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紡がれる冒険譚  作者: 七櫛
第一章
2/59

実際飛ばされたら恐怖以外なんでもないです。

 私の名前は青井澄あおいすみ

 18歳、女。

 日本で暮らしていたら、今年は大学受験だったはず。

 1年と1か月前、突然知らない部屋で目が覚めた。

 見たことのない部屋、そこは広かった。

 布団なんかない、ただの石の部屋。

 私はその部屋の床で寝ていた。

 わけがわからなかった。

 お父さんを呼んでも来なかった。

 お母さんを呼んでも来なかった。

 お姉ちゃんを呼んでも来なかった。


 怖かった。


 どうしてこんな場所にいるのかわからなかった。

 家の自分の部屋で寝ていたはずだった。

 私の叫びで誰も来なかった。

 しばらくしてお腹が空いた。

 お腹をさすってみたら、寝る前に着ていた寝間着とは違うことに気付いた。

 着ているものを見たら見たことのない服だった。

 ローブ?ゆったりとした純白のその服は私のサイズにピッタリだった。

 普通の寝間着だったはずだけど、わからない。

 部屋を出てみた。

 柱が4本ある広間だった。

 全く知らない場所だった。


 泣けてきた。


 誰かに今の状況を説明してほしかった。

 その時、私は不思議な感覚に襲われた。

 イメージと言えばいいのか、それは集落っぽかった。

 よくわからないけど、そこに行きたいと思った。

 私の意識にある集落が現実のそれと重なり始めた。

 そして、私はその集落に移動した。

 わけがわからなかった。


 その集落で歩いている人達を見て、さらにわけがわからなくなった。

 歩いている人達は、同じ学校の男子がやっていたロールプレイングゲームの世界の人が着ているような服装で、建物も日本にあるようなものじゃなかった。

 キョロキョロしていたら、目のあった女の人が声をかけてきた。


「どうしたの?」


 相手の言葉はわかる、だけどその言葉が日本語じゃないこともわかった。私は素直に聞いてみることにした。


「・・・ここはどこですか?」


「え?あなた冒険者ね?ここは西の公爵様の治めるスワンの村だよ。」


 西の公爵様?スワンの村?日本じゃないの?


「ほら、この村のすぐそばにある湖に白鳥がたくさんいるの。それで付いたのがスワンの村ってわけね。」


 何が面白いのか、その女の人は笑っている。

 ここは日本じゃなさそうだということがわかった。

 そしてこの女の人のしゃべり方はおばさんっぽかった。


「・・・そうですか。」


 その時私のお腹がクゥと鳴った。とても恥ずかしかった。


「あら、お腹すいてるのかい?冒険者だったら情報屋に行けば食いぶちはあるだろうけど、あなたみたいな女の子が冒険者になるなんて、世も末だね。」


 冒険者になんてなってない。そんなことを考えていたら女の人は私の手をとってきた。

 びくっとなったけど、すごく優しい手つきだったからそのまま手を預けた。


「んー。冒険者っぽくない手だね。どこから来たの?」


「わからないんです。」


「え?わからないって・・・。」


「どうしてここにいるかわからないの。」


 女の人は少し困ったように、でもやさしく


「そっか、じゃあうちでご飯食べていきなさい。自分の名前は憶えてる?」


「澄といいます。」


「澄ちゃんね。うちはこっちよ。あ、私はロールっていうの、よろしくね。」


そういうとにっこり笑って家に案内してくれた。

 ロールさんの家は農家らしい。

 10歳と8歳の男の子2人と旦那さんがいるらしい。

 おばさんっぽいと思っていたけど、28歳だと言っていた。

 ・・・ごめんなさい、お姉さん。そしてこのお姉さんはとても優しかった。


「うちもそんなに裕福じゃないから、今回だけだよ。」


 そういって大量のご飯を作ってくれて、お腹いっぱい食べさせてくれた。

 食べながら、無性に泣けてきた。

 ここは日本じゃない。

 ただの女子高生だった私がどうやって一人で生きていけばいいのかもわからないからだ。


 食後にロールさんに、本当にここが私の知っている世界と異なるのかそれとなく聞いた。

 ロールさんは私が記憶喪失だと思ってなんでも話してくれた。

 この世界は一般的にアストラルと呼ばれているらしい。

 大昔に神様達が戦争をした傷跡が各地に残されているとか、その戦争の時に神様達が作り出した魔物が徘徊しているとか、なんてファンタジーな世界なんだろう。

 一般的にはゴブリンやコボルト、なんと竜まで居るそうだ。

 残念だけど、魔物の名前を聞いてもいまいちピンと来なかったのは、ただの女子高生にそんな知識が無かっただけ。

 竜は、なんとなくわかった。日本の童話にも出てきますしね。蛇みたいなにょろーってした大きくて空飛ぶ空想上の生き物、ですよね?

