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⑱温かな未来

「今日シャノンが来るって?」

「ええ、カノンとアシルも一緒よ」

「そうか!2人も来るのか、ん?アラン君は来ないのか?」

「仕事で来れないみたいね、残念だわ」


2人でそんな話をしていれば外から賑やかな声が聞こえて来た。


「あら、予定より早く来たのね」

「ふう、明日は筋肉痛で一日寝たきりになりそうだな」


言葉とは逆に顔はほころんでいる。


「おばあちゃん!おじいちゃん!来たよーー」

「母さん、父さん早めに来ちゃった」

「全然構わないわよ、いらっしゃいシャノン、カノン、アシル」

「夕食も食べていけるんだろ?」

「勿論、アランも今日は仕事仲間と食べてくるから実家でゆっくりしておいでって」

「そうかそうか!アラン君は良い奴だな」

「今度は是非アラン君も一緒にって言っておいてね」

「ええ、伝えとく」

「おじいちゃん!僕森に探検しに行きたいっ」

「私はおばあちゃんにお菓子作りをおしえてほしいわ」


「「勿論いいわよ(いいよ)」」

「母さん、父さんごめん…ありがとう」

「いいのよ、私達の方が楽しみにしていたんだから」

「よし!アシルおじいちゃんと森へ行くぞ」

「わーい!おかあさん、行ってくるね」

「気を付けるのよ、おじいちゃんの言うことちゃんと聞いてね。あ、アシル帽子をかぶっていきなさいっ」

「はーい」


支度を整えて父と息子は元気に森へと向かった。


父さんも年なのにいつも息子と全力で遊んでくれて本当に助かるわ…でも腰は大丈夫かしら。帰ってきたらお詫びに腰を揉んであげなきゃね。


「じゃあ、カノンちゃんはおばあちゃんとお菓子作りましょ」

「うん!楽しみっ」

「あらカノン、お菓子なら私だって上手に作れるのよ、特にクッキーを。()()()が喜んでくれるからいつの間にか上達して……あれ?」

「おかあさん私にクッキーなんて作ってくれたことないじゃんーそれに、あの子ってだぁれ?」


シャノン自身が自分の言った事に戸惑う…

私、誰にクッキーを作ってあげたの…?


「ごめんごめん…勘違いだわ、私ったら何言ってんのかしらダメねぇ。さぁ、そんな事より早く作りましょう!汚れちゃうからカノンはエプロンしてね」


その後は3人でお菓子作りを楽しんだ。

夕方には父さんとアシルも帰ってきて5人で晩御飯を囲み森での探検の事やお菓子作りでの失敗談を子供達が興奮しながら話し、それを両親が楽しそうに聞いていた。


その光景を見ながら何だか涙が出そうになった…

何て、何て幸せなんだろうと


父がいて母がいて、大好きなアランと結婚し可愛い子供達もいて…こんなに幸せなのに何故か胸に小さな穴がぽっかり開いている気がするのはどうしてなんだろう…


「そういえばシャノン聞いた?国王がその地位を王太子殿下に譲位したらしいわね」

「ええ、新聞で見たわ。本当に良かった…前国王のままだったら隣国と戦争になってたかもしれないのよ。新たに国王となった王太子殿下は既に近隣諸国と和平条約を締結させたらしいわ」

「戦争など絶対に反対よ。私の大切な人達が人を傷つけ傷つけられるなんて辛すぎるもの…」

「その通りね。この世界がいつまでも平和でいられるように心から願うわ…子供達が笑顔で暮らせる、そんな未来を大人が壊してはいけないのよ」


「あ、それとシャノン。帰る時にルカ君の所にカボチャのパイと野菜のスープを持っていってくれる?」

「ルカの所に?」

「どうせ帰る時近くを通るでしょ?あの子ったらほっとけばまともにご飯も食べないのだから」

「ふふ、母さんてばルカの事実の息子だと思ってるんでしょ。でも世話の焼きすぎよ、ルカもよい大人なんだから」

「小さな頃から見てるしね、お母さんも早く亡くなってお姉さんも遠くに嫁いじゃったから心配でね…ついつい」

「ルカは花の事しか興味ないものね、所帯を持つ気も全くないみたいだし…何人か友達の女の子紹介したのに全然見向きもしなかったわ」


シャノンはお手上げのポーズを取る。


それからアランが迎えに来て4人で実家を後にした。


ルカの家に着きドアをノックすると髪がボサボサのルカが扉を開け顔を覗かせてきた。


「やあ、こんばんは。シャノン、アランさんとおちびさん達」

「こんばんはルカ、これ母さんが持ってけって」


カボチャのパイと野菜スープを渡せばルカは何度もお礼を言って申し訳無さそうにする。


「いやぁ、いつも申し訳ない…すごく助かってます」

「悪いと思うなら少しは自分でちゃんと食べてよね、皆心配してるのよ」

「面目ない…気を付けるよ」

「早く可愛い奥さんでも見つけなさいよ、美味しいご飯作ってもらえるかもよ?」

「…そうだね、考えとくよ」


絶対嘘!結婚する気など全くないくせに…


「食べ終わったら器は洗って母さんに返してね、じゃあまたね」

「うん、明日必ず持ってくよ。またね、おやすみなさい」


別れの挨拶をし私達は4人で家路へとついた。



***



ルカはシャノンの母が作ってくれたカボチャのパイとスープを温めなおし口にする。

今日は朝から植物の採取をやっていたので水と小さな硬いパンを1つだけしか食べていなかった。

そのせいか温かな食事を口にすれば生き返ったかのように体に力がわいてくる。


お腹も満たされ、椅子に腰掛けて一息つく


元々体の弱かった母は心労が溜まったのか、この村に来て数年後に亡くなってしまった。それからは姉と2人協力しあいながら暮らしていたが、年頃になった姉はここから少し離れた村の若者と恋に落ち、昨年の暮れにその村へと嫁いで行った。


僕が1人になる事をとても心配していたが大丈夫だと言って笑って姉を送り出した。

母が亡くなってから姉は身を粉にして働き、僕にだけは苦労させまいと遊ぶ事も着飾る事もせずただただ懸命に暮らしを支えて来た。


そんな姉に心から幸せになってほしいと思ってる…

もう姉には支えてくれる伴侶がいるけど、もし何かあったら姉のためにどんなことでもする覚悟は出来ている。


そんな事を考えながらふと、窓の外を見れば今日が満月だと気付く


ルカは慌てて椅子から立ち上がると、ある部屋へと足早に向かった。

ドアを開けて部屋に入れば、そこには何の変化もないエリスの花が蕾を固く閉じたままいつもの場所に佇んでいる。


「やっぱりまだ咲かないか…君はいったいいつその美しい花を僕に見せてくれるのかな」


まぁ、焦る事はないか…僕にはまだまだ沢山の時間があるのだから。20代も半ばになったルカだったが、自分が年老いた時の事など想像も出来なかった。


僕もいずれは歳を取りひっそりとこの世から消えていくのかな…それまでにこのエリスの花は開花するのだろうか?出来れば僕がお前の側にいる時にしてくれよ…頼むよ…エリスの花よ。


ルカはエリスの花に心の中でそう切望したのだった。















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