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ちょっと短めです
野球の練習に連れて行ってもらった日は、すごく楽しかった
慎一郎さんは約束どおり、メンバーに紹介してくれた
散々冷やかされたけど、みんなに祝福されて、お祝いまで戴いた
慎一郎さんはサードを守ってて、久しぶりとは思えないくらい、華麗にプレーしてた
それはもう、本当に格好よかった
トリップしそうなのを、我慢するのが大変なくらいだった
「奥さんの前だからって、張り切ってたら怪我しますよ〜」
なんて言われてた
慎一郎さんの言う通り、他のメンバーの家族の方も来ていて、ずっとお喋りしながら練習を見てた
専ら私たちの新婚生活の質問ばかりだったけど……
練習が終わって、家に帰る車の中で慎一郎さんが聞いてきた
「祥子、今日は楽しかった?」
「はい。すごく楽しかった。また連れて行って下さいね」
「うん、もちろん」
「また慎一郎さんのユニフォーム姿見たいし」
「僕のユニフォーム姿?」
運転しながら、可笑しそうに笑ってる
「そんなに気に入った?ユニフォーム姿。じゃ毎日、家でも着てようか?」
「……う〜ん。それはちょっと違う気がする……」
私がそう言ったら、慎一郎さんは声を出して笑ってた
なんだか、こんな日常が幸せに思えるなんて、慎一郎さんと結婚してよかったと、しみじみ思った
そんなある日のこと、夕食を食べているときに、慎一郎さんから頼み事があるんだけどと言われた
「えっ?パーティーに?」
「うん、そうなんだ。随分断ったんだけど……」
慎一郎さんがアメリカで勤務していた頃の取引先の担当者が、日本支社の支社長に就任することになり、お披露目を兼ねた就任パーティーをすると
だから、是非慎一郎さんにも出席して欲しいと……
それだけなら良かったんだけど、その支社長さんが、慎一郎さんが結婚したことを知り、是非夫婦で出席して欲しいと言ってきたらしい
「妻は会社の人間じゃないのでって何度も言ったんだけどね……」
「支社長さんって、アメリカ人……だよね?」
「うん……やっぱり断るよ。そういう場所に祥子を引っ張りだしたくないし」
そういう訳にはいかないだろうと言うのは、私でも簡単に想像できた
慎一郎さんが私に頼むこと自体、安易に断ることが出来ないんだろう
「……慎一郎さん、私パーティーに出席します」
「祥子……」
「慎一郎さんと結婚するとき、こういうこともあるだろうなと、ちょっと覚悟してたから」
慎一郎さんは、大企業の部長さんだ
いずれは、役員になることは間違いないだろうと、結婚式の時に会社の人にも言われていた
だからなんとなく、そういう場所に夫婦同伴で行くこともあるのかなと、漠然と思っていた
「祥子……」
「慎一郎さん、ちゃんとフォローしてくれるよね?」
「当たり前。ありがとう、祥子……助かったよ」
『助かったよ』
そんな言葉を慎一郎さんから聞いたのは、初めてだった
本当に断れなかったんだと改めて実感した
パーティーまで、あと1ヶ月半
慎一郎さんの足だけは引っ張りたくない
私は覚悟を決めた
読んで下さってありがとうございました




