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魔法使い⑪騒がしい町(主人公放置)

 お待たせしました~。今回で魔法使い編は最後になります。予告していた通りタイトルとあらすじを変更する作業に入ろうと思ってますのでそれが終わるまでは本編の更新はストップさせていただきます。

 長くても1週間程度になると思うので、待っていて下さると嬉しいです。

「――とまあ、そういうわけじゃ。つまりは、お主はあの小僧にまんまと嵌められたっちゅうことじゃ」

「なっ…!?」

 オレが、騙された…?

「そもそも、普通に考えれば白金貨30枚という大金を産む卵を商人がそう簡単に手放すわけなかろう?」

 言われれば、そうだ。

 何故オレはあの時、一切の躊躇もなくこの話に乗ったのか?それを疑いたくなるほど考えれば考えるほどに疑わしい状況が揃い過ぎている。

(……そういうことか)

 ここまでの証拠が揃っていればあとは考えるだけ。

 そして、考えればすぐに原因も分かった。……また、【世界の流れ】が余計な作用を引き起こしたみたいだ。このスキル本当に使えねえ!

 今わかったけど、これって結局は巻き込まれ体質になるってスキルじゃないかっ!


「まあ、白金貨30枚云々はあやつが出まかせに言っておるだけで正確な価格だと白金貨10枚らしいがの」

 値段を低く言っておくことでオレが犯罪を行おうとしているという状況を作り出そうとしてやがったのか!?

 何て奴だ…!

 今度会ったらただじゃおかん。

「…そんなに憤ってもしょうがないぞ?おそらく二度と会うことはない」

「……どういう意味ですか?」

 睨みつけるように問い掛けると、1つの水晶を取り出した。

「……これは?」

「これは映像水晶というマジックアイテムじゃ。ある地点の映像が常にここ映し出されるという仕組みになっておる」

 それを今出して何がしたいんだ?

 水晶に映し出されている映像はどこかの室内。そこには家具などは置いてあるが、人は見当たらない。

「もうすぐここにパンプキー商会の連中がやって来る」

「君、正確にはそちらの女性を囮にして彼らを呼び寄せてあるからあとは捕まえるだけって手筈さ」

「……そういうことですか」

 説明をしても関わらせるつもりはないってことか。

「お主を呼んだのは真実の確認以外の目的はない。不満は残るじゃろうが、これはお主個人で解決できる問題でも解決してよい問題でもない。下手をすればモンヒャーの存続に関わってくる一大事になるじゃろう」

 確かに、相手はモンヒャーを代表する商会の会長。一冒険者には荷が重すぎる相手だ。

 オレはあからさまに疲れましたと言わんばかりに大きなため息を吐く。

「わかった。わかりましたよ。つまりは、納得して出て行けってことなんでしょ?」

「…そうなるの」

 ギルドに関わると本当に碌なことがないな。

「ミルフィー、報酬を貰ってさっさとこの町を出るぞ」

「…よろしいのですか?」

 問い掛けるミルフィーにオレは肩を竦め、顎でギルド長を示してしょうがないだろ?という表情を浮かべて見せる。


「騒動に巻き込んだ侘びとして報酬は上乗せしておいた。あと、そちらのお嬢さんとのパーティーランクの設定も済ませてある。ついでと言っては何だが、お嬢さん自身のランクもパーティーランクに合わせて設定しておいたからの」

「ご厚意感謝する……なんて言わないぜ?」

「構わんよ。こちらがやりたくてやったことじゃしな…」

「そうか」

 それだけ言うと、報酬の入った少し重めの袋を受け取り、振り返ることもなくギルド長室を出て行った。



◇◆◇◆◇◆◇



「さて、ザギスよお主まで謀ったことはすまないと思っておる」

「…いえ、多少の不満はありますが、今回の件についてはギルド長の判断が正しかったと思っております」

 説明を受けてから沈黙を保っていたザギスの返答に私は安堵する。

 こやつは頭が固く一度こうと決めると曲げないところが短所でもあるが、正しいやり方を示せばそれに従うという面もある。


「――じゃあ、ここからはギルドの仕事ですね」


 席を立ちあがったライラ殿の言いたいことを察し、思わず苦笑してしまった。

「…ははっ、手伝ってはいただけないようですな」

「そりゃあそうでしょ?ここで私が出張ってしまったら、ギルド側の面子は丸潰れですよ?ギルドが崩れればそれだけ困る人間が出るのですから騎士団として干渉できるのはここまでです。

