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⑲子供達の未来へ

それから5年の月日が流れた




「ルカ、今朝焼いたパンを持ってきたわ」

「シャノンいつもありがとう…ある程度の物は自分で作れるようになったけど、パンだけは難しくて…本当に助かるよ」

「いいのよ、沢山作り過ぎちゃったから気にしないで」

「今日は1人?カノンとアシルは?」

「カノンは母さんの所で冬用の保存食を作る手伝いに行ってて、アシルは父さんと森に行って薪を集めてるわ」

「そうか、もうそんな時期か…」

「そうよ、ルカも冬支度はしっかりね。本格的な冬になればこの村は雪で覆われてほとんど出歩けなくなるから」

「あぁ、わかってるよ。それよりシャノン大事な相談なんだけど…」

「相談?何かしら…?怖いわ」


シャノンは何か変な事を言われるんじゃないかと身構える。


「アシルを職人ギルド学校に通わせてみないか?」


「………は???ルカ、なに言ってるの??」

「アシルは物作りがとても好きだろう?簡単な椅子を作ったり遊び道具を工作したり子供ながらに中々素晴らしい発想を持っている。その無限の可能性を伸ばしてみないか?」

「ちょっと!簡単に言わないでよっ、職人ギルドなんて一般市民はまず不可能だし、入れるのは職人の弟子や身内とかツテがある人達だわ!それに村の子供でそんな所へ行く子なんて聞いたことないし…村に産まれれば子供だって大事な労働力なのよ、それが普通なのっ」

「シャノンの本当の気持ちは?どう考えてる?」

「そりゃあ、私だってアシルに好きなことを学ばせてあげたいわよ!そんなの親なら当たり前でしょう。でもね、皆相応の暮らしというものがあるのよ。それは産まれ落ちた場所でどう生きて行くか…ううん、生きなければいけないの」


平民として産まれるか、貴族として産まれるか又は王族としてか…皆それぞれの役割が産まれた瞬間から決まっている。それが運命なのだから受け入れるしかない。


だがルカが衝撃的な一言を言い放つ。


「シャノンとアシルが望めばもう通えるように話はつけてあるんだ」

「は?え………?ど、どういうこと?」

「僕が仕事で花や薬草を卸している魔道具工房の親方に頼んだんだ。最初は渋っていたがしぶとく拝み頼んだらとうとう折れて引き受けてくれたよ」

「嘘よ…そんな簡単に…ルカ、お願い本当の事を言って。じゃないと無理よその話は受けないわ」


ルカは本当の事を言うか迷った…だが言わない限りシャノンは納得しないだろう。


「2つ…条件があった。1つは金銭的な事、もう1つは僕の育てたアルジュの花の親株とその権利を渡す事」


それを聞いてシャノンは青ざめる


「ちょ!アルジュの花ってルカが長い年月をかけて作り出した魔力を宿した花の事じゃない!アルジュの花はルカの許可がない限り勝手に株分けも出来ないし、魔道具作りに物凄く便利なのがわかってきて最近ようやく注目され出した所なのに…ねぇ…まさか本当に渡したの!?」

「正確にはまだかな、アシルの件が成立すればすぐに渡す事になってる」

「あんた何やってんのよっ!!あの花が収入源でしょう!これからどうやって暮らしてくのよ…それよりなによりルカが端正込めて育て作った大切な花でしょう」

「見くびってもらっちゃ困るね、他にも収入源は沢山あるから全然平気さ」

「何強がってんのよっ…!あなたの事なんて子供の頃から全部知ってるのよっ」

「それと、今度はカノンの方。カノンは裁縫が物凄く上手だし彼女の繊細な縫製はとても素晴らしい。その才能を埋もれさせるのはもったいないよね?」

「それはそうだけど…確かにあの子の裁縫は凄いと思うわ…だけど男のアシルでさえ難しいのに女のカノンが学べる所なんてないわ」

「普通ギルドは男性が主流なんだけど、その婦人は旦那さんを亡くしてその事業を受け継いだんだ。それで特別に職人ギルドに属しているんだけどね、カノンの刺繍を見せたら思ったより受けが良くて是非前向きに話をしたいそうだよ。勿論彼女も僕のお客様なんだ」

