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紡がれる冒険譚  作者: 七櫛
第一章
3/59

続きです。

よろしくお願いします。

「だれかいるの?」


 扉の奥から聞こえてきたやや怯えを含んだ声は女のものだった。

 その澄んだ声は若々しい。


 ノーブルは忍び足で奥の扉へと向かう。

 そして扉をゆっくりと開けると、そこには白いローブを着た1人の女の子が立っていた。


「・・・だれだ。」


 見たところ若い。

 この城はなぜか明るいので、その顔まで確認できる。

 恐ろしい程に整った顔立ち、黒い髪の毛は長く、身長は160センチ程か、ほっそりとしたその肢体はやや恐怖に固まっているように見えた。

 そしてノーブルと目が合うと、一瞬で恐怖にひきつったような顔になった。


 ノーブルは本能的にまずいと思い、素早く女の子の近くまで行くと、口に手をあてた。

 女の子はこのノーブルの行動に恐怖で体全体が硬直した。


「・・・声は出さなくていい。君はだれだ。」


 優しく話しかけたつもりである。

 その時リチャードがづかづかとノーブルに向かって歩いていく。


 そしてノーブルの頭を思いっきりひっぱたいた。


「アホかお前!怯えさせてどうすんだよ!」


 結構な勢いで叩いたため、ノーブルは女の子から横に吹っ飛んでいった。


「・・・痛い。」


 のろのろと起き上がるノーブルを横目に、人懐っこい笑顔で女の子に話しかけるリチャード。


「すみません、こいつ、ちょっとアレな奴なんで。ところで、あなたはどなたですか?」


 女の子は混乱しているようだが、このやり取りでやや気分を落ち着かせたようだった。


「・・・あなたたちこそだれ?ここには何をしに来たの?」


 澄んだ声、美声というにふさわしかった。

 その容姿に併せてこの美声、リチャードは一瞬で顔が赤くなる。


「あ、ああ、そうだね。私はリチャード・オルクス。冒険者だ。」


 そしてノーブルの方を指さして続けて言う。


「そして、こいつはノーブル・ディサピア。同じく冒険者だよ。君は?」


「私は青井澄・・・。」


「へぇ、青井さんというのか。」


「ここには何をしに来たの?冒険者さんは一般の人は傷つけないって聞いていたのに。」


 澄は涙目になっている。


「う、うん。ここには情報屋から調査の依頼があったから来たんだ。びっくりさせて申し訳ない。」


「・・・調査?」


「うん、ここにアイアンゴーレムの目撃例があったから、その調査に来たんだ。」


 ――澄の脳裏にアイちゃんの雄姿が思い浮かぶ、そういえばどうしてここに居ないのか。


「・・・そのゴーレムは?」


 澄が問いかける。先ほどから嫌な予感しかしない。


「心配いらない、さっき倒した。」


 リチャードが何気なく返事した。

 その答えに、澄は呆けたような顔になった。

 リチャードは首を傾げた。



-----



 お、おちついて考えるのよ、澄。

 あなたは強い子。

 今の状況はどうなってるの?冷静になって考えて。

 私はいつものように城に戻ってきただけ。

 いつもは居るはずのアイちゃんが居ないのでおかしいと思ったわ。

 そしたら扉の向こうで話し声がするの。

 思わず声を出しちゃった。

 そしたら扉が空いて、知らない男の人が入ってきたの。

 びっくりしてる私にいきなり近づいてきて口をふさがれたわ。

 こんなこと初めてよ。

 何をされるのか分からないけど、恐怖で身動きとれなくなるって本当なのね。妙に納得したわ。

 もう1人が近づいてきて、口をふさいできた人をいきなりぶん殴ったわ。

 口をふさいで来た人が漫画みたいに横にすっ飛んで行くのが目に入ったの。

 こんなの初めてみたわ。

 どうやら危害を加えてくるつもりはないみたい。

 少し安心したけど、私の心臓は今でも16ビートを刻んでるわ。

 リチャードとか名乗った男の人は意外と魅力的な顔立ちをしてるわ。

 でもレディの名前をいきなり聞いてくるなんて失礼な人ね。

 それにどうしてここにいるのかしら?

 え?調査?なにそれ?

 え?ゴーレム?

 それって私のアイちゃんのことかしら? 

 そうよ、アイちゃんどこなの?

 あなたたちアイちゃん知らない?


 ・・・・倒した?


