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魔法使い③縁とはかくも容易きものなり

「ありがとう!本当にありがとう!」

 目の前でペコペコと頭を下げるおっさん。その頭頂部の寂しさにレベルが上がった時の容姿を想像しつつ、人生は何が起きるか起きてみないとわからないものだとしみじみと実感していた。


◇◆◇◆◇◆◇



 オレはギルドを出てからすぐに魔法道具を取り扱う店に入り、最安値の杖を買って依頼に赴いた。Cランクのオレが単独で受けられるのは1つ上のBランクの依頼まで。基本的に弱者の仕事を奪わないために突発的な物以外、依頼は自分の上下1つまでしか受けられないことになっているからだ。

 その中で実入りがよく、かつ奴隷を取り扱っている商会と縁のできそうな依頼がCランクにあったので受けたわけだ。

 依頼内容はピュアホーネットの針と眼を各10ずつ納品すること。

 ピュアホーネットととは、体長40センチほどの白い蜂で治療薬の材料に使われることがモンスターだった。


「鬱陶しいな…」

 ぶぶぶっと空気そのものが音を立てているような羽音を立てるピュアホーネット。その数は10匹以上。いきなり依頼達成か…そう思ったが、よくよく見るとおかしい。ピュアホーネットで明らかに針を出しているのは3体。それに、眼も複数持っているものから単眼のものもいる。

「だから、Cランクか」

 一斉に集まってきたことから倒したりするのはそこまで難しくはないのだろう。だが、採取すべき部位があるものとないものがいるということはそれだけ倒さなければならないということだ。しかも、囲まれることから襲われるのは確実。


「まあいいや。魔法の試し撃ちにはちょうどいい」

 何かに向けて使うのは初めてだったんだよな。

「……とりあえず、これでいいか」

 杖を翳し、1匹に集中――狙いは胴体。一応、加減が出来なかった時のために針を持っていない個体にしてみる。

『ギギィィッィ!!』

 風が胴体部分で渦巻いていき、その渦が徐々に圧縮されることで胴が潰れ、悲鳴を上げて地面に落ちていく。

 うん、成功だ。

 それに嬉しい誤算だが、こいつら大して強くはないな。単純に魔法防御力が低いだけかもしれないけど。

『ギャギャ』

 背後から襲いかかられ、甲高い音がなる。

「……おいおい、面倒臭いな」

 襲ってきたのは針を持っている個体。その個体の針はオレのローブを軽々と突き破っていた。

 だが、オレにダメージはない。それもそのはずで、背中にはマーサさんから譲り受けた剣を背負っていたのだ。それに、今は身体に全然合っていないローブを身に纏い、身体は極々限られた範囲にしかない。

「だから、そんなことしても無駄なんだよ」

 1匹の攻撃が通ったと思ったのか、一斉に襲いかかってくるピュアホーネット。基本的に風で形成されている足や腕部分に噛み付いてい来るが、ほぼ何もない状態で相手も手応えのなさに困惑しているのが伝わってくる。

 ただ、意味がないからといって何度も噛み付かれるのはただただ鬱陶しい。それに、効かないからと無視しているとたまに的確に襲いかかってくるものもいる。


「次はこれでいくか」


 手袋を外し、腕の先をまるで標準を合わせるように解放する。

「喰らえ……エア・バレット」

 音もなく発せられた空気の弾丸はピュアホーネットにぶつかり、悲鳴を上げさせていく。

 エア・バレットの方が使い勝手はいいな。

 最初の攻撃…ストームボックスは座標指定タイプの魔法だから結構集中力とMPを持って行かれる。それに比べてエア・バレットは空気の弾丸に合わせて拳を突き出すだけ。【正拳突き】の遠距離バージョンという使い方だ。やはり使い慣れた技の方が一日の長があるというもの。


≪おめでとうございます。Lv.5にアップいたしました≫


 このタイミングでレベルアップか。ピュアホーネットは得られる経験値が少ないのか、それとも魔法の使い方か。


≪スキル【正拳突き】が【魔拳】へと変化しました≫


 …んん?

 何でこんなことになったんだ?