 私としても当初の目的を早々に片づけることができたので満足していますし、部隊を待たせているので失礼させていただきます」

 そう言えば、彼女は単独で来ておったな。

「……今度はどちらの方へ?」

「困っている人がいる場所ならばどこへでも!」

 興味本位で聞いてみたが、それに対して彼女はまるで快活な少女のような笑みを浮かべて言葉を放った。その考え方はまさに騎士団の団長シーラ殿が理想としている考えそのもの。

「わかりました。お気をつけて」

 私も若い頃はこのようにただひたすらに熱く駆けていた時分があったなぁ、そんなことを思いながらこれから行う大掃除への気合を新たにしたのだった。



◇◆◇◆◇◆◇



「では、失礼いたします」

 受付嬢が立ち去ったのを確認し、部下達に目配せをする。

 それを受け、私とお父様を守るような配置へと移動していく部下達。

「…何かあったのか?」

 お父様もそれを見て顔色を変え、警戒を顕にします。

「ええ、あまりにもことが上手く行き過ぎている…そう感じまして」

「警戒しておくに越したことはないか…。だが、あの小僧にギルドを動かせるとは思えんぞ?」

「それは私も同意見です。ですが、タイミングを疑われた可能性もあります」

「チッ!あの耄碌爺めっ!死んでからも迷惑をかけるというのか!!」

 お父様が憤慨するのもよくわかる。

 アレがもう少し考えて行動していれば…!

 いえ、それは私達も同じですね。怒りに身を任せて処分するのではなく、時間をかけてじっくりと殺すべきでしたか。

 こういう短慮なところを直すように師匠にも言われていましたのに…。

 そっと師匠から譲り受けた『欲血の剣』を撫で上げる。

「!?」

 今、何やら悪寒のようなモノが…!


「そこまでだ!」


「なっ!?」

「何なんだてめえら!!」

 突如駆け込んできた者達。それを迎撃するように武器を抜き放つ部下達。私もすぐさまお父様を庇える位置に移動します。

(あの恰好は…!?)

「貴様ら、ギルド法務部門の人間だな!?私をパンプキー商会会長べべロトと知っての狼藉かっ!」

 お父様も気付いたようですわね。

 法務部門。

 裏ギルドにとっても厄介なギルドと王国の犬。

「黙りなさい」

 姿を見せたのは、いかにも神経質そうな男。

「私は、筆頭法務執行官のザギスです。あなた方を逮捕しに来ました」

「…どういうことですの?私達の証言で犯罪者を捕まえた…そういうのならばわかりますが?」

「犯罪者?はて、何のことでしょうか?」

「何を恍けておる!私を脅し、さらに商品である奴隷を奪った冒険者のことだ!」

 激昂するお父様。しかし、返答は予想していない内容でした。


「……あぁ、あなた方が罠に嵌めようとしていた冒険者エボルのことですか?」


「「「!?」」」

 部下を含め、私達は驚愕に目を見開いていました。

 まさかバレていたというのですか!?

「…舐められたものです。我々ギルドがその程度も見抜けないとでも?…そもそも、ギルド長は現会長……あなたを一切認めておりません。当然ですよね、あの方は先代と覇権を争った豪傑。既にあるモノを譲り受けただけのあなたを認めることなどありえないでしょう」

「なんだとっ!」

「お父様っ!」

 いけない。

 ここで反応するということは罪を認めることに等しい。

「何度でも言いましょう。どのような手段で殺したのか、それはわかりませんが殺すことでしか得られないような地位は小物のあなたには相応しくないのですよ」

 その言葉に私も僅かに反応し、殺気を漲らせてしまった。

「……やりなさい」

 私の殺気が合図であったかのように一斉に執行官たちが襲いかかってきた。



◇◆◇◆◇◆◇



「「「マジックキャンセル」」」

 最初に魔法無効化がかけられ、魔法を阻害される。これで私達は外部に助けを求めることも出来なくなってしまった。

 こうなってしまってはもう後戻りはできない。

 そちらがやる気だというのならば、打って出てあげますわ!

