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⑧シャノンの懺悔

ルカが村に戻って一番最初にした事は、エリスとの婚姻だった。


「ルカ君…本当にいいのか?」


エリスの父が戸惑いながら問いかけてきた


「勿論です、僕が結婚したいのはエリスしかいません」

「だがエリスは…もう二度と意識が戻らないかもしれないんだよ?それでも結婚するというのか?」


僕ははっきりと言った。

「構いません。エリスとの結婚を認めて下さい、どうかお願いします」


そして僕とエリスは夫婦となった

エリスが目覚めたら何て言うのかな…

顔を赤くして、何勝手に結婚してんの!とか言いそうだな…想像したら可笑しくなってクスリと笑ってしまう


そうなったらとにかく謝ろう

どうしても君の側にいたかったと

誰にもその権利を譲りたくなかったのだと


それから王都で貯めたお金でエリスと2人で住むために森の麓に小さな家を建てた。

エリスが目覚めたらゆっくり寛げる様にと色とりどりの花が咲く庭も造った。


いつか2人でこの庭でお茶を飲んだりできたらな…

初めて挑む事が沢山あったが失敗しながらも徐々に出来る事が増えていき、今では美味しい野菜も育て上げれるほど畑仕事の腕も上達した。


「エリス、これならいつ目を覚ましても大丈夫だよ。料理も洗濯も庭の手入れも畑仕事もなんだって出来るから安心して起きてくれ」


エリスはいまだに目覚めないがルカにとってエリスと2人だけの生活はとても心が満たされる日々だった。


2人での生活も慣れて来た頃にシャノンが訪れて来た。



***


「いらっしゃい、シャノンさん」

そう言ってテーブルに淹れたてのハーブティーを置く。


「ありがとう…ルカ」

しかしシャノンはお茶には手を付けずうつ向いたままだ。


「何か話したい事があるんじゃないんですか?」


シャノンの様子からそう察していたので聞いてみた

するとシャノンは意を決したのか顔を上げる


「あの事故は、わ…私が、私があの子に嘘をついたせいなの…」

「嘘とは?」

「あの子はようやく見付けた花が崖下にあったために花を摘めなくてずっと悩んでいたのよ。いつも悶々と考えては落ち込むエリスを見て悩みがあるなら言ってみたら、と声をかけたの」


それはシャノンさんから聞いて知っている

それを取ろうとして事故に遭ったことも...


「余程思い悩んでいたのね、私になんか相談するくらいに…そこで私はちょっとした悪ふざけ思い付いたの、そう…とても下らない悪戯(イタズラ)を。妹があんなに真剣に悩んでいたのに本当に馬鹿な姉よね」


彼女は何を言いたいんだ…?そう思いながらも黙って話を聞く


「私はエリスに()()()()()魔法薬をプレゼントしたわ」


は…?魔法薬?空を飛べるなんて物はいまだに開発されてないし、そもそももしあったとしてもエリスの姉が買えるわけがない…まさかエリスがそんなあり得ない事を信じたのか?


「いや、しかし例えエリスがその薬を貰ったとしても使えばすぐ嘘だとわかるはずだ…というか貰った時点で気付くだろう?」

エリスは鈍感ではないしどちらかというと察しが良く人に騙されるようなタイプではなかったと思う。


「それくらい、あの子は切羽詰まってたのよ…どうしてもあの花を持って貴方に会いに行きたくて。あの花は摘み取ってから満月の夜に咲かなければ枯れることはないわ、でもあの時のエリスはそれすらも頭になく早く摘まなければと焦っていたのかもしれない」


その言葉に胸が締め付けられ、冷たい汗が一筋頬を伝う


「確かにそうかもしれない…エリスに間違った判断をさせたのは僕だ」

「いえ違うの、ごめんなさい、貴方のせいではないわっ…あの子は…私を、私を信じてあの高い崖から足を踏み出したのよ!!」


シャノンの顔はすでに涙と鼻水でグシャグシャになっていたがそれを拭おうともせず泣き続けた


「シャノンさん、例えあなたがエリスに嘘をついたとしても、僕の事がなければエリスは絶対に騙されなかったでしょう。普通だったらそんな物は存在しない、あなたが買えるわけがないとわかるはずなのにエリスには見抜けなかった、そんな状態にさせたのは間違いなく僕なんです」


僕からの連絡がほとんどなく、将来の約束どころか告白すらされてない状態でエリスの心は不安ではち切れそうだったに違いない。今更気付いても遅いだろう…言わなくてもわかってくれるなど、何故そんな勝手に思い込んでいたんだ


その慢心さが最大の原因なんだ。

そう伝えたがシャノンは受け入れなかった


「いいえ、いいえ!私のせいよっ」

最後まで譲らずそしてエリスの顔を見ずに帰っていった。


それからのシャノンは結婚もせず、定期的に食べ物や生活に必要な物を持ってきてくれる

だが決してエリスの顔を見ようとはしなかった

いや、見れなかったのだろう。



***


エリスが目覚めないまま月日だけがどんどんと過ぎていく、事故からすでに6年が過ぎようとしていた。


その日もいつもと変わらない日だった。


「さてと、じゃあちょっと行ってくるよ」

そうエリスに告げ僕は森へと足を向けた。


あれからずっとエリスがみつけたというアスターの花を探していた。


崖の下にあったという花は誰にも摘まれてないはずなのにそこからその姿を消したらしい…どういうわけかはわからないが実際その場所に行ってみたがどこにも見当たらなかった。


それからは毎日数時間だけ花を探して森の中を歩いているがいっこうに見付かる気配はなかった


あまり長い時間エリスを1人に出来ないので毎日数時間だけ。


もしも見付ける事ができたらそのままにしてエリスが目覚めたら一緒に摘み取って満月に咲く所を2人で見れたらな、と思い浮かべれば自然に顔が緩む。


だがその日も花を見付けられなかった


肩を落とし家に戻ると1通の手紙が玄関のドアに挟んであった。手紙は村長が街へ行った時に届いていた村人への手紙を纏めて持ってきてくれる、この村までは配達されないためだ。後で村長にお礼を言いにいかないとな…そう思いながら手紙を手に取ると、送り主はルカが在籍していた王都の工房責任者からだった。今頃なんだ?と見てみると…その内容に困惑し手紙を握りしめた。


何か悪い予感が胸をよぎるが考え過ぎか…と思い直すとエリスの部屋へと向かった。



しかしルカが感じた胸騒ぎは間違ってはいなかった。まさに2人を深淵に引きずり込もうとする黒い影がすぐそこまで忍び寄っていたのだ…
















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