12☆
お義母さんは
「祥子が戻って来る前に化粧直ししてくるわ」
と、化粧室に行った
しばらくすると、父だけレストランに戻ってきた
「祥子さんは?」
「あぁ、ちょっと化粧室に……加山さんは?もしかして……」
「うん、化粧室……って」
顔を見合わせて2人揃って口を開いた
「泣かせたのか?」
「泣かせたの?」
お互い呆れた顔をしてため息をついた
「お前、加山さん泣かせるなんて……馬鹿じゃないのか?
もし、破談になったらどうするんだ?
父さんは祥子さんじゃないとお前の嫁とは認めんからな」
「父さんのせいで、祥子さんが僕と結婚するのが嫌になったらどうするつもり?泣かせるなんて……
僕は婿入りしてでも、祥子さんと結婚するからね。そして、父さんとは会わせないから」
「何だと?やっと娘が出来るというのに、会わせないつもりか?」
「ああ、会わせない」
「この親不孝者!」
「うるさいな!」
口喧嘩をしていると、祥子さん達が戻ってきた
「どうしたんですか?2人とも」
「祥子さん、何か父に酷いこと言われなかった?ごめんね?」
「えっ?大丈夫ですよ慎一郎さん。私が勝手に泣いただけですから。
ね?お義父さん」
お義父さんと呼ばれたことが余程嬉しいのだろう
満足そうに笑っていた
「あっそうだ、祥子。さっきお店の人に聞いたんだけど、ここ、隣の敷地で結婚式もできるそうなのよ。慎一郎さんと見学してきたらどう?」
「そうなんですか?
慎一郎、2人で行ってきなさい。父さんと加山さんは、適当に帰るから」
それから父と義母は一緒に帰って行った
僕達は結婚式場を見学することにした
すごくいい結婚式場で、2人して気に入ったので、大安か友引で一番早く予約がとれるのはいつか聞いたら、今から4ヶ月後がちょうど土曜日でキャンセルが出たと言うので、早速予約をした
見学しているときも、相変わらずトリップして、100面相している彼女が可愛くて、僕もずっと笑顔でいられた
その途中、父と何を話したのか聞いてみたけど
「お義父さんと私だけの秘密です。慎一郎さんこそお母さんと何を?」
と教えてくれなかった
だから、僕も教えないと言ったら、頬を膨らませながらトリップしていたけど
これからの長い人生で、いつかそれぞれのこの秘密を話すこともあるだろうと思ったら、彼女との結婚が幸せなものになると改めて実感した
結婚が決まったあとは、大変だった
会社に報告すると、その日のうちに会社中に噂が広まり、社内どこを歩いても注目されるようになった
それが長い期間続くと、こっちだってたまったもんじゃない
「なあ相川、うちの会社はそんなに暇なのか?
僕はただの一社員だろ?
何故こんなに長い間注目されなきゃならないんだ?」
部下の相川健次と出先から戻ってきて、15階にある海外事業部のフロアに移動するだけで、痛いくらい視線を感じる
「天下のF社が暇なわけないです。それだけ部長が有名なんですよ」
「有名人になった覚えはないが?もう、会社に結婚報告して1ヶ月はたったと思うが?」
「何言ってるんですか!
将来有望な海外事業部の部長、顔もいい、仕事も出来る、性格は……ちょっと冷たいけど、F社の最後の独身……」
「もういい!分かった!」
「……なので、部長を密かに狙っていた女性社員は、まだ諦めがついてないと思われます」
「冷静に分析するな」
肩をすくめる相川と、エレベーターに乗り込むと、マーケティング部の進藤奈南美が乗っていた
マーケティング部は、14階にあるので、エレベーターが10階を過ぎる頃には奈南美と相川の3人だけになっていた
「皆川部長、結婚なさるそうですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「お相手の方は……」
「プライベートなことなので。それに進藤さんには関係のないことだと思いますが?」
奈南美の言葉をわざと遮った
相川は、勘弁して下さいよという顔をしていたが……
エレベーターが14階について、奈南美は逃げるように降りて行った
扉が閉まると思わずため息をついた
「ため息をつきたいのはこっちですよ!彼女、元カノでしょ?
関係ないはないでしょう!」
「だからと言って何故婚約者の事を教えないといけないんだ?」
「……部長、よく結婚できますね。俺、部長の婚約者に深く同情します」
心外だと思いながら、エレベーターから降りて、自分の席についた
そして溜まっている仕事にため息をつく
また今日も残業になりそうだ
今度、祥子さんにはいつ会えるんだろう?
案の定残業していると、携帯が鳴った
発信者を見てみると、祥子さんだったので、席にいるというのに思わず電話に出てしまった
「もしもし?」
「あっ、慎一郎さん。ごめんなさい、お仕事中ですよね。あの、友達がっ……ちょっと!美智子!」
「あなたが祥子の婚約者!?」
どうやら、携帯を美智子という友達に取られたらしい
僕は祥子さんと話したいんだけど……
「はい、そうですが。どういったご用件でしょうか?」
あくまで、部下達には仕事の電話と思わせるようにしゃべっていた
美智子という人は、とにかく祥子さんを心配していて、こんなスピード結婚で大丈夫なのかとか、本当に祥子が好きなのかとか、捲し立てて、最後にはこう言い放った
「祥子を不幸にしたら、未来永劫、呪いますからね!!!」
我慢出来ず大爆笑してしまった
もちろん、部下達は僕を見てフリーズしている
多分、僕が大爆笑してることが信じられないのだろう
「美智子っ!何て事を!慎一郎さん、ごめんなさい!」
慌てて祥子さんが謝っているけど、まだ笑いが止まらなかった
「慎一郎さん?大丈夫?本当にごめんなさい!」
「いや、面白すぎて……
祥子さん、お友達に伝えておいて?呪われることはしませんから、安心してくださいって。
今日はそのお友達と飲んでるの?」
「はい、そうなんですけど……」
「そう。じゃ帰りは気をつけるんだよ。また電話するから。それじゃ」
電話を切る直前も祥子さんは、謝っていた
それも可愛くて、携帯を見ながら微笑んでいると、未だにフリーズしている部下達に目をやった
「何が言いたいんだ?君たち。僕が婚約者と話してて、笑っちゃいけないのか?」
至極冷たい口調で言い放つと、部下達はそれぞれ言い訳を言いながら仕事に戻った
また明日から注目浴びるだろうなと思うと、またため息が出た
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