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番外:受付嬢の災難・モンヒャー支部(後編)

 3日間連続投稿!快挙です!

「……はぁ、どうすればいいんだろう」

 パンプキー商会のべべロト会長から話を聞き、ギルド長に相談に向かう間中ずっと私は心に重い重石を感じていました。

 確かにべべロト様の言うことは間違ってはいない。むしろ、確証がない今の状況では正しいように思える。だけど、それでも私は自分の見立てが間違っているとは思えないのです。

 公明正大を謳うギルドとしては本来なら双方に確認を取ってから上に判断を仰ぐべきところ。でも、もしもべべロト様が正しかった場合…ギルドが受ける被害は甚大な物になってしまう。相手はこの町を代表する商会の会長。もしもギルドにひいてはモンヒャー全体に影響を及ぼすような事態になったら…。そう思うと一介の受付嬢が判断していい基準を超えている。

 だけど、上に指示を仰ぐということは情報が渡るということ。

 例え無罪であってもエボル様はギルドに悪い印象を持たれてしまう。1度なんらかの事件などに巻き込まれるとどうしてもギルドはその冒険者の情報を集める傾向になる。これは悪いことばかりではない。有名になれば誰でも通過する道でもある。

 ただ、まだ冒険者になってから日が浅い者にとっては下手な注目は可能性を狭めることになりかねない。そうなった時に、私に何かできるだろうか?

 いや、無理だろう。支部を離れてしまえば赤の他人である私にできることなどほとんどないに等しいのだから。



◇◆◇◆◇◆◇



「失礼します。ギルド長よろしいでしょうか?」

「アミスか。入りなさい」

 憂鬱な気分でギルド長室の扉をノックし、そのまま中へと入っていく。

「ギルド長、実は――」

 ただ、入ってからそこにいた人物を見た瞬間……私の思考は停止してしまった。

「――やあ、可愛らしい受付さん」

 そこにはギルド長以外にももう1人いらっしゃました。

 女性でありながら白い鎧に身を包んだ女性。その女性のことは知っています。かの『白銀の騎士団』に所属する女性の憧れの1人。


「何かあったのではなかったか?」

 呆然と見入っていると、ギルド長から声を掛けられてしまいました。その声にハッとなり、名残惜しい気持ちを引き摺りながらも視線を移します。

「……ギルド長。実は、パンプキー商会会長より違反者の報告がありました」

「…………ああ、あやつか」

 思い出すまでに時間がかかったようだが、思い出した途端に嫌そうな表情を浮かべるギルド長。この人は先代の会長をよく知っている人で、前会長が健在も健在――全盛期の頃などはよく対立していたと聞いたことがあります。それだけ認めていた相手が死んだこともあって、譲られる前に会長職を継いだ現会長をギルド長は認めていないのです。

 いえ、ギルド長だけではありません。町のお年寄りや重鎮と呼ばれる人々はほぼ皆そんな感じです。だからこそ、地盤固めに奔走しているのでしょうけど…。

「言っておくが私はまだあいつを会長などと認めてはいない」

 言外に自分の前では会長と呼ぶなと伝えられると、さすがに困ってしまうがそのうち収まるだろう。今は時間が必要なのだ。

「…それで?あのハナッタレ小僧が何かしでかしたか?」

「ギルド長。ギルド以外の人間がいる場所でそういう発言は…」

 ちらっと視線を向けるとライラ様は気にするなと手を振ってくださった!

「別に彼女はそんなつまらんことをいちいち告げ口するような人ではないから安心せい。それよりも早いとこ用件を済ませてしまいなさい」

 言いたいことはあったけど、あまり待たせるのも失礼かと思うので話を進めましょう。

「ある冒険者とその冒険者が新規に登録した奴隷のことなのですが――」


「――ふむ。あの小僧は冒険者に報酬を法外に取られ、なおかつ奴隷を転売目的で奪取された。…そう証言しているわけだな?」

「はい。白金貨10枚で購入した乳魔族の少女を3倍の値段で売り払うと言っていたという証言まで得られています」

「……怪しいものだ。本当に事実かどうか」

 それは私も思っているので何とも言えない。

「そもそも、あいつが商会を継いだタイミングもおかしいと思っている。あまりにもタイミングが良すぎるのだ。そんな高価な奴隷を購入してすぐに死ぬなど……先代の死に何か関係があるとしか考えられん」