 ロールさんは四本足で翼が生えているらしいと言っていた。

 私が想像した竜とは違っていることがわかった・・・。


 そして、魔法を使える人も居るという話も聞いた。

 ・・・もしかして、さっき私が使ったのって。

 そう考えて、魔法でどこかに移動することができるのか聞いてみた。

 できる、という話は聞くけど、それは魔術師じゃないと無理と聞いたことがあるという話だった。

 この世界の魔法を使える人は、魔法使い、魔道士、魔術師と分かれているらしい。

 生まれ持った素質なので、魔法使いはどんなに頑張っても魔術師にはなれないという。

 魔術師になれば学んだ全ての魔法が使えるけど、魔法使いは使える数も使える魔法も初歩魔法と呼ばれるものだけなのだそうだ。

 どんな魔法があるのか聞いたけど、詳しくはわからないということだった。

 ただ、魔術師はこの世界でも数えるほどしか居なくて、とても珍しい存在だということを聞いた。


 村は基本的に農作物、漁獲物、工芸品といったものを生産する拠点として認識されていて、人口は多くないとか。

 町はその生産拠点に神殿や情報屋の地方本部が置かれてあったり、武芸の道場があったりするそうで、人口は比較的多いらしい。

 町を超えるものには街があって、これは地方の領主が住む町という扱いだそうだ。

 この世界に身分制度はあるけど、貴族と平民だけなのだという。

 ロールさんは、貴族の方が階級に縛られて面倒だから、平民達の方が自由だと思うよと言って笑っていた。


 冒険者というのは、魔物を退治したり困った人を助けたりと、言い方を変えれば何でも屋さんだと笑いながら言う。

 ロールさんは私の様子を見て、行商人にも見えなければ農家でも漁師でも技師でもなさそうだったから冒険者なのかと思ったみたい。


 このほかにも色々聞いたけど、ほかの集落や町等への移動は歩くか馬とかロバらしい。

 馬を持つのは貴族並の収入が無いと維持出来ないみたいで、一般的じゃないそうです。

 冒険者は武器を持っているけど、この地方では剣とか槍を持っているのを良く見かけるそうだ。

 話を聞き始めたあたりで、ここが地球では無いということははっきりしていたが、私の常識とは相当にずれている世界だということはわかった。


 ・・・どうしよう。

 いきなりですが、軽くめまいがしてきました。


 ふと治安はどのくらい良いのだろうと思って、盗賊とか海賊とか居るのか聞いてみたら、海賊は聞いたことないけど盗賊や山賊という集団は居るらしい。

 治安も完全には良くないようだ。

 そうした一般的なことを聞いたあと、自分の身の振り方を考えて、この村での働き口を聞いてみることに。


「確か道具屋さんのところが働いてくれる子を探していたわ。」


 確認のために、この世界の報酬はその日払いなのかどうか聞いてみたら、


「え?それ以外の払い方ってあるの?」


と逆に聞かれた。

 どうやら日本とは違って月給みたいな習慣は無いみたいだ。

 なぜこんなことを聞いたかというと、一か月後の給料なんて待っていられないからです。

 元手も何も無いですからね・・・。

 ロールさんはいい人だけど、頼りきるのは良くないし、頼るのが正しいのかもわからないというのも実際の話。

 いろいろ話を聞いていたら、なんだか拍子抜けするくらい吹っ切れた自分がいることに驚いて、思わず苦笑いした。

 その苦笑いを見て、


「あなたみたいな綺麗な子だったら看板娘になるわね。」


とロールさんがにっこりと笑った。

 ・・・普通よりちょっと上くらいだと思ってたけど?と少し驚いた。

 私が驚いたのを見たからか、


「何びっくりしてるのよ、私が声かけたのも、綺麗な子だったからよ。」


なんて言いながらころころと笑っていた。

 そのあとロールさんに道具屋さんの場所を聞いて、お礼を言って別れた。


 道具屋に行くと、おじさんが店の中にいた。


「いらっしゃい。何かお探しでしょうか?」


「働いてくれる人を探しているとロールさんから聞きました。」


「おや、ロールさんの紹介ですか。それじゃお願いします。」


 そういって私はあっけない程簡単に働き口を見つけた。

 1日の給料は5ゴルドらしい。自己紹介をすると、その日から働くことになった。

 この店にある食料品はまとめ買いで2ゴルドだったので、一日の食費はだいたい2ゴルド位だろうと思う。

 これで当面の不安は無くなった。

 道具屋のおじさんはディルさんというらしい。

 買付けで町へ行きたいが、妊娠した奥さんの体調が思わしくないため、無理をさせないため奥さんの補助として店番を探していたのだそうだ。


 ディルさんは私にいきなり店番を任せることをせず、数日間扱っている品物の説明や、仕入れの仕方、並べ方などを教えてくれた。とても親切な人だと思う。

 ディルさんの奥さんであるエピさんとも一緒に仕事をした。

 そして、私が一人でも店番を出来るとわかるようになると、ディルさんは仕入れのため町へと複数人で旅立っていきました。


 働き口が道具屋であることは私にはありがたかった。

 食料品はもちろん、生活必需品が置いてあったからだ。

 当初は仕事が終わると、私は村の外れまで移動してから、周囲に人が居ないのを確認して最初の石の部屋に魔法を使って戻っていた。

 隠す事が正しいことなのかどうかわからないけど、目立つのは良くないと思っていた。

 私がこっちの世界で目を覚ましたところは大きな屋敷なのか、小さい城なのか判断出来ない建物でしたが、誰も使っていないようだったので、好きに使うことができるというのも理由になるかもしれません。


