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紡がれる冒険譚  作者: 七櫛
第一章
4/59

続きです。

よろしくお願いします。

 スワンの村に到着したのは夕刻だった。



 道中、リチャードが色々な話しをしてくれた。

 情報屋に流れてくる依頼には、やっぱりというか当然というか魔物の討伐系が多いらしい。

 極まれに倒した魔物が希少なアイテムを落とすこともあるんだそうです。

 ほかの依頼には、遺跡調査人や行商人といった人たちを守る護衛系、特定のアイテムを作ったり探したりしてくる納品系、変わった依頼として今回の城調査といった探索系や、特定の人物を探したりするようような人探し系もあるという。

 ロールさんに聞いたとおり、ほんとに何でも屋だなぁと思いながら話しを聞いていた。

 リチャードの話しは私が経験したことのないような冒険ばかりだった。

 こっそりノーブルの反応も見てみたけど、彼はリチャードの話を突っ込みもせず、いつも通り無表情だったのでリチャードの話に嘘偽りはないのだろうと思う。

 正直、冒険者にあこがれを抱いた。



 村に到着してからは3人で宿屋へと向かう。

 宿屋にたどり着くまでに、顔見知りの村人達とすれ違った。

 皆一様にリチャード達と私とを繰り返しみていて、会釈はしたけど、なんか妙に恥ずかしかった。

 宿屋に着くと、リチャードが君は道具屋に戻った方がいいだろう、というのでそうすることにした。


 道具屋に戻ると赤ん坊をあやしていたエピさんが私を見てにっこりと笑いかけてきた。


 「おかえりなさい。」


 エピさんの顔を見てなぜか涙目になってしまったようでした。

 そんな様子にエピさんは、優しい声で


 「大丈夫?どうしたの?」


と聞いてきてくれましたが、とても話せる内容ではなかったので


 「うん、ちょっと悲しいことがあったの。」


とお茶を濁しました。

 エピさんを見て、色々あった2日間を振り返り、張りつめてた緊張の糸が緩んだようでした。


 エピさんは半年前に無事長男を出産。

 産後の経過も良く、体調が回復したので、今では主にエピさんが道具屋の店番をしています。

 私は仕入れた荷物や売り上げの帳簿を整理をしていて、エピさんが店番を離れる時にスポットで入るようになっています。

 というわけで、この道具屋では私の必要性は低くなっているのが現状です。

 でも、ディルさんは澄ちゃんが居ると売上げがあがるから、と笑顔で言ってくれ、辞めさせるような雰囲気はありません。


 その時、ディルさんが荷台を引いて帰宅してきました。

 私はディルさんが食料品等を仕入れてきたのだとわかり、気持ちを振り払うかのように荷物を店内に運び込む手伝いをしました。


 仕入れてきた荷物のほとんどを店内に運び入れると、最後の荷物を持ったディルさんが


 「そういえば、澄ちゃんが見慣れない冒険者風の男二人と歩いてたって噂になっていましたよ。」


といって、店内に運び入れていきました。

 ・・・思わず固まってしまいましたよ。そんなにすぐ噂になるものなのかしら?