「全員お父様を全力で守りなさい!」

「「「了解!」」」

「護衛達は殺しても構いません。犯罪者の確保に全力を注ぎなさい」

 ガチャガチャと鎧や武器が動く音が狭い室内に響き、混戦へと突入する。


「ぐあああっ!」

 悲鳴に次ぐ悲鳴。室内は血で真っ赤に染められていき、何人も倒され伏していく。

「喰らいなさい!」

「おっと!危ないですね」

 厄介ですわね。このザギスとかいう筆頭法務執行官は実力が桁外れ。おそらくは私と匹敵する唯一の相手でしょう。

 つまりはこいつだけは私が戦わなければならないということですわね。

 幸いにして私の武器の特性を利用すれば一撃で勝負は着きますし。

「ぬぐあぁあっ、離せぇ~!!」

 お父様!?

 背後を振り向ければ部下達がすべて倒され、お父様を捕らえている執行官の姿が。

「お父様を離しなさい!」

「…いけませんね。戦闘中に余所見をしては」

 しまった!

 お父様に向けて駆け出そうとした私の腕を即座に掴み取られ、組み敷かれそうになる。

 だが、援護に来ていた執行官を手首を捻ることで斬りつける。

「……うっ!?」

 軽く切っ先が触れた程度。たったそれだけで死んだように倒れる執行官。それを見て、周囲が悲鳴を上げる。

「まさか…!?マジックアイテムです!その剣に触れてはいけません!ぐあっ!」

「戦闘中に余所見をしてはいけないんでしょ?」

 部下がやられたことで動揺したところを見逃さず、地面を蹴り上げ流れるようにザギスの腹部を蹴りつける。苦悶の表情を浮かべたザギスの腕の力が緩む。

 腕を振り解き、欲血の剣で斬りつける。

「ぬぅっ!」

 さすがに経験が違う。身体の力が緩んで本来ならばすぐには動けないはずですのに…!

 手段を選んでいる場合ではありませんわね!

 欲血の剣は仮死状態にするだけのマジックアイテム。使用者()が解除しなければ基本的には仮死状態のままですが、優秀な白魔法の使い手であれば解除することは可能。

 なので、余裕がない時に手の内を見せれば目覚めた者から情報が漏れるおそれもあるのですが…。

「…そうも言ってられませんもの」

 光栄に思いなさいな私が本気を出してあげるなんて滅多にありませんのよ?

「暗殺武技――瞬速」

「!?」

「あら?どうかされました?」

 肩に足をかけ、笑みを浮かべながら剣を深く突き刺す。

 身体から力が抜け落ち、崩れ落ちるザギス。

 私の瞬速をそう簡単に捉えられるはずがありませんもの。

 だが、私はそこで驚愕に目を見開くことになる。

「――がああああっ!!」

 倒れかけ身体に力が戻り、力一杯地面に踏み付ける。

「……ふぅ、ふぅ…!プッ!」

 荒く息を整えながら、口から何かを吐き出した。

「まさか…!命晶石めいしょうせき!」

 死人が口に含めば命を吹き返すというレアアイテム!

「……ひ、っとうである私を……舐めないでいただき、たい!」

「……まさかそれほどのレアアイテムを用意しているとは。驚きましたわ」

「念のため、というやつですよ。それに、驚いたのはこちらも同じです。まさか、暗殺者だったとは」

 こうなってしまうと本気を出したのは失敗でしたわね。

 暗殺者は奇襲を得意とするジョブではありますが、真正面から敵対するのはむしろ苦手ですのに。しかも、相手はジョブがわかったことでそれ相応の対応を見せるはず。

 もはや、奇襲は成功しないと考えるべきですわね。



◇◆◇◆◇◆◇



 油断しました…!

 まさか暗殺者だったとは。もしも、あのマジックアイテムの効果を事前に知っていなければ命晶石を使うこともできなかったはずです。

(感謝します。そして、見ていてください。あなたを決してこのままにはしませんから!)

