④離れた距離
エリスとルカは17歳になった。
「僕は魔道具師になりたいんだ。今通ってる工房の親方が紹介してくれて王都の大きな工房へ行ける事になったんだ」
ルカが突然言ってきたが、私にはわかっていた。
ネックレスを貰った辺りからルカが魔道具に更にのめり込み、魔法などに関する本を沢山読み出した。
それから、自分の足で村から少し離れた街に魔道具の工房を見つけ、何度も頼み込んでそこの見習いとして通えるようになった。そしてついにそこの工房の親方に才能を見い出され王都の工房に行って実力を発揮してみないかと言われらしい。
ずっと嫌な予感がしていたがとうとうその日が来てしまったらしい。
王都はこの村からはずっとずっと遠い。
今までみたいにこの村から通いで行けるような場所ではない…そう、ルカがこの村からいなくなってしまうのだ。
「そっか…ルカの夢だもんね魔道具師。良かったねルカ!頑張って絶対すごい魔道具師になってね」
本当は行ってほしくない、だけどルカの夢は応援したいから私は笑って見送ってあげると前から決めていた。
「ありがとうエリス。僕、必ず立派な魔道具師になるよ」
ルカも嬉しそうに言う。
「それと…エリス…」
「え?何よ?」
珍しくルカが口ごもってもじもじとしている。
どうしたのかな…?
「いや…まだ言うわけにいかないか。今は言えないけど魔道具師として認められるようになったら言うから待ってて」
何だろう…そんな事言われるとものすごい期待してしまう。不安だった胸の苦しさが少しだけ緩む
「わかった、それまで待ってるから早めにお願いね!」
そして2人で笑い合った。
その数ヶ月後ルカは村を後にした。
***
ルカが村からいなくなって半年が立った。
私は窓から外の景色をぼ~っと眺めため息をつく。
「ちょっとちょっと!何よ、辛気くさいっ」
見るに見かねた姉が呆れながら声をかけてきた。
「何よ、姉さんこそ村長の息子のアランにデートに誘われたんでしょ、私に構ってないで行って来たら?」
「はぁ!?冗談でしょっ!あんなひょろひょろ弱虫男なんて絶対嫌よ」
アランも何故こんな姉をデートに誘うのか…。
「それより、ルカから何も連絡ないの?王都へ行ってから半年もたつのよ!もう私達の事なんて忘れちゃったんじゃないの?王都なら綺麗な人が沢山いるだろうしこんな田舎の小猿娘なんてとっくに記憶から消されてるかもよ」
痛いところをつかれ何も言葉を返せなかった。
距離的に会うのは難しいけど手紙くらい…私も姉と同じような事を考えていたので余計に落ち込む。
ううん、ルカは王都で頑張っているはずだ。慣れない環境や新しく覚える事が山程あるだろうし今はそれでいっぱいいっぱいなんだと思う…。
大丈夫、落ち着いたらきっと連絡くれるはず。
それまで信じて待ってよう。
***
信じて待つと決めてから2年が立とうとしていた…。
村では18歳にもなればほとんどの者が相手をみつけ結婚してしまう。
私は完全な行き遅れとなってしまった。
ちなみに姉もまだなのでその辺りはほっとしてしまう。
嘆いているのは行き遅れ娘2人を持った両親だけである。
**
家のドアがノックされ出てみるとアランが小さな花束を持って待っていた。
「やぁ、エリス。えっと、シャノンはいるかな?」
アランもよく諦めないわ…。
「いるわ、ちょっと待ってて」
そう言い姉を呼びに行く。
「姉さん、愛しのアラン様が来たわよ」
姉の部屋のドアを開けながら言った。
「エリス開ける時はノックしてよっ!それとやめてよ、あいつとは何もないのにっ」
「デートくらいしてあげればいいじゃない、あんなに姉さんに一途なんだし」
「はぁ!?ならあんたがしてあげたら!」
バンッ!!!と勢い良く部屋のドアを閉められてしまった。
確かにアランはヒョロヒョロに痩せていて臆病な所もあるがとても優しい人だったので姉にはもったいないくらいだと思っていたが、何でか姉に一途だった。
何度断られても諦めない。
諦めないといっても嫌がるような事もしないし無駄にしつこくもしない。
ずっと好きなだけ。冷たくされても気持ちが覚めないなんてすごいなぁ…でも私も似たようなものかも…。
ルカが王都に行ってから2年。私に手紙が来たのはたったの1度だけ…しかも内容が元気で仕事に慣れるのが大変みたいな事だけで不安要素を取り除いてくれる内容では全くなかった。
ルカ…もしかしたら本当に好きな人が出来ちゃったのかもしれない…。王都なんて洗練された綺麗な女の人ばかりなんだもの…こんな田舎娘なんて忘れるわよね。
けれど、やはり嫌いになるなんて出来ないし
それどころか2年前と気持ちは何一つ変わりなかった。
この気持ちを伝えないまま終わるなんて…そんなの絶対に嫌だ。
その頃から王都にルカに会いに行くという計画を考え始めた。
***
その頃王都では1人の天才魔道具師がいると貴族の間で話題になっていた。
短期間で様々な魔道具を発表し実用化され、国の発展を大きく支えた。その魔道具師の作った物を持つことが貴族の中で1種のステータスにもなっていた。
*
王都の工房ので熱心に設計図を書き込む1人の男性がいた。2年前とは違う、幼さが消え立派な若者となったルカであった。
「ルカ、また無理してない?」
声を掛けたのは美しい金の髪に透き通るような青い瞳をした女性だった。
「リアナ…何でここに?」
リアナの工房はルカとは違う別館にあるはずだ。
「またルカが魔道具の新作を出したって聞いて心配になったから来たのよ、迷惑?」
「迷惑ではないけど、必要ないよ。僕は大丈夫だし」
エリスには優しいルカだったが意外な事に他の女性にはかなり素っ気なかった。
「何よ、冷たいわね。せっかく来てあげたのに」
「だから、必要ないから自分の工房に戻って」
あっさり言われむぅっと頬を膨らませる。
「なら、今日の夜2人で食事にでも行かない?美味しいお店を見付けたのよ」
諦めきれずにリアナはダメ元で誘ってみたが
「試したい魔道具があるから遠慮するよ、悪いけど他の人を誘って」
すげなく返事を返された。
何よっ、私かなりモテるのよ!
ちょっと有名になったからって嫌な感じだわっ。
と、工房を出て行った。
リアナが出ていってからルカは机の引き出しを開け1通の手紙を取り出した。
エリス…。
それはエリスから届いた手紙だった。
エリス、僕は約束した通りがむしゃらに働き沢山の魔道具を作り出した。その成果をみとめられ国へ大きな貢献を果たしたとして新たに叙爵を与えられる事になったよ。
やっと胸を張って君を迎えに行けるよ…。
待っててエリス。