それでも
今日も病院に来た。美波のお見舞いだ。結論から言うと、美波はもう歩くことができない。それどころか、病院のベットの上から動けない。意識はあるが、もう下半身の筋肉が動かせない。次は上半身の筋肉が機能しなくなり、各臓器の機能が停止し、美波は死んでしまうらしい。長くはないそうだ。今は受け入れているが、あの日、病室で美波のご両親から説明を受けた時は何を言われているのか理解ができなかった。これから、美波の夢を叶えていこうって時に、まだ一年も経っていない。僕はまた、生きる意味を失いかけていた。
「美波、調子はどう?」
「うん、いつもと同じかな」
美波は気を使って笑顔でそう答えてくれるが、明らかに以前の元気な彼女はそこにはいなかった。今の美波を見ていると前の自分を思い出す。もうなんでも良くなっていたあの頃を。ふとベットの横に置いてある一冊の本が目に入った。あの小説だ。美波の夢が詰まった小説。
「美波、あの本まだ読んでるの?」
「うん、この本を読んでると、奏くんとの思い出が蘇ってきて、笑顔になれるの」
そう言った彼女の顔は、本当に穏やかだった。
「もう、あの小説の女の子みたいにはなれないけどね」
遠くを見て美波はそう言った。僕は悔しくてたまらなかった。なんで今なんだ、せめて、高校生活が終わるまで持ってくれれば、「青春を送る」という普通の女の子ならできるはずのそれを、美波にとっての夢を、あげられたのに。僕は諦めきれなかった。
「美波、その本、また借りてもいいかな」
「え、うん。奏くんになら、いいよ」
「ありがとう」
僕はその本を持って病院を出た。
僕は諦めたくなかった。僕が諦めたら、美波の人生が、生きているのに終わってしまうような気がして。僕は小説を隅々まで読んだ。美波の夢を確かめるように。それから小説に出てくる場面でまだ美波とやっていない「青春」を追いかけに出かけた。水族館で光るクラゲを見たり、夜中の映画館で恋愛映画を見たり、雑貨屋でお揃いのアクセサリーを買ったり。その全てを写真に収めて、毎日美波のお見舞いに行った。その写真を美波に見せながら、美波と行ったらこうなっただとか、これが見たかっただとか、想像に花を膨らませて話していると、美波はとても笑顔で楽しそうにしていた。それがたまらなく嬉しくて、虚しくて、僕は家に帰ってからは、涙が止まらなかった。




