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観覧車

美波と向かったのは観覧車だった。計画を立てている時、彼女がどうしても乗りたいと言ったのが観覧車だった。なんでも美波の好きな例の小説に二人で観覧車乗るという場面があるらしい。僕も多少読んでいるのでその場面は知っていた。

「ね、観覧車だよ」

美波は目を輝かせながら僕に言った。

「そうだね」

僕はそんな彼女を見ながら笑顔でそう言った。順番待ちの時間でさえ楽しそうにしている美波を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。来て良かった。この時はまだそう思えていたかな。

「奏くん、次だよ次」

「ほんとだ、行こうか」

そう言って僕は美波を乗せた後に乗り込む。ゆっくりと観覧車が動き出す。彼女は窓に張り付いて目を輝かせながら辺りを見渡している。まるでそこに夢が広がっているかのような顔をして。

「美波、楽しい?」

「うん、すっごく」

彼女は窓の外にやっていた目をこちらに向けて、満面の笑みでこちらを見た。

「奏くん、ありがとね」

突然向けられたその感謝に、僕は少し戸惑った。

「急にどうしたの」

「いや、私が今こんなに楽しいのも、観覧車に乗れてるのも、全部奏くんのおかげだなって」

「そんなことないよ」

僕はその言葉を心からそう思って発していた。

「美波が好きで、美波の夢を叶えてあげたいって、そう思って行動してるけど、僕が美波を好きになったのも、美波がすごく元気で、毎日僕に話しかけてきてくれたからだし、美波がいつも綺麗だからだし、可愛いからだし...そのなんていうか、僕が美波を好きに慣れたのも美波のおかげっていうか」

自分でも何を言っているのかわからなくなって、顔を上げて美波の方を見ると、ニヤついた顔でこちらを見ていた。

「奏くん、私のこと好きだね」

「まあ、はい」

照れくさそうに僕は答えた。

「でも不思議だね、私と知り合ってまもない頃は何でもいいとか言ってた君が、今はそんな気微塵もなさそうな顔してるなんて、これも私のおかげかな?」

そうだ、全部きみのおかげだ。なんの意味も、色もなかった世界に、きみが意味を持たせてくれた、きみが色を付けてくれた。なにをしたって意味なんてないと思っていた僕には、死んでしまうきみが自分の理想に手を伸ばそうとする、その姿が眩しくて、でも少しでも力を加えてしまったら折れそうなその運命を、僕が支えたいと思ってしまった。そう思わせてくれた彼女がいたから、僕はもう一度この世界に意味を持って生きることができている。

「美波」

僕は顔を上げて感謝を伝えようとすると、そこには苦しそうな表情で窓に寄りかかる美波の姿があった。

「美波...?」

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