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9☆

慎一郎さん視点です

「慎一郎、見合い話があるんだが会ってみないか?」

「は?」



久しぶりに実家の父から電話がかかってきたと思っていたら、そう切り出された


「いいよ、別に。まだ結婚考えてないから」

「誰か付き合ってる人でもいるのかい?」

「別にいないけど……」

「だったらいいじゃないか」



確かに今、彼女はいない

つい2ヶ月前に別れたばかりだ

理由は簡単

自分の仕事が忙しく、ほとんど会えていなかったから

同じ会社のマーケティング部第1課の進藤奈南美という人で、年は33歳だった

半年程の付き合いで、最後の2ヶ月は全く会えず、向こうから別れを切り出された

付き合ったきっかけも、向こうから付き合って欲しいと言われ、当時彼女がいなかったから付き合った


最初に

「同じ会社だから分かってると思うけど、君とは会える時間もあまりとれないと思う。それでもいいんなら」

と言ったのにも関わらず、それでもいいと言ったから

でも最後は

「いくら忙しいからって、私との時間を作ろうと努力しないんなら、別れましょう」

と言われた


正直僕はホッとして

「分かった、別れよう」

と言ったら、いきなり泣き出したのでびっくりしたけど


奈南美は美人でスタイルもよく、仕事も出来る女だ

次の人事で、係長に昇進するだろうと専らの噂だ

自分に自信があって、別れ話をしても、僕が応じるとは多分思わなかったのだろう

そんな計算高い部分も付き合っているときに、垣間見れたので、長くは続かないだろうとは思っていたけれど……


とにかく今は大きな仕事が控えていたし、誰かと付き合うなどとは、考えてもいなかった

まして、見合いとなると結婚前提だ

考えただけでも面倒くさい


「どこからそんな話を持って来たわけ?」

「この間同窓会に行った時に、死んだ後輩の奥さんが娘さんの結婚を心配していてね。じゃ、それならうちに独身の息子がいるけど、どうだろう?と言ったんだ」

「何を勝手にそんなこと……」

「その後輩は若い頃に他界してしまってね、その奥さんは女手ひとつで3人の子供を育てたそうだ。なんでも、娘さんが小学校の頃だそうだよ」

「へぇ……」

「自分の結婚生活が苦労ばかりで、娘には楽をさせてあげたいから、条件がいい人を探しているとも言っていたな」


そんな、他力本願な……


「娘さんは大学を出て、実家の近くにある会社に勤めているそうだ。

今は一人暮らしをしているようだがね。年は30歳だそうだよ」

「じゃ、祐二郎に言えばいい。年も近いし」

祐二郎は、3つ年下の弟だ

何故こっちに話を持ってくるんだ……


「祐二郎にも言ってみたんだが、『兄貴の方が先だろう。それに俺、彼女いるし』って言われたよ」


今度彼女を連れてくるそうだと言った父は、嬉しそうだった


「そんなに話を進める理由は?何かあるの?」

「いや、慎一郎がなかなか結婚しないのは、父さん達のせいかもしれないと思ってね……」


すぐには否定出来なかった


両親は、僕が中学1年の時に離婚した

しかも、母の浮気が原因で……

それが発覚した時、父は母の頬に平手打ちをし


「子供達を置いて出て行け!」

と言い放った

あの温厚な父が母に手を上げて、そんなこと言ったのが信じられなかった


母はもう二度としないから許してくれ、お願いだからと、泣き叫びながら父に許しを得ようとしたが、ダメだった


諦めた母は荷物をまとめて出て行った

僕達兄弟にごめんねと繰り返していた


母に置いて行かれたと、やるせない気持ちだったが、その後父が一人で声を殺して泣いているのを見たとき、何かを思ったのも事実



だから、結婚自体に夢も希望も持ち合わせていなかったが、さっきの父の言葉には、正直参った


男手ひとつで僕と弟を育ててくれたことは、感謝してもしきれない


男手ひとつ……


「父さん、そのお見合い相手、女手ひとつで育てられたの?」

「ああ、そうだよ。うちとは逆だね」

「分かった。会うよ」


自分でもびっくりした

考えるよりも早く、口が動いたから

普通なら、絶対会わないと言って、電話を切っただろう

でも、自分と同じ片親の家庭で育ったというその人に興味を持ってしまった


「そうか!よかった。じゃ早速先方に連絡するから。また連絡するよ」



父の弾んだ声は久しぶりだった

まあ会うだけで、父が少しでも喜んでくれるなら、それでもいいかとさえ思った


「どうせ、話は進まないだろうけど」


と、一人で呟いた


読んで下さってありがとうございました

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