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君の夢を一緒に

僕と美波が付き合ってから月日は経って、夏休みになった。付き合ってからは、学校では特に大した変化はなく、いつもの日常を送っていた。大きく変化があったとすれば放課後だ。今までは真っ直ぐ家に帰るだけだったが、二人でファミレスに行ったり、ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーをしてみたり、公園で談笑したり。よくある高校生が送る青春を一通り難詰した。一つ違うとすれば、彼女が車椅子ということだろうか。学校にいる時は全く気にすることがなかった、というか美波が元気すぎてそんなことを感じさせなかった。でもやっぱり外の世界に出ると、隣を歩いて手を繋ぐカップルだとか、彼女の歩幅に合わせて歩く彼氏だとか、色々と周りとの違いは感じる。でも、それでも全然良かった。そんなんことには目もくれず、一杯の笑顔で笑う君がみれたから。車椅子を押す手が、君が振り向いて笑うたびに、暖かくなるのが分かったから。それで良かった。君がいたから。


夏休み初日から僕たちは遊園地に来ていた。入場ゲートをくぐる前から目を輝かせている美波を横目に、僕は二人分のチケットを入場口の人に渡した。

「ね、遊園地来てるよ、二人で」

「え?うん、そうだね?」

振り向きながらそう言ってくる美波に、車椅子を押しながら答える。

「どうしたの急に」

「だって、私がしたかった青春、今目の前に広がってるんだよ」

そうか、そうだよな、美波は今目の前に夢が広がってるんだ。そしてその夢には僕もいる。なんだか嬉しくなって自然と口角が上がった。

「そうだね」

「あ、にやけちゃって。奏くんも嬉しいのかな?」

「うん、もちろん」

目を大きく広げて振り返る美波の顔は、何か言いたげな、でも口をぎゅっとつぐんでその言葉を噛み締めているような、そんな表情で、頬は赤くなっていた。

「...ありがとう」

恥ずかしそうにそう言って美波は前を向き直る。

「何言ってるの、まだこれからでしょ、ほら、あれ乗ろうよ」

そう言ってアトラクションの方へ向かっていく。

色々なアトラクションに乗った。宇宙人やUFOを宇宙船に乗りながらレーザー銃で倒したり、コーヒーカップにのってぐるぐる回ったり、綺麗な洞窟の中を船に乗って探検したり、その洞窟の中のレストランでご飯を食べたり。本当に、全ての時間が楽しかった。なにより、美波がすごく楽しそうで、嬉しかった。

「すっごく楽しいね」

洞窟のレストランでお昼ご飯を食べながら美波は笑顔でそういった。

「うん、すごく楽しい」

「でもすごいね、私でも乗れるアトラクションがこんなにあるなんて」

そう、本当にすごい。最近は遊園地でもバリアフリーが発達していて、園内に美波の乗れないアトラクションはほぼなかった。

「ね、ほんとにすごい」

「でもちょっと疲れちゃったかも」

美波は頬を指で描きながら、少し笑ってそう言った。当然だ。普段から車椅子に乗っていて、運動もそんなにしないのに、こんなにはしゃいだら疲れるに決まっている。

「ちょっと休憩したら、最後にあそこ行こうか」

僕がそういうと、美波は目を輝かせて僕を見る。

「うん、そうだね!」

夏休みに入る前からこの遊園地に来ることは決めていた。学校で念入りに計画を練って、行きたいところも、乗るアトラクションも決めていた。もちろん楽しみで仕方なかったからということもあるが、美波の親にしっかりと説明する必要があると思ったからだ。


夏休みに入る1週間前の朝

「もうすぐで夏休みになるから、荷物の整理とかしっかりしておくんだぞー」

と先生が言っていて、もうそんな時期かとなんとなく思っていると

「ねえ奏くん、夏休みはどこにいく?」

と、隣から美波が顔を覗かせてくる。

「え?うーん、どうしよっか」

と僕が困った顔で言うと

「えーひどい!何にも考えてなかったって顔だ」

「いやごめんって、好きな人がいる夏休みなんて初めてだから」

「そ、そっか...なら仕方ないね」

そう言って美波は顔を赤くして俯いてしまった。でもそうだ、本当に好きな人がいる夏休みなんて初めてだ。普通、恋人がいる高校生は夏休みどこにいくんだろう。海?旅行?プール?...いや、美波が行きたい場所はどこなんだろう。僕もそこに行きたい。彼女が行きたいところに行きたい。

放課後になって、図書室のカウンターで委員会の仕事をしていると、ふと朝の会話を思い出した。

「美波」

本棚の整理をしていた美波をカウンター越しに手招きをして呼ぶ。そうすると美波は、ぱあっと顔を明るくしてこっちを振り向いた。ああ好きだなと思って見ていると、こっちに美波が寄ってくる。

「なになに?どうしたの」

元気いっぱいで興味津々な、まるで幼い子供が一大イベントを目の前にしたような様子で彼女は聞いてくる。その様子に思わず少し笑いながら僕は答える。

「いや、美波はさ、夏休みどこに行きたいとかあるのかなって」

「あるよ。遊園地に行きたい」

遊園地か。確かにあの小説にも遊園地に行く場面があった。二人で乗り物に乗って、レストランでご飯を食べて、最後に観覧車に乗る。特に幸せが詰まった場面だった記憶がある。

「うん、夏休みは遊園地に行こう」

「え!いいの?」

「もちろん、美波の行きたい場所が僕の行きたい場所だから」

そう言うと美波は僕の袖を掴んできた。

「...ありがと」

そう言った彼女の手は俯いたままでも顔が赤いことがわかるくらい、暖かかった。だけど、その後すぐ、何かを思い出したかのように顔を上げて言った。

「お母さんとお父さん許してくれるかな」

確かに、美波を連れ出すのはリスクがある。もし途中で病気が悪化したら、具合が悪くなったら、親御さんが心配しないわけがない。でも、それでも、僕の袖を掴む彼女の望みを叶えてあげたい。

