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自業自得と誰もが言う

作者: 蜜ハチ

首を指で擦られる、その時彼女が目をつぶっているのは眠っているからではない。


「愛してる、」


摩る指先に傷跡がつっぱった、その跡を何度も何度も辿って、それに飽きると彼女の脈を確かめるように喉を軽く押すのだ。

―――脈を確かめる?

そうなのだろうか、両手で喉を押す光景はそれ以外の意味にも取れる。

きっと今、彼は無表情で倒れた自分の上に圧し掛かって瞳だけギラギラと感情豊かに輝かせているのだろう。

その様子は後者の色が強い。


彼女は目を開いた、そして彼を様子見て自分の想像と寸分違わぬことを確認する。

どこか頭が重く、体がだるい。

眠りすぎたのだろうか、今は昼か、朝か、夜か―――


―――おはよう


とりあえず起きた、という前提での挨拶はこれだろうということで口を動かす、動かすだけだ。

どうせこの喉はもう震えることはないのだ。


「―――おはようございます」


けれどこの男にはこれだけで十分なのだ。

見つめれば挨拶のキスを。リップ音のするついばむキスを。


「      」


そして近すぎて見えない言葉を彼女は今日も吐くのだ。














白いワンピースに袖を通してベッドの脇に座り、髪を解いてもらう。

ミーネとしては短くなった髪は梳かなくても別にいいのだけれども、彼が勝手にするから黙っているという状態だ。


ミーネは酷く病的に白く白魚のように細い手足をしていた、それを彼女は日に当たらぬように育てられる遊女のようだと思う。

対して今髪をほぐしている男―――ビンは日に焼けて、細くしなやかに筋肉をつけたなんとも羨ましい背恰好をしている。職業柄なのだろうが、羨ましい限りだ。

―――そんな体をしていれば私にも他に使い道はあるのだろうか?

叶わない“もしも”を考えるのがミーネは好きなのだが、それは彼女自身夢物語だと分かっている、割り切っているのだ。

櫛で梳き終って、油を塗って、彼がその感触を確かめようと何度も頭を撫でる。

――この感触は好きだ、だからやめろと言わないのかもしれない。


侍女の真似事はまだ続く、ベッド脇の彼女の足元へ下りるとその足先を取り、軽く揉んでいく。

慣れた手つきは凝る筋肉も無い彼女でも気持ちがよく、ついついほうと息をついてしまう。


(―――ずっと、こうしてみたかったんです)


以前きいた言葉が頭によぎる、


(―――ミーネ様、俺は―――)


―――そういえば貴方はまただんまりになったのね、


ミーネは口を動かす、けれど先ほどのようにはいかないようでマッサージに夢中になっている彼に彼女の言葉は見えない。

はあ、とため息をついて首をさする。こういう時これはわずらわしい。


彼がここに来た頃は今までが嘘か猫をかぶっていたのではないかと思う程饒舌だったというのにまた彼ときたらだんまりになってきたからつまらない。

この見渡せるくらいの窓のない狭い部屋には小さな本棚に数冊の本とトイレしかない。

本はいつも何かしら新しいものが入っていたが、だからといって飽きないわけではない。

―――つまらん、つまらん、つまらぬのだよ、きみ、

声に出ないから、文句も言える。

彼がふと顔を起こす、この様子だと次は腕のマッサージなのだろう。

腕を差し伸べればうやうやしく手を取り、指先からほぐされる。




―――ふと、目線が合う



彼女が彼をじ、と見つめていたからか、はたまた何か言おうとしているのか。

なに、と聞く代わりに首を倒し微笑む。

彼は物言わずまた、指に意識を向ける、嗚呼なんてつまらない男なんだろう。


彼女はあくびを殺して、このつまらない男になすがままにされて、また“もしも”の事を考えて暇をつぶす。それしか、彼女の娯楽がないのだから。


「お暇ですか」


彼女の心中を察したのか声をかける、視線は指先に置いて、彼女の返答を聞くつもりがないのだろう。

細く長い指、そういえばもう爪が長い。切り時だろう。彼の髪もそういえば切り時ではなかろうか?以前は触ればさりさりと音がしそうな程短く刈っていたのに今では目にかかるほどに伸びた。切ってやろうか


