㉑悲しみと光
そこから更に時は経ちルカは既に60歳になっていた。
庭に咲く花を数本摘んでからシャノンの家へ向かう
季節は春になりとても穏やかな空気が流れてた。
だがそんな春の陽気とは逆に村はいつもより暗く沈んでいる…
足取り重く歩いていたがいつの間にか到着していたらしい。家の前にいたシャノンに声をかける
「シャノン、おばさんは…?」
「うん…かなり落ち込んでて。父さんもずっと寝たきりだったけど、やっぱりいなくなるのとは違うからね。辛いと想うわ」
「シャノンは大丈夫?」
「ええ…病気で倒れてからはいつも覚悟はしていたから。思ったよりもずっと長生きしてくれたわ!最後も前日までは普通で次の日の朝目覚めないなんて、理想的な死に、かた、だわっ…だからっ、かなしくなんてっ…」
ルカはシャノンを強く抱きしめた
「姉さん泣いて良いんだよ。誰からも見えないように僕が隠してあげるから思いっきり泣いて良いんだよ」
そう言って抱きしめた手でシャノンの背中を優しく擦った。
「うううう…ルカ、父さんがっ、父さんが死んじゃった…ああぁ!!!」
ルカはシャノンが泣き止むまでずっとその手で守るように抱きしめた。
その後はシャノンの母、アランやアシル、カノンもやってきて皆で埋葬のため村の墓地へと向かった。
墓地へと歩く中、寂しさを紛らわすかのように生前のおじさんの笑い話や楽しかった想い出話を語らいながら進む。そうすればいつの間にかアシルやカノンの話となり…
アシルは魔道具師となり既に自分の工房を持っていて、数人の弟子もいるそうだ。子供の頃の夢を叶え立派に成長した姿を見てルカは涙が零れそうになる。
そしてカノンも街に小さな洋品店を建てそこで才能を生かして洋服を作っているらしい。小さいながらもデザインや縫製が丁寧で素晴らしいと評判になっていてルカも耳にした事があった。
ルカはあの時無理をしてでも手を差し伸べて本当に良かったと思う。もし2人が夢を実現出来なかったとしてもその努力は決して無駄にはならなかっただろう。
一行は村のはずれの教会の墓地に着くと協力し合いおじさんを地中深くに寝かせた。それから1人1人がお別れの言葉を言いながら少しずつ土をかけていく。
土を被せながら見たおじさんは苦しみから解放されたかのようにとても安らいだ顔をしていて少しだけほっとしたのは内緒だ…
やわらかな風が皆の間をすり抜けるように流れて行けば
それはまるでおじさんが最後のお別れを言っているかのように感じる。
何だかおじさんがどこかへ行ってしまう気がして空を見上げているとアシルが声をかけてきた。
「ルカさん、今日は来て下さりありがとうございました」
「いや、こちらそおじさんにはお世話になったから。見送れて良かったよ」
「あの、今日は事情があって家族が来れなかったんですが…実は妻が身重で」
「え!そうなのか?アシルは独身を貫くのかと思ってたが結婚してたのか」
「はは…お恥ずかしながら40過ぎてから素敵な女性と巡り合いまして…」
「そうかそうか、いやあ!すごく嬉しいよ。無事赤子が産まれると良いな、僕もいつか会わせてもらたら嬉しいよ」
「勿論!是非、というか子供が産まれたらルカさんに会ってもらいたいと言いたかったので」
「ああ、ありがとう。僕の方こそ是非会いたいよ」
「それから…カノン!」
アシルはカノンを呼ぶとカノンが急いでこちらへと走ってきた。
「やあ、カノン久しぶりだね」
「ええ、ルカさんご無沙汰しております」
「すっかり淑女じゃないか!あのお転婆カノンが…」
「いやですよ、ルカさん…何十年前の話ですかっ」
カノンは顔を赤らめて非難する。
それから2人で顔を見合わせてから改まってルカに頭を下げてきた。
「おい、何だよ2人とも!?どうしたんだ…」
「ルカさんこれを受け取って下さい」
そう言うと厚みのある封筒を差し出してきた…
中を見ればびっくりするような大金が入っている。
「これは?どういう事??」
「あの日僕らは約束しました。出世払いでお返しすると」
「え…?まさかあの冗談の事?いや、あれは本当にふざけて言っただけだよ。お金は君達の両親がきちんと返してくれたんだ、だからこのお金は受け取れない」
渡してきた封筒を2人に返そうとしても断固として受け取ろうとしない…
「ルカさん、両親が返済した分も僕達は返金しそして受け入れてもらえました。そのお金はルカさんが幼い僕らの夢を信じて大きな世界へと羽ばたかせてくれたかけがえのないお金です。やっとあなたにお返しが出来ます、どうか受け取ってもらえませんか?」
「だめだよ、それだと君達のご両親から返済してもらった分を余分にもらった事になってしまう。だから受け取れない。でも君達の気持ちは確かに受け取ったよ」
「いえ、これを受け取ってもらえなければ僕達はいまだに子供のままなのです。姿形だけ大人になっても意味はないんです、こうみえて結構お金を稼いでるんですよ?立派になったと認めてくれませんか?ルカ叔父さん」
アシルとカノンが満面の笑顔で言う。
ルカはそれでも受けとれないと返そうとしたが…その手を下げた。
「参ったよ…なら有り難く受け取らせてもらう。立派になったな…カノン!アシル!叔父さんは嬉しいよ」
しかし心の中では後でこっそりとシャノンとアランに返そうと思っていた。それでアシルやカノンがこの先困った時や必要になった時に渡してもらえるように。
これから子供のに沢山のお金がかかるだろうし、カノンもいずれは大きなお店を持ちたいだろう。その費用に使ってほしかった。
いつかアシルの奥さんや産まれた子供も見てみたいし、街へ行ってカノンのお店で服を買ったり…考えるだけでも顔が綻んでくる。
おじさん、あなたの孫達はそれはそれは立派に成長されてますよ…澄んだ青空を見上げルカはそれまで堪えていた涙を溢した…。
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