⑮エリスの覚醒
王都での事実をまだ知らない村ではエリスの父と母が歓喜にうち震えていた。
「エリスっ!あなた…エリスがっ」
「エリスがどうした、まさか…そんな」
最悪な事態が起きたと思った父の顔から血の気が引く
「違うのよあなたっ!エリスの意識が戻ったのよ!目を開いたのよっ!」
「な、何だって?!!」
急いでエリスの部屋へと向かうと、ベッドにまだ夢の中にいる様な気怠るそうな目をしたエリスが横になっていが、今までと違うのは目を開き父と母に視線を向けてくる事だった。それだけで両親は喜びで泣き崩れそうになってしまう。
普通何年も寝たきりとなっていれば身体への負担は思った以上に大きく、目に見える物から見えない内部に関しても様々な支障が起きるはずだ。たとえ意識が戻ったとしてもすぐにはっきりとした意志疎通は難しく弱った肉体や衰えた筋肉などからも動作する事すら出来ないのだが、ルカがエリスのために発明した魔道具は本当に素晴らしい物であった。
人体に必要な栄養を全て自動で補給し、常に細胞を活性化し修復する魔力を体中に巡回させ内部から傷を治し、衰えや不具合を癒すという、多分だがルカのエリスへ生きてほしいという心からの渇望…または執着がなければ発明出来なかったであろう魔道具でもあった。
そのお陰か、エリスはずっと寝たきりだったというのに多少は痩せてしまったが驚く程という事もなく、さすがにまだ歩くのは難しいけれど上半身を起こすくらいなら少し手を貸せば出来たのだ。声も掠れ声だが聞き取れるくらいには聞こえる…意識を取り戻したエリスを見て両親は改めてルカに感謝の念を感じる。
ルカがこの魔道具を発明していなければエリスの命は間違いなくとっくに尽きていた事だろう…
「…かあ、さん、と、さん?」
「エリスっ!本当に目が覚めたんだな…」
「エリス、良かった…良かったわ…あぁ何て事かしらっ!まだ信じられないわ」
エリスは困惑した。
何故起きたくらいで父と母が涙目になってこんなに感極まっているのだろう…それに体が思ったように動かせないのにも違和感を持った。
声も何故こんなに掠れているの??酷い声!
やだわ、寝てる間に風邪でもひいたのかしら…
それに…ここはどこなの?私の部屋じゃないわ…
エリスは固くなった首を少しだけ動かし辺りを見回す
「かあ、さん…ここは?どこ?」
「エリス…ここはねルカとあなたのお家なのよ」
「え…??ルカ、と、わたし?」
それからエリスはゆっくり時間をかけて母から崖での事故の事、意識不明となり数年が経過し私が既に26歳となった事、ルカと結婚した事などを聞いた。
ルカと私が結婚???
嘘…ルカが?私と??
私にとっては数年経過したなど実感がなく、意識不明となる前の19歳のままなのだ。
ルカと結婚しただなんてどうしても信じられなかった
「か、あさん…ルカは…?」
私がそう聞くとエリスが意識を取り戻してから初めて母が困惑の表情を浮かべた…
その顔を見て理由はわからないが何故か不安が胸を過る
「ルカ君は…」
***
エリスは暗闇の中で眠れずにいた。ベッド上でただ横になってルカと姉のシャノンのことを考えていると心配で心配で眠るなんてとても出来そうになかった。
ルカが王都に強制的に連れていかれたのが1ヶ月前…姉のシャノンとアランが王都へ向かったのが一週間前、そこから何の音沙汰もないそうだ。
ふと、窓から差し込む月明かりに照らされほのかに光を発している蕾をつけた花が目に入る。暗闇の中では、よりいっそう幻想的に見えた。
アスターの花…私が事故に遭う原因となった花、あの後ルカが探してくれたのだと聞いた。だが花はまだ蕾のままだった。
アスターの花は摘み取ってから満月の夜に咲くのではなかったの?いまだに咲いてないのはなんでなのかしら…
私が意識を失っている間もあなたはずっとそこで私とルカの生活を見ていたのよね…なんだか羨ましい。
教えてほしい…ルカの様子を、私の知らないこの数年の事を。せっかく目が覚めたのにルカも姉さんにも会えないなんて…
とにかくアランも含め3人共無事でいてくれたら…
お願いします、どうかどうか…
会いたい…皆の顔が見たいわ、皆の笑顔が。
きっと大丈夫よ、ルカなら心配かけてごめんと笑いながら帰って来てくれる。姉さんとだってまたふざけたり喧嘩したり元の関係にすぐ戻れるはず、だって私のたった1人の姉なのだから。
だが胸の不安は消えないどころか増すばかりだ
そしてその不安が的中する。
エリスの願いもむなしく後日ルカとシャノンの訃報が村へと届いたのだ…
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