➅帰って来ないエリス
1部残酷な表現がありますのでご注意下さい。
あれ…?
気が付けば私は地面に寝そべっていた。
え?何で?私は崖の上にいた筈なのに...?
起き上がろうと思ったが何故か指先1つも動かせない。おかしい…何度動かそうとしても全く動かないどころか自分の体じゃないみたい。
しかも濡れているのかすごく冷たい。
視線だけは動かせたのでキョロキョロと動かしてみるとここは崖の下の様だ。
少しずつ思い出してきた、そう姉からもらった薬を一気に飲み込んですぐに崖の上から足を踏み出したわ…それから…それから?
空を飛べる魔法薬なんだから飛べたはずよね?
あれ?ならアスターの花はとれたの?
自分の手に視線を向けても花など掴んでいない。
その時おかしい事に気が付く
私の手が変な方向にひしゃげている…
そして徐々に自分の体の下から真っ赤な液体が広がっていくのが見えた。
なにこれ、どんどん広がっていく…
その液体が流れ出て行くたびに体から少しずつ温もりが奪われていくようだ。やだやだやだ…待ってよ、私まだルカに会えてない!
とてつもない睡魔が襲ってきて目が閉じ掛けてしまう。
今にも意識が途絶えようとしていたがなんとか気力を振り絞って堪える…だがもう限界だ
ルカ…ルカ…約束の花を持ってあなたに会いに行くんだから、絶対に絶対…に…………………
そしてエリスの瞳は閉じられもう開く事はなかった。
***
その頃村のエリスの自宅では姉のシャノンがソワソワしながらエリスの帰りを待っていた。
遅いわ…もうすぐ日が沈むというのにまだ帰って来ない。
あんな子供だましすぐバレると思ったのにあの子、疑う余地もなく森へとすっ飛んで行ったわ。
でも飲んでも何も起こらなければすぐ気付くわよね?
そう、シャノンの渡した魔法薬は真っ赤な嘘でただの水だったのだ。
生意気な妹にしたちょっとしたイタズラ、そもそもこんな田舎の質素な暮らしをしている私達が魔法薬なんて買えるわけがない。
そんなのちょっと考えればすぐわかる筈なのに、エリスったら馬鹿よね。どうせ今頃偽物だって気が付いて怒りで私の顔を見たくもないのかも、だから帰ってこないのね、ふふふっ。
でも、今回はちょっとやり過ぎたかもね。あの子本気で悩んでいたし…そう思ったシャノンはエリスの大好きなクッキーでも作って機嫌直してもらうか、と作る準備を始める。
いつも喧嘩ばかりしてるがシャノンは決してエリスを嫌っているわけではない、それ所か本当は可愛くて仕方ないのだ。ルカの事も私がちょっかいを出せばエリスが焼きもちを焼くのでそれが楽しかっただけなのだ。
いつものイタズラ。
しかし今回は取り返しのつかない事態になってしまった事をシャノンはまだ知らない。
「ねえ、エリスはまだ帰ってこないの?」
さすがに母が心配になってきたのか聞いてきた。
「大丈夫、もうすぐ帰ってくるわよ。ちょっと拗ねてるだけなんだから」
それでも母は不安そうたった。
「森に行ったんだろ?俺、見てくるよ」
そう言って父が急ぎ足で出ていく。
全くみんな心配し過ぎなんだから、だからあの子はいつまでもお子様なのよ。
そう思いながらも美味しいクッキーを作ってあげなきゃと心を込めて作る。
もう!早く帰って来なさいよ!今回は謝ってあげるから
…生地を捏ねる手がひそかに震えていた。
だから、ねぇ、エリス…。