほとんど効かないということだ。【魔拳】は魔法を纏わせた拳を叩き込むという、魔法を近接で使うための方法に他ならない」

「……じゃあ、どうするんだよ?」

 オレとしては早々に返してくれるとありがたいんだが。

 まあ、もちろんこいつがそんなことをするわけがないのは百も承知だが、そもそも出会ってからこれまでの短い間にこいつがオレ達の話を聞いたことは一度もない。

「それでも魔法を使ってもらう!」

「……はぁ?」

「そ、そんなっ!?無茶苦茶です!!」

 オレは呆れ、ミルフィーは絶望して喚く。

 当然だ。魔法耐性を持つモンスターを魔法で倒せなんて意味が分からないにもほどがある。

「まあ、落ち着きなよ。何も魔法を放って倒せとは言っていない。【魔拳】の応用。その上の技を習得してもらおうと言っているんだよ」

「……【魔拳】の上?」

「そう!【魔拳】のように一部分だけに魔法を纏わせるのではなく、全身に。それも表面ではなく身体の内部に魔力を巡らせる技――」

 勿体ぶるようにオレとミルフィーを見比べる。

「――それこそが僕が教える【闘技】だ!」


「……【闘技】」

「そう!体力とMPを消耗するが覚えればその消耗も低くなり、一部分だけの【魔拳】よりも強い力を発揮するようになる。

 全身を隙間なく鍛え上げ、常に魔力の鎧を身に付ける技こそがそれだ!僕はこの技に出会ってから人生が変わったんだよ!それを君達にも実感してもらいたいんだ!どうだ、燃えるだろ!?」

 燃えるだろ、と言われても。

 むしろ、傍迷惑だ。まあ、それでも話を聞いたら少し興味が出てきたがな。

「…わかったよ。その技を授けられてやる」

 どうせ拒否権はなさそうだしな。

 そう思って承諾すると、シュゾ―は意外な反応を示した。

「う、うおおおおおっ!」

 雄叫びと共に号泣し始めたのだ。

「う、嬉しいよ!ようやく僕の願いが伝わる人間に出会えるなんて…!」

 感極まったという感じに涙するシュゾ―に対し、引き気味なオレ達。何よりもオレは失敗を悟った。


(断ってもよかったんかい!?)


 そんな取り返しのつかない感想と共に、逃れられない熱意を感じさせるシュゾ―から若干距離を取るのだった。

 ビートルは海外では甲虫を指す言葉らしく、カブトムシだけでなくテントウムシや黒光りする例のあいつも表すらしいですよ?何が言いたいかというと、ガードビートルの見た目はそんな感じだということです。

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