 「え?ほんとに?澄ちゃんの知り合いなの?」


 エピさんまでこの話に食いついてくるなんて・・・。

 私がどう言ったものか、と考えていると、


 「やあ。」


と後ろからリチャードの声が聞こえてきた。

 その後ろには表情の暗いノーブルが着いてきている。

 きっとリチャードが暴走して、ノーブルはそれを止めることが出来なかったのだろう。

 短い付き合いだけど、なんとなくそう思った。


 店内から出てきたディルさんがリチャード達に気付いた。


 「こんばんは、今日はうちの店お休みですけど、何かお探しでしたか?」


 「澄さんを探しに。」


 ディルさんはこいつら2人が客だと思ったのでしょう。

 しかし、この返事に虚を突かれたようでした。


 「何しに来たのよ。」


 私がそう言うとリチャードは臆面も無く、


 「傷薬が欲しくてね。」


といっておどけて見せた。

 そんなリチャードをジト目で見ると、エピさんが会話に加わる。


 「澄ちゃんの知り合いってこの人達なの?」


 エピさんに向かって首を縦に振る。

 ちょっと驚いた顔をしていたけど、妙に納得したように


 「そっか、澄ちゃん冒険者だったよね。」


と言った。

 いや、冒険者じゃないんですけどね?なるとも決めてないし。

 話を聞くとリチャードは本当に傷薬を買いに来たようだった。

 ノーブルを睨みつけると、いつもよりも暗い顔でこちらの顔色を窺っているのが見えた。

 それまで何やらディルさんと会話をしていたリチャードが笑いながら言う。


 「実は、私共は澄さんのしもべなのです。」


 「ちょっ!あんた、なにをっ!?」


 ディルさんは一瞬驚いたような顔をしたが、なぜかすぐに納得したような顔つきになっています。

 確かにしもべになれって言ったけど、あれ?こういう使い方するの?

 ディルさんもなんで納得してるのよ。

 リチャードが一瞬こっちを見てウィンクをしたのが見えた。

 ――頭痛がした。

 

 「・・・帰って。」


 私がリチャードにそういうと、彼は


 「ああ、そうするよ。」


といって手をひらひらさせながら振り返った。

 今日は帰ってくれるのだろうと、私はほっとした。

 しかし、次の瞬間、


 「そういう理由で、澄さんは私共と冒険者として活動することになりました。明日の朝迎えに来ますので、よろしくお願いします。」


再び振り向いたリチャードはディルさんとエピさんに向かって告げた。


 あまりの早業に止めることはできなかった。

 言われたディルさんとエピさんは顔を見合わせている。

 その時、2人の気持ちに反応したのか、エピさんに抱かれた赤子が鳴きだした。



 私はリチャードとノーブルを追い返した。


 ――酷い。


 私が築き上げてきた何かを、あの2人は壊した。

 アイちゃんも壊している。私があの2人に何か悪いことをしたのだろうか?

 私はかなり険しい顔をしていたのだと思います。エピさんが心配そうに話しかけてきました。


 「澄ちゃん大丈夫?」


 「うん・・・。ごめんなさい。」


 「謝る必要はないのよ?急だったから驚いちゃったけど。」


 そう言って笑っている。


 「澄ちゃん、あの人達の仲間になるのね。冒険者って本当の意味で自由だから心配だわ。」


 少し困ったような様子だ。


 あいつらの自由すぎには程がある。

 相手の気持ちも考えないで・・・、この状況をどうすればいいの?

