番外:騎士団報告会
『白銀の騎士団』団長シーラ目線です。
「つまり、ヘルミックの小僧は始末した。……そういうことね?」
白銀の騎士団本部。そこで定期報告を聞いている。遠くの人間を見ながら会話できるマジックアイテム魔導鏡。それによって映し出された映像には私の弟であるレンデルがいた。傍には同じく部下であるガンガルとポー・ルゥーがいる。
『そうです。団長』
(はぁ…。別に姉さんでも構わないのに)
これを言えば、自分ではなく弟の立場が悪くなるとわかっていてもそう思わずにはいられない。
元々、『白銀の騎士団』を立ち上げたのは私が白銀のシーラと呼ばれるようになってからしばらくしてのことだった。その頃はただ我武者羅に強さを求めて、難易度の高い依頼ばかり受けていた。当然、難易度が高い依頼は報酬がいいというのもあった。
だが、そんな考えを変えたのはある依頼の帰り。
モンスターに襲われている村を見つけた時だった。襲われていると言っても住民の大半が殺され、数人が逃げ惑っているところだったが。
その時に気付いたのだ。ハズレ依頼を忌避する冒険者の多さとそれによって生み出される被害の甚大さに。遅すぎる気付きだったが、気付いてからは迅速に行動した。
当時の仲間で今は副団長を務めてくれている者と一緒に方々を駆け巡り、一大パーティーを結成した。そう、弱きを守るためのパーティーを。その心意気に応えて多くの団員が集まってくれた。危険な討伐系に挑むことから増減があるものの、今では常時200人を超えるメンバーが集まっている。
そんな騎士団で団長をしていると、羨望と共に嫉妬も集める。
そこに弟だからという理由で入団している。それも第2部隊隊長という地位まで与えられたと思われているレンデルは立場が危うい。何かあればすぐに吹き飛んでしまいそうなほどだ。だからこそ、けじめをつけなくてはいけない。
「ヘルミック家をレンデルに付けたのはやはり失敗だったのではないですか?」
言葉をかけてきたのは第1部隊隊長をしている大柄の男コミングだ。
「ですが、貴族を蔑ろに扱うわけにはいきません。団長は騎士団を率いる身であるある以上は、団長の下に付かせるわけにもいきません。となると、箔としては第2部隊か第1部隊のところになるわけですが……耐えられますか?」
答えた参謀長。騎士団のナンバー3の問いかけに、ふんと鼻を鳴らして顔を逸らす。
「それに、これは言いたくありませんがレンデルは団長の実の弟。つまりは、貴族も納得する部隊は第2ぐらいしかないのですよ」
「だからと言って――」
「そこまで。論点がずれている」
私が声を上げると、2人はピタリと口論を止め、深々と頭を下げてくる。
心情的にはコミングを支持したい。彼は私がまだソロで冒険者をしている時から知っているし、騎士団の幹部としては珍しくレンデルの見方をしてくれている人物であり、レンデルにとっては師匠でもある。
「ヘルミック家にはこちらから何かをする必要はないでしょう。そもそも、向こうのゴリ押しを受けてあの小僧の入団試験を受けさせてやったけど、元々乗り気じゃなかったのよ」
貴族だと言うだけで上から目線の態度が気に食わないし、私を見る目も弟を見る目も気に食わなかった。何よりも貴族だというだけで他の団員や助ける人を見下す姿勢が筒抜けていたのも気に食わない。
「もしも何か言われたら、その程度の覚悟もない奴が入団しなくてよかったとでも言っておけば」
「団長それはさすがに拙いかと。せめて、冒険者として勇敢に戦った結果の死である。つまりは、私達との間には何もなく不慮の事故だったと言っておくべきです」
確かに。
そう言われれば、相手は貴族としてのプライドを守るために表立って行動はできなくなる。まさか、貴族が裏の人間を雇った挙句にそれを止めようとした人間に殺されたなんて言えるわけがない。
「……その場合、問題はエボルとかいう人間ね」
「ですね。我々はともかく、エボルとやらには貴族の手が及ぶかもしれません」
「それは阻止しなさい。騎士団のプライドを懸けて」
「御意に!」
「騎士団各員にも通達します。我々『白銀の騎士団』は弱きを守り、強気も守る存在。どんな存在であっても守ることを前提として行動する我々が逃げることは許されない。であるならば、我々の失態で罪のない人間が被害を被るなどあってはならない。そんなことがないように全力を尽くしなさい!
そして、エボルという冒険者の噂を聞けば、すぐにでも対処に当たること!いいわね!」
「「「御意!!」」」
目の前から、さらには通信用のマジックアイテムから賛同の意が伝えられてくる。
それに満足しながら、会議は終了となった。
◇◆◇◆◇◆◇
「……はぁ、疲れたわ」
「お疲れシーラ」
今ここには多くいた団員達はおらず、いるのは私と副団長のギュリエルだけ。この時が2番目に心が安らぐわ。1番はもちろん家族といる時だけどね!