 さらりと何いってるのこの人。

 アイアンゴーレムよ、アイアンゴーレム。

 ゴーレム界のスターよ?

 普通に倒せるはずないじゃない。

 やだ、これ何のドッキリ?こんなの私聞いてないわよ?




-------


 呆けた顔をしていた澄の目が正常に戻る。

 どうやら彼女は落ち着いたようだ、とリチャードはほっとする。


 「倒したって、どうして?」


 澄はリチャードに聞き返した。


「襲い掛かってきたからね。」


 澄は事もなげに言うリチャードに信じられないと石の部屋を出た。

 広間の中央に鉄の塊が崩れている。

 澄の思考は真っ白になった。


 次いで泣けてきた。


 リチャードは澄に近づき、


「お、おい。どうしたんだ?」


と声をかけた。するとそれまで泣いていた澄はキッと怒りの目をリチャードとノーブルに向けて


「なんてことしてくれたのよ!」


と一喝した。

 今度は二人が驚く番だった。

 驚いている二人にかまわず澄は続ける。


「あなた達私のアイちゃんをどうして壊しちゃったの!?こっちの世界に来てから友達も居なかった私の唯一の友達だったのよ!そりゃ私も人と仲良くしようと思ったわよ!でも男の人は私を変な目で見るだけだし!村の女の子達も私には近づいてこないし!ひっそりと過ごしてた私の日常ぶち壊してくれて、だれだ!?それはこっちの台詞よ!なによなによなによ!あんた達なんなのよ!」