 最初に戻った時、料理を作ろうとして困ったことがあった。

 日本では知識だけでしかなかった釜戸がこの城にあったのだが、何もないところから火を起こす方法を知らなかったのだ。

 釜戸の脇には古くて使えるかどうか分からない薪があったが、それを釜戸にセットしてみたものの、それ以上のどうすれば良いか知識が無かった

 釜戸の前で悩んでいる最中、なんとなしに薪のところを見ながら火が付けばいいのに、と薪で燃える炎をイメージした瞬間、薪が勢いよく燃えあがってびっくりした。

 しかし、この時に私は魔法が使えるのだということを自覚した。


 後日、道具屋で働いていると本を目にした。

 異世界の文字が読めるかどうか気になり開いてみると、書かれた文字は見たことのないものだったのに、なぜかすべて理解できた。

 不思議な感覚だったが、知識を蓄えることが出来ることに感謝した。


 道具屋では扱っている品物が多い割に、値段の表示をしていなかったため、間違えないよう商品のそばに値段を書いた木の板を置いておくことにした。

 すると、それまで値段を聞いてきていたお客さんの相手が少なくなり、取り引きがスムーズに行くようになった。

 どうやら、値段表示の文化は無かったらしい。

 買い物に来ていたロールさんに


「これ澄ちゃんが考えたの?すごいね!」


などと褒められたりした。

 自分のアイディアではないので恥ずかしいなって思っていたら、


「はにかんだ澄ちゃんもいいね!」


とさらに突っ込んだロールさんが楽しそうに笑っていた。


 村といってもここは湖の白鳥が有名なところでもあったので、旅行客で賑わう場所でもあった。

 道具屋には白鳥をあしらった木彫りの工芸品や湖の脇で採取される薬草等が名産として置かれていたため、それを買って行ってくれる客も多かった。

 ただ、ちらちらと私に視線を送ってきたり、商品の代金を渡そうとしつつ私の手を握ってこようとしたりとやや困った男性のお客さんも居た。

 中には何やら決死の覚悟をした表情で手紙を手渡してくる男性も居たけど、正直なところ困る以外に思うところが無かったため、全て断っていると受け取らずにいた。

 商売は笑顔が大事だから、我慢して笑顔だけは絶やしていませんでしたけどね・・・。


 そんな感じではあったけど、安定した生活を送るうちに、ディルさんが仕入れから戻ってきて、店が繁盛していることを驚いていた。

 やっぱり売り子が問題だったか、と呟いてエピさんにどつかれているのを見たときは笑ってしまった。

 ディルさんが仕入れてきた物の中にいくつかの本があった。

 この世界について勉強しなければならないと思っていた私はそのいくつかの本を購入した。


「まさか澄さんが買うとは思わなかった。」


 そう言いつつもディルさんは仕入れ価格と同じで売ってくれた。


 そして、私はこの世界に来て3か月が過ぎた。

 大まかにこの世界の事がわかったような気がする。

 あれから、ディルさんが仕入れてくる本を定期的に買っては城に持ち帰って読んでいた。

 その中にあった“初心者にもわかる魔法の知識”という本は良く読んだ。

 この世界には魔法がある、そして、私はその魔法を使うことが出来る。

 私の中では常識外れではあったけれど、確かに魔法としか説明出来ないような力が使えてしまうことに疑問を感じていた。

 この本はそんな私にとって教科書になった。


 まず、この世界の魔法は系統が恐ろしいほどたくさんあることがわかった。

 一般的なファンタジーで出てくる精霊系5系統(地、風、火、水、召喚)や治癒系に加えて、移動系、光・闇系、防御・警戒系といったもののほかに、情報伝達系、知識系、肉体操作系、物体操作系、呪文操作系、精神操作系、魔化系、音声系、動物系、植物系、死霊系までもが存在するという。