 レベルアップはわかるが、スキルが変化する理由が思い浮かばない……ってほどでもないか。おそらくは考えの通り風の拳が【正拳突き】を昇華させた技だと認識されただけだろう。


・エボル Lv.5/20

種族:人間(進化種)・男 ジョブ:魔法使い ランク:ひよっこ(C)

HP87/89up MP70/160up 体力23/55up

攻撃力100up 魔法攻撃力110up 防御力54up 魔法防御力96up 知力108up 速度29up 人格50

種族特性:レベル上限・進化の可能性・進化の恩恵 ジョブ適正:魔法使い(半人前)・魔闘士(卵)New ジョブ補正:魔法習得率アップ

スキル:【大泣き】・【念話】・【鑑定】・【世界の流れ】・【一点集中】・【風魔法】・【魔拳】New


 魔法使いはどうやら魔法関連以外は上がりにくいジョブみたいだな。攻撃力が高いのは進化の恩恵の影響が大きそうだ。ジョブ適正の魔闘士の条件って何だろうか?


≪魔闘士の条件は、格闘家などの近接戦闘系ジョブに合わせて魔法を使用することです≫


 あっそ。意外と簡単な条件なわけだ。まあ、候補がたくさんある方がもしもの時に便利だから気にしないことにしよう。

 ただ、これって進化の恩恵で【正拳突き】を所持したままじゃなかったらもしかして取れなかったパターンかな?条件的には魔法使いが先で格闘家が後って感じがするし。だとしたら、種族特性さまさまだな。



◇◆◇◆◇◆◇



「依頼終了…。疲れたぁ~」

 あれから見つけては狩るという行動を繰り返し繰り返し、その果てにようやく手に入れた針。それに、余り余るほどの眼。それをカバンに詰め、歩き出した。

 そう、そんな時に目撃してしまったのだ。

 何をだって?そんなの――


「助けてくれええええ!!」

「お父様!」

「会長、お逃げくださいっ!!」


 ――人が襲われてるところに決まってるじゃないか。

 しかも、あれは何だ?クマ型のモンスター?見覚えがあるような、ないような?

「……あぁ、思い出した」

 ピュアホーネットを狩る時の注意点として上げられていたモンスターだ。確か、ハニー・ベアー。ピュアホーネットの巣の近くにいて、ピュアホーネットを主食にしているというモンスターだ。

 見た目はなんというか……ファンシーだけど。

 体長は3メートルに届きそうなほどで、かなりの大柄。その背中には不釣り合いなほど小さな羽があり、まるで蜂にあるような触角がある黄色と茶色の縞模様のクマ。目は大きく円らで、牙というよりも八重歯に近い歯を持っていいて見た目は大きなぬいぐるみという感じで、ハッキリ言って全然怖くない。

「あれが、Bランクだっていうんだから驚きだよな…」


『ぐぎゃうぅぅ~』


 おおっ、そんな場合じゃなかった!

 助けるべきか、それとも見守るべきか…。いや、考えるよりもまず助けるべきだよな。ただ、倒せるかと聞かれれば微妙。一応、CランクだしBランクの依頼を受ける権利はあるけど、勝てるとは思えない。

 まあ、勝てる勝てないよりも助ける方が先決だな。


「エア・バレット」

 杖にMPを集中させ、空気を凝縮していく。先程の使い方ではハニー・ベアーには大したダメージにはならないということで、速度と攻撃力を上昇させる算段だ。一応、討伐を完了したことでレベルが少し上がってるからそれなりに威力はあるはずだしな。