 マジックアイテムの効果で力なく倒れる部下。彼に感謝しつつ、決心を固めます。

 マジックアイテムの効果をアイテムで打ち消せたということは永久の死ではない。ならば、生き返らせる方法もあるはずです。

 そのためには目の前の敵を倒し、あの武器を奪う必要がありますね。

「こちらも本気を出させていただきます」

 


◇◆◇◆◇◆◇



「本気、ですって…?」

「…ええそうですよ。本来ならばもっと早くに出すべきだったのでしょうが」

 ザギスが見つめる先にいるのは取り押さえようとして欲血の剣に斬りつけられた執行官。

「あら、部下を死なせたことを悔やんでいますの?」

 挑発とも取れる発言。「死なせた」その事実を胸に刻み付けることで動揺を誘えればよし。できなければ…。

「……挑発は無駄ですよ。命晶石でそのマジックアイテムは絶対的ではないということが証明されています。優秀な白魔法の使い手ならば生き返らせることは可能でしょう。そのためには一刻も早くあなたを倒すことが重要だというのも承知していますよ」

 やはり、無駄か。

 立ち直ってから見せたこいつの表情はまさに戦士。

 この程度の揺さぶりではもう少しも揺らがない。

「できますか?私もただではやられませんわよ?」

 命晶石なんてレアアイテムをいくつも持っているとは考え難い。だとすれば、あと一撃…それで駄目ならさらに一撃。数を重ねれば確実に仕留めることはできます。

「ええ。可能でしょうね」

 予想に反してザギスは余裕の態度を崩しません。

「本来ならば、この技は職務的には失格なのですがね…」

 取り出した杖をくるくると回し、地面に力強く石突きを叩き付ける。

「我が敵を、世界の闇を打ち払え――」

 なっ!?

 流れるように始まった詠唱。

 それは自身に敵対する者すべてを襲う強力な魔法。


「――たった1つの正義。それが我の力とならん!――ホーリーワールド・テラシオン!!」


「くっ!!」

 杖から光の弾が一斉に放たれる。

(間に合いなさいっ!)

