魔闘士①Re:魔法使い
タイトルおよびあらすじの変更を行いました。
≪おめでとうございます。Lv.50にアップいたしました≫
≪スキル【大泣き】・【嘘泣き】は精神成熟度が一定に達したので消滅します≫
あぁ、もうそんなレベルになったのか。そんな感想を抱くと同時に、まるで重りを巻きつけたかのような怠さがのしかかってくる。
「…結局、魔法使いでは中堅以上にはなれなかったか」
モンヒャーを出てから町を転々と移動すること早半年、オレのレベルは中堅ランクの限界である50に到達してしまった。以前、まだ何も知らなかった見習いの頃に感じた疲労感を再び味わいながらも、ステータスの確認をしておく。
・エボル Lv.50/50up
種族:人間(進化種)・男 ジョブ:魔法使い ランク:中堅(C)
HP1951/1951up MP2370/2370up 体力1777/1777up
攻撃力2001up 魔法攻撃力2900up 防御力850up 魔法防御力1001up 知力508up 速度499up 人格50
種族特性:レベル上限・進化の可能性・進化の恩恵 ジョブ適正:魔法使い(ベテラン)・魔闘士(卵)・剣士(卵)・アーチャー(卵)・魔剣士(卵) ジョブ補正:魔法習得率アップ(中)
スキル:【念話】・【鑑定】・【世界の流れ】・【一点集中】・【風魔法】・【魔拳】・【水魔法】・【炎魔法】New
町で偶然見かけた炎魔法は覚えたものの、結局あれから魔法を新たな系統の魔法を覚えたのはそれっきり。ジョブ補正があるのに、ここまで魔法習得が遅いってことはオレはもしかしたら元々は魔法の適性はなかったのかもしれん。
進化種だからこそ適応するために魔法の習得が可能になっていたそんな感じだからこうまで習得が遅かったんじゃないか?そう疑ってしまう。
ついでに言うと、進化種には別の意味で良い点はあった。
オレは普通の人間に比べると遥かに成長が早いようだ。
これは、一緒に行動しているミルフィーのステータスを見れば、一目瞭然だった。
ちなみに、ミルフィーの今のステータスはこんな感じ。
・ミルフレンニ Age18 Lv.39up
種族:乳魔族 ジョブ:付与師 ランク:D
HP980/980up MP1509/1800up 体力1060/1060up
攻撃力472up 魔法攻撃力1090up 防御力740down 魔法防御力1300up 知力45up 速度300up 人格27
種族特性:恵の授与 ジョブ適正:僧侶 ジョブ補正:魔法耐性・魔法持続時間アップ
スキル:【悪夢の歌声】・【白魔法】・【従属の喜び】・【天上の歌声】・【付与魔法】
モンヒャーから別の町に移動してすぐにミルフィーが願い出たことは、ジョブの変更だった。オレの役に立つために新しく適性の出た付与師に変わりたいって願いだったので、すぐに変更した。
付与師っていうのは、身体を強化したりする魔法を使えるジョブで、吟遊詩人が効果範囲内にいるすべての人間に影響を与えるのに対し、指定した人間にしか影響を与えないという点が優れている。
以前のハニー・ベアーとの戦闘では、ピャンピャマナスまで効果範囲に入らないように工夫する必要があった。だからこそ、ミルフィーは姿を見せないようにしてたんだが…。そんな心配も今はもう不要。安心して魔法を使えるってわけだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「ミルフィー、ギルドを出たらすぐさま準備をして町を出るぞ」
「わかりました」
モンヒャーを出てからは基本的にギルドの手続きなどはミルフィーに任せてある。これは、オレがあまり表に出ない方がいいということと、フードで姿を見せない怪しい人間よりも女の方が信用されやすいだろうと思ったからだ。
誰だって、無愛想な人間よりも可愛い人間を贔屓にするものだからな。
「…エボル様いかがいたしましたか?具合が悪そうですが…?」
「…それに関することだ。ギルドでの手続きを済ませたらすぐに宿に戻って来てくれ」
その間にオレは荷物をまとめておこう。
心配する様子のミルフィーを置いて足早に宿に戻っていく。
前回のことからレベルを上げようとしなければ1週間ぐらいならば保つだろうと推測はできる。だが、不測の事態に備えておくことは重要だ。早々にこの町を出なければ…!
