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トモキ・9

 


 「どう?」

 「あ、はいっ」


 店員に声をかけられ、サクが慌てて外へ出る。あらあお似合い、と店員が笑いかけてくれる。立派な筋肉、可愛らしい化粧-この人はどこにいきつきたいんだろう、と思わなくもなかったが、性別をごまかしている自分に言えたことではなかった。


 「でもちょっと浮いちゃってるわねえ、もうちょっとお金出してくれれば」

 「い、いえ、いいんです。眼鏡までつけてくれてありがとうございました。じゃあ-」

 「あ、待って待って。これサービス券よ」

 「はい、どうも」


 早く追いかけなければキサを見失ってしまう、そう思ったが、サクは律儀に券を受け取り、急いで店を出た。



 助かった、全然早い足じゃない。これならすぐに追いつけ-


 「止まれ」

 

 無視して止まろうと思ったが、そんな強気な性格には自分は設定されてなかった。恐る恐る振り返ると、サクは喉の奥でげっと呻いた。警察だ。

 

 「何だよ、明かに怪しいな…コスプレか?暇だから職質させろ、つっても学生か。学校は」

 「ぼ…僕、急いでて…」

 「あー?担任と親御さんに電話しちゃうぞー?」


 再びサクは喉の奥で叫んだ。それはまずい、クドウにだけは知られたくない。視線だけ逃げると、みな暇なのだろう、野次馬が集まってきた。誰も助けてくれそうにない、サクは耐えかねて白状しようとすると、あ、あることに気づいた。パトカーとは思えない、壁に書かれた派手なヤマトの文字-


 「ヤマトさんっ」

 「…あ…?」

 「ぼ、…っ、いえ、私、私です…クドウ先生のとこの…」

 「…おお、お前か!!」


 警察なのに不良のような顔つきで睨まれるから気づくまで随分時間がかかってしまった、彼はある意味、サクの恩人だった。必要以上に愛らしく作られた見かけのため、声をかけられ続けたサクを助け、クドウを紹介してくれたのは彼だった。とてもそうは見えないが、クドウと彼は同級生だったという。

 何だ知り合いだったのか、と野次馬は引いていく。その波で少しキサは足止めをくらっている、よかった、クドウに挨拶する時間くらいはありそうだ。


 「元気か。クドウとは進展あったか」

 「…っ、ありま、せんよ…」

 「はは、そうか。あいつ相変わらずか」

 「先生は…優しいから…」

 「…いや、あいつは優しいっつうか…まあ、いいや。子どもにする話じゃないか…」


 ぽんぽん、とヤマトから肩を軽く叩かれる。顔も怖いし手もクドウよりずっと大きいが、不思議と、彼はサクの怖くない数少ない一人だった。久しぶりだ、クドウともう少し話したかったが、今はキサだ。彼に挨拶して帰ろうとすると、ぎょっとなった。キサがいきなり走り出したのだ。


 「ご、ごめんなさいヤマトさん、もう-」

 「おう、じゃあ」


 またな、と言いかけたらもうサクは行ってしまった。元気で結構、また暇なパトロールに戻ろうとすると、腕を背後から掴まれた。咳き込んではいるが、嫌味なくらいイケメン-エミヤ。ヤマトの始めて見る顔。

 

 「今の子どもは知り合いか」

 「だったら何だ」

 「教えてくれ、どこの誰だ」

 「聞いてどうする」

 「彼女は、俺の行方不明になった妹かもしれないんだ」


 サクが男装しているということを気づいているということに驚き、後の上手すぎる嘘に気づくまで数秒かかった。


 「はは…ははは…ははははははは!!」


 街中響き渡る大きな笑い声、また野次馬が復活してきた。芝居がかった嘘に慣れていらっしゃる-いや、それだけではない。ヤマトはにやけた口が抑えられなかった。久しぶりの感覚だ、このイケメン、極上の犯罪者の匂いがする。


 「こちらもおいそれと教えるわけにはいかないんですよ…大事な大事な市民の情報ですから。まあ、どうしてもとおっしゃるんだったら、詳しい話は署の方、で」


 早い、足技にヤマトが避けると、エミヤがため息をついた。細身すぎるから少し油断はしていたが、この男、そうとう武道に長けている。


 「兄さん、何者」

 「あんたこそ、何者だ。ただの警察がこんなに動けるわけがない」

 「質問を質問で返すなよ…俺は国を守る為だよ」

 「そうか、じゃあ、俺は彼女を守る為だ」


 逮捕したい!!!!


 「公務執行妨害!!」

 「なっ」


 だああああん!!!!


 「な、何、撮影…?」

 「じゃないと…あんな…警察が、あんな思いっきり…」


 思い切りどついて失神させた、逮捕したくてしたくて血が沸騰しそうだったが、何か犯罪を犯さないと逮捕できないのが悲しい現状だ。まだ爆発してない爆弾はただの石ころ、ヤマトは残念そうにパトカーに乗り込んだ。ずっと一部始終を見ていた定年間近の刑事が、びくびくした顔でヤマトを迎える。

 

「困るよお、ヤマト君。上に怒られるの僕なんだよお」

 「すんません、今度五円チョコ奢ります」

 「安い!安いよ、ヤマト君!部下の縁に恵まれろってことかいヤマト君!君のお目付役を離れたらそりゃ嬉しいけど、また一から新人を鍛えないといけない面倒くささもつくんだよ!?」

 「はいはい」


 この上司はものすごく素直で好きだ。迷惑はかけたくない。目をつけた犯罪未遂者も、犯罪犯せないくらい再起不能になるまで痛めつけるのを止めておこう、と思うくらいには。

 視線だけで何気なくエミヤを探すが、もういない。タフな男だ、だが、今は『天使』 とやらにご執着している。そうそう簡単に犯罪は犯さないだろう。

 つまらん、ヤマトは上司が泣き叫ぶまでパトカーのスピードを上げ続けた。



 待って

 お願い、待って

 その子は、わたしと同じ顔なの

 あの男に乱暴されてるかもしれないの-


 「…っ、はっ!!」


 激しい咳払い一つ、サクは起き上がった。喉が異常に渇いている。壁掛け時計が1番に目に入る、それほど時間は経ってないが、すごく頭が痛い。寝過ぎた朝のようだ。よほど深く眠っていたんだろう。

 人形のくせに夢を見る、サクは自嘲気味に笑いながら、周りを見渡した。クドウの部屋だ。走りすぎて倒れたのだろうか、情けない、体力もほとんどないことを設定されてるばかりに-…


 ぎゅ、と、自分の顔を触る。考えすぎかもしれないが、体が疼いて仕方がない。キサを自分と重ねて、昔の自分を助けたくてたまらない。乱暴されている証拠はどこにもないのに。

 助けを求めていたのは-あれは確か、同級生のトモキだ。自分と同じくらい目立たない男子で、確か女子のコズエと仲が良かった。とてもすすんで人助けをするようには見えなかったのだが-


 「やあ、起きた?」

 「先生」

 「君か、よかった。そんな頭かぶってるから、他人だったらどうしようかと思った」


 そうだ、とサクが思い出したようにカツラを取る。クドウが笑ってくれたから、余計恥ずかしくなって、体温設定が顔を中心に上がったのがよく分かった。


 「酷く疲れて倒れていたよ。何かあった?」

 「…あ、あの…」




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