表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/53

魔法使い⑤ミルフレンニの希望

 久々にエボル以外の人間が全ステータス載ってます。

「そういや、ミルフレンニのジョブってどうなってんだ?」

「……私は、以前は吟遊詩人をしていましたが、今はサポーターになっています」

「サポーター?」

 はて?そんなジョブあったかな?以前ギルドで見た時の項目にはそんなものはなかったような気がするんだが。

「ちょっと、【鑑定】を使ってもいいか?」

「鑑定!?エボル様は【鑑定】を使えるんですか?」

 あれっ?そんなに驚くことかな?

「【鑑定】は基本的に自分よりも弱い者以外には使っても意味がありません。道具などでもレベルが低いと鑑定できない物が多く存在します。ですから、普通は【鑑定】は覚えずにマジックアイテムに頼るのが一般的なのですが…」

 へぇ~、そうだったのか。

 ジェノ父さんが当然のように使ってたから疑問には思わなかったわ。まあ、役に立たない魔法だなとは思ってたけど。

「まあいいや。使うぞ?」

 本来なら確認する必要もないんだろうけど、これはけじめだ。ミルフレンニが頷くのを確認してから【鑑定】を発動させる。


・ミルフレンニ Age18 Lv.5

種族:乳魔族 ジョブ:サポーター ランク:なし

HP71/71 MP0/0 体力130/130

攻撃力27 魔法攻撃力0 防御力57 魔法防御力43 知力11 速度32 人格12

種族特性:恵の授与 ジョブ適正:なし ジョブ補正:二極化

スキル:【悪夢の歌声】・【絶対服従】


 おおぅ!

 思ったよりも低いうえに、物騒なスキル名もあるな。まあ、天の声に解説は任せよう。


≪二極化とは、2つ以外のステータスをすべてマイナスに変えることで2つだけ上昇させることが可能となります≫

≪恵の授与とは、乳魔族のミルクを飲むことで与えられる恩恵であり、治癒力の活性化や病状の改善などが見受けられます。恩恵の効果は本人の体調に大きく影響を受けます≫

≪【悪夢の歌声】とは、スキル【音痴】が悪化したものであり、聞いた者に数日間酷い眠気と悪夢を与える効果があります≫

≪【絶対服従】とは、主人との契約を破ることが不可能な状況を指します≫


 一気に鑑定結果を見ていったが、結構大変だな。

 というか、スキルが酷い。どっちもな。

 なんだ【悪夢の歌声】って!元々のスキル【音痴】がないと手に入らないスキル?だけど、こいつは元々吟遊詩人だったって言ってたぞ?まるっきりジョブの選択をミスってんじゃねえか!

 とりあえず、ジョブのサポーターが酷いってのは十分わかったけどな。ジョブ補正ってあるが、これは単純に身代わり……いや、盾代わりに使うことが前提のスキルだ。

「…なぁ、もしかしなくても奴隷は全員サポーターなんじゃねえのか?」

「……はい。仰る通りです。奴隷は主人やオーナーに逆らえないように力を制限されます。そのため、どんなに強力な力を持っていてもサポーターになってしまうのです」

「それって、解除することはできないのか?」

 そう告げると、ミルフレンニは少し意外そうな顔をしたものの、ハッキリと否定した。

「いえ、解除することは可能です。まだ購入――契約がされていない場合は別ですが、契約が終われば基本的に主人の許可の下ジョブを変更することは許可されています。

 主人の仕事などに合わせてそれを手伝えるようにジョブを変更する場合はよくあることです。奴隷を護衛代わりに浸かったりする場合も多いので戦闘系のジョブに付かせることもありますし…」

「よし!そうと決まれば、早速ギルドに戻るか」

 このままじゃ、一緒に旅するの何て夢のまた夢だ。最低限動けるような力を持っていてもらわないとな。


(ただ、どうしよう?)

 元が吟遊詩人だと言うのならば、吟遊詩人に戻りたいのかもしれないが、スキルを見る限りこいつに吟遊詩人としての適性が本当にあるのかと疑いを持ってしまう。

(まあ、行ってから考えればいいか)



◇◆◇◆◇◆◇



 と、いうわけで帰ってきましたギルド会館モンヒャー支部。

 そして、オレは受付嬢からくどくどとお説教の真っ最中。

「いいですか、エボル様。そもそも、冒険者というのは何よりも自己責任で対処するのが常識となっております。それなのに、目先の利益を優先して依頼を放り出すなどということはですね――」

 何故こうなったのか?