◇◆◇◆◇◆◇
「依頼内容の確認をお願いします」
エボル様と別れ、指示の通りにすぐさま依頼の確認をしてもらう。何も語ってはくださらなかったが、エボル様の様子から一大事が起きていることは明白。本当ならば一時でも傍を離れたくはない。それでも、エボル様の望みを叶えることも優先しなければならない以上、早々に終わらせる必要がある。
普段通りの受付の対応も今では鈍重に感じるほどもどかしく思いつつ、じっと待つ。
そして、依頼を確認して報酬を持って現れる受付嬢。
「依頼内容の確認が終了いたしました。こちらは報酬となっております」
「……」
「あっ、お待ちください!」
報酬に手を伸ばし、早々に立ち去ろうとする私に受付が待ったを掛ける。
「……何ですか?」
溢れ出る苛立ちを抑えられなかったため、普段よりも数段低い声が口から出てきた。
私の苛立ちを敏感に察知した受付嬢が一瞬、顔を強張らせるがそこは相手も仕事。普段通りとは言えないまでも及第点の営業スマイルを張り付けながら、ギルドカードを差し出してくる。
「実は、今回の依頼でミルフレンニ様とエボル様のパーティーランクが上がり、Cランクパーティーへと格上げされました。ですので、次回からはそれに応じた依頼を受けることが出来るようになっております」
それだけ言うと、時間を取らせて申し訳ありませんと頭を下げる。
私の名前を先に告げたことに若干癇に障ったものの、話を聞き終わればもう用はないとギルドを出て行こうとする。だが、そういう時に限ってバカは湧いて出てくるのが世の常。
「おうおう、嬢ちゃん。ちょっと待てよ」
出口と私の道を塞ぐように立ちはだかる男達。
ハッキリ言って下賤な奴らだと判断できる。以前、奴隷落ちしていたとはいえ大手商会に買われていた身としてそれ相応の対応を受けていた者からすると粗悪な奴隷に近いような感じを受けてしまう。
「何でも、嬢ちゃん達は2人きりのパーティーだって言うじゃねえか?しかも、回復系は嬢ちゃんだけ」
「それはいけねえなぁ~。女1人に負担を押し付けてるようじゃパーティーとは言えねえよ」
半年も一拠点で活動しているとどうしても情報は洩れてしまう。幸いにもエボル様のジョブなどは漏れていないようだが、私はここでジョブ変更をしたこともあって漏れるのが早かったようだ。
「……で、何が言いたいのですか?」
言いたいことは薄らとわかるが、この下賤な連中の考えなど正確に判断するのはとても難しい。これは、この人達に語らせるしかありませんね。
「早くお答えいただけます?人を待たせてしまっているので」
「んだとぅ、このアマが!」
女に口答えされたのが余程我慢できなかったのか、名前からして下っ端というのではないかと思える人間が声を張り上げ、恫喝してくる。
本当にやめてほしい。唾が散るじゃないですか。
「…やめとけ。今はそんな話をしてんじゃねえんだ」
「ひっ…!す、すいやせん!」
格上の人間の言葉にビビる辺りは本当に小物ですね。
「で、だ。嬢ちゃん、何だったらお前ら2人とも俺達のパーティーに入れてやってもいいぜ?」
「……はぁ?」
勿体ぶった割に告げられた内容のあまりの薄っぺらさに思わず、素の対応をしてしまいました。
「バカも休み休み、いえ私達に関係のない所だけで延々と垂れていてください」
やれやれと男達の脇を通り抜け、扉に手をかける。
だが、そんな私の肩に先程の下っ端の手が置かれてました。
「……何ですか?」
「何ですか?じゃねえだろうがっ!兄貴がせっかく誘ってやってるってのに、何だその態度はっ!?」
「はぁ?バカなんですか?そもそも、あなた達はいつも飲んだ暮れてばかりで碌に仕事をしていないじゃありませんか。そんな人達とパーティーを組むメリットがあるとでも?」
大方私達の報酬や私が目当てなんでしょうけど。そうはいきませんよ。
私のすべてはエボル様のモノです!