ふあと殺せなかったあくびが出た。



「暇でしょう、暇でしょうね、貴方はお転婆でしたから本だけでは物足りないでしょうね」


おや、と思う。珍しい、彼がこんな長い事しゃべるのは何時振りだろうか。

―――よくおわかりで。

聞いてないだろうが返事をする。


「怒って、否、恨んでるでしょうね」


―――またそれか


「でもミーネ様、分かってください、仕方ないんです」


彼の手の力が強い―――指が痛む。


「こうでもしなければ、俺は、貴方といられないんです」


―――痛いよ、ビン


「離れるだなんてずるい話だとは思いませんか、ねえ」


彼が顔を上げる、ひそめられた眉、髪の隙間から見える目がギラギラと光っていた。



―――      。



「―――…なんて言ってるか、わかりませんよ、」



彼をきつく見やる彼女の顔を手で固定して、口を吸う。

逃さないとばかりに強い力に、こんな細うでがかなうはずがないのだ。

ミーネは伸びた爪でがりがりと背中をひっかいてやったが、それを厭わずにかみついてきやる。


「愛してる、愛してる、愛してる―――」



愛しているという言葉は、ひとつだけなら可愛いのにどうして重ねると怖く感じるのだろうか―――。

ひっかくのをやめた手が、彼を抱きしめて。強く抱きよせて。


男のされるがまままに力を抜く―――自分の、飼い犬のなされるがままに。


















―――私の覚えている記憶は、貴方の事だった。

薄暗い部屋、だろうか。牢の格子越しに見た貴方はその部屋にそぐわず随分綺麗な格好をしていたのがその記憶の始まり。

もみじのような小さな手を、父親が危ないと言うのにぎゅうと掴んで大きな目でこっちを見ていたのだ。

私は初めて物を見たかのような感覚がしたのを覚えている、それほど汚い場所に貴方は不釣り合いで、白い肌が内から光っているかのように見えて、神々しささえ感じた。

貴方は覚えているだろうか、そうして貴方は俺に指差してこう言ったのを。


「この子欲しい」


私には天の言葉のようでさえあった、無邪気ゆえに酷い言葉だと今では思うがその時私にはとてもうれしかった。こんな方に欲しいと言ってもらえるだなんて夢でも見ているかのようだった。

そして私は不安になった、こちらを見る大人たちが私を見る目が困っているのがわかったからだ。それは私が男だったからだろう。

主様は女を探しに来ていたのだろう、母を亡くした貴方の遊び相手に同じ年頃の子を見つくろうつもりのようであった。

なのに貴方は私を欲しいと言った―――私は他の奴らに譲りたくなかった、どうして貴方が私を欲しいと言ってくれるというのに、私もそうなって欲しいと望んでいるのに、どうして他へやらねばならないのか。

貴方は大きな目をうるませて、これがいい、これがいい、と言ってくれた。父親が宥めるのも聞かず、貴方は私を見て手を伸ばして―――早くその手に触れたかった、手を握ってやりたかった。

だから私は懇願した、地に這いつくばって。

主様に、絶対に貴方の命令には逆らいませんと、この方を守りますと、不安ならこの俗物を切ってもいい、この方の為に死んでもいいと。

貴方が泣きじゃくるのが効いたのか、私の言葉と―――そう、この容姿も効いたのだろう。

主様が頷いて、牢の扉が開いたの、そしてすぐに貴方が汚い私を抱きしめてくれた。臭くて、汚かったというのに、綺麗な貴方が汚れてしまうというのに―――それでもうれしくてうれしくて、避けることができなかった。

