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紡がれる冒険譚  作者: 七櫛
第一章
5/59

続きです。

よろしくお願いします。

 私の名前はリチャード・オルクス、22歳。

 辺境の村で育った。

 私が生まれた頃、この地方は領主達の小競り合いがやがて大きな戦になっていた時代だったらしい。


 父はこの大きな戦で命を失ってしまったという。

 私が物心ついた時にはすでに父はおらず、優しい母の元で過ごしていた。


 父は立派な騎士だったそうだ。

 しかし仕えていた領主を守るため命を落とし、その仕えていた領主が戦に負けたことで、5年にも及ぶ戦いが終結したのだという。

 どんなに立派な騎士でも、命は落とすものなのだと、幼心に衝撃を受けたのを覚えている。

 死んだら何も残らない、そう言いたかったが、私が15歳になったとき女手ひとつで育ててくれたその母にも流行病で先立たれてしまった。


 母を埋葬する際に抱きかかえた時のことは今でもはっきりと覚えている。

 私を育てるために大変な苦労をしたのだろう。



 ----酷く軽かった。



 家には父が残した剣や防具が残されていた。

 幼少期から剣を振るい、旅の冒険者のあとにくっ付いて魔物の討伐をしたこともある。

 母が亡くなり、まだ少年だった私には少し大きめな鎧や剣だったが、体力は村の誰にも負けない自信があった。

 私は残されていた剣や防具で自分の運命を切り開く道を模索していたが、母の死をきっかけとして冒険者として生きていくことを余儀なくされた。

 村で少年の体に合うよう防具を調整してもらってから旅立った。

 没落した貴族の子弟など、誰も見送ってなどくれなかった。



 村を出てからというもの、過酷な旅を続け、時には飢えて死にかけたこともあったが、元来頑丈にできていた私はそれらのすべてを乗り越えてここまで来た。



 仕事を順調にこなせるようになったのは、鎧の調整をせずに済むようになったあたりだった。

 その頃、私は18歳になっていた。

 立ち寄る村で魔物の討伐依頼は率先して参加した。

 場数も踏んで冒険者として着実に成長していた。



 20歳になったとき、それまでソロで戦い抜いてきた自分に限界があることを痛感する。

 主として魔物の討伐をこなしてきた私には、難しい依頼がいくつも存在することがわかったからだ。


 たとえば遺跡の調査。

 私には魔物を倒す力はあっても、宝を見抜く力は無い。

 また、鍵のかかった扉を開けることもできないし、それに罠がかかっていることを調べる方法もわからなかった。


 そんな時、とある村でオーガ討伐の依頼があった。

 そこで組んだ6人パーティの中に、鋭い目つきをした軽装の青年がいた。

 無口で無愛想な奴だったが、オーガの討伐において目覚ましい動きをしているのを見た。

 その動きは機敏で、何よりも危機感知能力は抜群に高い。

 さらに、オーガを倒した後に落ちていた品物を鑑定し、村に帰って換金してパーティに分配したときには驚いた。


 この出会いは運命だと思った。


 なんとしても彼を私の仲間にしたい。

 そう思って声をかけると、無情にも断ってくる。

 しかし、私が粘り強く説得を続けた結果、死霊退治を達成したら仲間になってくれるというので、はりきって退治してやった。

 これまでの経験から、私は魔法を受け付けない体質であることを知っていたので、ズルと言えばズルだが、条件を提示したのは彼の方だったから私に非はない。

 渋々とだったが、彼は・・・いや、ノーブルは私の仲間になってくれた。


 死霊退治は私が1人で達成したので莫大な報酬を得たが、それよりもノーブルを仲間に出来たうれしさのあまり、酒場でその報酬の大半を使ってしまう。

