⑭処刑
かなり残酷な表現があります、ご注意下さい。
朝早いというのに町の中は沢山の人で賑わっている、
露店なども出ていて一瞬お祭りがあるのかと錯覚する程だ。
シャノンは不思議に思いレナートに聞いてみた。
「今日公開処刑が行われるのですよね…そんな日に町ではお祭りでもあるのですか…?つっ」
馬上にいるため舌を噛んでしまい痛みに顔を顰める。
「…その処刑があるからだよ。公開処刑は民間人にとっては一種のお祭りの様なものだからな」
人が殺されるのに…?まさか…
「それくらい人々は娯楽に飢えてるって事だよ、例えそれが不謹慎なものであっても。子供でさえ楽しいイベントだと思ってるだろうね」
人とはどこまで残酷になれるのだろう…
シャノンはこれから殺されるであろう方達を思い浮かべ自分の事のように心を痛めた。
しかし出来ればその中にルカがいませんように…今は余計な考えは捨てそれだけを祈ろう…
町の雑踏を2人の乗った馬が駆けていくが、この賑わいの中人を避けながら進むのには馬の扱いに慣れたレナートでさえかなり難航していた。
さっきよりも格段にスピードが落ちてしまい時間までに間に合うのかと心配になる。
だが、たとえ間に合わなかったとしてもここまで力を貸してくれたレナートを責める気持ちなど全く無い。
時計塔に目をやればいつの間にか時計の針は9時45分を指していた…
あぁ…もう間に合わないかもしれない
そう思った時一際大きな歓声が聞こえハッとし顔を上げると遠くに処刑の準備が整いこれから処刑させるであろう数人の者が広い広場の中に立たされているのが見えた。
「シャノン、ここから先は人が多すぎて馬で行くのは無理だ、すまないが降りて歩いて行くしかない」
「ええ、わかってます!馬もいますので私だけ下ろして下さいっ、先に行きます」
シャノンはレナートに馬から降ろしてもらうと人が溢れかえる雑踏の中へと躊躇なく飛び込んだ。
「シャノン!!気をつけて!」
後ろから歓声に混じってレナートの声が聞こえた。
だが今は足を止めるわけにはいかない、シャノンは必死で人をかき分けながら進んでいく。
興奮した人々はそんなシャノンに憤慨し手を出してくる者もいた。
「なんだ、この女!!邪魔だっ」
そう言って思いっきり頭を殴られる
だがそんな事くらいでシャノンは足を止めなかった。
前へ前へ…前へ行かなければ…
少しずつ進んで行くと途中、1人の中年男性にぶつかってしまった。
民衆とは違い身なりの良い男性はシャノンを一瞥すると従者らしき者を呼びヒソヒソと話し出したが構ってる暇はないのでそのまま進む。
そしてほうほうの体でようやく広場が見渡せる位置まで辿り着く事が出来た。
しかしそこで目の当たりにしたのは…
斬首され首と胴体が離れて横たわってる人々だった。今日処刑されるのは全部で5人らしく、処刑を待っているのが2人、後の3人は既に事切れて無造作に並べられている。
あまりの衝撃に血の気が失せ呼吸が荒くなる…あんな…人が、殺され…あんな風に…悲しみと恐怖から体が無意識にガクガクと震えてしまう。何故あんな残酷なものを見てこんなに沢山の人が喜んでいるの?何故何故…自分の友人や恋人や家族だとしても喜べるの?
茫然自失になっていたシャノンだったが、残された2人を見て息を飲む。
そこにいたのはシャノンの良く知っている顔だった
一番恐れていた状況…無表情だが瞳に強い意思を宿し立ち広場に竦んでいるのは間違いなく私の知っているルカだった。
ルカ!!!!
このままではルカが殺されてしまう!