「では、いかがいたしますか?」

「…問題はそこじゃよ。怪しいと言うだけでは捕らえることなど出来ようはずもない。こうなれば、その冒険者を囮にでもするか…」

「!?」

 そのギルド長の発言にはさすがに反応しそうになった。

 いくらなんでも危険すぎる。

「……冗談じゃよ。さすがにそんな危険な真似はできん。ギルドだけで済めばよいが最悪の場合モンヒャー全体を巻き込みかねんからの…」

 向けられた笑みに私をからかっただけなのだと悟り、ホッと息をつく。

 その様子を窺っていたライラ様より私は声をかけられる。

「ところでその冒険者の名前は?」

「……えっ?」

「名前だよ。その陰謀に巻き込まれそうになっている冒険者の。もしかしたら、協力できるかもしれないからね」

 そうでした。

 『白銀の騎士団』は元々が弱者救済のための騎士団。ハズレ依頼をこなしてくださることからも評判の高い彼らはあらゆる理不尽をなくすことをモットーとしているのでした。

「冒険者の方はエボル様と申します。そして、乳魔族の奴隷の方は――」

「エボルだって!?」

 ミルフレンニ様の名を言う前にライラ様が見せた反応。あまりにも驚いたような反応に、出かかっていた声が奥に引っ込んでしまいました。

「おや?知っているのですかな?」

 この様子だとギルド長は知らない人物。それでもライラ様は知っている。

 そのことに本当に何かしらの犯罪に関わっているのでは?…そう疑ってしまいました。

「ええ。私がここに来た目的がその人物です。実は、つい先日騎士団の第2部隊隊長がその人物に借りを作っていまして…」

「えっ!?」

「…なんと」

 告げられた内容に私だけでなくギルド長も驚嘆の声を上げます。

 それはそうでしょう。第2部隊隊長は騎士団でも指折りの有名人。ある意味では団長のシーラ様、それに副団長に次いでの有名人。そんな人物が新人冒険者に借りを作るなど到底信じられません。

 貸しを作ったのならばわからないでもないのですが…。

「だから、もしも困っていることがあれば手を貸すようにという命令を受けたのですが……そうですか、こんな状況に巻き込まれるのならば借りを作ってもしょうがないかもしれませんね」

 そう言って浮かべた笑みを見た瞬間、私は背筋に寒気が走りました。

 まるで獲物を見つけたようなそんな嗜虐的な笑み。普段のライラ様からは想像もできないような笑みを浮かべられていたのです。

(そう言えば、聞いたことがある。騎士団には第2部隊隊長を認めていない派閥が存在すると…)


 正確には認める派と認めない派が半々に分かれているわけだが、そんなことを私が知るはずもなかった。

 第2部隊隊長はシーラ様の実の弟。そして、その実力は低くはないが特筆して高いとも言い難い。なのに、第2部隊を率いているのは単に団長の弟だからではないか?そういう声があることも知らなかった。

 認めているのは団長や第1部隊隊長を筆頭にした上層部。

 逆に認めない派は団長に憧れて入団した参謀などの設立後からの入団組。

 シーラ様がついていることで危うい均衡を保っている状況でもある。そういうことです。


「わかりました。団長様からの命令でもありますし、ここは私が手を打ちましょう」

 嬉々として提案するライラ様に一抹の不安を覚えながらも、私にはどうすることもできませんでした。

 結局、どこまでいっても私では大きな力のうねりには逆らえなようです。



◇◆◇◆◇◆◇



(来てしまいましたか…)

 真っ直ぐにこちらに向かってくるローブを纏った冒険者とその後ろにピッタリとくっ付いてくる少女を見ながら、できれば来ないでほしいなという思いを顔に出さないように笑顔を作り上げる。

 入ってきた瞬間から張り詰めたような空気を背後から感じているので引き攣りそうになりますが、そこは鍛え上げられた表情筋に期待です。

(……はぁ、何も知らないザギスさんを利用するのも心苦しいのですが)

 でもこうでもしないと彼らを罠にかけることはできません。

(ザギスさん、ごめんなさい!)

 直属ではないが、上役である人物に心の中で謝罪をしつつ、大義のためと言い訳をして冒険者――エボル様を迎え入れる。


「これは…!エボル様、それにミルフレンニ様。おかえりなさいませ」



◇◆◇◆◇◆◇



「やあやあ、私の商品を取り戻してくれたという報せを受けて早速来てみたよ!」

 前回訪れた時とは違い、上機嫌でギルドに入ってきたべべロト様。その背後には娘さんと部下を引き連れていました。今回は部下も選りすぐりを選んだのか、その顔には一定の強者が持つ自信が溢れているように見受けられます。

「……べべロト会長、お早いお着きで」

「なぁ~に、商品が戻ってくると聞いては商人としては早々に動かねばなるまい?」

「…はあ」

 何とも言い難いな~。

「お父様、そろそろ…」

「あぁ、そうだったね。…すまないが、早速商品の確認をさせていただきたい」

「……申し訳ございませんが、今現在取り調べの最中でして。あと数分だけお待ちいただけませんでしょうか?」

「……お父様を待たせると?」

 怖い!この娘さん本当に怖い!

「こらこら、やめなさい。すいませんね。ジャマンダはこの通りお転婆なところがありましてな。では、取り調べが終わるまでの間、奥で待たせてもらってもよろしいかな?」

「はい。ご案内させていただきます」

 これでようやく私の仕事も終わる。あとは、専門の人達に任せるだけですし。

 何事も起こらないことを祈りつつ、私はパンプキー商会の方々をある部屋へとご案内するのでした。


「では、失礼いたします」

 案内をした部屋の扉を閉め、気持ち早歩きで部屋を離れていく。

 ここで大捕物が行われることを知っている身としては一刻も早く離れて安全圏に避難しておきたかったのだ。

 まさか、簡単に捕まえられると思っていたのにあんな事態になるなんて。

 私に降りかかった災難は最後の最後で表に飛び出て、大騒動に発展するのでした。

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