 さらに、各魔法は別の系統の魔法とも密接に関連していて、特定の魔法の習得には前提となる魔法が存在するらしい。

 それらの魔法は地味な効果であるものが多かった。

 個人的に“土変化”って何・・・と素で思っていた。


 さらに言えば、あまりにも魔法の数が多すぎて覚えきることが出来るのか疑問だった。


 それでも、どの魔法を使えるのか確認するため精霊系を試してみると、地と火の系統が使えることがわかった。

 この世界には風呂という文化が無いので、水の魔法が使えないのは残念だった。

 魔法に頼らなくても、いずれ入れるよう頑張るつもりだけど。


 このほか治癒系についても使えた。偶然怪我した小鳥が迷い込んできたので、“小治癒”を使ってみると元気になって飛び立っていったのだ。

 瞬間移動は移動系の魔法だった。瞬間移動は1日に2度使うと、ものすごくだるくなるのを最初はなんだろうと思っていたが、魔法を使用すると疲労すると書いてあった。

 魔法を使いすぎると疲労が極限に達して昏睡状態になるらしく、使いすぎると危険だと言うことがわかった。

 瞬間移動についての記述はおおざっぱで、魔術師にしか使えないことや移動距離によって疲労度合が変わるらしい、ということが書いてあった。


 そして、魔法には呪文が存在するらしいことがわかった。

 でも、私は呪文など唱えたことはなかった。

 魔法を極めた者はわずかな動作か、思うだけで使えるようになると書かれてあった。

 この記述の信ぴょう性は疑わしいものがある。


 やっぱり色々試すしかないと思い、思い切ってディルさんに魔法の本を仕入れることが出来ないか聞いてみた。

 ディルさんは最初びっくりしていたけど、澄さんのお願いなら、と言って仕入れてきてくれた。

 自分にはよくわからないけど、と言って売ってもらったその本は魔化系について詳しく書いてある本だった。

 普通に魔法の本が売っていることについて疑問に思い、ディルさんに聞いてみると、


「魔法は使える人は使えるし、使えない人は使えないから一般的には規制がかかってないんですよ。」


と答えがかえってきたが、付け加えるように


「当然ですけど、悪用されそうなものの魔法は載っていないと思います。魔法ギルドに加入すれば譲ってくれるかもしれませんが。」


ということだった。

 魔法に対して意外とオープンな世界なのだということがわかったけど、死霊系とか、情報操作系とか悪用出来そうだけど。


「以前、酔っぱらって魔法で放火をした魔法使いがいたんだけど、その日のうちに魔法ギルドにつかまったことがあったから、魔法の痕跡は残るのでしょうね。」


 なるほど、魔法は何かしらの痕跡が残るようです。悪用してもすぐ捕まっちゃうならかなり高いリスクを背負うことになる。


 そのあと私は魔化系の本について詳しく読んでみた。

 そしてなにか作れるかどうか試してみた。

 まずはクレイゴーレム。

 どのゴーレムも準備がものすごく時間がかかる。

 クレイゴーレムっていうのは土の人形なんだけど、土をこねるのは人間。

 つまり私がやらなきゃいけない。

 一週間ほどかけて、って書いてあったけど、やったことないし見よう見まねだったからすごく時間がかかった。

 人型にして、土変化の魔法を使って形を整える。

 あれ?最初の準備からこれ使えばよかったんじゃないか?と思ったけど、本にはある程度形を決めておかないと人型にはならないと書かれてあった。

 その後ゴーレムの魔法を使うと思いのほか簡単に出来上がった。


 クレイゴーレムが動くのを見たとき、生理的な恐怖を感じた。作り手には絶対服従って書いてあったし、動き始めてもこちらに危害を加えてきそうな様子は一切なかった。

 こうして魔化系も使えることがわかった。

 そして、これは偶然というか、本を読んでいる時に暗かったので、明るくならないかなと考えたら、城の中が明るくなった。

 寝る前に明るすぎるな、って思ったら暗くなった。

 光・闇系についても使えるみたいだった。