シャノンは声が潰れるほど声を出し叫んだ
「その方は何もしておりません!!ルカは反逆者などではありません!!どうかお助け下さいっっっ」
しかしシャノンの渾身の叫び声は興奮した民衆の歓声にあっさり掻き消される、だがそれでも決して諦めなかった。
「お願いです!処刑はお止めください!彼は今までどれ程国へ貢献してきたか!今一度お調べくださいっ」
だが無情にも手を後ろに縛られ拘束されたルカが跪かされた。後ろから処刑人が大きな両刃の斬首刀を振りかぶる…
民衆の興奮は凄まじいものだった
大歓声が上がりその首を落とすその瞬間を今か今かと待ち望んでいた…
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!やめてぇえぇ!!!」
シャノンが絶叫した瞬間
確かにルカが此方を見た。そして口を開き何かを喋った
シャノンにはスローモーションのように見えていた
ルカが、幼い頃から知っているルカが
エリスの大切な人が…
数秒後にそこには有るべきものはなく…
真っ赤な血が花開くかのように吹き出し、地面にはルカの頭部が…彼の強い意思を持った瞳が閉じられ寂しげに転がっていた。
私…私は…守れなかったのね…
エリスの事もルカの事も…………
ああああああぁ…
シャノンが慟哭したその時
突然背中が沸騰したかのように熱くなった
「…!!」
何が起きたのかシャノンにはわからなかった
周りにいた民衆がシャノンの側からさっと引きそこだけ空間が出来る。
何故か体に力が入らなくなりシャノンは足元から崩れ落ち地面にそのまま倒れてしまう。な、何?何故体が動かせないの?
するとシャノンの側には剣を持った1人の男性とその少し離れた所に先程民衆を掻き分けている時にぶつかってしまった身なりの良い中年男性が立っていた。
男の持っていた剣をみればそこにはべっとりとした赤い血で染まっている。
それを見てシャノンは、私もしかしてあの剣で切られたの…?
すると今まで熱いだけだった背中が火をつけたような激痛に変わる。
「あっ、あうううっっ!!」
痛みにのたうちまわっていると後ろにいた男性が、
「この平民が!わしは貴族だぞっ!虫けらめっ」
そう言って倒れているシャノンに唾を吐きかける。
男性の護衛の人が民衆に向かって
「この無礼な女が主へぶつかり謝罪もなく行ってしまったのです。これは正当な処罰なのです」
そう訴えれば周りの人々は
「そりゃ、しょうがねぇな」
「こっちまで巻き込まないでよ本当に迷惑な女」
「お貴族様に無礼を働いたなら自業自得だな」
そう口々にに言い出す。
シャノンは痛みの中、自分は本当に人間達の中にいるのだろうか化物の世界へと迷い込んでしまったのではないのかと考えた
「シャノン!」
化物達の声とは違いその声は清らかで心地の良い音を響かせて近づいてくる
「シャノンっ!何があったんだ!切られたのかっ」
レナートがシャノンの側へと跪いた
そしてシャノンを切ったであろう護衛の男性に顔を向け
「彼女が何をしたんだっ!このような仕打ちを受ける程の事をしたのかっ」
あ、だめよ、レナートさん。貴族に逆らえば私のように切られてしまうわ…
そう思いレナートの袖をくいっと引っ張る
もうシャノンには痛みはなかった、ただただ凍えるような寒さと抗い難い睡魔があるだけ。
袖を引かれたレナートはシャノンに向き合う
「シャノン、すぐに手当てしてもらおう。大丈夫だ、傷は…深くはない!助かるからっ」
もう、レナートさん、そんな嘘をついて。私でさえわかるわ…もう助からないって。
私までこんな事になってしまうなんて、これから誰がエリスを守るの?
アラン、アラン…アラン。
気持ちを伝えられないままなのが心残りだわ…
こんな私の側にずっといてくれてありがとう、アラン…
どうか幸せになって…
大好きよアラン…愛してる
「シャノン…?」
かろうじて開いていたシャノンの瞳も今は固く閉じられそのまま開く事はなかった
エリスの姉シャノンは様々な想いを残したまま無念の中息を引き取ったのだった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
皆様の評価やブックマークがとても励みになっております。