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⑰エリスのいない世界

「ねぇ、母さん今度村に新しく引っ越して来る人達って元貴族の訳あり家族らしいよっ」


シャノンは夕御飯の手伝いをしながら先程聞いた噂話しを母に意気揚々と伝える。


「全く…そんな噂話しやめなさい、あなたもお姉…」

そう言いかけて母が戸惑ったように言葉を止めた。


「ね?シャノン…あなた一人っ子よね…私ったら変だわ…あなたの下にもう1人いたような気がして」

「は?何言ってるの母さん大丈夫?私はずっと1人じゃない」

「そうよね…」


母は頭をかしげながらまた料理を作り出す

そんな母を見て実はシャノンも違和感を感じていた


シャノンも大切な何かを忘れているような感覚がここ最近ずっと纏わりついていた。でも思いだそうとすると遠くへ離れてしまう…忘れようとするとまたフッと、頭を過る…何なんだろう。


夕御飯を作る母から離れ家の外に出てみると、もう冬の始まりとあってひんやりとした空気が頬を冷やす。夕暮れに染まる空を見上げシャノンはそのよくわからない感情に想いを馳せてみる。


この茜空の中、誰か大切な人と歩いた気がする…


『お姉ちゃん、待ってよ~』

『早く来なさいよ、エリス。晩御飯までに帰らないと怒られちゃう』


シャノンが足早に家に向かっていると後ろでエリスが転んでしまった。


『あっ!痛いー!痛いよぉ~』

『あんたは、本当に鈍臭いわね』

『うっう…お姉ちゃん痛い~』

『はぁ、しょうがないわね』


シャノンは転んで足を痛めたエリスを背中に背負うとまた家へと歩き出した。


『お姉ちゃん、重くない?ごめんね…』

『重いっ、重いに決まってるでしょ、あんた太ったんじゃないの』

『ひどい、エリス太ってないもん!なら、もうお菓子食べないっ』

『あら、そうなの?明日あんたの好きなクッキー作ってあげようと思ってたのに』

『えっ!』

『エリスはいらないのね~』

『食べる!クッキー!』

『プッ、あんたは本当単純なんだから』

『たんじゅんてなぁに~?』


家路へと急ぐシャノンとエリスの影が静かな薄暮の中に混ざりあって消えて行く。


この失った尊い記憶は二度とシャノンが思い出す事のないもの…だが、シャノンの心の中にはしっかりと刻まれている。


例えエリスが消滅してしまったとしてもシャノンの中には確かにエリスが存在してそれが失われる事は決してないのだ…。



***


村への引っ越しが終わり自分の部屋で荷物を整理していると前によく読んでいた図鑑が出てくる。


「あ、この本懐かしいなぁ…」


ルカは荷解きの手を止め床に座って図鑑を開く。

そこには様々な動物や植物が挿し絵付きで載っていて、久しぶりに見たルカは夢中になってページを捲っていった。


ふと、あるページで手を止める


『エリスの花』


なんでかその花にとても惹かれる…

エリスの花なんてこの図鑑に載っていたっけ…?


そう、アスターの花は名前を変えエリスの花となっていたのだ。己の命と引き替えに躊躇いなく愛する者を助けひっそりと消えてしまったエリスを気の毒に思ったのか、それとも花の気まぐれなのかは知らないが…。


「エリスの花…エリス…」


ルカはその名を口にしたとき、言葉に表せないくらいの胸苦しさを覚えた…。


その時自分の手に冷たいものがあたる


「え…?雨漏り?」


上を見上げたが何も落ちてこない…

再度下を向けばポタポタとまた滴が。


「なにこれ…?これ涙?」


自分がいつの間にか泣いていてその涙が手に零れ落ちていたのだ。


「なんで僕泣いてるの?変なの」

自分が泣いている意味が全くわからず戸惑う。


悲しいけど、懐かしくもあり不思議な気持ちになりいつの間にか泣きながら寝てしまった


『ねぇ、もしこの花見つけられたらルカは何をお願いする?』

『うーん、何だろう…難しいなぁ』

『私はもう決まってるわよ』

『え?エリスは何をお願いするの?』

『それは教えられないわっ』

『なんでさ、僕のを聞いといてズルいよ』

『うっ、確かにズルいかも…』

『でしょう、教えてよ』

『わかったわよ、えとね、ルカの事』

『僕?』

『うん、ルカが健康で長生きできますようにって』

『えー、なにそれおじいちゃんに言う事みたい』

『なら、ルカは私にも同じ事お願いしてよ、そうしたらずっと2人で一緒にいられるから』

『そっか!それなら僕もそうする!ずっとエリスと健康で長生きしたいから』

『うん、それでね、おじいちゃんとおばあちゃんになってもこうやって仲良く出来たら良いね』


ルカは在りし日の夢を見ていた

起きたらきっとその記憶も忘れてしまうだろう…

でも、夢を見ている間だけはエリスは存在しその笑顔も本物なのだ。



「ルカ?荷解き手伝おうか?」


ルカの部屋へ姉のリーシャが入ってきた

すると気持ち良さそうに寝ているルカを見つける


「こんな所で寝て、風邪ひくわよ…あら、何て幸せそうな顔で寝てるのかしら。ふふ」


ルカの寝顔はそれはそれは微笑ましいほどに幸せそうたった。













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