 酔っぱらった勢いでその場に居た客全員の飲み代を肩代わりしてしまったのだ。


 そのあと、ノーブルから渋い顔で金管理は俺がやると告げられてしまい、今でもその状態のままだ。

 こうして、これまでソロでやってきた私に、仲間、いや、無二の親友というべきか、が出来たのだった。



 ノーブルを仲間にしてから2年。



 各地を旅してそれなりに名声を得ていたが、今度は魔法使いを仲間にする機会を得た。

 アイアンゴーレムを作り出す程の魔力を秘めた恐ろしい存在だ。

 今まで生きてきて、こんな話は聞いたことがなかった。

 ただ、そのアイアンゴーレムを私達が倒してしまったため、彼女の逆鱗に触れる結果となり、私達は彼女のしもべとなるよう強要されてしまう。

 しかし、彼女に私達を本当のしもべとして扱うような、言い換えれば虐げるような様子は無い。



 どうやら彼女には友達が居ないようだった。

 彼女はこの世のものとは思えない程の美貌と美しい声の持ち主だ。

 村人では敬遠して近づかない理由が私にはわかる。

 しかし、彼女にはそのあたりの機微がわからなかったのだろう。



 彼女は青井澄と名乗った。

 この地方では珍しい名前だ。

 東域の出身なのだろうか、彼女には謎が多い。


 魔法使いには変わった奴が多いと聞いていたが、彼女は特別変わっていた。

 まず、自分の力についての認識があまりにもお粗末すぎた。

 アイアンゴーレムやパワーストーンを1人で作り出せるなど聞いたことがない。

 そういった魔法使いは一般にエンチャンターと呼ばれているが、魔化は通常複数の人間で行われるのが一般的であり、それが常識だったからだ。


 彼女は自分のことを「世間知らず」と言った。

 あまりにもその通りすぎて危うさを感じてしまう。

 白にも黒にも染まることの出来る状態だったからだ。


 ただ、彼女の言葉の端々からきっと特別扱いをされるのが嫌なのだろう、と勝手に解釈した。

 私はしもべではあるが彼女と仲間として接することにした。

 このことはノーブルにも話している。

 ノーブルは無口で無愛想だが、このあたりの感覚はずば抜けて高いので、あっさりと理解してくれた。



 さらに驚いたのは、そのような力を持っていながら村の道具屋で働いていることだった。

 どういう理屈かは知らないが、魔法使いは別の魔法使いを認知出来るということはこの世界の一般的な常識だ。

 つまり、彼女程の魔力を持つ魔法使いを、他の魔法使いが気付かないはずがないのである。

 だが、ただの道具屋にそんな力を持つ魔法使いがいるとは普通考えない。

 今まで無事に生活してこれたのも、道具屋がうまいこと隠れ蓑になっていたのだろう。


 その道具屋の主人と少し会話をしたが、彼女が特別な力を持っていることをわかっているようだった。

 私は嫌われても良いから、彼女に外の世界を見せてあげたいと強く思った。

 そこでかなり強引な手だったが、彼女を無理やりにでも冒険者にする方法をとったのである。



 その女の子が目の前で泣いている。


 「すまなかった。」


 そう声をかけたが、後悔はしていない。

 私は全力で彼女を守るつもりでいる。

 そして、私は道具屋の主人の理解の深さに敬服し、深々とお辞儀をしてその場を立ち去ったのだ。






 「さて、と。澄さんの恰好は目立つからまず装備を整えようか。」


 私は澄が落ち着いた頃合いを見計らって声をかける。


 「装備?」


 この子は本当に世間知らずなようだ。

 きょとんとした顔でこちらを見ている。


 「・・・目立つのはよくない。」


 ノーブルがいう。

 こいつはいつも言葉足らずだ。

 私は補足するように説明した。


 「澄さんは、自分ではわからないかもしれないけど、かなり目立つんだよね。それに、冒険するにも何するにも、準備8割っていうからね。」