 それは、オレがパンプキー商会の人に会った時に依頼品を渡してしまったからだ。いや、依頼品を依頼主に渡すことの何が問題になるんだと思うかもしれないが、……実はオレは依頼を達成していないことになっている。

 というよりも今まさにキャンセルしようとしているところだ。


 パンプキー商会は本当に困っているらしく、依頼品をその場で渡してくれるならば正規の報酬よりも高い金貨10枚を支払うと約束してくれた。それほどまでに商会の商品不足が深刻な状況に追い込まれているらしい。

 まあ、それを了承してピュアホーネットの眼と針を引き渡したわけだが、その場合正規のやり取りをしていないので依頼は不達成ということになる。つまりは、もう1度依頼に行くかでなければキャンセルしなくてはいけないのだ。

 帰ってきて受付嬢に接客用の笑顔で迎えられ、キャンセルを伝えると怒る怒る。そして、後ろにいるミルフレンニに気付くとさらに怒りは増した。まあ、オレが奴隷を欲しがっているのは知っていたわけだが、まさか依頼をほっぽり出したのに、奴隷はちゃっかりゲットしてますとは思わなかったようだ。

 そんなこんなで冒険者としての心構えを最初から叩き込まれているわけです。


「――ともかく、依頼をキャンセルする場合は同じ依頼を受けることは二度とできなくなるということ、さらには同じランクの依頼を二度連続でキャンセルあるいは失敗すればランクが1つ降格になることをその頭に叩き込んでおいてください!」

 バンッとカウンターを叩いた勢いで書類が宙を舞うが、そんなことお構いなしに物凄い剣幕で言われ、面ず「はひっ!!」と答えてしまったほどだった。


「で、キャンセル以外にも何か御用ですか?」

 ぶすっとした態度で接客するのはどうかと思いつつも、原因であるオレが言うことでもないと甘んじて受け入れ、本題に入ることにした。

「ええっと、奴隷として手に入れたこの娘ミルフレンニの正式登録を。それに、彼女のギルドへの登録とジョブの変更をお願いします」

「わかりました。ジョブの変更に関しては有料となっておりますがよろしいですか?」

 えっ!?そうなの?

「…ちなみに、おいくらでしょうか?」

「おひとり様銅貨3枚です」

 う~ん、それぐらいなら諦めるか。

 銀貨1枚をカウンターに出し、おつりを貰ってからミルフレンニの登録を済ませていく。

「……では、これでミルフレンニさんの登録は完了です。知っているとは思いますが、冒険者としてのランクは初めはGランクですので、お好きな依頼を受けてください。

 ただし、この時エボル様が協力するのでしたらランクはパーティーランクという複数で受ける専用のランクとなり、単独で受ける用のランクはまた後日おひとりで受ける時に変更となりますのでご注意ください」

「パーティーランクって何ですか?」

「パーティーランクとは、文字通りパーティー…つまりは複数で行動するときのランクです。この場合はパーティーで最もランクの高い人に合わせたランク。3人以上ですと、平均したランクになります」

 つまりはより強い奴と組めば高ランクの依頼も受けれるってことか。

 まあ、いいか。基本的にオレと一緒に受けることになるんだろうし、もしも個人で動く時が来たらその時の実力で受けるのを決めるだろ。


「では、ミルフレンニ様はジョブを変更しますのでこちらの部屋にお越しください。エボル様はいかがなさいますか?」

「んっ?何を一緒に入るかってこと?」

「はい。ミルフレンニ様の冒険者登録は完了しましたが、エボル様の所有物ということは変わりません。つまりは、ジョブの決定権はエボル様にあります」

 オレがジョブを確認してからそれに決めてもいいってことか。

「もしも、もう既にジョブを決めておられるのでしたら問題ありませんがそうでないのならば一緒に入っていただいても構いませんが?」

 う~ん……。微妙だな。

 ハッキリ言って自分に有利なジョブを選ばせるというのはわかるんだが、そこまで縛るのはどうにも違うような気がするんだよな。

 だけど、ここでついていかなかったら、たぶんだけど吟遊詩人だよな~。明らかに適性がなさそうなジョブを選ばせるっていうのも何か違うような気がするし…。

 悩みどころだな。


「いえ、オレはここで待たせていただきますよ」

「かしこまりました。それでは少々お待ちください」

 ミルフレンニがギョッとする傍ら、クールに無視してそのまま先導するように歩き出した受付嬢。

「行って来るといいよ。オレはここで待ってるから」

 オレに言われてぺこりと頭を下げ、受付嬢の後ろを小走りでついていく背中を見送った。

(……まあ、何もかも拘束したって信頼関係は生まれないだろうし、ある程度は自由にさせてみるかな)



◇◆◇◆◇◆◇



「では、こちらをどうぞ」

 部屋に入ると、受付の女性は中央に鎮座している人の頭ほどの大きさの赤い石の前にへ来るように促した。

「…………」

「……?ミルフレンニ様?」

 しかし、私は差し出された変異石を前にしても、動き出すことが出来なかった。

 動き出さない私を訝しく思った女性が声をかけてくるが、私の足が動くことはない。


「……何故?」

 しばらくじっと変異石を眺めた後に口から出たのはそんな疑問だった。小さかったために聞きとられることはなかったが、私の心情すべてが込められていると言っても過言ではない一言だった。

(エボル様は一体何を考えているんだろう?)