 対魔法効果を持つアイテムを持ちうる限り使っていく。光の弾は私に触れる直前に当たっては砕けてを繰り返していく。それでも止むことはない。

 アイテムが底を尽きそうになったところで、自分に欲血の剣を突き立てる。

「ッ!?」

 揺れる視界。お父様を視界に収め、一瞬の闇に落ちていく。


「――まったく、情けないのぅ」


 意識が闇の中に沈んでいく最中、愉しげな声が聞こえた気がする。



◇◆◇◆◇◆◇



「かかかっ、何やら楽しそうな状況になっておるようじゃの~ジャマンダ?」

 ジャマンダの気配を頼りに来てみれば、ジャマンダは気を失っておるしジャマンダに預けた者共も多くが死んでおるではないか。

「あ、あな・・・たは?」

「ん~?どうでもよかろ?――デッドイン」

 カッと赤い光が男を貫き、肌が赤黒く変色する。

「さあ、やりゃれ?」


「――ホ、ホーリー・テ……シオ」


 掠れた声で紡がれた魔法は真っ直ぐにある男を貫く。

「がふっ!」

 男は倒れながら、こちらに視線を向ける。

「な、なべ…?」

「お主、ジャマンダの父親じゃろ?お主の下におってはあのバカ弟子は碌な死に方をしそうにないでの、連れて帰らせてもらうぞい」

 ついでに邪魔じゃから死んでおけ。

「さて、生き残りがおると後々面倒じゃ。……虐殺を開始せい」

 わっしゃの声に応えて動き出すのは角のある骨。そして、わっしゃが乗ってきたドラゴンの骨のアンデット。まあ、雑魚ばかりじゃし2体もいれば十分じゃの。

「…ピャンピャマナスの試運転じゃ。あまりお主は手を出す出ないぞえ?」

 ドラゴンの骨に声をかければわかっていると言わんばかりに骨だけの翼を羽ばたかせる。


 そこからは簡単じゃった。

 本体の強さは大したことのないピャンピャマナスもほとんど力のない魔法使い達風情を倒すのに大した力は必要ないからの。

 それにしても、マジックキャンセルを使っておってもあまり効果はないようじゃの。

 まあ、魔法の空間を破って来ておるんじゃから当然ではあるが…。

「おっ?終わったかえ?」

 最後の人間を倒したピャンピャマナス、そしてドラゴンは3つの戦利品を持って帰ってきた。

「うむうむ。よいよ」

 戦利品はジャマンダ。それにジャマンダの父親の死体、そして先程殺した人間。

「ジャマンダの父親は死んだことを証明してやらねばならんからの~」

 面倒じゃが、しょうがない。

 あとは、この男は肉もあることじゃしピャンピャマナスよりも使えるじゃろう。

 意外といい拾い物ができたわい。

 わっしゃは満足気に頷き、死屍累々の死臭にご機嫌になったのじゃった。


 この日、ギルド会館モンヒャー支部では筆頭法務執行官の失踪に大半の執行官の死亡を受け法務部門が壊滅的なダメージを負う。

 それと同時に街中にドラゴンの骨が襲来したことで騒然とすることになった。

 さらには大商会の一角であるパンプキー商会の崩壊も相まって、モンヒャーの治安がしばらくの間悪化するきっかけとなる。

 後にこの事件はモンヒャードラゴンゾンビ事件と称されるようになるのだった。



◇◆◇◆◇◆◇



「……ん?」

「いかがなさいましたか?エボル様」

 出立した町の方から何とも言い表せないざわめきのようなものを感じた気がして振り返ってみたが、遠くに見える景色に特に目立った変化は見られなかった。

「…いや、何でもない。ただ、ちょっと惜しかったなと思ってね」

 オレは誤魔化すように言葉を紡ぎだす。

 ミルフィーも少し疑問に思ったようだが、問い掛けるような真似はせずに黙して言葉を待っている。

 思い付きで出した言葉だっただけにその反応には困ってしまったが、ふと思い出したことがあったので荷物から1冊の本を取り出した。

「……せっかく、騎士団の人間に会ったんだからこの魔導書を返しておくべきだったな」

 取り出したのは以前ポー・ルゥーから借り受けていた白の魔導書。『白銀の騎士団』のような有名どころに無名の新人が会う機会なんてそうそうあるものじゃない。だったら、せっかく縁ができたのだからあの女性――ライラに渡してしまえばよかったのだ。

「まあ、思い出さなかったのは重要じゃないってことだろうし…」

 それに、

「やっぱり、借りた物は自分で直接返すべきだよな」

「左様でございますね。その方が相手方もエボル様に良い印象をもたれるでしょう」

 ミルフィーの返答に満足そうに頷いたのだが、続けられた言葉には首を傾げてしまう。

「…ですが、ご注意ください。あまり好意的な印象を与えますと邪な行動を取られる可能性もありますので」

「……?どういうことだ?」

 ここで聞いたのは間違いだった。

 カッ!そんな効果音が見えそうなほどに目を見開いたミルフィーはオレが引くほどの怒涛の勢いで理由を捲し上げたのだ。


「そんなの決まっています!なんでもその魔導書を貸したのはいやらしい魔女だと言うではありませんか!つまりは、素晴らしい男性であるエボル様を狙っているに違いありません!

 いえ、もしかしたらエボル様の身体だけでなく、心をその穢れなき御心を狙っているのかも…!

 あぁ、そんなことになったら、私はどうなってしまうのでしょうか?エボル様が操られ、私はあんなことやそんなことをされて……いやんいやん!いやらしい!でもでも、エボル様が本当に望むのでしたら、私はいつでも喜んで好みを捧げるのですよ?

 ただ、ですね?エボル様が操られた場合はさすがにそんな場合じゃないと思うのですが、私の中の理性の均衡を保てるのかどうかが…!」


「あ~、ミルフィー?」

「はいっ!何でしょうか?!」

「……いや、何でもない」

 こいつの変態度が上がりきる前に魔導書を返そう。そう固く決心した瞬間だった。


「…そういえば、エボル様に1つお願いがあるのですが?」

「んっ?何だ?大したことじゃなければ全然いいぞ?ただ、モンヒャーに戻らないとできないことはやめてくれよ?」

 さっさと前に進みたいからな。

「それは問題ございません。次の町で十分に可能なことですので」

「だったら、いいよ。詳しい話は次の町についてから聞くことにしよう」

「かしこまりました。私のために時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした」

 気にしなくてもいいのにな。

 そうは思いつつも、これから先どうなるのか。

 そんなことに思いを馳せながら多少の期待を込めてオレとミルフィーの2人は道を進んでいく。


 不安要素だったミルクの心配もなくなり、進化の可能性はオレの未来を明るく照らしているのだから。

 謎の女。無駄にキャラが濃いので名前を出そうかどうか迷ってしまいます。

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