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魔法使い⑩罠とギルド

「これは…!エボル様、それにミルフレンニ様。おかえりなさいませ」

「戻りました」

 ハニー・ベアーを退け、ピャンピャマナスの撤退を確認してからギルドに戻ったのは昼を過ぎて、太陽が真上に昇った頃だった。

 町に戻ったオレ達はすぐさま以来の達成報告をすべくギルドへと来たわけだ。


「依頼の達成報告をしに来ました」

「かしこまりました。ですが、それよりも前にエボル様にお客様がいらしております」

 ……客?

 受付嬢から告げられた言葉に当然疑問を覚える。オレの知り合いは少なく、この町に至ってはほとんどいないと言ってもいい。いるとしたら、ミルフィーを譲ってもらったパンプキー商会の人間ぐらいか。思い当たる節を数えつつ、ミルフィーと視線を合わせるが彼女も心当たりはないらしく、笑みを浮かべるだけだった。

 まあ、奴隷だったのだから表には出ることはなかったはずなので当然と言えば当然なのだが…。

 笑みの意味はわからなかったので視線をすぐに外して受付嬢に客のことを尋ねることにする。

「――君がエボルという冒険者だね?」

 だが、オレが声を出すよりも早く声をかける者がいた。

「……誰だ?」

 手袋まで真っ黒な衣装で全身を包み込んだ男。そして他にも似たような――こちらは仮面を付けている怪しげな者が2人。

 見覚えなどあるはずもない。

「法務部門…!」

「……何?」

 ミルフィーの驚いたような声。瞳は驚愕と共に見開かれ、視線は男の胸元に金糸で施された見事な刺繍へ注がれている。

「先に言われてしまいましたか。…では、改めまして私はギルド会館モンヒャー支部筆頭法務執行官ザギスと申します」

 苦笑しつつ、丁寧な物言いで語るザギス。だが、その瞳からはとても親しみを感じることはできない。感じるのは警戒と敵意。

「……はて?オレは別に何も問題を起こした記憶はないんだが。何故そんな視線を向けるのかな?」

「おやおや心当たりはありませんか?そちらの女性に関することですよ」

「ミルフィーに?」

 ますますもってわからん。というか、何を不躾な視線を向けてやがる!

 オレはザギスからミルフィーを庇うように立ち位置をずらす。そして、オレが立ち位置をずらすのに合わせてザギスの後ろにいる者達も微妙に立ち位置をずらしていく。

「……さて、ここで話をしてもいいのですが一応あなたの立場を考慮して奥で話しますか」

「別にここで話しても問題はないと思うがね…」

 というかオレに拒否権はなしか。


「そうですか?では、単刀直入に申し上げます。あなたには強盗および恐喝の容疑がかけられていますので、これより捕縛させていただきます」


「……はっ?」

 何を言ってるんだこいつ?

「さあ、仕事の時間です」

 軽い調子でザギスが宣言する。それだけで部下の2人は行動を開始した。

「マジックキャンセル」

「ロック・オブジェクト」

「ぶわっ!!」

 いきなりローブを支えていた風魔法が解除され、地面に足が付き、ぶかぶかのローブが視界に被さる。さらにもう1人の魔法によってオレとミルフィーの周囲に光の壁が発生した。


「……ほう、ギルドでも魔法を使っているとは奇妙なことをしますね。それほどまでに正体を悟られたくないとは……ますます怪しい」

「ふざけんなっ!」

 いきなりの行動に腹を立て、エア・バレットを放とうと手を伸ばす。

「何で発動しない!?」

「無駄ですよ。マジックキャンセルであなたの周囲の魔力は霧散しています。さらにその空間を固定されているのであなたが魔法を使うことはできません。少なくともその中では、ね」

「んだとーーー!?」



◇◆◇◆◇◆◇



「――で、これは一体どういうことなのか」

「説明していただけるのでしょうね?」

「は、はは…は」

 あれから抵抗虚しく光の壁ごと荷物の如く乱暴に運ばれた牢獄。そして、鍵が閉められる前に何故か別室へと移されたオレ。それに先程の法務執行官であるザギスが変な爺さんに向かって事情説明を求めていた。


「ギルド長!何故、いきなり容疑者を連れてきているのですか!?これでは、法務部門としての面目が立ちません!」

 この人、ギルド長だったか…。

「…そのことについても聞いておきたいことがある。そもそも、オレは捕まるようなことをした覚えは一切ない。ミルフィーのことだと言われても意味が分からない。あと、ミルフィーをどこへやった!」

