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見習い②O・P・P・A・I

本日2話目

 ……禁止されています、か。

 これまでの内容とは、明らかに違うな。さっきのは≪受け付けておりません≫だったけど、今回は禁止。禁止ってことはこの声の主は誰かに命令されているような立場ってことか?

「ますます謎が増えるなぁ…」

 とりあえず、これ以上の質問はないかな。


≪ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております≫


 あっ、帰るのか。

 ありがとね~って誰に言ってんだか。

「さてっと、こうなったら早いとこ人を呼ぶかね」

 さっきの説明であったけど、スキルの【大泣き】ってやつは善人にほど効果を発揮するスキルみたいだし、これを使って近寄ってくるのは悪い人ではないだろう。

 だったら、助けてくれるはず!

 自分で言うのはなんだが、オレは可愛い赤ん坊。とはいっても、自分の姿を見たことはないんだが…。問題があるとすればオレの人格にも影響を受けるスキルだから、人格50がどれほどの効力になるのかだな。

 まあいいや。

 このままジッとしてても未来はわかりきってる。それなら少しでも悪あがきをしてみようじゃないか!

「いくぞ~、【大泣き】発動!」


 自分で聞いていてもハッキリわかるほどに泣き声が周囲に響いていく。

 ってか、うるせえ!

 自分にも拡声された声が聞こえるんじゃ、使いどころが難しい。


 泣き始めてから数分後、

 ……あれっ?

 なんだか、ふらついてきたような…。

 そりゃ、こんだけ大声で泣いてるんだから疲れはするだろうけど、それにしても疲れ方が異常な気が…。


≪体力が尽きましたので、これよりHPを代替消耗します≫


 何っ!?

 突如として再び聞こえてきた声。それを聞き、慌ててステータスを確認する。


・名前:なし Lv.1

種族:人間(???)・男 ジョブ:見習い ランク:なし

HP17/20 MP0/0 体力0/6

攻撃力3 魔法攻撃力0 防御力1 魔法防御力0 知力5 速度2 人格50

種族特性:なし ジョブ適性:なし ジョブ補正:なし

スキル:【大泣き】


 ステータスを確認すると、確かに謎の声の言うように体力が0になっていた。

 何故……そんなの考えるまでもない。

「スキルを使用すると、体力を消耗するのか…!」

 だからと言って、こんなに早く。

 そして、今もHPは消耗している。早くスキルを使用するのをやめないと!

「だけど……」

 今の段階では誰にも見つけられていない。

 つまりは、この状況でスキルを使用するのをやめたら、誰にも見つけられない可能性が高い。それに、今は体力もない。これじゃあ、助けを求めてどこかに行くことも出来ない。

 使うのをやめて、体力の回復を待つか。それとも、スキルを使って誰かが見つけてくれるのを待つのか。残された手段はこの2つに1つ。


 オレは覚悟を決めた。

 体力が回復してもそれほど動けるわけじゃない。たった一回転するだけで、体力を1消費してしまうのだ。人を探し出す前に体力が再び尽きる。それに、幸いにもこの辺りにはいないみたいだが、獣などがうろついていないとも限らない。

 だったら、一か八か僅かな可能性に賭けてみるしかない。


 減る。減る減る、減り続ける。

 目に見えてHPが減耗していく。それと同時に身体から力が抜けていく。

 それでも……!

 諦めてたまるかっ!

 まだ何も知らないオレだけど、だからこそまだ見ぬ世界を見る前に死ぬわけにはいかないんだっ!!


 だが、とうとう時は来たり。

 HPが2になった時、オレは意識をほぼ手放した。

(ちく、しょう…!)

 無念な思いを抱きながら、叫ぶ気力もなくなり、そのまま視界が暗転する。



「…………」

「…ほぅ、こんなところに赤ん坊がいるとは。なんと奇怪なことだろうね」

「……ジェノ、この子を」

「わかっているよマリア。連れて帰ろう。この子は私たちの子だ」



◇◆◇◆◇◆◇



 はい?

 オレはどうなったんだ?

 確か、覚えている限りではスキル【大泣き】を限界まで使って疲労困憊で倒れたんだと思ったんだが…。しかし、オレは生きているみたいだぞ?

 というのも、オレは意識を他のものに移す余裕がないほどに口を動かしているので詳しくはわからないんだが。

 そもそも、オレは何を咥えているんだ?

 目の前には白くて柔らかそうな巨大な物体があるだけ。無我夢中にまるで自分の意志とは関係なく動き続ける口元はその物体から何かを必死に吸い出しているようだ。そして、吸い出したものは口の中で広がり濃厚な味を…って違うだろう!

 何をわざわざそんな味の解説なんて!そんな場合じゃないっつー話だよ。

 だが、何だろう?