 それ以外はまだよくわからない。

 どうしてかというと、相手にかける魔法が多いので確認するのが怖いのです。

 だって普通の女子高生だったんだもん・・・。


 幸い、この城には誰も来ないし、いろいろ実験ができたのはよかった。

 明るいうちは道具屋で働いて、城に移動してからは魔法についての知識を深める。

 作り出したクレイゴーレムなんだけど、可愛くなくて、要らない・・・って思った途端崩れた。

 どうやら作った人が必要としなくなったらすぐに崩れるみたい。

 城の中で崩れたから掃除が大変だった。


 そんな感じで過ごしていますが、今は表面上ディルさんのところで下宿していることになっています。

 最初は移動系で城に毎回帰っていたのですが、エピさんが部屋ひとつ空いてるから好きに使っていいよ、って言ってくれて。

 だから、食事についてもディルさんの家で食べることが出来るようになって、とっても嬉しいです。

 普段の生活で魔法を使うのはまずいと思って、炊事はエピさんに全部教えてもらい、今じゃ魔法使わなくても火をつけたりすることが出来るようになりました。

 ただ、魔法の勉強をしたいから、借りた部屋に入った後、城に移動するようにしています。

 エピさんが部屋の内側から鍵をかけられるようにしてくれたので、部屋に入ったあとは自由に移動できるってわけです。

 買った本はこの部屋に置いて、読みたいものだけ持っていくようにしました。


 道具屋ではずっと働いているわけじゃありません。ちゃんとお休みがあります。

 魔化には武器や防具を強化すること、さらにパワーストーンを作ることが出来るらしいことがわかりました。

 最初の頃は休みの日は本を読んでいるだけだったのですが、このパワーストーンを作ってみようと思いつきました。

 疲労を肩代わりしてくれる石みたいなんですよ。

 一般的なファンタジーで言えば、MPを肩代わり!みたいな感じです。

 この世界って無尽蔵なMPとかありえないらしくて、“瞬間移動”使うと凄く疲れます。

 これは術者の生命力と魔法を使うための素質によるらしいのです。

 なので、この石を作ると“瞬間移動”を使っても疲労度合がかなり変わるんじゃないかと期待しました。


 この世界からいつになったら帰れるとか、考えてみたけどわからないし、そもそも帰れること出来るかどうかもわからない。

 ちょっとブルーになるけど、そんなこと考えてる暇があったら、何か思いつくことをしていた方が気が紛れます。


 というわけで、パワーストーンです!

 思いついた理由も先日ディルさんが奥さんと私にって、オパールの原石をプレゼントしてくれたんです。

 ええっと、0.1カラットで2ミリくらいだったはずですけど、頂いたオパールは4センチくらいあるから2カラットくらいの大きなものです。

 準備は一生懸命丸く削って磨くところから始まりました。


 道具屋の商品の中には原石も置かれていて、削って磨くのも仕事のひとつ。

 自分のものだし、一生懸命やりました。

 納得の出来になるまで2週間程かかりました。疲れましたよ。

 そして、道具屋さんが5日のあと1日休みになるので、その日に魔化魔法を頑張りました。

 この魔化をする時にちょっとだけ、クレイゴーレムを作った時に感じた不思議な感覚を実感することが出来たのですが、うまく説明できません。

 なんていうのか、“瞬間移動”は使うと疲れるんだけど、魔化の時は暫く集中していると、


(あ、今なら成功するかもしれない。)


っていう感覚があって、そこで魔法を使うと成功するのですが、全く疲れないのです。

 気になって教科書を読み返しましたが、このような感覚的な事は書いてありませんでした。


 この感覚を自覚してから、2か月程で10回の魔化に成功しました。

 一般的にこれはすごいらしいことが本の知識でわかりました。

 なんでも1回の魔化に成功したパワーストーンは150ゴルド、2回で300ゴルド、3回で500ゴルド位が相場で、10回だと4000ゴルドにもなるそうです!

