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格闘家⑥モンキー・フォレスト

 少々短め。展開早目でお送りしております。ちなみに本日2話目ですのでご注意を。

「あっちぃ~」

 シルバーバックがいるっていう森の近く。そこに来てはいるものの、あまりの暑さに面倒臭さと汗が止まらない。依頼人はこの森の近くに住んでいるっていう村人。最近、ウッドエイプの数が増えてきて妙だなと思っていたら、村人の1人がシルバーバックの抜け毛を発見したらしい。

「…というか、そんな不確定情報で依頼を出すなって話だよ」

 ぶつくさと文句を言いたくなるのも仕方ない。

 村人の態度はそれだけ悪かったのだから。



◇◆◇◆◇◆◇



『ええっと、あなたが依頼を受けて下さった方ですか?』

 詳細を聞くために村に着いたオレを出迎えたのは村長だと名乗る壮年の男性だった。

『ええ、そうですが…。何か?』

 何故か辺りをキョロキョロと見渡したり、オレの背後を窺うような素振りを見せる村長。彼の周りにいた村人達も同じように何かを探している様子だった。

『……ええっと、共の方は?』

『共?オレは一人ですが?』

 言った瞬間の村人達の顔ときたら…。

 いかにもガッカリとした表情を浮かべる者、苛立ちの篭もった目で見てくる者、果てにはこちらに向かって石を投げてくる者までいた始末。

 村長はそんな様子に気付きつつも何も言わず、ただ門番に何か期待するような視線を向ける。

 しかし、門番が首を振ったのを見て、大きなため息を吐くだけだった。

 仮にも依頼を受けてやった立場の人間に代表が見せるべき態度じゃないと思ったが、それからの対応はもっと酷かった。

 とりあえず、シルバーバックの抜け毛を見つけたという村人の下まで案内すると村長は若い村人にあとを任せて去っていくし、残された村人も情報を聞きに行った村人も渋った様子でなかなか情報を伝えない。ようやく聞き出した時には昼を過ぎてしまっていた。

 これから森に入って狩りに行くのは難しそうだと思ったが、用件が済んだとばかりにさっさと追い出されてしまったのだった。


「……はぁ、ギルドももう少しマシな冒険者を寄越してくれると思ったんだがな」

 本来ならギルドに対する悪態なんぞつかん儂だが、やって来た冒険者の頼りなさについつい口からついて出てしまった。

「これは、ここだけの話だ。外には漏らすなよ」

 念のために傍にいた若い衆には口止めをしておくが、相手もわかったもので軽く苦笑するだけだった。おそらくはこやつもあの冒険者に落胆したのだろうて。

「通常、シルバーバックならばパーティーで狩りに来るのが常識じゃろうて…」

 それなのに、1人。それも冒険者になったばかりの新人だと言うではないか。

 ギルドめ、儂らの村なんぞなくなっても構わん…そういうことか!

 そんな考えに行き着いたところで怒りが再燃してくる。

「そ、村長っ!!」

 思わず手に力が入って、怒りの形相を浮かべはじめたところに、男が駆け込んできた。

(……はて?こやつは今日の門番の1人ではなかったか?)

 首を傾げるが、よほど慌てていたのか息を切らしておって話にならん。

 ひとまず水を差し出して落ち着かせるとしよう。

 だが、儂の行動をそやつの言葉が押し止めた。


「そ、村長に会いたいと言っている方達が!すぐに入り口まで来てください!」


 あまりの剣幕で捲し立てられた言葉に、思わず傍にいた者と顔を見合わせてしまった。

「………厄介ごとでなければよいが」

 ギルドに対する悪口を言っていた直後のことにぼそりと不安を呟き入り口まで歩きだした。



◇◆◇◆◇◆◇



「ここが、ウッドエイプの縄張り――『モンキーフォレスト』か。なるほど…獣臭いな」

 森に入ってすぐには感じなかった鼻に付く生き物のニオイ。それが突如として濃くなった。モンスターが近くにいると、その場の空気も変わる。

 エボルド平原で会った時はあの平原の性質ゆえに気付かなかったが、今は嫌と言うほどに伝わってくる。自分達以外の種を拒絶するような嫌な気配。常に向けられる敵意という表現が生易しいほどの殺気。

「…少しは探さなきゃならんと思ってたんだがな」

 幸か不幸か。

 ――見つけられたようだな。

 おそらく、村人がここらで抜け毛を見つけたのは巣を探していた時期だったんだろう。そして、ここを住処として選んだ。


「いいぜ?オレも実力を試したかったんだ」

 口の端が上がっていくのがわかる。感じるのは闘争本能。それに身を任せ、オレも闘う意志を募らせていく。

「――さあ、やろうか?」


 オレの言葉を待っていたかのように上から影が降って来る。

「ちっ!!」

 近付いてくる影を躱しながら上に目をやると、影が降ってきた代わりに日が差し込んできていた。そして、地上にはまるで全身に苔を生やしたような緑色の猿が数頭。

 やられたな。

 こいつらの地毛は保護色だったのか…。緑色で葉っぱに擬態して、注意がいかないようにしていた。

「ご丁寧に、元の葉っぱを食べるなんて…。手が込んでるな!」

 悪態を吐くのと同時に、拳を手近なウッドエイプへ突き出す。


『ウォッホ!』


 殴った感触はふわっとした地面を殴ったような感触。それぐらいなら何体殴っても拳を痛めることはない。だが――厄介だ。

 目の前で繰り広げられる光景に危機感を感じざるを得ない。

 飛んできた個体の腕を待ち構えていた個体が掴む。そして、勢いを利用するようにその場でぐるぐると回転し始めると、飛んで行った個体の腕をさらに掴み連なっていく。目で追い切れないほどのスピードで回転し始めたところで……とうとう手を離した。