「それにしても、レンデル君は随分とエボルとかいう冒険者を気に入ったみたいだね」
「そうねぇ~。しかも、レンデルだけじゃなくてガンガルとポー・ルゥーまで気に入ってるんだから驚いたわ」
うぅ~、こんな時ぐらい仕事の話はやめてよ~。
「ええ、レンデルよりも若くしかも将来有望。どうです?ウチでも唾つけときますか?」
「……いいえ。まだその段階ではないわ」
将来有望とは言え、今はまだ実力不足。そうレンデルも判断したからこそ声をかけなかったのでしょうし。
「それよりも、それほど将来有望ならあちらに声をかけておくべきかもしれないわ…」
「あちら、ですか」
思案顔で呟いた言葉を聞き、彼にしては珍しく顔を歪めて嫌悪感を顕にする。彼がここまでの嫌悪感というよりも感情を見せるのはこの話題に関してだけね。
「ふふっ、まだ気に食わないのね?」
しょうがないなと苦笑すると、恥ずかしそうに顔を染める。本当に珍しいわ。
「……それはしょうがないでしょう。あちら――超越者というのが好きな人間はそうはいませんよ。自分達をかなりの高みにいると勘違いしているあの連中を好きな人間は」
「やめておきなさい」
愚痴を言い始めた彼に手でそれ以上の文句を言わせないようにする。
「彼らはどこからか常にこちらを監視しているのよ?もし、耳にでも入ったら大変だわ」
「入りゃしませんよ。あいつらが監視するのは勇者か魔王だけじゃないですか」
勇者か魔王。
そう、この世界において圧倒的な強者と呼ばれる存在。各種族に1人しか存在しない彼らについて、そしてそれを監視する次代の候補者である超越者については世界でも極々一部の限られた人間しか知らない。騎士団では私と彼以外は誰も知らない。
もしも、知ってしまえば恐ろしくて堪らないからこそ誰も漏らさない世界の秘密。
2人きりでしか話せない内容だからこそ、それを共有する私達は騎士団において最も深く固い絆で結ばれている。
「そう言えば、最近は話題を聞きませんね」
「そうね。と言っても私も聞いたのは彼らに会った10年ちょっと前だけど…」
メンバーにどんな人がいるのかは知らないが、それでも私達よりも遥かに強い人間がいるのは確実。私が彼らに会ったのはSSSランクに昇進してすぐのこと。彼らは私に部下になり、世界の平和を保つ手伝いをしろと言ってきた。
当然、断って決闘に至ったけど、片手間で負けちゃって鼻っ柱を粉々にされちゃったわ。
「とりあえず、彼らも強者の情報は求めているでしょうから教えておきましょう。彼らの恩を買って損はないわ」
「わかりました。では、そのように」
慇懃な態度で腰を折る副団長を見つつ、何事も起きないことを祈ることにしよう。
まあ、連絡した時に確実にからかわれるんでしょうけど。
◇◆◇◆◇◆◇
「それにしても、騎士団を結成してから早8年。もはや『白銀の騎士団』の名は大陸で知らない者がいないほど有名になりましたね」
「そうだねー。ただ、私自身としてはまだまだだと思うんだよね。あっ、誤解しないでね!これは自分の実力の話だから」
「あなたの実力は大陸で三指に入る実力ですよ?それでもまだ満足できませんか?」
呆れたように告げられるが、満足なんてできるわけがない。
「世界規模――それこそ、勇者や魔王に超越者を合わせれば私なんて結局は中の下程度の実力しかないんだから当然でしょ?」
「シーラでもその程度ですか。では、騎士団はあまり実力が高くないことになりますね」
「今のところはね」
嘆いていたのに、私の言葉に怪訝な表情を浮かべる。
「何か実力アップの方法に心当たりでも?それとも、いい人材ですか?」
「人材の方だよ。将来的には確実に私を超えるだろう人物。才能という点では既に私を凌駕している人よ」
そこまで言うと気付いたのか、とても嫌そうに顔を顰めて見せた。
「まさか、あなたの弟ではありませんよね?」
彼がこんなに嫌そうな顔をするのは、レンデルに対してではない。私のもう1人いる方の下の弟。今はまだ10歳の少年に対してだけだ。だが、いくら嫌そうな態度を取られても私は断言できる。あの子は絶対に私を超える。
今でさえ、訓練とはいえ10本に3本くらいは負けそうになるんだから。
「でも、あの子は騎士団に興味がないみたいなのよね~」
唯一の問題はそこだ。
あの子は昔の私のように強さだけを追い求め続けている。このままいけば、かつての私のように鼻っ柱を折られそうな気がするんだけど…。
「あの子も世界を見て、そして知ってほしいわ」
この世界には守りたい大切なモノが多く存在するということを。
シーラ Age29 Lv.151
種族:人間・女 ジョブ:聖騎士 ランク:SSS
※シーラにあわせてジェノとマリアベルのレベルを変更しました。