小さな貴方を今でも覚えている、細い腕や作り物のように小さな手が握ればぐしゃりと言わんばかりに繊細で、触れるのも怖かった。


家で綺麗にされた私に貴方はいつもほほ笑んでくれた、貴方は親指を握って、私はどこへでも付いて回った。

本の読めぬ私に貴方は亡き母の真似事をして本を読み聞かせてくれ、庭をはしゃいで走りまわる貴方を手加減して捕まえぬように追いかけ回ったこともあった。そうして疲れた貴方を抱いて部屋に連れ戻すのが私の昼の仕事だった

夜は情夫へと成り下がる、貴方はきっと知らなかっただろう。貴方が寝静まった後、私が主様の部屋の戸をたたくことを。その後の醜い情事を。

私は自分で言うのも何だが整った容姿をしていると思う、女にも男にも好かれるような、そんな容姿だった、加えて貴方程ではなかったが幼かった私を見て主様は貴方の僕意外の使い道をすぐに考えたのだろう。

だから私はこれを切らなくても済んだ、と考えたらかえってよかったのかもしれないけれど、その頃の私はひたすら嫌悪していた。悪夢だった。

汚れた私を貴方は無邪気に抱きしめてくれるのは分かっていたから朝一番に冷たい井戸の水と藁で体を清めていた。かきむしるほど体を皮膚を爪で削いで洗い流したかった。


貴方は何時でも無邪気に私に微笑む。時折気が向くままに私を褒め、好きよ、とも言う。何も知らぬその笑みや言葉に私は安らぐとともに、いつしか恨んでいた。

私は貴方のように綺麗になどいられなかった、貴方と居るためには汚れるしかなかった、何度ももう逃げてしまおうかと思う程苦痛だった、それでも逃げられなかったのは貴方が居たからだ、それが―――憎らしかった。

それにわかっていたのだ、私は貴方とずっと居られないことを、思えば思う程笑い泣いた。自分が馬鹿で醜く哀れに思えたのだ。

どうしてこんな、貴方の為に汚れて、苦しめられて、逃げられぬほどだというのに、ひとつも私の思うようにいかないというのか!理不尽がいつも私を圧し掛かる。それでも逃げられない私は道化だろうよ。


…そしてこの間の事だ。

今度は主様が馬鹿を踏んだ、あれは商売仲間に裏切られたのだ、組合の中で主様は高位だった、組合の決定権の一部を持っていた、それがあいつらには邪魔だった。

何故こんな事知ってるか、不思議に思うだろう。私は知っていたのだ、もっと言おうか、私が屋敷に真似い入れた人間なのだ。

ぱらぱらと屋敷に入っていく奴らを見て、私はまず貴方の元へ向かった。眠った貴方のもとに。

貴方の部屋の事は向こうには告げていた、それが交換条件だった。貴方には手出しさせない、私の主は貴方だけだ、あの父親は見捨てても私が貴方を見捨てるわけがないだろう。


―――年月とともに育つ貴方は生来の高慢な清楚、とも違う凛としたものを持ちながら、あの頃と変わらず美しく、何も知らぬ純白さで、私には手の届かぬ人だった。

私は貴方の家庭教師が代わった頃に、剣武を教わるために近くの警護団へと入っていた。

始め顔をしかめていた主様だったが、館の者が警護団に入るという名誉、私の口の堅さ、あの時言った貴方を守るということを天秤に掛けるとしぶしぶ了解した。

元々私は主様はその頃からあなたの警護役を欲していたのを知っていた、だから話せたのだ、きっと組合の中で険悪な空気がしていたのはその頃からなのだろう


そして腰に剣を携えて、私は意気揚々とするのを感じながら断末魔の響く館を走った。

―――これで悪夢から逃れる、そして、貴方と居られると!邪魔者もいない、縛る鎖も無い、それに金は主様の元から盗んだものと、交換条件のついでに頂いたものがあるのだ、それに自分は自警団で稼いだ金もある。

南にでも逃げようか、都会に住んで商売をするのもいい、田舎に住んで田畑を耕してもいい、そこで貴方が付いてこないということは考えなかった。貴方はこの館の中で、否、この世界で一番私を頼っているのは知っているからだ。

