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21☆

慎一郎視点です

祥子が相川にお礼をしたいからと言ったのがきっかけで、海外事業部の部下達ほとんどが、家に来ることになった


祥子も楽しそうで、何の料理を作ろうかと色々考えているのを見るのは、僕としても嬉しかった

何せ、ここ最近祥子の楽しそうな顔を見るのは久しぶりだったから


会社の都合……と言うか、三浦常務の個人的な恨みかもしれないが、祥子をあんな場所に出すのは、僕としても嫌だった

祥子が無理をして頑張っているのは目に見えていたし、それをどうにも出来なかった自分が情けなかった


結果的に祥子は完璧に対応して、三浦常務の鼻を明かした形になった



でもしかし、まさか相川に


「可愛らしくなりましたから」

と言われるとは、夢にも思わなかった


その時の部下達の顔と言ったら……


それから数日後、第3課の橋本から

「奥さんに渡して下さい!」

と写真を渡された


別に見るなと言われなかったので見てみたら、僕のびっくりしたような間抜けな顔が撮られていた


こんなもの撮るなよ……と、頭を抱えていると、相川が

「祥子さん、その写真貰ったら喜ぶと思いますよ」

としれっと言った


睨んでやったら、ニヤっと笑って今日のスケジュールを淡々と読み上げた


内心ため息をつきながら、早く帰って祥子の手料理が食べたいと心から思った



そんなある日、仕事中に祥子からメールが届いた


『お義父さんの所に行ってきます。夕飯はお義父さんと一緒に食べるので、ちょっと遅くなるかもしれません。また連絡するね』


とあった


僕も今日は早く帰れそうもないと、朝出る時に言っていたので、祥子も1人でいるよりは父と一緒にいた方が楽しいだろうと思い


『分かりました。もし迎えに行けたら行くので、帰る時は連絡下さい。父をよろしく』


と返信した


最近実家に帰ってなかったので、父が祥子に連絡して出て来るように言ったんだろうと想像して、早めに仕事を切り上げて帰ろうと思った



しかし早く帰ろうと思ったのだが、なかなかキリがつかず、21時を過ぎようとしていた


祥子からも連絡がなかったので、休憩がてら実家に電話をかけようと席を立とうとしたとき、見慣れない番号から電話がかかってきた


「もしもし?」

「警察のものですが、皆川祥子さんのご主人でしょうか?」

「ええ、祥子は妻ですが……」

「奥さんが、事故に遭われまして……」

「事故!?妻がですか?」


僕の声に部下達が注目した


「それで、妻は?」

「大丈夫です、命に別状はありません。ちょっと車と接触して転んだ時に、足を挫いた程度ですので。それで、病院まで……」

「すぐに行きます」

「分かりました。場所は……」

「……はい。はい。分かりました。すぐ行きますので。はい、お手数をおかけしました」


電話を切ると、みんなが心配そうに見ていた


「命に別状はないらしい。大丈夫だから」


そう言うと、みんなほっとした顔をした


「相川、悪いが後のことは……」

「分かってます。さっきタクシーを呼びましたので、もう会社前に着いていると思います。それと、どんなに遅くなってもいいので連絡してください。俺だけでもいいので」

「……分かった。じゃ行ってくる」



会社の前に着いていたタクシーに乗り込み、病院へ向かった

その途中、父と義母に連絡をしたら2人ともすぐに向かうからと電話を切った


警察の人は命に別状はないと言っていたけど、祥子に会うまでは安心出来なかった

もし、祥子に何かあったらどうしようとそればっかり考えていた

手が震えて止まらなかった



病院に着いて、病室がどこか聞き、急いで向かった

祈るようにドアを開けた


「慎一郎さん……」

そこには、右腕と右足に包帯を巻かれて、右頬に傷を作った祥子がいた


「祥子……」

思わず抱きしめた

よかった生きてたと、やっと安心できた

僕の腕の中に祥子がちゃんといる

神様なんか信じていなかったが、この時ばかりは心から感謝した



「慎一郎さん、心配かけてごめんなさい」

祥子が左腕だけで僕を抱きしめた

「帰るとき連絡してって言ったのに、どうして連絡くれなかったの?警察から電話があったとき、どんなにびっくりして、心配したか……祥子に分かる?」

