⑫王都へ
アランはシャノンの家へと急いで駆けつけた。
「シャノンっ!王都へ行くって本当なのか?」
「何よアラン、どこで聞き付けたのよ」
「君の仕事先に行ったら今日から休んでるって…」
「もう、セラね!内緒って言っておいたのに」
アランにばれれば止められると思って黙って行く予定だった。
「止めないよ、その代わり俺も一緒に行く」
「はぁ?!何言ってるのよ、アランだって仕事があるでしょ」
「勿論長期休暇貰ってきたよ、帰ってきたら大変そうだけど…」
「何勝手な事して…!もう…」
「ごめん、でも王都に行くのに女性1人なんて危ないし。シャノンが心配で仕事も手が付かない…」
「人の事言えないけど、突然長期の休みなんかとったら職場に迷惑でしょう、全く…」
「確かにそうだけど、でも一場大切なのはシャノンだから、もしついて行かなくて何かあったら絶対後悔する。一緒に行けないなら王都行きを断固阻止する」
アランって気が弱そうでこういう所は本当に頑固よね
まぁ、そんなとこも好きなんだけど…言わないわよっ
しかしアランが一緒に同行してくれた事に感謝する事態になるのだ。
シャノンとアランは2人で王都に旅立った
途中までは商人の荷馬車に乗せてもらい、中間地点あたりからは節約のため隣町まで徒歩で行くことになった
町までつけば後は乗合い馬車で王都まで向かう。
乗合い馬車は私達には贅沢な移動手段になるがアランがなるべく危険を回避したいと譲らなかった。
とにかくこの徒歩移動が終われば後は格段に楽になるのだが…私とアランは早速窮地に陥っていた。
道中、がらの悪い連中に絡まれたのだ...
「金目の物さえ置いてけばお前らには手を出さねぇ」
そんな事言われても私達に余分なお金は一切ないのだ
行きの旅費、滞在するためのお金、帰るための馬車代
盗人に渡すお金など一銭もない。
「すみません、本当に渡すお金などないんです」
私がそう言うと連中が殺気を放つ
1人の男が私に手を伸ばして来たが、アランが男と私の間に素早く滑り込んだためその手は私に届くことはなかった。
「おい、なんだテメエは邪魔すんのか?」
「いえ、そんなつもりはありませんが彼女には手を出さないで下さい、お願いします」
「はっ??プッ!!なんだこのひ弱兄ちゃんいっちょ前に格好つけちまって、ブハハッ」
盗人野郎はアランを小馬鹿にしお腹を抱えて笑いだした
「ちょっと!!何馬鹿にしてんのよ!あんたらなんかよりアランの方が何百倍も格好良いわよっ、いいえ比べ物にならないわっ」
アランを馬鹿にされ腹が立ったシャノンはつい言い返してしまった。
「シャノン、ものすっごく嬉しいんだけど今はあまり挑発しないようにしてほしいなぁ…」
「あ………」
しかしすでに遅く…
「おいおい、姉ちゃんずいぶんな言い様だなぁ。ちょっと優しくしてれば調子乗りやがってよぉ」
相手はがらの悪い男5人、一方此方は田舎の軟弱男と地味な女の2人組…あら?終わったかもしれない…
男達が襲いかかって来たと同時に私は地面にうつ伏せになっていた。
え?どうなって…
ようやく状況がわかったのはくぐもったアランの声が聞こえたからだ
アランが私の上に覆い被さって奴らの暴行から身をていして守ってくれていた。
「うっ…ぐっっ」
振動からかなりの暴力を振るわれているのがわかる
「アランっっ、アランっっ!!どいてよお!やだぁぁ」
アランが死んじゃう!やだっ!やだっ!!
私がもがこうがアランは決して腕の力を緩めなかった
このままじゃ本当にアランが…!
その時強く鋭い声が聞こえた
「何をしている!やめろっ!」
「ちっ、警備隊が来やがった!くそっ行くぞ」
男達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった
「逃がすな追えっ」
私には状況が全く見えないが助けが来たのはわかって安堵した。
「アラン、アラン、大丈夫なの??どいてちょうだい」
私が声をかけてもアランは無反応だ、いやな予感がして強くもがいたがびくともしない。
すると突然私を守るように覆い被さっていたアランの重みが消え体が軽くなる。
「えっ?アラン?!」
良くみればアランは先程助けてくれた警備隊の男性に抱えられている。男性はアランを道端へとそっと寝かせてくれた。
ホッとしたがアランがピクリとも動かずだらんと力が抜けたように横たわっていたので慌てて側に寄って声をかけるが無反応だ…
「アラン!アラン!死んじゃ嫌よっ!」
必死に呼び掛けていると
「彼は気を失っているだけだ、しかし怪我が酷いな…とにかく手当てしてもらわねば。俺が彼を担ぐから君は後から着いてきてくれ」
そう言ってまたアランを抱き上げた。
私はアランの容態を心配しつつ警備隊の男性の後を足早に追った。
***
少し歩くと小さめの塔がある場所へと辿り着く。周辺には警備隊が数人固まっていた。
「レナート、どうした?何かあったのか?」
「ああ、例の奴らがまた民間人を襲っていた。彼が酷く殴られたようで手当てが必要だから塔の救護室で診てあげてくれないか」
「これは、だいぶやられたな…すぐ診てもらおう」
アランはすぐに塔の中にある救護室へと連れていかれ手当てされる事となった。
アランが治療されている間シャノンは別の部屋と通されそこで待つように言われる。
「ここは警備専門の塔なもんでたいしたものは出せないが…」
と、温かいお茶を出してくれた。
薄いお茶だったが、疲労困憊の体に染み渡るように溶け込みホッと安堵の息を吐く。
「本当に助かりました…感謝しております」
「いや、これが俺達の仕事だから。もっと早く駆けつけていれば彼が怪我をする事がなかった…こちらこそすまなかった」
逆に謝られ恐縮してしまう。
ふと、彼なら何か知ってるかも…と思いルカの事を聞いてみる。
「魔道具師のルカ?…ルカ…何か聞いたことあるな」
「何でもいいんです、少しでも情報があれば」
「………あ!もしかして数年前に話題になってた人か??次々と新しい魔道具を発明して一時期かなり有名になった人が確かルカという名前だった気がするが」
「多分そうです!そのルカだと思います」
「だが彼は魔道具師をだいぶ前に辞めたのではないか?いつの間にか彼の名を聞かなくなったからな…」
「ええ、彼は数年前に魔道具師をやめ故郷の村へと帰って来てたのですが、今回いきなり国の使者がやってきて強引にルカを王都へと連れていってしまったのです」
「なんと…それは酷いな…それで彼からの連絡も途絶え消息がわからないと?」
「何かルカの事に関して聞いたことなどありませんか?」
「うーん…彼の名前を直接聞いた覚えはないが、国への反逆者が数人捕まったとは聞いた、もしかしたらその中にいる可能性があるかもしれない」
「そうなんです、私もそれを聞き真相を確かめたく王都へと来ました…ルカは妹の夫なんです。早く無事を確かめたくて」
「そうか…知っていたら教えてあげたいが、俺も一般市民なもので…王城の中の事まではわからない、すまない」
「いえっ!とんでもないっ、助けて頂いただけでも感謝してもしきれません!」
「……それと…大変言いにくいのだが」
「な…んですか?」
嫌な予感がした私は言い淀んでしまう
「その捕らえられた反逆者達の処刑が…決まったらしい」
「え…………?」