『『『ウホホッホ~!!!』』』


 勢いよく飛んでくるウッドエイプ達。しかも、1体1体を順繰りに同じ位置で離していくのでトン来る方角は一定。勢いこそ最初の物に比べると徐々に弱まっているものの、オレのスピードを上回っている時点で意味がない。

「くそっ!」

 なんとか1体目を横っ飛びで躱すが、避けてオレを追跡するかのように弾のウッドエイプは軌道を変えてくる。このままじゃやられる。

 防御力が耐えきれるかどうか…。だが、受け止めるしかない!!

 足を肩幅に広げ、腰を落とす。

 やるのなら、一撃一殺。でなければ避けたウッドエイプに後ろを取られてしまう。今はまだ射出のスピードが速すぎて追いつかれていないだけだ。


『ウガッ!!』

 飛んできた弾の1体、その大きく開かれた口を避けるように両手を突き出し、下顎と頭部を同時に殴りつける。

『ガッ!?』

 ゴキッという鈍い音を立て、一瞬で白目を剥いた瞬間ウッドエイプが地面に落ちた。

「ふぅ~、なんとか上手くいったな…」

 と言っても、まだまだだ。

 1頭倒されたためか、怒ったウッドエイプが次々と飛んでくる。しかも、今度は勢いを殺そうとしてない。先程までの2体はオレを仕留めるために着弾時点で勢いが弱まっていた。だからこそ、当てることができたわけだが…。

「とりあえず……」

 逃げるっ!!


「敵に背を向けて逃げるのはオレの主義ではないが、それ以上に勝ち目のない戦いには身を投じるなというのがマリア母さんの教え!あばよ、猿どもっ!」

 背後で何かがぶつかるような音が聞こえてくるが、気にしている場合じゃない。そもそもの討伐対象はウッドエイプではなく、シルバーバックだ。強敵を倒せば終わる状況で雑魚に構っている暇なんてないんだよっ!



◇◆◇◆◇◆◇



「……おかしい」

 音が、止んだ。

 走り出してから聞こえ続けていた音が、徐々に小さくなっていきとうとう止んだことに違和感を覚え足を止める。振り返るが、ウッドエイプがいたなんてこともなく、静かな森だ。

 どうなってんだ?巣から遠ざかったから追ってくる必要がなくなったとかそんな感じか?

「いや、それはないか」

 相手は知力の高いモンスター。追跡を止めるなんて真似をすれば自分たちの巣がその近くにあると白状するようなものだ。止めるにしても敵、ここではオレを倒すかあるいはオレが追跡できない場所にまで逃げるかぐらいはするはず。

 だとしたら、追いかける余裕がなくなるような事態に遭遇したと考えるのが妥当なわけだが…。

「モンスターの考えなんてわかるわけもなし。考えても無駄ってことか…」

 なんにせよ、戻らなければ目的のシルバーバックにまで辿り着けそうにない。

 警戒しつつ、戻るとしよう。


『ウボッウボッホ!』


 一歩踏み出したところで聞こえてきた鳴き声。

 ウッドエイプよりも低い声だが、それがボスとしての証ならば納得はいく。

「罠か?それとも、油断したか?」

 どちらにせよ、行ってみる以外の手段もなし!

 声のした方へと全速力で走り出していく。



◇◆◇◆◇◆◇



「なんっじゃ、こりゃ!!」

 着いた先に広がっていた光景には絶句してしまった。

「確かに、ここは豊かな森だ。だが、こんなモノがあれば外からでも見えないはずがない!」

 そこには森の木々から頭2つ分ぐらい飛び出した巨木が。

 そして、その根元では白い体毛を伸ばした1頭の猿がいた。その猿はオレに気付くことなく、何が楽しいのやら根元を回るように踊っていた。


『ウッホッホ、ウッホホ――――』


 ピタリと止まり、目が合う。

「……何か、ヤバげ?」

『ウ~ホホホォォ!!』

「!?」

 思わず耳を塞いでしまうような大音量の咆哮が鳴り響く。それには森の木々も逃げ出す勢いで……はぃ!?「違う。逃げ出したんじゃねえ!」

 そもそも、森が逃げ出すか!

「こいつら、ボスの命令で襲いかかって来やがった!」

 周囲を囲んでいた木々の葉っぱがすべて舞い上がり、オレを目指して飛び込んでくる。

 その数先程の10倍以上。辺り一面の木々の葉っぱが大きなうねりを上げてオレを呑み込む緑の波へと姿を変えていた。

「そういうことかっ!」

 あんなデカい木が見つけられねえはずがない!その時点で気付くべきだった!

 あいつら、あの木を隠すために葉っぱに擬態してやがったのか。


「向かってくる猿の群れ、それに守られるボス猿」

 状況は最悪。だが、救いはある。

「お前さえ、倒せば終わりっていうこの状況は完璧に救いだろう!」

 例え、周りの猿たちに阻まれようとも、たった1体を始末すればこの勝負はオレの勝ちだ!


「ウオオオオオオオオッ!」

 雄叫びを上げて、猛然と白毛のボス猿を目指し、駆け出していく。

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