それぞれの過去
放課後になり、クラスの人たちは部活や委員会に足を進める。
かく言う僕もなぜか”図書委員”として図書室へ向かう。
「柊木くん」
振り返ると月待さんがいた。
「委員会、一緒に行こうよ!」
「あー、うん。そうだね、行こう」
断る理由もなかったので月待さんと一緒に行くことになった。
ここ何日かこういう日々が続いている。適当に授業をこなし、放課後は月待さんに声をかけられ、委員会に一緒に向かう。悪くないと思っていた。
今日ふいに図書室で月待さんに
「柊くんは人生についてどう思う?」
と聞かれた。
「なにそれ、急にどうしたの」
突然の質問に驚いて不思議そうな顔をしていると、
「いやね、昨日読んだ本に”人生って何だろう”っていうフレーズがあって、その問いかけがすごい心に残ったから柊くんに聞いてみようと思って」
と、どこか遠い目で月待さんはそういった。
彼女にしては珍しく悲しげな顔で言うので、僕は気になって聞いてみた。
「なんでその問いかけが心に残ったの?」
月待さんは少し目を細めて話し始める。
「私ね、病気なの。ほら、今だって車椅子でしょ?これ、病気のせい。身体の筋肉が少しずつ動かなくなっちゃうんだって」
そうだ、彼女の真っ直ぐで元気な態度で忘れていたが、彼女は車椅子で学校生活を送っている。
急な重たい話になにを返せば良いかわからなくて黙っていると月待さんは話を進める。
「そんな私の人生って何なんだろうって、そう考えてたから、すごく心に刺さったの」
僕はなにも反応できなかった。僕はそんなふうに人生を考えたことがない。考える必要も、意味もないと思って生きてきた人間だから。
「だからね!」
黙っている僕をみかねて月待さんはパッと明るい顔で僕をみながら話しかける。
「私、自分の身体が動くうちに思いっきり”青春”しようって、小説に書いてあるような、毎日が輝いてて、甘くて、ちょっと苦いような、そんな人生にしようって決めてるの!良いでしょ』
「いいね、良いと思うよ』
重たい話から急に夢見がちな女の子のようなことを言うので、僕は少し笑いながらそう返した。
「で、柊くんは?」
「え?」
「次は柊木くんの番でしょ」
当然だろうと言うように聞いてくる彼女に少し戸惑いながら答える。
「僕は、どうでも良いかな。人生とか、そういうのどうだっていい」
ハッとして
「いや、ごめん違くて、そういう感じじゃなくて...」
「なんで?」
「へ?」
「なんでどうでもいいの?」
月待さんは少しムッとしたような表情で僕に聞いてくる。
「...僕だって月待さんみたいにキラキラした人生を夢見てた時だってあったよ」
「あった?」
「そう、あった、でもそんなの夢のまた夢だって知ってるんだ、だからどうだっていい」
そうだ、そういう世界になっている。図書委員のカウンターに目を落としながら、まるで何もかも諦めたかのように話す。
「この世の中はみんな一直線が好きなんだ。出た杭は打たれる。輝こうとすればするほどみんな離れていくんだよ」
輝こうとすれば泥をかけられる。活躍しようとすれば邪魔をされる。幸せになろうとすればするほど幸せは遠ざけられていく。
「僕だって夢とかあった、でもそんなの馬鹿にされたし、努力すれば意味ないって言われたし、笑いものにされて、周りには誰もいなくなった」
少し唇を噛み締めてから続ける。
「そんなのだったら、もう、どうだって良くない?適当に周りに流されて生きてれば誰も離れていかないし、馬鹿にだってされないよ」
「でも、楽しい?そういうの」
彼女が口を質問に胸を刺されるような感覚に襲われる。
「楽しくないよ、でも悲しくもならない、友達も離れていかないし」
月待さんは負けじと
「それでも私は小説みたいな青春が送りたい!」
そうはっきりと言った。
「そっか、良いんじゃない」
僕は目を落としたままそっけない返事を返した。
すると月待さんはニコッと笑いながら
「でも奏くんは私のこと馬鹿にしないんだね」
と小さな声で呟いた。
その事実と彼女に名前で呼ばれたことに心臓が大きく跳ねた。