 奴隷として私の身体――主に種族の特徴であるこの大きな胸を欲しがった少年。身体を欲しがったということは奴隷をそういう対象で見ているのかと思ったが、理由を聞いてむしろ道具のように思っているのだと感じた。

 それなのに、道具の状態を確認はするのに道具を思いのままに動かそうとはしない。

 それが不気味だった。

 信じてはいけないと頭でわかっているのに、信じたくなってしまう。

 また何かを失うぐらいならば信じたくなどないというのに…!


「あのぅ~」

 はっ!!

「も、申し訳ありません!!」

「ああ、いえいえ。お気になさらず。主人であるエボル様がいらっしゃらない以上そこまで畏まらなくても大丈夫ですよ?と言っても、立場的に微妙なのはわかりますが…」

「いえっ、決してそういうわけでは!」

 いけない。このままではエボル様の悪評が!

「ええ、わかってますよ。エボル様はそれほどひどい扱いをされる人には見えませんから。ただ、奴隷というのは基本的には黙認という形です。何かあっても、本人同士の問題で片付けられることが多く、我々のような公の立場でも迂闊に介入はできません。

 ただ、何かあれば力にはなりたい。そう思っているんですよ?」

「…はい。すいません」

「それじゃあ、そろそろいいですか?あまりお待たせしてもいけませんし」

 そうだった。外ではエボル様が待っているんだった。

 そのことにようやく気付き、慌てて変異石に手を伸ばしていく。

 変異石を使うのはこれで2度目なので、使用法はわかってる。ただ、前回はあまりいい思い出がなかったので気分はよくないのだが…。


「ええっと、候補に挙げられているのは格闘家・魔女・剣士・アーチャー・吟遊詩人・商人・シーフ・踊り子ですね。どれになさいますか?」

 告げられた候補は基本的に表示されるものばかり。その中で心揺れるのはやはり吟遊詩人。奴隷として売られるまではそのジョブで過ごしていたし、愛着もある。

 だけど――本当に好きに選んでもいいのだろうか?

 そんな不安が頭を過る。

 エボル様は私のかつてのジョブが吟遊詩人だと説明した時、あまりいい顔をされなかったような気がする。だとしたら、吟遊詩人を選べば不況を買うのではないか?そんな思いがあった。

 それに、エボル様は魔法使いなのだから、それに合わせて前衛職や同じく魔法職である魔女を選択すべきなのではないだろうか?


「どうしました?もしかしてエボル様が何か言っていましたか?」

 私の逡巡をどのように取ったのか、そう問いかけられる。

 慌てて否定するが、疑いの目つきは変わらない。そのため、私は事情を説明することにした。もしかしたらいいアイデアをいただけるかもしれない。

「……実は、私は以前まで吟遊詩人をしていたのです」

 以前までそう告げただけで彼女は大体の事情を察したようだ。

「…では、今回も吟遊詩人を選ばれますか?」

「それも、考えたのですが…、実は吟遊詩人だったと説明した時にエボル様からはあまりいい反応が返ってこなくて…」

「あぁ。それで迷っているというわけですね?ですが、口に出されたわけではないのでしょう?」

「はい。しかし、もしもそれで不興を買ったらと思うと……」

「わかりました。では、こうしましょう。私が悩んでいるようだったのでひとまずなじみのあるジョブに付かせた、というのはどうでしょうか?」

「しかしっ、それではあなたが…!」

「なんの!私はギルドの人間です。そう簡単に手出しはできませんよ。それに、もしそれで不快だったらすぐさま別のジョブに付けてほしいとおっしゃるでしょう」

 目を真っ直ぐ見て語られる言葉。同じ女性として、人間として対等に扱っている言葉。私を思ってくれている言葉。

 それを聞かされて私の心は決まりました。


「…では、お言葉に甘えさせていただきます」


 そう言って手を翳すと室内に赤い光が満ち、力が流れ込んでくるのがわかる。

 こうして私は再び吟遊詩人となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