そうこうしているうちに貴方の部屋へ着いた―――私の思っていた歯車が狂ったのは、ここからだった。


―――あの男、あいつさえ、間違えなければ


狭い家でしか行動しないのだろう、指定していた部屋を間違えたのだ、広い屋敷でどこがどの部屋であるのか奴らはおぼそかにしか覚えていなかった。そして不幸にも―――歯車が、狂う。


男を殺し、襲われたお嬢様を急いで抱いて、怪我の始末を終えて、がむしゃらに屋敷を出た。

もうすぐ屋敷に火をくべられるのは知っていたからだ、走って屋敷を出て振り返ればもう屋敷からは煙があがって―――












起きた私にいのいち飛び込んできたのは、彼だった。

痛めつけられた体、朦朧とする意識、何があった、何が―――


そしてまた私は体が望むままに眠りに付いた、自分を呼ぶ声、聞こえていたのだけれどそれを手放した。





再度起きた私に、彼は言ったのだ。


「屋敷が襲われました、」

「親族の手のものかもしれない、」

「落ち着くまでここで、」










――――阿呆が。



く、と嗤う。

声も出ない笑いを浮かべて、私は嗤ったのだ。











この目の前の裏切り者を、笑っていたのだ。












知っているとも、お前が裏切ったこともお前が私たちを殺そうとしたのも。

あの部屋に飛び込んできた賊が何を言ったと思う?お前は想像しなかっただろうがあいつらは間違えずに私の部屋へ来たのだ、そして私は聞いたんだよ、あのすました男の女だろう、気に食わないといわれたんだ。私は全てを聞いたんだよ。冥土の土産にする予定だったのだ。

涼しい顔で、よくも嘘を言えたものだ、ああ人間とはなんて怖いんだろうね。


一度何かをふっきれた男は、どんどんと行動がエスカレートしていく。

私の体に触れて、私の頬を撫でて、髪にキスを落として、足に口づけを。


――何をするのか、分からなかった、このままこの男は私に何を―――


足が動くようになった頃、私は逃げた。結果など今をみればわかるだろうが、運悪く捕まった。

そこで彼は私が知っていることを知ったのだろう―――恐れていたことが、私の行為によって現実のものへと変わる―――。



「私は貴方の為になんでもしてきました」


抱きしめてキスをして


「貴方が拾ったのだから、最後まで責任をとって、」


肩からするりと服が脱がされて


「―――あいしているんです」


治ったはずの足が動かなかった









人間とはここまで笑えたものだろうか。私はこの男が面白くてたまらない。


滑稽だ、私は何も不幸になれとも思っていないし、お前の人生はお前のものだと思う。

結局は人のせいにして、現実から目をそ向けたいだけだろうにこの男は私のせいにする。

まるで免罪符か、何か、そう、柄ではないが神のように扱われているのを感じた。


神聖視する―――その半面私を貶める。

ここまでめちゃくちゃな人間も珍しい、理解できないが私はこの男を嫌いではなかった。


あんなにまで、いや、今でもだが紳士的に振舞っていた男が獣に落ちる時―――私はどこか遠くから自分を見ている気がしてならない。達観視というものだろうか。


当初あった恐怖心は今でも残っている。

こんな男だ、何が理由で私を殺すかどうするかもわからない。


けれど―――抱かれるたびに私は思い出すのだ。





この男が、好きだったと。


「 愛してる 」



私を優しく見守る貴方が好きだったと、今でもその瞳が昔を思い出させてならないと。

もう発せられない言葉を、貴方は見ようとはしないからわからないだろう。


それでもいいのだ。




今日も私たちはままごとのような関係で ぬるま湯に浸りながら すれ違う。




どうやら私は喋れない女の子がすきなようです(むん!

喋れない女の子はこれで2人目…雰囲気も似ている…ま、まずい!

私の好みがダダ漏れではないかあああWWWW


独り言はさておきお読み頂きありがとうございます。

またお会いできるのを楽しみにしてます、31より。

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