 問題は残存MPが少ないということ。

「ほぼ、一発勝負。外せば標的が移る可能性だってある」

 つまりは外したら終わり。

 だけど、オレにはスキル【一点集中】がある。これを同時に発動させていれば外すことはない……はずだ。

「そろそろ、いい感じだろ」

 スイカほどの大きさから握り拳程度まで凝縮したところで放たれたエア・バレットは真っ直ぐにハニー・ベアーに向かっていく。


『ぎゃうん!』


「おっ、上手いこと当たったわ」

 上手く、眼に当てることができ、喜んでいるとハニー・ベアーがこちらを一瞥し、逃げ出していく。

「ありゃあ、ただ逃げたってわけじゃないな」

 逃げるだけの姿勢を見せる相手と、戦う意思のある相手の眼では宿る輝きが異なる。あいつのは戦う意志があった。ここに居ればまた襲ってくるのは確実か。

 とりあえず、助けた人達の様子を見ておくか。



◇◆◇◆◇◆◇



「ありがとう!本当にありがとう!」

 で、今こうなっているわけだ。ちなみに、一緒にいた護衛だと思われる人達も怪我を負っているものの命に別状はなく、こちらに感謝の視線を向けてきている。

「いえ――」

 おかまいなく、そう告げようとした言葉は第3者によって掻き消されることとなる。

わたくしからもお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」

 肩を護衛に支えられながらも前に出てきたのは最前線で戦っていた女剣士だった。

「…父を、それに部下を救ってくれたことは感謝してもしたりません」

 父ってことはこの人はこの男の人の娘か。あまり似てないもんだな。この人の方が大分美人だ。

「失礼ですが、こちらの御仁のご息女だと推測します。そのような方が護衛と共に戦っているというのは如何なる理由からでしょうか?」

 厄介ごとのニオイしかしないが、ここで聞いておいた方がいいかもしれん。後々厄介ごとに巻き込まれるなら早い方がいい。

(こんな風に考えるのも、【世界の流れ】の影響を受けてるのかな)

 そう思うと、自然と笑みが浮かびそうになる。それを何とか堪え、視線を上げる。

 女剣士と視線が絡み合う。

「…………」

「…………」

 しばし無言で見つめ合ったのち、ふっと笑みを浮かべて視線を逸らされる。

「しょうがありませんわね。話しましょう。私達が何故こんなことにいたのか、そして私が何故護衛をしていたのか…その理由を」


「私達はパンプキー商会を経営している一族の者です」

「パンプキー商会!?」

 その名には聞き覚えがある。目当てにしていた奴隷を扱っている商会がそんな名前だったはずだ。つまりは、ピュアホーネットの依頼人でもある。

「そのパンプキー商会の人間が何故…?」

 奴隷を扱うということは、ある程度の身分がある人物のはず。そんな人間が、言っては悪いがお粗末な護衛を連れ、なおかつ自分の娘を護衛にするとは思えない。

「実は、つい先日会長――私の祖父が急死したんです」

「この子の祖父である先代会長は一代でパンプキー商会を立ち上げ、大商会へと上り詰めた人物でした。その父が急死したことで祖父の人脈はすぐに商会を離れていきました」

 一代で築き上げたとはいえ、そんな急に人心が離れていくものなのか?

「さらに悪いことに当商会を敵視している商会にその弱味を突かれ…」

「私達は本来薬を扱っている店舗なのですが、冒険者も離れていったせいで素材が集まらないようになってしまったのです」

 目を伏せて悲しそうに語ってるところ悪いが、どう考えてもその商会が怪しい。

「急遽跡継ぎとなった私を支えるために娘が戻ってきて、手伝うようになってくれたのです」

「…私の人脈で集められたのは彼らで精一杯」

 護衛として雇われていたのはEランクの冒険者達だった。

 あれではピュアホーネットを狩るのは難しいだろうし、ピュアホーネットがうようよいるこの森では心もとないはずなんだが…。

「それにしても、何故急に私達の邪魔をしてきたのか」

 ……んっ?

「どういうことです?商売が被っているとかではないのですか?」

 「いえ、それが相手が扱っているのは主に武器や金属を加工した装飾品などで…。とてもではないですが、薬を扱うとは思えませんし、その技術もないはずです」でないと妨害する理由がないだろう。それとも潰してからパンプキー商会の市場を乗っ取ろうとしてるのか?

 でないと妨害する理由がないだろう。それとも潰してからパンプキー商会の市場を乗っ取ろうとしてるのか?

 いや……待てよ。本当に商売は被ってないのか?

「……失礼ですが、ギルドであなた方は奴隷を扱っていると聞きました。そこはどうなのですか?」

「!!おおっ、そう言えば、それもありましたな」

「私どもはあまり、そちらには詳しくなかったので失念しておりました。…それに、奴隷の取り扱いは近々やめようかと思っていますので」

 何っ!?それは困るぞ!


「そうですわっ!お父様、せっかくですしこちらの方にお譲りしてはどうでしょうか?」

「確かに、それはいいな。どうせやめる商売だ。この方に譲っても問題はないだろう」

「……あの、何の話を?」

「だとしたら、おいっ出てきなさい」

 聞けよ!


「お、お呼びでしょうか。ご主人さ……ま?」

 呼ばれてた姿を現したのは1人の女性だった。

次回ヒロイン登場

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