「言わせておけば…!」
「あら、先程は止めたのに今度は止めないんですね?それは図星ということでよろしいですか?」
「おいっ!やっちまえ!こいつを捕まえて男の方に乗り込んでいけば問題ねえ!」
「……さて、困りました」
私は戦闘職ではありませんのに…。
でも、こうなっては仕方がありませんね。
「皆さんには良い眠りをプレゼントいたしましょう」
私の歌声がギルド内に響いていきます。
そして、それを聞いてふらつき始める男達。さらにはギルド内にいた他の人達も同じようにふらつきだしました。
吟遊詩人のジョブでなくなってからは歌のスキルは基本的に届く範囲全員に効果が及んでしまうようになってしまったのです。ですから、申し訳ありませんが加減はできかねます。
そして、ふらついている男達を無視して私自身に【付与魔法】で速度上昇をかけていきます。
「それでは、御機嫌よう」
悪夢の誘惑に苦しむ男達を残し、私はエボル様の下へと颯爽と舞い戻っていくのです。
◇◆◇◆◇◆◇
「…遅かったな」
予想よりも遅い到着に声をかけると、ミルフィーは慌てて平伏しようとする。
「やめろ。そういうのは望んでない」
今は一刻を争う。そんなことをしている場合ではないと手で制する。
「で?問題はなかったか?」
「はい、ございません。ただ1つお知らせすることとしてパーティーランクが1つ格上げされました」
もしもミルフィーとギルドに行っていたならば何が問題がなかったのかを問い詰めて頭を抱えていただろうが、彼女が何をしてきたのか知る由もないオレにとって、その返答は十分に満足できる内容だった。
「あぁ、だから遅くなったのか」
理解を示し、ミルフィーに荷物を預ける。
「それじゃあ、行こうか」
それからほぼ4日間を移動に費やした。これは、別にそこまでの距離があったとか、道中モンスターに襲われて立ち往生したとかではなく、オレの体調の問題で足を止めざるを得ない状況が続いたことが原因だ。
何度も、こんなに苦しい想いをするのなら、いっそのこと適当なところで進化するか?そう思ったものだが、赤ん坊と戦闘職じゃないミルフィーだけという状況はできれば避けたい。
それに、こんな場所では誰に見られるかもわからない。
そんな思いが優先され、ムチを打ち付けながらもようやく次の町へと辿り着いたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「――さて、いよいよ始めるぞ」
もう限界だ。宿に入って荷物を置いて早々オレはミルフィーと向かい合っている。
「…………」
ミルフィーはミルフィーで何かを感じ取っているのか、無言でこちらを見つめている。
(見られてると緊張するな…)
だが、そんなことを言っている場合ではない。
(いざ――!)
そして、オレは3度目の赤ちゃん返りを体験する。
ローブを脱ぎ捨てておいたのが功を奏したらしく、視界がいきなり暗闇になるなんてことはなかった。ただ、単純にミルフィーがいつもよりもデカく見えた。
……あれっ?何か本当にデカ過ぎない?
「キャ~、可愛すぎですぅ~!!」
そう思った瞬間、赤ん坊の身体には強すぎる衝撃が襲ってくる。だが、その衝撃も何やら異様に柔らかい物によって緩和され、むしろ心地よさすら感じ……ってこら!
『おいっ!ちょっと離せ!』
何をやってるんだと【念話】を発動させる。
本当ならステータスの確認をしていない状態でMPを減らしたくはないが、背に腹は代えられん。
「こんなに可愛いなんて想像を遥かに超え過ぎてますよ~!!」
『だから、離せと言っているだろうがっ!聞こえないのか!?』
押し退けようとするが、赤ん坊の力では暴走状態のミルフィーを押し退けられるはずもなく…。オレはそのままミルフィーが落ち着くまでの間ずっと抱き着かれる羽目になってしまった。
「……あぁ、もしも私とエボル様の間に子が生まれたらきっとこんな……」
薄れゆく意識の中、そんな声が届いたような届かなかったような……。
しばらくの間はタグとあらすじに旧題を付けておきます。
ミルフィーが僧侶ではなく付与師を選んだのはエボルだけを支える分にはそちらの方がいいと思ったからです。