「カノンの刺繍なんて…綺麗な刺繍糸なんて買えないから白一色の地味な物なのに…」

「婦人いわくシンプルだからこそ刺した人の腕が良くわかるらしいよ」

「それに、金銭的な事って…」

「もし話を受けるならここから通うのは難しいだろ?そうなると住み込みという形になるからこれからかかる生活費や材料費その他かかる費用を先払いって事。それはアシルとカノンの2人分になる」

「うちにそんなお金ないわ…無理よ」

「安心して、それは全額僕が負担するから」


シャノンは驚きの連続で頭がついていかない。


「ルカ…ちょっと、頭を整理させて」

「勿論良く考えて。でも先方に話さなきゃならないからなるべく早めに頼むよ」


その日はいったん帰り子供達やアランにも話を聞いてからという事になり解散した。


少し時間がかかるかと思ったが次の日にシャノンとアラン、カノンとアシル家族全員でルカの家にやって来た。


「ルカ君、話を聞いたんだけど…それは事実なのか?」


アランが真剣な顔をして聞いてきた。


「嘘なんて言いません、全て事実です」

「しかし、何故ルカ君がうちの子供達のためにそこまでするんだ?」

「それは、シャノンやシャノンのご両親の事を本当の姉、父や母だと僕が勝手に思っているからです。子供の頃から優しくして頂き、僕が1人になってからはほぼ毎日のように食事を作ってくれました。その温かい心のこもった食事にどれだけ救われたか…シャノンは実の姉のように心配してくれ、時には本気になって怒ってくれる…それがどれだけ僕に生きる勇気や希望を与えてくれたか」

「ルカ…」

「だから僕にとってシャノンの子供は僕の甥っ子や姪っ子なんです。そう思えば今回の事だっておかしくないですよね?姪と甥に最大限の手を差し伸べたいだけなのだから」

「…それでもさすがに、ではお願いしますと受け入れるには抵抗があります。俺達ではとてもお返し出来るような内容ではないので…」


アランは困ったよう顔をして俯く。


ルカはアシルとカノンに目線を合わせると


「君達はどうしたい?職人ギルドへ行って学びたい?それとも村へ残って家族と共に暮らしたい?どちらを選んだとしてもそれは決して間違いではないから正直な気持ちを教えてくれるかな?」


アシルとカノンはなかなか口を開かない…

だがようやく決意したのか上を向いてルカとしっかり目を合わせると


「ぼく、魔道具を作ってみたいんだ。だから色んな事を学ばせてもらいたい。それでいつか魔道具師になれたら…」

「わたしも、裁縫が大好きなの。村で作るのも良いんだけど、もし出来るならもっと沢山の技術を勉強したいわ」


ルカは子供達が素直な気持ちを伝えてくれたことがとても嬉しかった。


「なら僕がやらなきゃいけないのは君達のご両親の説得だね」


アシルとカノンは咄嗟に両親の方へと振り向く。アランとシャノンはお互いに顔を見合せてから泣き笑いのような表情で子供達に言う。


「いったん行けば簡単には村に帰って来れない。当然お父さんやお母さんもいないんだ、怒られても泣きつく事は出来ないんだぞ?その覚悟はあるのか?」


アランが子供達に聞く


「うーん…その時になってみないとわからないけど、一生懸命頑張る。それだけは約束できる」

「わたしも、精一杯やる。約束するわ」


今度はアランとシャノンがルカの方へ向き直って頭を深く下げてきた。


「ルカ君、本当に本当にありがとう。子供達の事をどうかお願いします…かかった費用は少しずつでも必ずお返しますので」

「何を仰います、これは僕が勝手にした事なんですから返済など不要です」

「そうはいきません、立て替えて頂いただけでも充分過ぎる位です。親の見栄だと思って返済させてくれませんか」

「……わかりました、でも急ぐ必要は全くありませんから。もしなんだったらアシルとカノンの出世払いでも良いですよ、ははっ」


冗談で言ったのだが


「わかった!ぼくだちが払う!大人になったら沢山お金稼いで倍にして返すよっ」

「わたしもっ!たっくさん働いて返すわ」


「……だそうです。アシルとカノンに期待しましょう」


その言葉に皆吹き出し大笑いした


子供達の未来が輝かしいものになりますように、ルカは心からそう願った。






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