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20/22

⑳10年が経ち

あれから何度も季節を繰り返し10年が経とうとしていた



ルカはかじかんだ手にハァと、息を吹きかける

今年も村に厳しい冬がやって来るのか…


ルカも40となり少しずつだが体力の衰えを感じるようになった。

歳を取るのは思ってたよりも早いんだな、特に30代後半になるとあっという間で気が付けば40代へと突入していたくらいだ。


白い息を吐きながら自宅裏の薪小屋に行き、乾燥させておいた薪を積み上げよいしょっ、と背負うとシャノンの実家へと向かった。


家に着きドアをノックすれば前よりもずいぶん年を経たシャノンの母が顔を出す。


「冬用の薪を持ってきたよ、まだ足りないだろうから後日また届けに来るから」

「ルカ、ごめんね…最近体がきつくて薪が集められなくなっちゃって…だから物凄く助かってるわ」

「無理しないで、冬用の薪は僕が全部用意するから心配しなくて大丈夫だよ。それよりおじさんの体調はどう?」


数年前にシャノンの父は病に倒れ寝たきりとなっていた。


「あまり変わりはないけど…だんだんと食欲がなくなってきてて心配だわ…」

「そうか、なら明日胃腸に良く効く薬草を何種類か持ってくるから試してみて」

「何から何まで本当にありがとう、ルカ…」

「僕がしてもらった事のがずっと多いんだから、これからまだまだ恩返しさせてよ。だから2人とも元気に長生きしてもらわないと困るよ」

「ルカ…あなたって子は…」

「子供扱いはやめてよ、僕ももう40だよっ。立派なおじさんだ」

「何歳になろうともあなたはずっと私の子供みたいなものよ。それは一生変わらないわ」


それを聞いてルカは照れながらも嬉しそうに笑った。



シャノンの実家を出てから今度はシャノンの家へと急いで向かう。今日から一週間だけアシルが戻って来てると聞いたのだ。何年も会っていなかったので久々に顔を見れると思うと嬉しさから自然と足が早くなる。


シャノンの家へ着くとすぐにアシルが出迎えてくれた。


「いらっしゃい、ルカさん。お久しぶりです」

「アシル…見違えたよ…」


あまりの変貌ぶりにルカは呆気に取られる


「ずいぶん大きくなったな、もう僕よりずっと大きいじゃないか…いやぁ、驚いたよ」


最後に会った時はルカよりずっと小さくて見下ろしていたのに、今は上から見下ろされていて何とも不思議だ。


「ルカいらっしゃい、寒かったでしょ早く中で暖まって。温かいお茶があるわ」

「助かるシャノン、体の芯まで冷えきってるから」


そう言いながら家の中に入る。


「また実家に薪を持ってってくれたんでしょ?ルカありがとう、とても助かってるわ」

「そんなのお安いご用だよ」

「母さん、僕からもお礼を言わせて。ルカさん、いつも祖父母の事を気にかけて下さってありがとうございます。それにルカさんには返しきれないご恩が…」

「ちょっ、アシル、そんな改まって…他人行儀なのはやめてくれよ。僕は君の事甥っ子だと思ってるんだ、久しぶりに会ったんだから楽しい土産話を聞かせほしい、いいだろ?」



アシルは一瞬戸惑った顔をしたがすぐにルカが知っている昔のアシルの表情になり


「いいよ、数年分の積もり積もった話があるから覚悟してね」


と、満面の笑みで言った。


その日は結局晩御飯までご馳走になり、アシルの貴重な体験談や失敗談などで話に花が咲き夜遅くまで皆で談笑し合った。


「ルカ、もう遅いから今日は泊まっていきなさいよ」

「ありがとう、でも…気になる事もあるし帰るよ」

「こんな寒いのに、遠慮しなくて良いのよ?ルカは家族なんだし」


当たり前のように言うシャノンに嬉しくなったルカはお返しとばかりに言う


「大丈夫だよ、()()()今日は御馳走様、おやすみ」

「ふふ、おやすみなさい()()()()()()()気を付けて帰ってね」


冬の足音が聞こえてきた夜はいつもよりも冷えきっていてルカの体から容赦なく体温を奪っていく。だが今日1日の出来事を思い返せば心の中はポカポカと温かくなり急ぐことなくゆっくりと帰路に着いた。



***



家に()き、()ていた上着を椅子の背に掛けてから炉床へ火をつける。部屋の中は外よりも寒いんじゃないかというくらいにキンと冷えていたので暖まるまで時間がかかりそうだ。


そのまま奥にある一室へと向かい扉を開け少し緊張しながら中を伺う…


暗闇の中で()()を見つけてルカはホッと安堵した…


「ただいま、エリスの花よ。今日も君は変わらないで僕を待っていてくれたんだね」


今日は満月だったのでもしかして…と思ってたのだがやはり咲いてはいなかった。残念にも思うが内心はホッとしていた。咲いて萎れてしまうならいっそのこと、ずっとその姿で僕の側にいてほしい…最近はそんな風に考えるようになっていた。


長年一緒にいれば愛着も湧くものだし、失くなればやはり寂しくてたまらないのだろう。


ここまで来たら僕が死ぬその時まで変わらない姿でそこにいてほしい…。


シャノンやシャノンの両親、アシルやカノン、他にも僕を大切に想ってくれる人は沢山いる。だけど彼らの本当の一番は僕ではない。


それが辛いのではない、皆それぞれ大切な人がいて当たり前なのだから。


僕はこの歳まで伴侶を作らなかった

何故かと聞かれればそれはわからない


ただ生涯共にしたいと思う人がいなかったから?

いや、普通は一般市民でも家を継ぐための血筋を残したり、村では大切な労働力としても子供をもうけるなどそれぞれ意味合いは様々だが子を残すという意識は身分関係なくあるのだ。なので、ある程度の年齢になればおのずと相手を見つけ婚姻するのが一般的なのだが…僕はしなかった。


そればかりは自分でも本当にわからない…

シャノンが紹介したいと何人か女性を連れてきて会わせてくれたが、自分から誘うような事は一切出来ずにすぐに自然消滅となった。


シャノンの紹介とあって皆気さくで働き者の良い女性ばかりだった…だがどうしても関係が先に進むことはなかった。女性に興味がないわけではない、普通の男性並にはあると思う…


ルカはエリスの花を見つめる


「やはり僕は君と一緒にいるのが落ち着くらしい。君は迷惑かもしれないが最後まで側にいてくれないかな?僕もずっと君の側を離れないから…」


暫く花をじっと見つめていたが突然我に返って呆れる


「僕は花を相手に何を言ってるんだ…はぁ…」


そう言いながら部屋を出て行ったルカはエリスの花の変化には気付かなかった。


エリスの花は月の優しい光を浴びながら美しい雫をぽとり…と、まるで涙のように1滴だけ落としたのだった…








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