 首を傾げる澄。

 くそう、可愛いじゃねぇか。


 「あー・・・えーっとね、まず服装が純白なのは、目立つしね。旅では服がすぐ汚れるから、高価じゃない方が良い。消耗品を選ぶのが基本だよ。」


 わかったのかわかっていないのか、頷いている澄。


 「お金は持ってるかな?無かったら出すけど。」


 そういうと、澄は荷物の中からずっしりと重そうな袋を取り出した。


 「足りるかしら?」


 受け取って中身を見てみると、全部銅貨だったが、600ゴルド程入っていた。

 よくこれだけ貯めたもんだと感心する。


 「十分だね。」


 私がそういうと嬉しそうな笑顔になった。

 くそう、まじで可愛い。こいつは凶器だ。

 心の動揺を必死に抑えて、つとめて冷静に続ける。


 「あと、武器何か使えたりするかな?」


 首を振っている。

 非常時には完全に守り切ることが出来ない可能性がある。

 最低限自分の身は自分で守らないといけない場面もあるから、ここはちゃんと伝える。


 「護身用の武器は持っていた方が良いよ。じゃあ、とりあえず防具から揃えに行こうか。」


 私はそういってまず防具屋に向かう事にした。







 「いらっしゃい。って、澄ちゃんじゃないか。」


 防具屋の店主が声をかけてくる。

 顔なじみなのだろう、この村で生活してたのなら当然だろう。


 「こんにちは。」


 「こちらの2人は?」


 「冒険者です。」


 「ああ、そうか。澄ちゃんも冒険に行くのかい?」


 澄は頷いた。

 話は早そうだ。


 「あー、店主。フード付きのローブってあるかい?」


 すかさず割り込む。


 「あるよ。澄ちゃん用でいいのかな?」


 「そう。なるべく地味な方がありがたいんだけど。」


 「あいよ、ちょっと待ってな。」


 防具屋の店主は店の奥から深緑色のローブを持ってきた。


 「こいつはエルフのローブって言われてるうちの看板商品だよ。」


 エルフというのは太古の昔にこの世界に居たらしいが、現在では絶滅していると言われる存在だ。

 人間に比べて遥かに長い寿命を持つ存在だが、人間世界には干渉することの無い傍観者という話もある。

 ただし、彼らの作り出す道具は強力な魔法がかけられており、一般的に出回ることのない逸品である。

 私は慌てた。


 「お、おいおい。そんなに高価なものは買えないぜ?」


 澄の所持金からして、そのような高価なものは購入できないと思い、そういった。

 ところが、意外にも防具屋の主人は笑いながら言った。


 「大丈夫だよ、こいつは持ち主を選ぶんだ。もしも澄ちゃんが選ばれたならただでもいいよ。」


 防具屋の主人が持ってきたそのローブをよく見てみると、白銀が縫いこまれており、さらに細かい刺繍もなされているのがわかった。

 ただ、よく見ないとわからないから、目立つこともない。


 「そんな、悪いですよ。」


 澄はそんなことを言っていたが、店主は着れるかどうかだからね、と念を押してきた。

 澄がエルフのローブを手に取ると、一瞬ローブの繊維が光ったような気がした。

 魔法の品物はよくわからない。私が不思議に思っていると、澄はそのローブに袖を通し、何事もないかのように羽織った。


 特段変わった様子もなく、澄はきょとんとした顔で店主と私を交互に見ている。

 これに驚いたのは店主だった。


 「こりゃおったまげた。お、おい、あんた着てみな?」


 そういって店主はこっちを指定する。

 澄は脱ぐと、私にローブを手渡してきた。

 何もなかったよな、と思いながらローブに袖を通そうとすると・・・。



 バチンッ!



 という音とともに、激しい痛みを受け、私はそのローブの袖からあわてて手を引っ込める。


 静電気かっ!?なんだ!?今めっちゃ痛かったぞ!?