 茫然とする二人にフーフー言いながら澄はまくしたてた。


「あーもー限界よ。限界!あなた達、私のしもべを倒してくれちゃったんだからそれなりの覚悟はできてるわよね!?」


 リチャードとノーブルは顔を見合わせる。

 どうやら、先ほど倒したアイアンゴーレムはこの澄と名乗る女の子が作り出したものらしい。

 しかしそのゴーレムは二人が倒してしまった。

 確かにゴーレムは襲い掛かってきたが、城の外に逃げれば追いかけてきただろうか?試していないのでわからない。

 困惑する二人に澄は宣告する。


「あなた達、私のしもべになりなさい!」


 一瞬の空白。


「・・・え!?」


「・・・な、んだと!?」


「あなた達、私のアイちゃん壊してくれたわけよね!だから今日からはあなた達が私のしもべになるのよ!」


 ぶわっと嫌な汗が噴き出る二人。

 そう、アイアンゴーレムは作り出すのにものすごい時間と労力がかかる。ましてや一人で作れるような代物でもない。

 さらに魔法で精製される物であるため貴重な存在であり、それこそひと財産となり得る。

 門番にアイアンゴーレムを使っているような者は、どんなに裕福な貴族でも一般的ではない。

 沈黙する二人に怒りを募らせた澄はさらに詰め寄る。


「返事は!?嫌ならアイちゃん返して?返してよ、返してよぉ!うわああああん!」


 最後は泣き崩れている。

 リチャードとノーブルは顔を見合わせ、深いため息をついた。

 二人はアイアンゴーレムなんて作れない。

 つまり返せない。

 リチャードは珍しく観念した様子の相棒を見た。これは逃げると後味が悪すぎる。


「・・・君のゴーレムだったんだ。ごめんね。」


 そういうリチャードに対して澄は顔を上げて言い放つ。


「返事は!?ごめんで済んだら警察は要らないのよ!」


「は、はいぃ!わかりました!」


 勢いでリチャードは受諾してしまう。

 そんなリチャードを見て、ノーブルは(・・・ついていない。)と思いながら深いため息をついた。


「ため息ついたあなた!あなたもよ!?わかってるの!?」


「・・・ああ、了解だ。」


 その後、泣きじゃくる澄を二人はなんとかなだめすかしたが、外は日がとっぷりと暮れ、夜となってしまっていた。


 城の一室にはテーブルと椅子があった。

 そこでくつろぐ3人の姿があった。

 澄の作った料理はリチャードとノーブルが今迄食べたことのない味付けのものばかりだった。しかもものすごく美味かった。

 食後、リチャードは澄に聞いた。


「こっちの世界に来てから、って言ってたけど、あれはどういう意味だい?」


 澄は食器をかたづけようとしていたが、足を止めて


「そんなこといったかしら?」


ととぼけたような返事を返す。

 すぐに教えてくれるはずもないか、リチャードはひとり納得した。

 ノーブルも食器をかたづけていたが、澄の持っていた食器もごく自然に奪い、そそくさと洗い場に持って行ってしまう。

 そしてまたひょっこりと戻ってきて


「・・・あそこの水は使えるのか?」


と聞いてきた。

 井戸の事だろう、と思い


「使えるよ。」


と伝えると、小さな声で、わかった、と返事が聞こえた。

 最初は怖い人だと思ったが、ノーブルは気の利く人だということがわかった。


「ところでしもべって何すればいい?稼いでくればいいのかい?」


 勢いでこの二人をしもべにしたものの、澄はどうしよう、と思っていた。


「世間知らずだから、いろいろ教えてほしい、かな?」


「そっか。ここは青井さんの城なのかい?」


「多分違うわね。」


「そっか。んーっと、調査の依頼を報告しておかないとまたここに冒険者が来るかもしれないので、明日行って来ようと思うんだけど、いいかな?」


 澄は少し考えた。

 明日は道具屋も休みだから着いていくことが出来る。


「私も一緒に行っていいかしら?」


「ああ、それだとありがたい。」

 何がありがたいのかしら、と思ってふと思い出す。


「パワーストーン知らない?」


「パワーストーン?なんだそりゃ?」


「丸いオパールをもとに作ったのだけど。」


「ああ、あれかな?」


 そういってリチャードは荷物からオパールを取り出した。


「それ。私のだから返してもらえます?」


「申し訳ない、お返しするよ。君は魔法が使えるんだね。」


「ええ、少しね。」


「すごいなぁ。」


 そんな会話をしている中、ノーブルが戻ってきた。


「・・・お前が人の事言えたものか。」


「ありがとう、えーっとノーブルさん。」


 食器を洗ってくれたのだろう、手を拭いていたのでお礼を言う。


「・・・ん。」


「なんだよノーブル、俺がなんで人の事いえないんだ?」


「・・・お前は魔法が通じない変態だからだ。」


 今度は澄が驚く番となった。


「えっ?どういうこと?」



「おいおい、ノーブル。変態はないだろ。」


 聞いてみると、リチャードとノーブルは元々ソロの冒険者だったらしい。

 ある日、死霊退治の依頼が出ていたとある村で二人は出会ったという。


「あの頃のこいつは狂犬みたいだったな。」


 リチャードは笑いながら言う。


「・・・お前は今と変わらず変なやつだった。」


 ノーブルは首を振りかぶって言った。

 澄から見てもこの二人は相性がよさそうに見える。


「死霊にはさ、後ろにボスがいるんだけど、これがリッチっていうやつだったんだ。」


 可笑しそうに笑うリチャードを忌々しそうに見るノーブル。