 必死で吸っているのに、どこか背徳感とでもいうべきか罪悪感というか、何やら良心に訴えかけるような行動をしているような気がしてならないんだが…。


 まあ、何はともあれ行動あるのみ!

 目の前の物体に吸い付いたままのオレが言うのもなんだが、行動しなければ未来は見えない。

 そう思って手を伸ばすと、ふにんという柔らかい感触と押し返されるような弾力が小さな掌から伝わってくる。

 ふむふむ。この柔らかさは感動ものだ。ずっと触っていたくなるような常習性を持っていると言っても過言ではない。だが、ヤバいものではなさそうだ。むしろ、どこか懐かしい原始の記憶を呼び覚ますような。そんな感覚を覚えさせる。


「あんっ!元気ねぇ~」


 ふにふにとした感触を楽しんでいると、上からそんな声が聞こえてきた。

 ちゅぽんと音を立て、口を離し、上を見上げるとそこには2つの塊が。


「あら、もういいの?」


 そして、その塊の間から覗き込むように女性の顔が現れた。

「なんてこった!」

 オレは思わず叫んでいた。ただし、例のごとくオレの叫びは「あぶっ!」としか聞こえず女性は嬉しそうに微笑むだけだったが。

 それにしても、まさかオレが今まで口にしていたのはおっぱいだったとは!!

 なんだか、言い表せないほどの罪悪感が渦巻いてくるんだが…。なんでだろう?って考えるまでもないか。今の姿こそ赤ん坊だが、オレの精神年齢は遥かに高いはずだ。

 つまりは、そんなオレが今更一心不乱に母乳を飲んでいたということに驚いたんだ!

 そう考えると、どことなく気持ち悪いような…。


 そんなことを考えていると、女性はオレの背中を軽くポンポンと叩き始めた。

 何だっ!?おしおきかっ!

 無意識にやましさを感じ取られたのかと思ったが、口から「けぷっ」と可愛らしい音が出たことで違うことが判明した。


「ふふっ、元気ね~」


 女性はオレのげっぷに対し、目を細め嬉しそうな表情を浮かべていた。

 赤ん坊はげっぷしないといけないんだっけか?

 どこから得た知識だか知らんが、そんなことを思いつつじーっと女性を見上げてみた。


 この人がオレの母親だったりするのかな?

 だとしたら、あんなところに置いてけぼりにするとは何を考えているんだ!

 オレは苛立ちをぶつけるように腕を振り回してその巨大な胸をぽんぽんと叩いてみた。決して胸の感触を忘れたくなかったとかではない。断じて違う!


「こらこら、落ち着きなさい」

 そして、そんなオレの腕を優しく掴む手が。

 あまりに夢中になり過ぎてて後ろに人がいたなんて気付かなかった。


「あら、ジェノ。おかえりなさい」

 以前オレを抱えたままの女性は腕を掴んでいる男に声をかけた。

「ああ、ただいま」

 男はそう言って、女性からオレを受け取り抱き上げる。


 赤毛の長髪に、鎖の付いた眼鏡が知性を感じさせる優しい感じの男。第一印象はそんな感じだった。

 そして、離されたことでようやく見ることのできた女性。こちらの第一印象はおっぱいデケえなだった。おっぱいがデカく、線の細い女性だな。


「それにしても、元気そうでよかった。あそこで見つけた時はほとんど死んでいるように見えたよ」

「本当よねぇ~、私たちがフィールドワークに出なかったらそのまま死んでたんじゃないかしら?でも、ふふっお腹が空いてただけみたいでよかったわ」

 何っ!?

 つまりは、この人たちはオレの両親ではなかったのか!

 じゃあ、さっきまでの失礼な態度はすいませんでした!


「それにしても、モンスターすらも滅多に寄り付かないエボルド平原にこんな幼子がいるとは…。まさか、捨てられたのでは?」

「…そうかもしれませんね。でも、それだったら遠慮することなく私たちが育てればいいと思いますよ?」

「そうだな。タイミングが良いのか、悪いのか……我が家は子育ての環境が揃っているからな」


 悲しげな表情を浮かべる男性の言葉を聞いて、ある事実に気付いた。

 そうだよ。母乳が出るってことは、子供がいる。あるいはもうすぐ生まれる感じのはず。見える範囲には子供はいない。けど、悲しそうな表情を浮かべるってことは……そういうことなんだろう。


「だったら、名前を付けないといけませんね!」

 女性は手を打ち、嬉しそうな表情を浮かべて提案した。

「……そうだね、う~ん、よし男の子だし、エボルド平原で拾ったのだから――」


「――エボル。この子の名前はエボルにしよう」


 こうしてオレの名前はエボルに決まった。

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