体を離して、祥子の左頬に手を当てた

祥子は下唇を噛んで、目に涙を溜めていたが、僕は続けた


「会社からここに来る間だって……警察の人は命に別状はないと言ってたけど、本当はどうなんだろうって、もしも祥子に何かあったらどうしようって、そればかり……」


思わず、声が詰まった

祥子は涙をポロポロ流していた


「でも良かった。祥子、生きてた……」


自分の目から涙が零れたのが分かった

祥子がそれを拭ってくれた

今は、それだけで充分だった




祥子の話しによると……

父と夕飯を食べて、さあ帰ろうとした時、まだ20時前だったので、僕もまだ仕事だろうからと、帰り着いたら連絡しようと思ったらしい

父も、送って行こうと申し出たのだが、電車もあるからとそれを断り、1人で帰っていた途中で、事故に遭ってしまったと



祥子と話をしていたら、警察の方と、車を運転していた中年の女性が来た

その女性はこっちが恐縮するくらい必死に謝罪し、これからもちゃんと誠意を持って対応しますからと、警察の方と一緒に帰って行った


それと入れ替わりに、父が到着した


「祥子さん!大丈夫か?やっぱりあの時、送って行くんだった。本当に済まない。慎一郎、本当に申し訳ない」

「お義父さん!頭を上げてください。私の不注意なんですから」

「いや、しかし……」

「父さん、もういいから。こうして祥子も無事だったんだし。誰が悪いとか、そんなのないから」

「でも、本当に大丈夫なのかい?」

「足は挫いてるけど、あとは大したことないって……念の為、明日は頭の検査するから、まだ退院できないけど、大丈夫だから父さん」


それを聞いた父はやっと安心した顔をした


「お義父さん、心配かけて申し訳ありません」

「大したことなくてよかった。何かあったらどうしようかと思ったよ。慎一郎、加山さんは?」

「すぐに向かうとは言っていたけど、まだかかるんじゃないかな」


義母が到着するまで時間があるだろう思い、相川に連絡しようと病室を出た


相川に、祥子はちゃんと無事だったからと伝えると本当に安心してくれて、他の部下達にも伝えておくと言ってくれた


「それと、明日は午後から出勤してくれればいいですからね、部長」

「いや、でもそれは………」

明日は重要な来客が午前中にあったはずだ


「大丈夫ですよ。部下を育てたのはあなたですよ、部長。神崎係長と、俺で対応しますので。第2課の小野課長も了承済みです」

「分かった。頼んだぞ」

「はい。それじゃ」


部下を育てたのはあなたですよ、か……

相川も言うようになったと思いながら、病室に戻ると、中から義母の声が聞こえてきた

明らかに怒った声だった


「どれだけ心配したと思ってるの!だから考え事しながら歩くなって、あれだけ言ってたでしょ!30にもなって、そんなことも分からないの!」


父が義母をなだめているが、一向に収まらない

祥子も、大きな声出さないでと反抗してるし、義母を連れて来たのだろう、義兄の修司さんも呆れた顔をしている


「あんたに何かあったらどうしようって、そればっかり……祥子、子供が親より先に逝くほどの親不孝はないんだからね。頼むから、それだけはしないでちょうだい」

「お母さん……」

「あんたたち3人が先に逝ってしまったら……母さん、気が狂って死んでしまう……」


そう言った義母の後ろ姿は震えていた


「……お母さん、ごめんなさい」

「そうだよ、母さん。俺も祥子も昇司も、母さんより先になんか逝かないから。ちゃんと、母さんを見送るまで、死なないって」

「……頼むよ、本当に。先に逝かれるのは、父さんだけで沢山なんだからね」


僕と父は、なんとなく病室を出た


「父さん」

「どうした?」

「親って凄いね……」


父はふっと笑って言った


「父さんもお願いしていいか?」

「何?」

「お前たちも、父さんより先に死なないでくれ。頼む」

「うん、分かってる」


しばらくの間そうやって、父と2人で座っていた



祥子の母が言った言葉は、作者が実際、母に言われた言葉です


子供の頃はあまり意味が分かりませんでしたが、大人になって考えたら、心に響く言葉でした


読んで下さってありがとうございました


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