「大丈夫、僕も一緒に言って説明するよ。」

「え、本当...?」

「うん、もちろん。そのために今から念入りに計画立てよう」

「...奏くん」

「ん?」

「大好き」

美波は僕の袖をぎゅっと掴んで、僕の目をはっきりと見て言った。ぶわっと体の奥から熱いものが込み上げる。その勢いのまま僕も

「大好きだよ」

そう返した。それから僕と美波は遊園地に行くまでの道のり、着いてからの行動計画、もし何かあった時のための対応策、色々な計画を抜かりなく話し合った。その計画を話している間、美波は最初から最後までとても幸せそうな顔をしていた。僕はそれが嬉しくてたまらなかった。

夏休みに入る3日前、僕は美波と一緒に彼女の家を訪ねた。彼女の家は普通の高校生の家、というには程遠い大きな家だった。入学式の日、親ではない誰かが車椅子を押していたり、その綺麗な見た目からいいところのお嬢様ということは薄々気づいていた。家の前の門が開き、僕たちは中に入る。玄関の扉を使用人のような人が開けてくれた。するとそこには美波がそのまま大人になったような人が立っていた。一目で分かった、美波のお母さんだ。

「今日は美波のためにありがとうね」

優しい笑顔でそう言った美波のお母さんは、手で僕たちをリビングに促した。リビングに入ると、それはまあ高そうな机と椅子があって、僕はそこに座る。美波は僕の隣の椅子に座ろうとしていたので、手伝おうとしたが後ろの使用人らしき人がにこっとこちらを見て美波に手を差し伸べた。

「ね、奏くん、緊張してるでしょ」

美波が座りながら僕に聞いてきた。

「え、なんで分かったの」

「だって、奏くん家にきてから一言も話してないよ」

美波はそう言って笑っていた。

「誰だって緊張するよ、こんなの」

「そうだね、でもきてくれてありがとう」

そう言った彼女の笑顔を見ると、自然と緊張がほぐれた。そうこうしていると、美波のお母さんが紅茶を淹れて持ってきてくれた。

「奏くん、ありがとうね」

「え?」

紅茶を机に置きながらそう言った美波のお母さんに僕は戸惑いを隠せなかった。

「家に帰ってきてからこの子、奏くんの事ばかり話してるのよ」

「ちょっとお母さん!」

横を見ると美波が顔を真っ赤にしていた。それを見て僕もなぜか顔が熱くなる。

「だからね、美波が奏くんに学校でお世話になっていることはすごく伝わってるの。だから、ありがとう」

席について、深々と頭を下げる美波のお母さんに慌てた様子で僕は口をひらく。

「いえ、その、僕が好きでやっているだけで、なんというか、美波が好きなんです」

慌てた僕の口から出た言葉が、とんでもなく恥ずかしい言葉だと理解した頃にはもう遅かった。美波はびっくりした顔でこちらを見ている。顔が熱い。

「ふふ、奏くん、そんなに美波のことが好きなのね」

顔を上げた美波のお母さんが口に手を当てて、上品に笑いながら言った。

「はい、好きです」

今度は僕が顔を伏せながらそういうと、隣の美波も顔を伏せた。

「それで、お話っていうのは?」

美波のお母さんが笑顔で訪ねてくる。そうだ、その話をしにきたんだ。

「美波のお母さん、僕は美波と一緒に遊園地に行きたいです」

そう言って僕は美波と遊園地に行く計画を話し始めた。遊園地までどうやっていくのか、ついてから何をするのか、休憩はいつ取るのか、緊急時の対応は、美波と決めた全部を話した。一通り話し終わると美波のお母さんが口を開いた。

「うん、いいわよ」

随分とあっさり出たその言葉に、僕と美波はきょとんとした顔で見つめ合う。

「え、いいんですか?」

「だって、ダメって言ったってこの子聞かないもの」

美波の方を見ると恥ずかしそうに指で顔をかいていた。

「それにね、話してくれている時の奏くん、とっても楽しそうだったもの、そんな顔見せられたら、断れないわ」

美波のお母さんは笑顔でそう言ってくれた。自分でも気づかなかった。僕はそんなに楽しそうな顔をしていたのだろうか。ふと横を見ると、にやにやしながら美波が僕を見ていた。少し恥ずかしくなりながら僕は美波のお母さんに感謝を伝える。

「ありがとうございます。」

すると美波のお母さんは紅茶を一口飲んで、優しい顔で

「ただし、絶対楽しんでくること、”青春”してきなさいね」

そう言ってくれた。僕と美波は力一杯頷く。その後、お互い顔を見合って一杯の笑顔を浮かべた。

帰り際、美波のお母さんに袖を掴まれる。

「本当はね、すごく不安なの。だから頼んだわね、奏くん」

美波が玄関から出た後、不安そうな顔で告げられた。僕は真剣な顔で

「分かりました。必ず美波をお返しします」

そう告げると、美波のお母さんは安心した表情になった。そして去り際に

「返してくれてもいいけど、奏くんがもらってくれてもいいのよ」

と、そう何か悪い顔をして言われた。恥ずかしげに頭を下げて玄関を出て、美波のもとに向かう。

「顔赤くしてどうしたのかな?」

そう言った彼女の顔は、さっきのお母さんの顔にほんとにそっくりだった。さすが親子、と思いながら恥ずかしげに

「うるさい」

そう答える。彼女にさっきのことが聞こえていたのかはわからない。だけど

「ありがとう」

美波のその言葉で今は心が満たされた。

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