 売っちゃおうかな!?なんて考えたけど、これは自分用にしようと思います。

 いろいろ実験してみましたが、このパワーストーンは使うとすぐには回復しないようでした。

 不思議な感覚なんですけど、私はこのパワーストーンにどのくらいパワーが残ってるか分かるのです。

 瞬間移動を使うと半分くらいのパワーを使っちゃってました。

 そして、パワーが回復するのに5日かかったので、瞬間移動は結構パワーを使う魔法だということがわかりました。

 そういえば、連続で使うとしばらく息苦しくなってましたから、これは当然かもしれないです。

 そのあと、ディルさんが奥さんと私にまたオパールの原石をプレゼントしてくれました。

 どうやら町で得意先を開拓したようです。

 うれしそうに話していました。

 そのあと、2か月かけて同じように10回の魔化に成功したパワーストーンが出来上がりました。


 このころになると、パワーストーンの回復具合がおかしいと思い始めました。

 ふたつを交互に使っていたのですが、ずっと二つ持ち歩いていたらどっちかしか回復しないんです。

 試しに、1個のパワーストーンを使って城に瞬間移動し、そのパワーストーンを城に置いたまま、もう片方のパワーストーンを使って村に戻ってみました。

 持っていたパワーストーンが回復したところで城に瞬間移動してみると、城に置いていたパワーストーンも回復していました。

 どうやら同じ場所にあるとどちらかしか回復しないようです。

 どちらにしてもパワーストーンが2つあるのは便利には違いないので、2つ作ったことを後悔はしませんでした。


 ここで私はもうひとつ試してみたい魔化があったので材料をそろえ始めました。

 村には鍛冶屋があるのですが、使わなくなったクズ鉄が結構たまってきた、という話を聞いたのです。

 このころになると、私は道具屋で働くお給料を、日用品や本の購入以外で使っていなかったので所持金は結構ありました。

 私は鍛冶屋さんにクズ鉄を譲ってくれるか聞いてみたところ、


「澄ちゃん相手にお金とったらディルに殴られそうだ。」


と笑いながら、どうせゴミだからただで持って行っていいよ、と言われた。

 何に使うのか聞かないのかな?と思ったけど、ありがたくもらうことにしました。

 1回の瞬間移動で持って行けるのは私の力じゃ15キロくらいが精々でした。

 10日かけて必要な量を城に運びましたが、ここからが大変です。


 今回作るのはアイアンゴーレムです。

 城にパワーストーンを置いておくのはいいのですが、これ結構高価なものなので見張り番が欲しいと思ったのです。

 魔化の本では最も強力な兵とされています。

 ただ、準備に5週間程かかるということでした。

 私は道具屋で働きながらの身でしたので、そんなに連続した作業は出来ません。


 こうしてのんびりと作業をしながら、この世界に来て1年、やっとの思いでアイアンゴーレムを作りだすことに成功しました。

 畑を耕せと命令すると1日で人間の5倍くらいの勢いで掘り起こしました。

 しかも疲れ知らず、武骨な外見ですがとっても便利です。

 さらに、眠っていた少女趣味全開で花を集めてこい、と命令するとものすごい数の花を森から集めてきました。

 耕させた畑の半分くらいにアイアンゴーレムと一緒に花を植えました。

 キャッキャッウフフしてその日は大満足。

 そして、道具屋に戻る前には最初の石の部屋にアイアンゴーレムを連れて行ってパワーストーンを手渡して、守るように命令しました。


 アイアンゴーレムにはアイちゃんと名付けました。

 武骨な見かけですけど、私の言うことならなんでも聞く良い子です。


 アイちゃん完成から1か月後、道具屋の仕事も終わり、夕食も終えていつものように私が石の部屋に瞬間移動すると、アイちゃんが居ません。

 変だな、と思った時、広間から誰かの話声が聞こえてきました。

 ギクリとしました。

 その瞬間、



「だれかいるの?」



と私は思わず声を出してしまったのです――。


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