 それを見た主人は、妙に嬉しそうな顔になった。


 「お、やっぱりそうなるよな?そうか、やっとこいつは持ち主に巡り会えたのか。」


 何やら勝手に納得している店主を殴りたくなったが、こらえる。


 「どうせ売れないものだからこいつは俺からのプレゼントだ。」


 そういうと可笑しそうに店主は笑った。


 「それは、まずいです。おいくらですか?」


 澄は真面目だな。

 私は苦笑いした。

 そんな澄の様子に主人も気をよくしたのか


 「じゃあ、他にも買ってくれよ。」


と言うと、肌着5着、替えの服2着セット、上等な靴等を取り出し、カウンターに並べる。

 一瞥してどれも、買うつもりでいたものだ。

 さすが冒険者相手の店主は話が早い。


 「全部で200ゴルドだよ。」


 これだけ買って200ゴルドは安すぎる。

 澄は申し訳なさそうな顔をしながら200ゴルドを払っていた。


 「まいど!澄ちゃん元気でな!」


 防具屋の店主はにっかり笑った。

 美人というものは得をするものだ、私はノーブルと顔を見合わせ苦笑した。








 次は武器屋だ。

 さて、普通魔法使いは杖を使うっていうのが一般的なんだけど、彼女は何を選ぶかな。


 「使ってみたい武器ってある?」


 本人の希望を聞いてみた。

 少し悩んでいたようだが、まっすぐこっちを向いて


 「剣。」


と言ってきた。

 これには驚き、思わずノーブルと顔を見合わせてしまった。


 「リチャード、使い方教えてくれる?」


 その言葉に私はなるほど、と思い、この子は賢い、と再認識する。

 現状ある範囲でより良い選択をしようとしているのがわかったからだ。

 多少唖然としたけど、この子ならきっと使えるようになる、なぜかそう思った。

 

 「わかった。じゃあ行こう。」


 私はそういうと、武器屋に向かった。




 「らっしゃい!っと、澄ちゃんじゃないか!どうしたんだい?」


 こんにちは、と言いながら、澄は


 「武器を売ってほしいの。」


と武器屋の主人に言った。

 武器屋の主人はあっけにとられていたようだが、一緒に入店した私達を見て納得したようだ。


 「そうか、冒険者の仲間を見つけたんだね、おめでとう!」


 そういって、何が欲しい?と聞いてきたので、私が答える。


 「剣が欲しいんだけど、この子が使えそうなものありますか?」


 そう聞くと、少し腕組みをしてやや考えていた主人が、ああ、と言ってレイピアを取り出してきた。


 「これは軽いから女の子でも使いやすいよ。」


 澄が私を見た。

 レイピアか、私も少し使えるが、熟練者という程じゃない。

 でも教える分には支障はなさそうだ。

 澄に頷く。

 澄は目を輝かせて


 「それをください。」


と言った。


 「んーっと、400ゴルドだよ。」


 ・・・おい店主、レイピアの相場は500ゴルドじゃないのか?

 澄は買い揃えた防具と武器をすべて装備して満足そうな顔をしていた。

 しかし、ローブにレイピアか・・・。斬新な組み合わせだ。私は澄を見てそんなことを考えていた。

 



 あとは、野宿などで使う冒険の必需品だが、道具屋の主人が彼女に持たせた荷物を見て、購入しようと思っていた必需品を渡されていたことがわかった。

 寝袋とか火打石とか応急手当の道具なのだが、いずれも持っていないと冒険の支障となるものばかりだ。

 こうして、必要最低限の装備を整えることが出来た。



 その日は装備を整えて終えるつもりだったが、情報屋に行くことになった。

 必要最低限のものを揃えたところで彼女の所持金は底を尽きたのが原因である。

 当面はこっちにそれなりの蓄えがあるから、無理に依頼を受ける必要は無いと言ったが、自分で稼がなきゃ冒険者になった意味が無いと言い返された。


 この子は賢く、そして芯の強い子だということをさらに知ることとなった。


 

勢いで書いたら、澄の恰好がジェダイになっていたというお話。

フォースソードは出てきませんけど。

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