 私はエピさんに何も答えれずにいた。


 「澄ちゃんは優しいのね。私達の事が気がかりになってるんじゃないかしら?」


 「うん。だって、最初にここに来たときから、凄く良くしてくれたから・・・。」


 私はそう言ってエピさんの顔を見た。

 笑顔だったけど、私には彼女が泣いているように見えた。


 「私達は商売をして生計を立ててる。他の人も一生懸命生きてる。言い方は悪いかもしれないけど、澄ちゃんが来る前から私達はちゃんと生活してたわ。」


 エピさんが言おうとしてることがわかった。


 「澄ちゃんが居なくなるのはちょっぴりさみしいけど、もう二度と会えなくなるってわけじゃないし、私達のことは気にしなくていいのよ。」


 エピさんは優しかった。

 この世界に来てからというもの、不安だらけの日々。

 男の人は好奇の目を向けてくるだけだし、同年代の女の子からは避けられた。話しかけても無視されるなんてどんないじめかと本気で思ったりした。

 そんな中、ロールさん、ディルさん、エピさんと出会えたことで、人並みの生活ができていた。

 ディルさんとエピさんは、この世界では私の家族とも言える人たちだ。

 でも、すでに賽は投げられてしまっている。

 私が冒険者にならない、って言ってしまうと今度はこの人達が自分達を追い詰めるに違いない。

 自分達に遠慮して、冒険者になるのを諦めた、と。

 そうなるってわかる。だって、とても優しい人達だから。


    ---- 優しさが人を傷つけることもある ----


 ノーブルが呟いた言葉を思い出した。

 本当にあの人達は酷い。こうなる事をわかってあんなことをしたんだ・・・。

 リチャード達に会って冒険には憧れの気持ちを持ったけど、決心するまでには至らなかった。


 私はエピさん達との別れが悲しくて泣いていた。


 でも、もう決心の時だ。


 「ごめんなさい。エピさん、私荷物をまとめますね。」


 そういって笑うとエピさんは寂しげな笑顔で、


 「今日は料理奮発するわね。」


と言って家の中へ入って行った。

 ディルさんは私に優しい目を向け、頭を撫でてきた。


 「彼らは優しい人達だね。」


 そういうと、ディルさんも家の中に入っていった。

 彼らが優しい?

 私にはディルさんの言った意味がわからなかった。



 その日の夕食は、私が道具屋で働き始めた頃から今までの事が話題だった。

 ディルさんは、とても綺麗な子がいきなり訪ねてきた時は驚いたし、それがまさか働きたいと言ってきた時にはさらに驚いたと言って笑った。

 暇があれば読書をしている私を見て、微笑ましく思っていたこと。

 私が店番に立つと、暗い店内が明るくなったように見えていたこと。

 荷物や帳簿の整理が自分達以上で、とても助かっていたこと。

 そんなことを笑って話してくれた。


 夜はどこかに行っていたことに気付いていたと聞いた時は驚いた。

 村に来ていた観光客の1人から、この道具屋に魔法が使える女の子が居ると聞いていたという話はさらに驚いた。

 どれもばれていないと思っていたけど、ディルさん達は全部を知って、今まで家族同然に接してくれていた。

 そして、私がいつかここを出ていくことをわかっていたこと――。


 リチャードとちょっとした会話で、私が魔法を使えるということに自分達が気付いていると分かったんだろうね、とディルさんは言った。

 本当はただの様子見だったんだろうけど、長引けば言い出しづらくなると思っての行動だと思うよ、などと話してくれた。


 今生の別れっていうわけじゃないけど、こっちに来て初めて家族同然で接してくれていた人達との別れはやっぱり辛くて、私はあまり声が出せずに、二人の会話を聞いていた。

 私はいつまでも続くと思っていた日常にも、やがて終わりがやってくるのだということを唐突に理解した。



 次の日、荷物をまとめた私はディルさんとエピさんに見送られる立場になった。

 エピさんは私を優しく抱きしめてくれた。

 ディルさんは優しい目で見送ってくれた。


 「本当にありがとうございました。」


 「気にする必要はないわ。体には気を付けるのよ。」


 そういってエピさんは私から離れると


 「お迎えがきたわよ。」


といって私の後ろを見た。

 私の後ろからリチャードとノーブルが歩いてくるのが足音でわかる。

 1年とちょっと、ここで過ごした日々のお陰でこの世界のことを少し学べた。

 リチャードとノーブルは少し離れたところでディルさん夫妻に頭を下げている。

 それを見て、昨日ディルさんが、彼らが優しいと言った理由がなんとなくわかった。

 うまく言葉には出来ないけど、この世界にはこの世界のルールがある。

 冒険者は自由だ。

 エピさんはそういっていた。

 そして、私もその一人なのだと。

 正直なところ、この選択が正しいのかどうかはわからない。

 だけど、これは大切な一歩なのだと思う。

 私はディルさんとエピさんに出来るだけ笑顔で「行ってきます!」と元気に別れを告げて、リチャード達の方へ走って行った。

 走ってきた私に、リチャードは


 「すまなかった。」


とつぶやいた。

 ノーブルは私の頭をポンポンと叩いてから、いつもの無表情でディルさん夫妻にお辞儀をしているのがわかった。

 この2人は悪い人達じゃない。

 だって、また泣いてる私を優しく受け止めてくれてる。

 こいつらには泣かされてばっかりだ。

 絶対泣かしてやる、そんな気持ちも少しあったけど、こうして私は、リチャード、ノーブルの仲間になり、冒険者としての一歩を踏み出した。

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