 そう、オレと一緒に運ばれたミルフィー(ただし、彼女の場合は丁寧に運ばれていた)が未だに姿を見せない。まさか、奴隷というだけでギルドがこんな強引な手段で奪うとは考えたくないが、この状況で疑うなという方が無理だろう。

「彼女ならば心配いりませんよ」

「ミルフィー!」

「エボル様っ!」

 ギルド長室内の扉が開き、女性とその後ろからミルフィーが姿を現した。ミルフィーはオレの姿を確認するやいなや駆け寄り、身体を持ち上げる。

「うおっ!?」

「エボル様、お怪我はありませんか?何もされませんでしたか!?」

「……お、おう。大丈夫だ」

 だから、落ち着け。というか降ろしてくれ。そもそも、お前の力でよく持ち上げれたな。今の体重だと難しいと思うんだが…。一応13歳の身体なわけだし。

「もう私、心配で心配で!いきなりエボル様と引き離されたかと思ったら、今度は鑑定をさせろだの、裸になれだの!いつ襲われるのか戦々恐々としてたんですよ!」

「そ、そうか。それは大変だったな…?」

 今はむしろオレが襲われるんじゃないかと戦々恐々なんですが…。

 というか、鑑定や服を脱ぐとか……何やってたんだ?

「…何か?」

「いえ、何でもないです」

 疑いの眼差しを向ければにっこりと返されてしまった。もうやだ…。女の人恐い。


「……で、どうじゃった?」

 そんな中、口を開いたのはこれまで一切の沈黙を保ってきたギルド長だった。

「はい。奴隷契約は既に解除されており、身体に目立った傷も見受けられません。あの証言は偽りであった…私はそう判断いたします」

 証言?

「ちょっと待ってください!証言とは何のことです?それに、そちらの女性は…」

 ちらりとザギスが視線を向けるが、今度はオレの時と違ってにこやかな中にどこか見下したような視線が含まれていた。ただし、ザギスはそれでも女性の美貌に見惚れていた。


「彼女は、『白銀の騎士団』第4部隊隊長ライラ殿だ」

「!!なんと…。かの騎士団唯一女性にして隊長を務めているという、あの…」

 『白銀の騎士団』…まさか、再びその名を聞くことになろうとは。というかペース早くない?お前ら結構有名人なんだろう?だったら、もう少し自重しろよ。希少性がなくなるぞ?

「証言についてはあなたもご存じの通り、そちらにいるエボル君が乳魔族の女性――ミルフレンニさんをパンプキー商会の現会長であるべべロト様を襲い奪った挙句に転売しようとしていたという証言ですよ?」

「「……えっ?」」

 女性――ライラから告げられた言葉にオレとミルフレンニは同時に声を上げた。

「いやいや、待ってください!彼女――ミルフレンニは会長を助けたお礼にと譲り受けたんですよ?」

「そうです!それに今では奴隷契約も解除し、私は心底…いえ、魂に至るまでエボル様に捧げています!そんな私達の仲を引き裂くおつもりですか!?」

 いや、そうじゃないだろう。

「…ミルフィー。ややこしくなるから余計なことは言わなくていい」

「ふふっ、ご安心をそのようなことにはなりませんよ」

 しゅんとしたミルフィーがよほどおかしかったのか、ライラは頬を緩めミルフィーを安心させる。

 だが、当然それに異を唱える者もいる。

「待ってください!あなたがかの『白銀の騎士団』、それも隊長であろうとも、モンヒャーでの法的権利は我々法務部門に優先権があるはずです」

「……つまり、関係のない者は引っ込んでいろ…と?」

「簡潔に言えば」

 2人の視線が交差する。

 先程まではライラに見惚れていたくせに、今では火花が散るほど視線を互いに逸らさない。


「2人とも、やめなさい。ライラ殿もザギスにはまだ事情を説明していないのでお手柔らかにしていただきたいものですな」

「これは、申し訳ありません」

「……事情?」

 片や素直に引き下がるライラ、片や状況が呑み込めておらず外れた視線の先を睨みながらもギルド長へと視線を移すザギス。もしも勝敗をつけるのならば、ライラこそが勝者だろうが…どちらかというとオレもザギス側だからザギスの気持ちはわからんでもない。

「…さて、そろそろ説明をしようかの。そちらにも事情を説明せねばこの扱いは納得できないだろうしな」

 ギルド長の言葉に同意を示し、オレはこの茶番劇――さらにはその裏に隠されている事情の説明を受けるのだった。

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