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⑯開花

朝目が覚める…

そして夜目を閉じて眠る...。


エリスは毎日それだけを淡々と繰り返す。


ルカとシャノンの訃報を聞いてから思考を止めてしまったエリス。


だって深く考えたらおかしくなってしまうから

ただ、寝て起きる、それだけ。


「エリス…起きてる?」


母が部屋へと入って来る


「ご飯は食べれる?お願い少しでも食べて…今までみたいに栄養が勝手に補給されるわけではないのよ?ルカ君が作ってくれた魔道具は本人の意識が戻れば自動的に動作を停止するの。でなければ逆に過剰なものとなって体に悪影響が出てしまうから、だからちゃんと自分の口から食べないとだめなの…わかる?エリス?」


母の声はしっかり聞こえるのだがどうしても返事をする事が出来ない。まるで自分(意識)が外からエリスの(うつわ)を眺めているようだ…


「エリス、気持ちはわかるわ。私だって辛いし...シャノンの遺体だって見ていないのだから死んだなんてどうしても信じられないの。もし、誤報だとしたら?その時せっかく戻ってきたルカやシャノンが衰弱したあなたを見たら?どう思うかしら」


母は本当はわかっていた。

シャノンとルカが亡くなったのは真実だという事を…

だが数年間意識不明だったエリスが受け止めるには負担が大きすぎるのだ。ただでさえまだ心と体が追い付いていない状態なのに…


あの時シャノンが亡くなったと聞き、足がガクガクと震え立って居られずその場で崩れ落ちた。

過呼吸になり涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって叫んだ…


夫に抱きかかえられ引き摺られるように連れて帰られ、家に着くとそれまで何とか堪えていた夫も力を無くして崩れ落ち無様な格好で2人共に床へ倒れ込んだ。それから時間も忘れ抱き合って泣き続けた。


泣いて泣いて目が真っ赤に腫れ上がってそれでも体から悲しみや苦しみが掠れもせず燃え上がった。


だが、私達にはまだエリスがいるのだ。守るべき娘が。

ならば今やる事は決まっている

そう思った両親は、凍るような冷水で顔を洗い呼吸を整えてからお互いに見つめあって微笑んだ…


悲しむのは今じゃない。私達の娘を守らねば。


そしてエリスが2人の死を受け入れられるようになった時、その時に3人で悲しみを分かち合おうとそう決意したのだ。



***


両親に迷惑をかけている。

それはわかっていた…私だけが悲しいんじゃない。両親だって同じ様に苦しんでる……


何故何故何故、何故ルカが殺されなければならなかったの?…姉さんが殺されなければならなかったの?


悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい

許さない許さない許さない許さない許さない許さない


心の中で何度も何度もルカと姉を殺した奴らに恨みを吐いた。だがそんなもの相手には微塵も伝わってなどいないのだ。きっと今頃食事をしたり、誰かと会話して笑ったり、趣味に高じていたり…殺した相手の事なんて覚えてもいないのかもしれない。


どうして?


私の大事な人達を奪っておいて?

こんな苦しみを味あわせておいて?


そんなの絶対に許せないでしょ…?

殺してやりたい…同じ目に合わせてやりたい!!


ルカルカルカ、姉さん姉さん、苦しい苦しい

人を呪い相手を殺すことばかり考えてしまう、そんな私を見て2人はどう思うだろう。


ルカはこんな醜い心を持った私を軽蔑するかしら…


ベッド横にあったサイドテーブルから手鏡を取り自分の顔を見ると、そこには生気を無くし青い顔をした不気味な女がうつろな目で此方を見つめ返している。


なんて醜い顔なの…

こんな顔ルカにはとても見せれないわ。


その時、窓から入る月明かりが気になり目を向けるとまるで外から覗き込むようなまあるい満月が見えた。


一瞬息を飲む…こんな時でも心が震えるくらい美しいと思える気持ちになれるのね。


同時に何か部屋の中で違和感を感じた

何だろうと部屋を見渡せばそこにはあのアスターの花がいつも以上に光を纏い小さく振動していた。


満月…?まさか…アスターの花が!?

何年も花開く事のなかった花が開花するの…?


ずっと願ってた、ルカと一緒に見るのを。


だけど、ようやく花開くというのにあなたはこの世にいないのね…もう触れることさえ出来ない。


アスターの花は月明かりと一体化するかのように更に輝きを増してその蕾をゆっくりと開かせた。


開いた花が暗闇の中でその美々しい姿を魅せる…


ルカ、アスターの花は想像したよりずっとずっと綺麗だったよ。この世のものとは思えない程の妖しい美しさを放っているが、その花ももうすぐ枯れてしまうのだ…


(エリス)たった1人に見られて


エリスは花にまで置いていかれるような気分になり慌ててその手に花を優しく包む。


そしてふと、思い出す…ルカが言っていた願いの話しを。


『後ね、アスターの花は綺麗なだけじゃないんだ。その美しい花を開いた時1度だけ近くにいた者の願いを叶えてくれるって云われてるんだ』


そしてその話しに続きがあったことも


『願いを叶えるのは無償ではないらしいんだ、その者の命と引き替えに叶えると伝えられている。だからエリスは決して願いを言ってはだめだよ』


命と引き替えに…

本当に叶うのならば、それは1つしかない。


ずっと私を守ってくれた2人…今度は私が2人を守る番なのだから。


エリスは何の迷いもなく花に問いかけた


「アスターの花よ、もし願いが叶うならば2人の命を甦らせて…私の命と引き替えに」


しかし手の中のアスターの花は既にその輝きを失い萎れつつあった、願いを叶えるなどやはり俗説だったの?

もう二度と2人には会えないの…?


そう思ったエリスの瞳からポロリと1粒の涙が零れ落ちて枯れかけているアスターの花弁へと吸い込まれて行った。


その瞬間、枯れかけていたアスターの花が先程と比べ物にならない位の閃光を走らせた。まるで残り僅かな生命を使い最後の輝きを解き放ったかのように。


眩しさに目を開けてられなくなったエリスは静かにその瞳を閉じる、そして悟ったように花に言う。


「ありがとう、アスターの花よ…私の願いを聞き届けてくれるのね…ありがとう…」




そして光が収まるとそこにエリスの姿はなく、枯れて朽ち果てた花の残骸だけが残されていた。

















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