「普通リッチの相手はしない。それに比例して報酬も恐ろしく高額なんだけどね。その依頼書を見ていた時にノーブルと出会ったんだ。」


 それまでの経験でソロでは限界があることを感じていたリチャードは仲間を欲していたが、彼の目にとまる者はなかなか居なかったらしい。

 そんな折、二人は出会った。

 リチャード曰く


「運命だった。」


らしいが、ノーブル曰く


「悪夢だった。」


らしい。

 リチャードはノーブルの身のこなしを見て、こいつこそ相棒!と思い猛烈に誘った。

 しかし、ノーブルは性格からしてソロ向きであり、この誘いを簡単に断る。

 だが、リチャードはあきらめなかった。


 しつこく食い下がるリチャードに嫌気がさしたのか、難易度の高い死霊討伐を達成してきたら仲間になってやるとノーブルは条件を提示した。

 普通であればソロでの討伐は無理だ。


 そう普通の者なら。

 しかしリチャードは普通の者ではなかった。

 彼は生まれつき一切の魔法が通じない不思議な体質の持ち主だったのである。

 リッチが忌み嫌われるのは、死の手や幻覚、恐慌といった厄介な魔法ばかりを使用するためであった。

 魔法を使うにはどんな魔物でも魔法の集中に入る。

 リチャードにはもともと魔法は通じない。

 魔法を唱えるリッチに構わず銀の剣を何度も突き立てを倒してしまった。

 いつでも逃げれる態勢で討伐に同行していたノーブルは、リチャードの体質に呆れると共に、自分が賭けに負けたことを知る。

 それ以降、二人はコンビを組んで旅の冒険者として各地で依頼をこなしながら生計を立てて来たのだと教えてくれた。

 ついでに年を聞いてみた。


「俺は今22だったかな?」


「・・・20だ。」


 当たり前というか、二人とも年上だった。


「青井さんは何歳なの?」


 普通女の子の歳なんて聞かないわよ?なんて思いながらも、隠すような年でもないので18と答える。

 リチャードは遠い目をしながら、俺にもそんな頃があったな、などとぼやいている。

 最悪の出会いだったけど、この二人はそんなに悪い人達じゃなかった。

 ただ、リチャードには魔法が効かないらしいから、何かの実験には使えないのが残念だった。

 ノーブルは無表情で無愛想だけど、甲斐甲斐しく世話をやいてくれるので、実験相手にするつもりはない。

 二人の身の上話を聞いたあと、それぞれ別々の部屋で寝ることにした。


 ノーブルは奥の扉の内側から鍵がかけられるように細工を施してくれていた。

 その日、悲しいこともあったけど、新しい出会いもあった。

 澄は不思議と心が落ち着いていたのか、横になるとすぐ眠りに落ちた。



 次の日の早朝、良い匂いがしてきたので目が覚めた。

 扉を開けて台所に向かうとノーブルが何やら料理をしていた。

 私に気付いたのか


「・・・おはよう。」


と言ってくる。

 この人は無愛想じゃなければもっと良いんだけど、そんな事を考えながら


「おはようございます。」


と返す。

 井戸から水を汲みあげ、陶器の入れ物に入れる。

 そして残った水を桶に入れて顔を洗う。

 そのあと、皿を出してノーブルに手渡すと、彼はその皿にハムと目玉焼きを盛り付けた。

 男の人の料理なんて見たことなかったけど、普通に作るんだな、と感心した。

 テーブルに水を入れた陶器を持っていき、コップを人数分出す。

 ノーブルはバターをフライパンに落とし、その上にパンを適量切って落とし、ある程度焼いたところで皿に移し替えるといった作業をしていた。

 ひどく手馴れている。

 視線の意味に気がついたのか、


「・・・野宿で慣れた。」


と呟いた。そういうものかと思い、彼の作った朝食をテーブルに並べる。

 その頃、入口が開く音が聞こえ、ガシャ、ガシャという足音が響いてくる。

 ノーブルが何も反応しないのを見て、おそらくリチャードだと思っていたところ、テーブルの置かれた部屋に鎧を着たリチャードが入ってきた。


「早いね。おはよう。」


 私を見てあいさつをしてくる。


「おはようございます。」


と返事をして、何をしていたのか聞いてみた。


「ああ、周辺に魔物が居ないか確認していたんだ。ここは安全なようだね。」


 そういってテーブルに置かれた水を飲み干す。

 ここに来てから魔物は居るという話は聞いたけど、確かに一度も会ったことはなかった。


「うまそうだな!食べていいのか?」


 そういうリチャードにノーブルは苦笑しながら


「・・・手くらい洗ってこい。」


と言うのであった。



 朝食をとったあと、村に向かうための準備をした。

 向かう村の名前を聞くと、ラフォールの村という回答だった。

 違う村なのかと、少しだけ安心した。

 ノーブルが依頼の報告について簡単に説明する。

 アイアンゴーレムは倒してしまったから、その欠片を持っていくことでまずアイアンゴーレムが居たという証拠を提示する。

 その次の報告として魔法使いの存在の有無を報告しなければいけないらしい。

 別に隠すことでもないので、私が魔法使いであるというつもりらしい。

 信じてもらえるのかな?


 その後、二人は私を仲間にしたと説明するのだそうです。

 魔法の使い手はこの世界ではそんなに珍しい存在でもないが、普通は貴族のお抱えになったり、魔法ギルドで働いていたりと、冒険者になる魔法の使い手が珍しいため、まれに冒険者同士のいさかいのネタになったりするらしく、これが面倒な事に巻き込まないための処置なのだそうです。

