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08 人間対魔物

 魔物がいる場所まで着くには少し時間がかかるらしい。そのため、俺は先に羊子ちゃんへの自己紹介を済ませた。


「へぇ、ふーん。あなたが毒の効かない人間ですか。とうとう見つかったんですね。でも納得しましたよ。この城、実はマイセリアがたくさん住んでるせいで微妙に毒素帯びてたりするんですよね。だから最初紳士さんの姿見た時は大丈夫か心配したりもしたんですよー。って、僕の自己紹介がまだでしたね。僕は鹿ノ舌(かのした) 羊子ようこ食菌しょっきんのシロカノシタのマイセリアドーターなんですよっ」


「おう、よろしくな。って、食菌ってなんだ?」


「……食菌は、食べられるキノコって意味なのです。……マイセリアドーターは全員が毒を持ってるわけではないのですよ。私やニグリカ、それにフリゴなんかは猛毒キノコのマイセリアですが……毒のないキノコのマイセリアも普通にいるのです」


「マイセリアドーターのベースになってるキノコを食毒で分けると、だいたい四種類くらいに分けられるよね。僕みたいな食菌に、食毒不明、毒、猛毒って感じで。でもって僕らの能力もだいたいそれに準拠した物になるから、僕みたいな食菌ベースのマイセリアは大して強くないけど、ヴェルナみたいな猛毒菌ベースの娘はすっごく強かったりするんだよ!」


 マイセリアドーターの種類について羊子ちゃんが熱っぽく語ってくれた。最初に会ったのがヴェルナやニグリカだったから、マイセリアはみんな毒を持ってる物だと思っていたが、普通に毒のないマイセリアもいるみたいだ。


「あ……そろそろ魔物の群れが見えてくるはずなのですよ」


 自己紹介をしている間に目的地が近くなってきたようだ。俺達は気を引き締めなおして数百メートル下の地面を観察する。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 地平線の先に魔物の群れがいるのが目に入ってきた。俺達がいる城との距離はまだ十キロ以上離れている。だが俺の目には魔物達の様子がはっきり見えた。どうやら新しい俺の体、視力も相当に良いようだ。


「……鹿だな」


「鹿なのです」


 ランケルウスという魔物は、ヴェルナが言っていたように鹿に似た魔物だった。ただし体の大きさはかなりでかい。背の高さでも人間くらいはあるだろうか。横の長さは二、三メートル近くありそうだ。


 確かアメリカかどっかにはそれくらいのシカがいるっていうのを生前テレビで見た気がする。車よりでかい化物鹿だったが、地平線の彼方にいる魔物鹿は正にそれくらいの大きさだ。


 加えて、角が三本生えている。両側の角は鹿らしく枝分かれした角だが、頭の中心から槍のような角が追加で生えている。空想の動物で言うならユニコーンに生えてるようなごつい角だ。


 そんな強そうな魔物が百体近く、群れをなして大草原を走っている。正に圧巻な光景だった。その光景に、俺は思わず唾を飲み込む。


「……強そうだな」


「強いですよー。例えば僕は食菌だけど、身体能力は人間よりかなり強いです。でもそれは魔物も一緒ですからね。僕でも一対一ならランケルウスを倒せる自信はあるけれど、あの数相手じゃ勝てる気がしないですね」


 緊張した面持ちで羊子ちゃんが返事を返してきた。ヴェルナは無言だ。だがヴェルナの方にも何か思う所があるのか、真剣な面持ちで魔物の群れをにらんでいた。そして――。


「……始まるのです」


 ヴェルナがそうつぶやいてすぐ、ランケルウスの群れと、村を守護する人間部隊との戦闘が始まった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ランケルウスと人間部隊の戦闘を、俺達は五百メートルの上空から眺める。高所から見下ろしているため全体の様子がよく分かった。


 数は魔物、人間共に百前後。ただし一対一での力ではランケルウスの方が遥かに上だ。人間部隊は五人が一組になって魔物と対峙している。だがランケルウスが槍のような角を一振りするごとに人間の兵士は簡単に吹き飛ばされていた。


 魔物と人間との間には、圧倒的な力の差があるようだ。


 俺ははるか下界の様子を眺めつつどんどん不安になってくる。だが――


「……兵士さん達、よく頑張っているのです」


 ヴェルナの評価は違った。


「……珍菌さんは特別ですが、普通の人間が魔物に勝てないのは最初から分かっていることなのですよ。それは人間さん達もよく理解していることなのです。その上で……あの兵士さん達は上手に立ち回っているのですよ」


 ヴェルナの言葉を聞き、俺は改めて戦いの様子を眺める。



 人間の兵達は確実に劣勢を強いられている。だが死者は一人も出ていないようだった。


 兵士達は五人一組で一体のランケルウスと対峙している。魔物の攻撃を受けるとすぐに一人二人と吹き飛ばされるが、すぐ後方に控える兵士が代わりに入って隊列の穴を塞いでいた。


 そうやって兵士達は五十人ほどで列をなし、ランケルウス達の侵攻を喰い留めている。少しずつ押されてはいるが、兵士達の後方に見える村までの距離もかなりあり、魔物が村まで到達するには相当に時間がかかりそうだ。


「……彼らのお仕事は、あくまで私達が到着するまでの足止めなのですよ。その役目を……あの兵士さん達は着実にこなしているのです。よく訓練された兵と……魔物に対する確立された戦術があるからこそ出来る動きなのですよ」


 兵士達に対するヴェルナの評価は思いのほか高い。確かに、彼らは魔物の猛攻を上手く耐えていた。


だが……圧倒的に数が足りない。兵士たちは五十人で一つの列を作っている。でもそれで止められるランケルウスの数は、たったの十体だけだ。


 ランケルウスは百体いる。奴らの方には戦術も何もないようで、直接兵士とぶつかっている数は少ない。だが五人一組で十個の壁を作る兵士の列には隙間がある。その隙間を抜け一体の魔物が後方にいる予備の部隊へと襲い掛かろうとしていた。


「おい、あいつら抜かれちまったぞ!」


 俺は思わず声をあげる。だが――


「大丈夫なのです」


 ヴェルナが言うのとほぼ同時に、隊列を突破したはずのランケルウスの首が宙を舞った。



「あの兵隊さん達の中には……私達の仲間が一人いるのですよ」


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