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なぜそうなったのか、未だに僕は理解できないでいる。
彼女は最後まで笑っていたし、その姿に悲壮感は微塵も無くて。
けれど、事実は僕に一つの結果を突きつける。
彼女は――自分が住むマンションの屋上に僕を呼び、そこから飛び降りた。
僕の目の前で、僕の好きな人は死んだ。
一年経って、僕の元に一通の手紙が届けられた。
彼女の遠い親類が、荷物の整理中に偶然見つけたらしい、と聞いた。自分が死んで一年経ったら僕に送って欲しいというメモと共に、荷物の底に隠すように置かれていたそうだ。
それは、彼女の遺書だった。
僕へ宛てた、彼女の最後の言葉だった。
見つかってほしくなかったのかもしれない。
でも、見つかったら僕に読んでほしかったのだろう。
見慣れた文字が綴るのは、彼女の想いと後悔。そして告白。常人なら、見た瞬間に破り捨てて彼女の思い出ごと、存在しなかったことにしてしまうかもしれない、とても重い手紙。
けれど、僕はもう常人ではなかったらしい。
手紙を見て感じたのは、彼女への揺ぎ無い愛だった。
まるでその手紙が彼女の身体であるかのように、僕はしっかりと抱きしめる。
――だいじょうぶ、ずっと一緒だよ
そう囁く声を聞きながら、失った温もりを思い描き続けた。
僕は、彼女を愛している。