魔闘士②上位ジョブ
短いです。というか、魔闘士編は基本的に幕間のような部分になるので基本的に短くなっています。ぶっちゃけた話、鍛えて終わりみたいな流れです。
『…………』
「うぅ…、すいません~」
むすっとしてミルフィーのおっぱいに吸い付きながら、上から降って来る謝罪の言葉を聞き流す。
気絶から目を覚ましてから説教すること数分。結局は空腹に耐えきれず、こうしてミルクを飲んでいるわけだ。
『お前は気を付けろよ!赤ん坊に返ると一気にステータスも下がるんだ』
最悪あのまま死んでしまう可能性だってあったんだ。そのことを理解しろと念話で語りかける。
「はひぃ~、すびまぜん~」
『……はぁ。まあ、いい』
これ以上怒ってもしょうがない。次やったら説教じゃ済まさないがな!
『それにしても…』
ふと思ったことを口にしてみる。
『お前のミルクは濃厚だな。乳魔族は皆こんな感じなのか?』
何気ない質問のつもりだった。だが、ミルフィーには十分引っかかる内容だったようだ。
「お前の?…エボル様、誰と比べているのですか?」
ぞっとするような底冷えした声。聞き間違いではないその声にオレはおっぱいから口を離し、ミルフィーを見上げる。そこには笑みを浮かべているのに、ちっとも笑っているように見えない表情をしたミルフィーがいた。
『お、おい…?どうした?大丈夫、か?』
この大丈夫かは自分で言ってるのに、どういう意味かわからなかった。
普通に考えれば、ミルフィーの様子がおかしいからこその「大丈夫か?」のはずだが…、心のどこかでこの状況でオレの身は大丈夫か?……そう聞いているような気もした。
「答えてください。一体誰のミルクと比べたんです?」
誰の、その部分をやけに強調したミルフィーは普段とは比べ物にならないほどの迫力だった。
(嘘を吐いたら、絶対に拙い!)
本能的にそう直感した。
だから、あるがままを正直に告白する。と言っても、そもそも隠すようなことはないんだが…。
『だ、誰って…母親に決まってるだろ?』
「そうですよね!いや~、ちょっと驚いちゃいましたよ!」
あははは~とまるで先程までの迫力が嘘だったかのように、あっけらかんと笑い飛ばすミルフィー。
「でも、駄目ですよ?」
何が?そう聞くことはできなかった。
「女性の前では、ほかの女性の話はしないものです」
この時、何か変な感じはしたのだが、突っ込んで聞くようなことはしなかった。
なんだか、聞いちゃいけないような気がしたからだ。
◇◆◇◆◇◆◇
赤ちゃん返りしてから数日。
「うわ~、エボル様の成長って本当に早いですね!」
「……いや、ここまで早いのは初めてだ」
とはいえ、まだ3回目だから言い切れないが、何もしてない状態で成長するにしては早すぎる。前回は魔法を気絶するまで使い続けたからこそ成長が早かったはず。
実際、1回目はジェノ父さんとマリア母さんに見守られながらほぼ半年ほどかけたんだから。
今思えば、あの時はあれしか選択肢がなかったとはいえ失敗したな。
格闘家では碌に身体を動かせない赤ん坊の成長が早まるわけがない。
(そう言えば……)
「ミルフィー、ちょっと試したいことがある」
「試したいこと、ですか?」
「ああ、と言っても状況に変化があるわけでもないと思うがな…」
今のオレは大体2歳ってところ。
だが、ここから進化したらどうなるのか?それを試してみよう。幸いにも今は候補がいくつもある。試すなら今しかない状況だ。
「……やるぞ」
ごくりと唾を呑み込む音が聞こえる。
オレは頭の中で剣士に進化するイメージを固めた。
≪現在のレベルでは進化を行うことはできません≫
「何っ!?」
「……エボル様?」
バカなっ!?何故できない!?
≪進化はレベルが一定になっていないと身体を構成する力を維持できません。このまま行えば、死亡してしまう可能性が高いです。それでも行いますか?≫
ぐっ…!そう言われれば、引き下がるしかない。
というか、一定のレベルってどれぐらいだ?
≪一定のレベルは最低15となっております。これは、見習いの限界であるレベルが15であるためにそれに合わせた結果となっております。つまりは、身体が見習いの域を出なければ進化はできないということです≫
あっそう。今日は随分と親切なこって。
「ちっくしょ~、駄目か~」
「エボル様?どうされました?」
「…いや。なんでもないよ。ちょっとした挫折を味わっただけだ」
「……?そうですか?」
ついでだし、ステータスでも確認しておこうかな。
・エボル Lv.2/15
種族:人間(進化種)・男 ジョブ:魔闘士 ランク:卵(C)
HP58/58 MP24/24 体力22/22
攻撃力25 魔法攻撃力30 防御力10 魔法防御力20 知力64 速度19 人格50
種族特性:レベル上限・進化の可能性・進化の恩恵 ジョブ適正:魔闘士(ひよっこ)New・剣士(卵)・アーチャー(卵)・魔剣士(卵) ジョブ補正:魔法攻撃力アップNew
スキル:【念話】・【鑑定】・【世界の流れ】・【魔拳】・【炎魔法】・【白系統】New
【白系統】?それに、進化する前まであった【風魔法】と【水魔法】が消えていることを考えると…、おそらくはそちらに統一されたってことか。
ミルフィーの【白魔法】と違うのは、そちらに至る条件を満たしていないから…。光魔法を覚えることか、それとも別の要素か。どちらにせよ、まだまだ必要な物も調べなければならないことも多すぎる段階では確定できない。
まあ、地道にやっていくか。
◇◆◇◆◇◆◇
「でりゃあああ!【魔拳】発動!」
進化してから数日。ようやく自由に身体を動かせるレベルまで到達したこともあり、レベルを上げるための訓練を開始した。
場所は宿屋というわけにもいかないので、町から少し離れた山の中だ。
風魔法を纏った拳は木にぶつかり、大きな孔を穿つ。
「お見事です」
「……はぁはぁ、これでも結構大変だな」
魔闘士は思った以上に体力とMPを消耗していくジョブらしく、ハッキリ言ってこれまでのジョブと比べると燃費が悪く、効率が悪化しているような気がする。
このままでは、モンスターとの戦闘は当分先に延ばさなければならないだろう。
「しっかし、なんでこんなに効率が悪いんだ?」
「…エボル様、おそらくですが魔闘士は上位ジョブなのではないでしょうか?」
「上位ジョブ?」
何それ?
「上位ジョブとは、ジョブで一定の練度を経た後にしかなることができないジョブです。私自身、あまり詳しくはありませんが、私の付与師も吟遊詩人のジョブに条件付きで変わることができるジョブだったと記憶しています」
「…つまりは、今まで以上の力を引き出せる分、代償というか消耗も激しいってことか…」
おそらくは、そう言って頷くミルフィーを見ながら、オレはがっかりするような疲労感を感じていた。
つまりは、ジョブが変わる度に赤ちゃんに返るオレにとっては上位ジョブに変わることはデメリットが多いんじゃないか?そんな考えが過ったからだ。
だが、上位ジョブ以外に変わってもあまり成長は見込めそうにない。
進化するのならばやはりより質の高いモノへと変わっていかなくては…。
そのためには修練あるのみ!
そう決心して再び拳に魔法を集中させ始めた時だった。
「いいねえ!その諦めない姿勢!燃えるねぇ~」
その男は突如としてオレ達の前に姿を現したのだった。