 まぁ、この二人はしもべなんですけど。


「さてと、行きますかね。」


「・・・うむ。」


 準備を終えた二人に着いていく。

 先頭はノーブル、そして私、リチャードの順番で並んでいる。

 途中休憩をはさみながら歩くこと2時間後、ラフォールの村に到着した。

 ラフォールの村はスワンの村に比べてそんなに大きくなかった。

 歩きながらリチャードにラフォールの村について聞くと、目立った観光資源も無いらしいけど、交易の中継地点であるため、宿屋が多いということを説明してくれた。

 そうこうしているうちに情報屋の建物についた。

 リチャードが扉を開けると、中には数人の男が壁に貼られた紙を見ていて、カウンターの奥には男の人が居るのが見えた。

 リチャードが建物の中に入ると、カウンターの男の人が声をかけてきた。


「お、リチャード早いな。どうだった?」


 そういうと、カウンターの男の人はリチャードから建物に入った私に視線を移してしげしげと見ている。

 リチャードは慣れた手つきで荷物から袋を取り出すとカウンターに置いた。


「ちょっと言いづらいけど、これがアイアンゴーレムの残骸だ。」


「ほう!やっぱり居たのか、どれどれ。」


 そういうとカウンターの男は私のアイちゃんの一部を取り出す。

 手だけは綺麗に残っていたのでそれを持ってきていたのだが、取り出されたそれを見たとき、私はやっぱり悲しくなった。


「これはたまげた。本物だな。で、調査の結果はどうだったんだ?」


「ええ、そこに居る女性がアイアンゴーレムの使役者でした。」


 カウンターの男の人は私に驚きの目を向けた。

 アイちゃんの手を見て悲しくなったので、目を伏せた。


「それで、まぁ、彼女特段何かをしてたわけでもなかったのに、私達がアイアンゴーレム倒しちゃったんで、めっちゃ怒られました。」


 リチャードは苦笑いをしている。


「ほいで、まぁ、この人、私達の仲間としてこれから冒険者になるので、よろしく。」


 そういってリチャードは、これが依頼の報告です、と付け加えた。


「そ、そうだったのか。そりゃ悪いことをしてしまったな。ああ、そうだ、これが報酬だ。」


 そういって後ろの棚から2つ袋を取り出す。


「廃城調査だけなら500ゴルド、アイアンゴーレムの討伐が2000ゴルドだったんで、あわせて2500ゴルドだ。確認してくれ。」


「え、討伐の話は聞いてないよ?」


 リチャードが聞き返すと、カウンターの男はそれに返事する。


「討伐までは出来ないと思ったから、あの場では言わなかったがね。」


 そう言って言葉を切ると、ノーブルをあごで指してから


「彼から情報提供料はもらっているから、問題ない。」


と続けた。

 この言葉にリチャードがノーブルを顧みる。


「・・・うむ。」


 ノーブルはリチャードに頷いた。


「ノーブルてめぇ、だから魔法石買っていったんだな!?」


「・・・そういうことだ。」


 リチャードはかぶりを振りながらも情報屋から2つの袋を受け取り中身を確認した。

 金貨が2枚と銀貨が50枚入っている。私は普段銅貨しか見たことがなかったので、冒険者というのは儲かる仕事なのかと思ってしまった。それに比例して危険が多いのだろうけど。

 報酬を確認したリチャードはノーブルに袋を手渡した。

 私が不思議そうにノーブルを見ると、


 「・・・こいつは浪費家だ。」


といってリチャードをあごで示した。

 なるほど、お金の管理はノーブルがやっているわけだ。無愛想で無表情で冷淡で何を考えてるかわからないけど、ノーブルって真面目そうだもんね。


 ・・・褒めてるんですよ?


 その後、カウンターの男の人が美人の魔法使いを仲間にするなんてすごいな!っていうことをリチャードに言っていたけど、彼は苦笑いしているだけだった。


 しもべになれとか言われてるし、確かに良い表情にはならないわね・・・。


 情報屋での報告が終わったあと、私はその日のうちにスワンの村に移動したいと言った。

 2人がなぜ?と聞いてきたので、道具屋の休みは今日だけだということを伝えた。

 スワンの村はラフォールの村から5時間ほどかかる場所にあるという。

 瞬間移動で私だけ帰るから、後で来てね、っていう手もあるんだろうけど、この人たちにはアイちゃん以上に働いてもらわないといけない。だからしばらくは一緒に行動しなきゃね。

 2人は予定があるわけでもないから、といって昼をとった後スワンの村へ向けて移動することになった。


 3人で話した結果、あの城はもう使わない方がいいかもしれないということで落ち着いた。

 便利なのに、と思ったけど、2人は魔法を使えない冒険者なので、人里離れた城をベースにするのは効率が悪い。だから村か町で活動をしたいという要望を私が聞き入れたのだ。

 あの城には寝るときに使っていた薄手の毛布がある程度で、ほかに私物が無いこともあって、便利な場所ではあったけど、私1人でなら瞬間移動できるし、問題はないと思った。


 こうして、私たちはラフォールの村をあとにした。

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